第13話 祝いの会
この国において貴族とは国王陛下より爵位を賜った者のことを指す。そして、その家族はあくまで貴族の家族でしかないし、その身分は平民よりは上だが、貴族よりは下というなんとも中途半端なものとなる。俺もついこの間までは貴族の孫という身分だったが、先日突然爺さんが急逝したことで爵位を継ぎ貴族となった。
なぜ、突然こんな説明をしたかというと、今俺の目の前にいるバカ、つまりカルロが身分を弁えず伯爵ごときと言ったことにある。
確かに、俺やカルロの父親であるフェブロス侯爵であれば、この発言をしても陛下からおしかりを受ける上に周囲から常識知らずと軽くののしられる程度で済む話となる。それというのも、この国の貴族には暗黙の了解として、貴族である以上はその爵位にかかわらず陛下の臣下として平等である。というものがあり、たとえ侯爵であっても伯爵、騎士爵といった爵位の低い相手でも相手を敬うという決まりがある。
これまでの説明でわかったと思うが、カルロはそもそも貴族と平民の間という身分でありまだ侯爵ではない。また、あの発言は対峙していたソウエルン伯爵の娘であるカテリーナ先輩に対するものではなく、伯爵という爵位そのものに対するものとなる。
実は、この伯爵という爵位はこの国では最も多い爵位となる。どういうことかというとうちのように、侯爵家以上の爵位を持つものの身内が功績を残した場合、与えられる爵位が伯爵であり、騎士爵など下位の爵位の者たちが功績を残し陞爵していき、行きつく爵位が伯爵だからだ。
もし、カテリーナ先輩にのみ聞こえるようなら、先輩をなだめるだけで済む話だっただろう。しかし、カルロはあろうことか大声で言った。そして、ここは学園の食堂、つまり多くの学生がおり、当然伯爵の息子や娘も多くいた。実際、今多くの学生が立ち上がりカルロに迫ろうとしていた。
混乱を収めるためには生徒会長であるウレサと、貴族である俺が出るしかないというわけだ。
「……というわけで、お前、今かなりやばい状態にある。さすがに俺も擁護しきれないだろうな」
「……」
俺の説明でようやく事態を重く見たのか、カルロが少し青ざめていた。
その後、騒ぎを聞きつけた教師たちによってカルロは連行され、俺もそれに事情説明をするためについて行った。
なお、ウレサは生徒会長としてその場に残り場の収拾を行った。
そうしたトラブルが入学早々あったが、今は陛下主催の祝いの会の最中である。
「はぁ、それにしては、いきなり疲れたわ」
「確かにな、まさか、あんなことになるとは思わなかったな」
「俺には、まだよくわからないんだけど」
俺とウレサが疲れている中、やはりダレスだけはいまだよくわかっていないようだ。それは、まぁ、仕方ないといえば仕方ない、何せダレスは平民、あのトラブルは貴族家の問題だからな。すぐにわかったウレサがおかしいだけだ。
ちなみに祝いの会というのは、士官学園に入学した貴族の子弟に対する入学祝というものだ。ここで疑問に思うのは、なぜ、いくら貴族の子供とはいえ国王自らこのような会を主宰するのかというと、もちろん訳がある。
自分の子供が士官学園に入学することは当然親としては祝いたい。そこでかつてはそれぞれの貴族家が勝手にパーティーを開いていた。しかし、問題もよく起きた。その問題というのが、参加者をどうするか、どこのパーティーに参加するかということだ。この調整はかなり面倒となる、例えばA・B・Cという貴族家があったとして、Aの貴族とBの貴族家で同じ日にパーティーが行われることとなった。両家の爵位は同じとして、Cという上位貴族を同時に招待した。この場合Cはどちらに参加すればいいのかということとなる。もしAに参加すればBとの角が立つし、逆もまたしかり、なら別日にすればいいだろうとなるが、そうなるとAとBどちらが先に開くかといういさかいとなった。
これを見た数代前の国王陛下がしびれを切らして、もういっそのこと王国主催で一緒にやってしまえとなったわけだ。
そして、現在祝いの会として行われるわけだけど、この会主催は国王陛下となっているが、実際に金と企画をするのは入学者の親である貴族、主に爵位が上位の者が中心となって行うこととなっている。
つまり、本来であれば爺ちゃんが中心となるはずだったが、企画途中での急逝となったために急遽ばあちゃんが引き継いでいる。といっても金を出しているのは当主である俺となるわけだけど、自分の入学祝を自分で出す。なんか妙な感じだ。
それと、この祝いの会だけど、説明でわかる通り貴族家しか参加していない。にもかかわらずなぜウレサとダレスが参加しているのかというと、ウレサは生徒会長という立場上問題ない。しかし、ただの平民であるダレスはおかしい、まぁ、俺が無理やり参加させたんだけどな。
「本当に、あの方、何を考えているのでしょうか」
エレンはいまだ憤慨していた。
ちなみに、スズはさすがに参加していないようだ。
「まぁ、そうだな」
「あの子は、たぶん、いろいろ勘違いをしていたのかもしれないわね」
ウレサも少しあきれた感じにそういった。
「ご歓談中のようですが、どうぞこちらを」
俺たちが昼間の話をしているとばあちゃんの声が響いた。
「おっ、ばあちゃんが来たようだな」
「ほんとだ、おばあ様だわ」
ダレスとウレサがそういった瞬間エレンは驚いていた。
それはそうだろう、ウレサとダレスは平民、にもかかわらず俺のばあちゃんであり国王陛下の妹を気安く呼んでいるのだからな。
「まずは、皆さま、士官学園、ご入学、おめでとうございます。我が夫、先代カペリオン侯爵に代わりまして、お祝い申し上げます」
ばあちゃんがそういって頭を優雅に下げた。
そう、本来ならここは爺ちゃんが挨拶をするはずだった。
「さぁ、皆さん、杯を掲げてください」
それからばあちゃんが乾杯の合図をとる。
ここで言っておくが、国王陛下主催の会といっても国王は来ていない。当然だろうたかが貴族の令嬢や子息が士官学園に入学する。ただそれだけで国のトップは動かないからな。
「子供たちの前途を祝して乾杯」
「「「乾杯」」」
こうして、祝いの会が始まったわけだけど、やはりあちこちで貴族同士で挨拶をしたり、自分の子供を紹介したりとしているようだ。
俺たちはというと、特にあいさつ回りをするわけではなく1塊となっていた。
「やぁ、失礼するよ」
その時突如声をかけてきた1人の紳士。
「これは、フェブロス殿」
やって来たのは昼間の騒動の中心人物カルロの父親であるフェブロス侯爵だった。彼とは襲爵の際に見かけた程度で挨拶をいまだしていなかった。
「まずは、ご入学おめでとうございます。カペリオン殿、それと、確かバラエルド伯爵殿の……」
「エレンと申します」
「おお、そうであった、エレン嬢、入学おめでとう」
「ありがとうございますわ、侯爵様」
「ありがとうございます」
俺とエレンがそういうと、ウレサとダレスも頭を下げた。
さすがに、この2人も俺以外の貴族にはちゃんと対応できるように教育がされている。
「うむ、さて、本日、我が愚息が大変失礼をいたしました。ここにお詫びをさせてください」
そういって、フェブロス殿は頭を深々と下げたのだった。




