第12話 無礼者
士官学園に入学して、ウレサが歓迎会を開いてくれた。そこには生徒会の副会長を務めているというカテリーナ先輩がいて、俺たちも同じクラスとなったエレンとスズを連れての参加となり、みんなで和気あいあいと話をしていた。
まさにそんな時だった、突如俺たちに声をかけてきたやつがいた。
「やぁ、君がテイル君だね」
声をかけてきたのは背の高い気障ったらしい明らかに貴族の息子といった感じのイケメンだった。
「えっと、そうだけど」
俺は戸惑いながらもそう答えた。というか、確かに俺は気軽に話しかけてもらいたいと思っている。でも、初対面の男に君付けをされる覚えはない。
「僕は、寛大だからね。たとえ君が平民でも、同じ侯爵として君を蔑んだりはしないからね。いつでも声をかけてきたまえ」
なんだか、ものすごい上から目線で言ってきた。
しかも、名前も名乗らずに自身が言いたいことを言うだけ言って去っていった。
なんだったんだ一体、あれは……
俺がそんな風にあっけにとられているとウレサとカテリーナさんが頭を抱えていた。
「知り合いか」
俺はウレサに尋ねた。
「知り合いっていうか、あの子は有名だから」
どうやら知り合いではないが知ってはいるらしい。
「それで、誰?」
あいつは、自身を侯爵といった。しかし、この国にいる侯爵は5人、そして俺以外はみんなおっさんか爺さんであり、俺と同世代の侯爵はいないはずだ。
「あの子は、フェブロス侯爵家の嫡男でカルロという名前よ」
フェブロス侯爵、それなら知っている。フェブロス侯爵は俺の父スタンリーとは学生時代のライバルだったと聞いている。
「ちょっと、行ってきますわ」
ここでカテリーナさんが立ち上がり先ほどのカルロのもとへと向かった。
「先輩、何しに行ったんだ」
ダレスは状況が分かっていないようなので説明することにした。
「まぁ、平民であるダレスやスズが知らないのは当然だろうけどな……」
実はスズもダレスと同様わかっていないようなのでそういってから、説明を始めた。
それは、この国の身分というものだ。
この国の身分は大きく分けて王族と貴族、平民とあるわけだけど、具体的にいうと、
国王>大公>公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵>騎士爵>騎爵>平民となる。
しかし、ここで間違ってはいけないのは貴族と呼ばれるのはあくまで俺のように陛下より爵位を賜ったもののみであるということだ。
「えっ、そうなのか、ということは、その子供とかってのは?」
「ええ、わたしもだけど、カテリーナ先輩もあのカルロという方も正確には貴族ではないの」
「あくまで、貴族の娘、息子ってことだな。俺もちょっと前までは貴族の孫に過ぎなかったんだ。まぁ、それでも身分的には平民よりは上だけどな」
「ええ、そうね。確か、騎士爵と騎爵の間ぐらいだっけ」
「そんなあたりだな」
これは明確には記されていないが、その認識であっている。
「だから、この学校の生徒っていうのは俺という例外を除けばたいした身分を持っている者はいないんだよ」
「それで、この学校の規則があるんですね」
スズがそういったまさにその時だった。
「伯爵ごときが、僕に意見をするな」
そんな怒鳴り声が響いてきた。
「なっ、まじか」
「まずいわね」
今の言葉はかなりまずい、というかなんてことを言いやがるんだよあのカルロ。
「何がだ」
ダレスはわからず、スズはアワアワとしている。そのスズの先にはエレンが静かに怒っている。
「とりあえず。エレン、落ち着け」
俺の隣でエレンが不穏な魔力を増大させていた。
「あわわわわわ、お嬢様」
そんなエレンを見てスズもおびえていた。
「ごめんなさい、ですが」
「ああ、わかっている。さすがに今のはまずいだろう、ちょっと行ってくる」
「私も行くわ」
そういって俺とウレサは動き出した。
「おい、どういうことだよ」
後ろでダレスが尋ねてきたが、今はそれに答えている余裕はない。
どういうことかというと、先ほどこの国の身分制度では、貴族の中にも身分があることを“>“用いて説明したと思うが、実際貴族間ではそれを意識してはならないという不文律がある。つまり、たとえ俺のような侯爵であっても騎士爵相手には殿と呼び敬語を使うし、逆に騎士爵が俺のような侯爵相手でも同じように話すというものだ。といってもこれを破ったからといっても貴族同士なら陛下にお叱りを受ける程度だ。
というのはあくまで貴族同士の話。でも今回の問題は、カルロが現在まだ侯爵ではない、つまりは貴族ではないということだ。しかも、そのカルロが言った言葉“伯爵ごとき”というものは、特定の伯爵ではなく伯爵という爵位そのものに対する侮辱となる。そして、その伯爵だけど、実はこの国において最も多い爵位が伯爵だ。それというのも、侯爵家や公爵家などの子弟が功績を残し爵位を得ると伯爵となり、騎士爵などが功績をあげて爵位をあげていくと最終的に伯爵となるからだ。それらを踏まえるといかにカルロが今どれだけ敵を作ったかということがわかるだろう、なにせ今もこの食堂にはその伯爵の子供たちが立ちあがり不穏な空気を出し始めている。
「生徒会よ、みんな落ち着いて頂戴」
そこにウレサが声を張り上げてそういった。それで、何人かは落ち着いたようだが、まだなものがいる。
「カペリオン侯爵だ。ここは俺に預けてくれ」
続いて俺がそう言った。侯爵である俺がそういったことである程度は落ち着いたらしい。
「な、なんだ一体、君らは、僕が何をしたというんだ」
ここにきてカルロは自分の置かれている立場が分かっていないようだ。
「えっと、カルロだったっけ、言っておくけど、俺に対する発言は学校内ということだし、俺としても気軽に話しかけてもらいたいという思いがあるから、当然不問だけど、さっきのはさすがに不問にはできないと思うぞ」
「さっきの?」
カルロはまだわかっていないようだ。
「ああ、さっき言った伯爵ごときって言葉だ。あれは、さすがにヤバイ」
「なにがだ」
「最悪不敬罪だ」
「不敬罪? 何を言っているんだ。僕は侯爵だぞ。不敬罪は、そいつらだろう」
本当にわかっていないらしい。
「はぁ、いいか、お前は確かにフェブロス殿の嫡男だそうだが、お前はまだ貴族の子息であって貴族ではない。お前の身分は騎士爵殿方よりも下なんだ。わかるか」
「僕が、騎士爵よりも下だって。何を言っているんだ、君は」
「それと、まだわかっていないみたいだけど、俺は先日陛下より侯爵の爵位を賜ったから貴族だぞ」
俺がそう説明してやったが、カルロはまだわかっていないような顔をしていた。大丈夫かこいつ。




