第10話 入学
士官学園への入学を首席で決めたと思ったら、突然爺ちゃんが倒れ帰らぬ人となった。
そのため、俺は急遽侯爵の爵位を受け継ぐことになってしまった。
新しい領主として、広大なカペリオン侯爵領を収めることになったわけだけど、これがまた難しい。そこで、執事長であり家宰でもあるセラスから1つ1つ領地運営を学んでいる状態だ。
こんなに忙しいなら、学校なんて通っている場合ではないのではと入学を辞退しようと思ったら、それは家族全員と使用人たちからも止められてしまった。
セラスによると、士官学園に通うことは貴族の義務だという。
そうなると、学校に通っている間は、セラスに代官となってもらって、俺じゃなきゃできないことは、学校のある王都の屋敷にもってきてもらうという形になった。
というわけで、俺は今士官学園の入学式に出席している。
「……であるからし……」
現在、学園長が長々と祝辞を述べている。
なんで、こう学園長というものはどの世界でも話が長いのだろうか。俺はそんなことを思いながらも聞いていた。
そうして、ようやく長い話が終わり、次の挨拶も終わり在学生からの祝辞となった。
「続いて、在校生代表、生徒会長ウレサ・リップ」
「はい」
名前を呼ばれて1人の女生徒が壇上に立った。
お気づきだろうか、今生徒会長として呼ばれたその名前、ウレサ・リップ、つまり俺と同じリップ村で育ち、母さんの親友サディおばさんとガレウスおじさんの間ん生まれた少女ウレサである。ウレサは、幼いころから将来有望だといわれていたが、17歳となった今は、とんでもない美少女となっていた。しかも、俺と一緒に貴族が受ける教育を幼いころから受けていたために成績は優秀、また元冒険者であった母さんからも戦闘訓練を受けていたために実はかなり強い、そして、極めつけは俺と一緒に受けていた貴族の礼儀作法だろう、なぜかウレサはこの礼儀作法の授業が好きだったようではまり、今では俺たち以外と接するときは普段から貴族然とした立ち居振る舞いをするようになった。しかも、ウレサの美貌と相まって本当に貴族ではないかと見間違うほどとなった。そんな中で去年行われた生徒会選挙、この選挙は前世の日本の学校と同じで立候補や推薦で出馬した生徒に生徒が投票するというものだ。通常このシステムを使うとどうしても力ある貴族が当選する。まぁ、その方が票を集めやすいからだが、でも、ウレサが当選した。
それほどの人気をウレサは平民でありながら集めてしまったということだった。
「……最後にもう一度、新1年生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
ウレサは最後にそういって祝辞をしめた。
「では、続いて、1年生代表、首席合格されたテイル・リップ・ドゥ・カペリオン侯爵様、お願いいたします」
ウレサに続いて答辞として首席合格の俺が壇上に呼ばれたわけだけど、司会を担当する教員が俺に様付を行ったのは俺が爵位を持つ貴族だからだ。
「はい」
俺としては言いたいことはあったが、今は壇上に上がり答辞を述べた。
この答辞は決まった文言を読みあがるだけなので今回は省略させてもらう。
こうして、俺たちの入学式は恙なく終わった。
入学式が終わり、俺たちはいったん自分の教室へと向かった。
俺が属することになったクラスは1年1組、このクラス分けは、貴族とか平民とか関係なく単純に成績順となる。これは学年が上がるときも同じで、学年最終試験での結果によるものだそうだ。だから、ほとんどの場合クラスのメンバーが変わることはない。まぁ、せいぜい数人程度だろう。そして、クラスの席順も大体この成績順となり、俺は教室の窓側一番前となる。
席に座ったが、俺に話しかけてくるものはいない、その理由は間違いなく俺が侯爵の爵位を持っているからだ。みんなどんなふうに接すればいいのかわからないのだろう。俺としては、もっと普通に話しかけてくれていいんだけどな。
俺がそんなことを思いながら担任教師がクラスに入ってくるのを待っていると、不意に声をかけられた。
「あの、お隣、よろしいですか、侯爵様」
そういってきたのは、ウレサに負けず劣らずの美少女だった。といっても、貴族令嬢だったのでウレサと比べる方がおかしいんだが……。
「ああ、もちろん」
俺もそう答えた。そして、考える俺の隣に座るということは次席だった人物となる。となるとその正体は……
「お初にお目にかかります。私はバラエルド伯爵が長女、エレン・スタレシュ・ドゥ・バラエルドと申します。先日は、わが父が大変失礼をいたしました」
エレンは自己紹介の後そういって頭尾深々と下げてきた。
彼女がこうして俺の頭を下げてきたのには訳がある。
実は、俺が首席合格を果たした後、ちょっとしたトラブルがあった。そのトラブルというのが、彼女の父親であるバラエルド伯爵からのいわゆるいちゃもんだった。
伯爵が言うには、俺が半分は平民である。そんな俺が自身の娘、つまりエレンよりも上位の成績を出すなどありえない、何か不正をしたのではないかと言ものだった。
俺としては、何を言っているんだろうと思う反面、半分平民なのは確かだし、そう思われても仕方ないのかもしれないとも思ったが、爺さんは怒った。といっても、何かがあるわけではなく、そもそもバラエルド伯爵家とは寄親と寄子の関係だし、かなり昔の話だが、両家は兄弟だった。
そんな関係だったこともあり、カペリオン侯爵家としては伯爵家とことを構える気は一切ないし、一方でバラエルド伯爵家も同様に侯爵家にけんかを売りたいわけではなく、娘可愛さと、自身が平民嫌いであるということから出したことであるということは周知だった。だから、そこまで問題にはならずちょっとしたトラブルどまりとなった。
まぁ、それでも、俺に対してかなり失礼な物言いだったのは事実なので、エレンがこうして頭を下げてきたということだ。
「いや、俺は気にはしていないよ、実際俺の母は産みも育ても両方平民だったからね。まぁ、だからといって平民だって優秀な人間はいるだろう。例えば生徒会長とかね」
「はい、それは重々承知しております」
俺は気にするなと言ったが、やはりエレンは気になっているようだ。
「席に着け」
そのタイミングで教師が教室に入ってきた。
「えーと、まずは、入学おめでとう、俺の名は、ヘーゲル・トルンだ。かつてはAランク冒険者をしていた」
どうやら、俺の担任は元冒険者だそうだ。ちなみにこの冒険者ランクというものはFランクから始まり特Sまである。
「それじゃ、それぞれ自己紹介をしてもらう。最初は、カペリオン侯爵様。お願いします」
ヘーゲル先生は俺に顔を向けながら少し戸惑ったようにそういった。
この学校でも現役の貴族が入ってきたことはないために教師側もどう接していいのかわからないようだ。
「テイル・リップ・ドゥ・カペリオン侯爵だ。皆も知っている通り俺は先日陛下より侯爵の爵位を賜った。とはいえ、この学校の規則により貴族と平民分け隔てなくというものがある。これに倣い、俺に対しても、当学園においてはそのように接してもらいたい。まぁ、要するに気軽にテイルと呼んでもらって構わないし、普通に話しかけてくれもいい、そもそも、半分は平民であり、平民の母に育てられているからな。みなと仲良くできればそれが一番いいというものだ」
俺はそういって席に座った。
この自己紹介で語ったことは、まぎれもない俺の本音だった。
さぁ、果たして、どれだけの人が、そう接してくれるのか楽しみだ。




