第15話 「岩肌族」
「先ほどはすみませんでした」
松明の明かりが照らす薄暗い洞窟の中。
僕たちは岩肌族の門番であるズィーゴに招かれ、彼らの洞窟を案内されていた。
「気にするな。どこの古種も似たようなものだ。それに、私たちが事情を説明したら中に入れてくれただろ? それだけでどこぞの古種とは大違いだよ」
からかうような師匠のそれに、ガノンが気まずそうに頬を掻く。
確か、僕たちが初めてガノンの集落を訪れたときも、先ほどと同じように武器を向けられた。あの時は一触即発の大ピンチだったが、今考えればいい思い出だ。
しかしガノンはそうじゃなかったのだろう。
懐かしむ僕をよそに、彼は半ば無理やり話題を変える。
「そ、それにしても、どうしてこんなところに住んでいるんだ? 俺たちの族長から聞いた話では、この洞窟の外に集落があると聞いていたんだが……」
「それは大昔の話ですよ。ここ数百年はずっと洞窟に住んでいます」
「どうしてだ? 暗くてじめじめしたところが好きだというわけでもあるまい?」
師匠の失礼な発言にもズィーゴは怒ることなく、もちろん違います、と律儀に返す。
「俺たちも、出来る事なら昔のように外で生活したいですよ。草花の光を浴びたり、そよ風を感じたい。でもダメなんです。過去の記憶がそれを許してくれないんですよ」
「それってどういう……」
僕の疑問に、ズィーゴは悲しそうに笑う。
「第一次古種狩りはご存じですか?」
「「もちろん」」
彼の問いに、師匠とガノンが勢いよく答えるが、僕は首をかしげてしまう。
師匠と初めて会ったときに、古種狩りのことは聞いた。しかしその時は第一次とは言っていなかったはずだ。
頭をひねる僕に気づいた師匠が教えてくれる。
「そういえば、まだハルには詳しく教えていなかったな。以前、古種狩りがあったことは話したな?」
「はい。確か、古種たちの技術を狙った人間が襲ってきたんですよね?」
「そうだ。今から約四五〇年前、まだ魔法すらなかった頃。今のパルス国の人間たちが突如として、ある特定の古種たちを狩り始めた」
「特定の?」
「私も詳しくは知らないんだが、噂では七つの種族が中心に襲われ、攫われていったと言われている」
師匠の言葉に、先頭を歩いていたズィーゴが同意する。
「その通りです。彼らは数を減らし、生き残った者も身を隠しました。そして、その七種族のうちの一つが我々、岩肌族というわけです」
「だから洞窟に?」
「そうです。鉱石や食料を確保する以外では外出しません。これ以上、仲間の犠牲を増やさないためには、致し方ないことなんです」
彼がそこまで言ったところで、その場所に着いた。
二本の松明が壁に掛けられている一つの横穴。
「ここです。質素で申し訳ないんですが、一応ここが客室になっています。今から族長に声をかけてきますから、しばらくここでお待ちください」
案内してくれた彼はそう言うと洞窟の奥に歩き出すが、すぐに立ち止まると、申し訳なさそうに振り向く。
「先ほどもお伝えした通り、皆様の期待には応えられないかもしれませんよ」
彼はそれだけ言って、その場を後にした。
岩以外には何もない洞窟の一室。そこで僕と師匠、ガノンの三人は輪になって座っていた。
「あれってどういうことなんでしょうか?」
「ん?」
「期待には応えられないって……」
この洞窟を発見したとき、最初ズィーゴは僕たちに武器を向けてきたが、師匠とガノンがナイフのことを説明すると、そう言ってきた。
それでも無理を通してここまで連れてきてもらったのだが、あれはどういう意味だったのか。
「私にもよく分からん。何か事情があるのだろうが、ナイフを直してもらわねばこちらが困ってしまう」
師匠のその言葉に、ガノンは頷きつつも、難しい顔をする。
「ソフィアさんの言う通りですが、それでも直してもらえなかったらどうするんですか? ハルのナイフを打ち直せるのは、古種一の鍛冶技術を持つ岩肌族しか無理ですよね? 無理やり直させることもできないし……」
彼の質問に、師匠は優しい笑みを浮かべる。
「そんなの決まってるだろ。もちろん……脅すさ」
――こわっ! 表情と合ってないんですけど!!
「片腕をもぎ取ってでも直させるよ」
――そんな簡単にもぎ取らないで!? 何考えてるの? バカなの? 自分の師匠とは言え、この人怖すぎるよ!?
「し、しかしですね、流石にそれはまずいんじゃ……」
ガノンの当然の苦言に、師匠はチッチッチッと人差し指を振る。
「君は何も分かってないな。我々だって、最初から脅そうと言っているわけではない。頭を下げて、それでもダメな時だけだ。奥の手ってやつさ」
「そ、そうかもしれないですけど、やっぱり遺恨が残るようなことは避けた方が……」
師匠の無茶苦茶な言い訳に、それでも食い下がるガノン。
師匠のとんでも理論にいつも振り回されている僕は、思わず彼を応援してしまう。
しかし。
「我々は遠路はるばるここまで来たよな?」
「え、ええ……」
「そして頭を下げてお願いする」
「そ、そうですね……」
――あれ?
「では少しくらい我がままを言ってもいいと思わないか?」
「それはそうですが……しかし…………」
「それとも、君はハルの武器が直らなくてもいいと思っているのかい?」
「いえ! ハルの武器は直すべきです!!」
「だろ?」
――えっと、何か話しがおかしな方向に……。
「なら、少しくらい無理を言うのも仕方ないことではないかな?」
「た、確かに……!!」
――ガノンさん!?
「それにな、これはとても重要なことだが……」
「は、はい……」
「実は…………片腕をもいでも武器は直せる!!」
「おおぉ!!」
「だから問題ない!!」
「ですね!!」
「問題大ありだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
いつものごとく、僕の叫びが空しくこだまするのだった。




