第14話 「隠された里」
「ここ……だよね?」
「あ、ああ。ズーシャ様はそう言ってたんだけど……」
「おいおい、ここのどこにあるっていうんだ? ズーシャの記憶違いじゃないのか?」
師匠の言葉に、ガノンは「そんなはずは……」と口ごもる。
しかし彼女がそう思うのも無理はなかった。
なんせ今僕たちの目の前に広がっているのは、見上げることが出来ないほどの高い岩壁だったのだから。
「こんなところに本当に住んでるのか? ――まさかこの崖の上とかじゃないだろうな?」
「流石にないとは思いますけど、もしそうならお手上げですね」
頭をひねっている二人をよそに、僕は手をつきながら壁に沿って歩いてみる。それは草の一本も生えていないゴツゴツとした岩壁で、まるで僕たちの行く手を阻むように永遠と続いてる。
――魔樹海にもこんなところあるんだ……。
そう思った時だった。
僕はある異変に気付く。
岩壁のある一部、少し出っ張ったそこが、まるで呼吸でもしているかのように、少しだけ動いていた。
僕は恐る恐るその場所に手を置く。
「うわっ!!」
予想外の感覚に、思わず手を引っ込めて声をあげてしまった。
「どうした!?」
師匠たちが駆け寄ってきてくれる。
「何があった? 大丈夫か?」
「は、はい。少し驚いただけです。すみません」
「一体どうしたんだ?」
「ここが……」
「ここ? 何もないじゃないか。なにを……」
そう言いながら師匠は僕の指さしたところを触る。
すると、先ほどの僕と同じように、目を丸くして手を引っ込めた。
「これは……」
「どうしたんですか?」
僕と師匠の反応に、ガノンが声をかけてくるが、それに彼女はニヤリと笑みを返す。
「私の弟子が見つけたかもしれないぞ。触ってみろ」
師匠にそう言われ、ガノンは半信半疑でそこを触る。
すると、ガノンも目を見開く。
「動いてる。……しかも温かい」
「ああ」
師匠は頷くと、まじまじとその場所を観察する。
「なるほどな」
「一体何なんですか?」
ガノンの質問に師匠が、うむ、と頷く。
「これは岩ではない。魔獣だ」
「「魔獣!?」」
ガノンと僕が同時に驚きの声をあげると、師匠は安心しろと言って、岩壁に背を向けて木々の根元を見て回る。
「魔獣と言っても、危険な奴じゃない。ランクはHランクで、性格は大人しく、滅多なことでは人を襲うようなことはしないからな」
彼女はそこまで説明すると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あった。これだ」
師匠の手に握られていたのは、一本の草。
茎から葉に至るまで、全てが灰色に染められているそれは、この摩訶不思議な魔樹海でもあまり見たことないものだった。
「それは?」
「これは、フェール草という薬草だ。魔樹海の岩場近くによく生えていて、鉱物を多く含んでいるんだ。人間の世界だと妊婦などにいいとされている。ロックチュートはこの薬草が大好物なんだよ」
師匠はそう言いながら、手に持った薬草を例の岩に近づける。
すると、そこがモゾモゾと動き出し、その魔獣が姿を現した。
それは体長二メトルほどのネズミのような姿をした魔獣で、背中には盛り上がったように岩がびっしりと生えている。
しかしその大きさや見た目とは裏腹に、その魔獣はキューと可愛い声をあげながら、師匠の手から嬉しそうにフェール草を食べていた。
「これがロックチュートっていう魔獣ですか?」
「そうだ。可愛いだろ?」
「はい!」
「こいつは人懐っこくてな。フェール草を持ってたら誰彼かまわずこうやって近づいてくる。ただ戦闘能力は皆無だから、いつもはさっきみたいに背中を丸めて岩に擬態しているんだ」
「でもどうしてこんなところに……」
僕の疑問に、師匠は顎をしゃくってロックチュートが先ほどまでいた場所を指す。
そこには、ぽっかりと穴が開いていた。
「あれって……」
「私にも分からない。だから、彼に聞いてみよう」
師匠がそう言うと、その洞窟の闇の中から一人の古種が現れた。
身長は僕と同じか少し小さいくらい。しかし、その腕は木の幹ほどに太く、皮膚は岩のようにゴツゴツしている。そしてその顔には今まで見たことがないほど立派な髭が生えていた。
師匠とガノンは彼に歩み寄る。
しかし。
「何者だ! ここで何をしている!!」
その古種は手に持っていた槍を構えて、そう二人に怒鳴った。




