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第9話 「セレナの推測」

今回は2600字程度です。

 セレナは今朝のことを思い返し、やっぱりおかしい、と眉をひそめる。

 実際、この国の制度を知っていれば、彼女でなくとも今朝の出来事は違和感を抱くものだった。


 まず一つ目は、この命令だ。

 王国魔法騎士団とは、王直属の騎士団であり、王国軍や貴族の所有している私兵とは違う。王国魔法騎士団に命令できるのは王のみであり、貴族はもちろん王国軍トップの大将軍や国政にかかわる大臣、王の側近ですら騎士団には命令を下すことが出来ない。言わば、騎士団とは王の私兵のようなものだ。にもかかわらず、今回拝命した命令は無断で使用して紛失させてしまった第一級武器の回収。端的に言ってしまえば、重大違反の隠蔽、つまりは騎士団唯一にして絶対の主君への裏切りだ。


 ここから一つの答えが導き出せる。

 それは、この命令が王からのものでないということ。

 そんなこと、今までなら絶対にありえないことだった。

 これだけでも、セレナにとっては頭の痛い問題だが、残念なことに懸念は他にもある。


 その二つ目の懸念とは、単独での魔樹海探索だ。

 これも今までのことを考えれば、絶対にありえないことだった。

 例えそれが、ズバ抜けた戦闘力を有しているセレナだとしても。

 魔樹海は魔獣の強さはもちろん、その出現数も外とは圧倒的に違う。どんなに強くても魔素を使い果たし、魔法が使えなくなれば騎士団員とてただの人間に成り下がる。つまり物量で押し切られれば、ひとたまりもないということだ。そうならないために、魔樹海探索は騎士団でも最低で六人、理想を言えば十二人全員でするべきことだった。


 確かに、騎士団の七つの隊をまとめているそれぞれの隊長や、その隊を総括している騎士団長ならば一人で魔樹海に入っても問題はないだろう。しかし、未だ副隊長であるセレナが一人で魔樹海探索を命令されることなど、普通なら考えられない。

 つまり、他の団員を連れて行けない理由、知られてはいけない理由があると考えるのが自然だろう。


 そして、三つ目が最大の問題だ。

 それは、ウェルゴの最後の言葉。



『パルム様を見つけたら連れ帰る前に私に連絡をくれないでしょうか?』



 その言葉の意図を、セレナは図りかねていた。

 連れ帰る前に連絡をするとはどういうことなのか、と。

 魔樹海という場所は、普通の人間が生き残れるような場所ではない。それが、魔法の訓練など一切していない上位貴族の息子ならばなおさら。

 もし生きていたとしても、見つけたときには衰弱しているだろう。それはウェルゴも知っているはずだった。しかし彼はそれを承知の上で、連絡を優先しろと命令したのだ。

 これだけを考えると、何故ウェルゴがこの命令を下したのか理解できない。

 だが、今までの懸念と関連づければ、ある一つの答えに導き出せる。


 それは。

――誰かが裏で糸を引いている。

 そう考えれば、全ての辻褄が合う。


 その黒幕はウィンチェスター卿の自宅を襲撃し、息子のパルムを襲ってわざと魔樹海へと逃がす。理由はいろいろ考えられるが、その場で殺すと足がつくからだろう。魔樹海ならば捜索は打ち切られ、魔獣が勝手に始末してくれる。しかし問題が発生した。本来なら打ち切られるはずの捜索が、ウィンチェスター卿の独断で続行されたこと。私兵との連絡が途絶えたとはいえ、一応救出隊が向かったのだ。一人なら生き残れなくとも、もしかしたら誰かが助けてしまっているかもしれない。そこで不安になった黒幕が、ウェルゴを使って安否の確認をさせようとしてる。

 これが、セレナの考えた今回の顛末だった。

 しかし、これには二つの疑問がある。


 まず一つ目は、何故ウィンチェスター卿なのかということ。

 彼はこの国で有数の上位貴族だ。その自宅は普通の貴族とは比べものにならないほど厳重な警備が施されている。襲うのはもちろん、逃げ切ることすら簡単ではない。ならば、普通の貴族を襲う方が簡単なのではないか。ウィンチェスター卿でなければならない理由とは何なのか。セレナにはそれが分からなかった。


 そしてもう一つの疑問。

 それは、ウェルゴをどのようにして操っているのかということだ。

 ウェルゴは控えめに言っても、強い。

 魔素の量や魔法の才能はセレナの方が上だが、その他の技術や戦闘センス、魔法の構築スピードは圧倒的にウェルゴの方が上だ。セレナですら、今のウェルゴに勝つことは不可能。そんな彼をどのようにして操っているのか。


 そこがセレナには分からない。

 例え弱みを握っていたとしても、ウェルゴならその個人、ないしは組織を一人で壊滅させることなど簡単だ。実際、ウェルゴを手に入れようと目論んだ組織を、彼は一晩のうちに三つ潰したこともある。そんな彼を、誰が操れるというのだろう。そんなことが出来る人物がいるとはセレナには思えなかったが、もし仮にできるとしたらその人物はただ者ではないはずだ。


「これはまずいわね。――私がウェルゴ隊長をどうにかして助けないと。でもどうやって……」


 思考が加速するのとは裏腹に、セレナの足は動きを緩やかにし、ついにはその場に立ち止まってしまう。


――ウェルゴ隊長でも苦戦する相手なのよ? 私に何が出来るっていうの……? どうすれば……。


 考えが濁流のように押し寄せ、セレナの思考を飲み込んでいく。出来ることは何もないのではと、自分の無力さに頭がいっぱいになる。

 その時だった。


「……!?」


 セレナは鋭い殺気を感じて大きく飛び退く。すると、先ほどまで自分が立っていた場所に一本の矢が突き刺さった。


――こんな時に……。


 内心悪態をつきながら視線を矢から、目の前の小高くなった丘の上に向ける。


 するとそこには、

「「「キャキャ!」」」

 下卑た笑みを浮かべるゴブリンがいた。


 しかも十匹や二十匹ではない。

 四十匹には届きそうなほどの大群。


――どうしてこんな所に!?


 セレナは困惑しながら一歩後退る。

 彼女が驚くのも無理はなかった。

 魔樹海は広大な土地を有しているが、入り口に近い所から順に浅部せんぶ中部ちゅうぶ深部しんぶ中深部ちゅうしんぶと分けられており、それぞれ出現する魔獣が変わってくる。

 今セレナは中部に位置する場所にいるが、本来ゴブリンが出現する場所は浅部である。

 ここにいるはずがないのだ。


 しかし彼女は目を瞑って一度深呼吸すると、

「まぁいいわ。ちょうどモヤモヤしていたところだし。相手になってあげるわよ」

 小さくそう笑い、左の腰に吊るしてある長剣を引き抜いた。


 

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