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第1話 「駆け出しの愚者」

今回は2500字程度です。

 草花が白色はくしょくの優しい光を放ち、太陽届かぬこの魔樹海を淡く照らす。

 通常ならばいくら光る植物があったとしても、魔樹海特有の大樹が邪魔をして遠方を見通すことなど出来ないが、ことここに至ってはそれを心配する必要はない。


 円形に開けた空間、「フィールド」。


 何故かはわかっていないが、このフィールドと呼ばれる所には魔樹海の木々が生えない。もちろん、周りの大樹が空を覆っているため太陽の恵みは届かないが、それでも通常の魔樹海と比べて格段に明るい。


 僕はそのフィールドの中心で逆手に持ったナイフを構えて腰を落とし、そいつらを睨みつけていた。

 二足歩行で体長は約一・三メトル。その姿は、一見、人間の子どもと見間違うシルエットをしている。

 しかしそいつらの実際の容姿は、人間とは似ても似つかぬものだった。

 深緑の肌に、額に生える小さな角、頬まで裂けた口からは針のような鋭い牙が覗き、瞳はまるで怒りの炎で燃えているかのように真っ赤に染まっている。


 悪しき小鬼『ゴブリン』。


 魔樹海の入り口付近でも見ることができ、世界魔獣機関が設定したランクは最低のHランク。

 これらのことから、ゴブリンは誰でも倒せる弱い魔獣だと思われている。しかし現実はそんなに甘くない。

 彼らは常に十から二十のグループで行動し、獲物を見つけた際は必ず全員で襲い掛かる。また他のHランクの魔獣とは違い、そいつらのほとんどが人間と同じように武器や防具を身に着け使いこなす。

 決して弱い魔獣ではない。

 実際、世界で最も多く人間を殺している魔獣がゴブリンだった。


「キャキャ!」


 そいつは僕のナイフよりもさび付いたショートソードを右手から左手、左手から右手へと交互に持ち替えながら、気味の悪い笑い声をあげる。


――完全になめられてるなぁ。


 そんなことを頭の片隅で考えながらも、僕は油断なくじりじりと相手との間合いを図る。

 正直、こいつらが油断する気持ちも分かる。

 もし僕もあいつらの立場なら、同じように油断したかもしれない。なんせ、目の前のそいつを含めて僕の周りには武器や防具を装備したゴブリンが四体いる。

 状況だけ見れば、こちらが圧倒的に不利。

 でも、数字だけでは測れないものもある。


「――はっ!」


 先に仕掛けたのは僕だった。

 相手が剣を持ち替えるそのタイミングを狙って、思いっきり地面を蹴る。


――こいつに時間をかければかけるほど、他のゴブリンに囲まれて不利になる。つまり……。


「速攻しかない!!」


 僕は二歩目で一気にトップスピードまで加速し、眼前のゴブリンに突っ込む。

 そいつは一瞬だけ驚いた素振りを見せるも、すぐさま左手に持っていたショートソードで対処してきた。

 左上から右下への斜め切り下ろし。

 しかし僕はトップスピードを維持したまま、ショートソードが振り下ろされるよりも早く相手の懐に飛び込み、ナイフを持っていない左手でそいつの左腕を掴む。


「ギッ!?」


 驚愕に見開かれた紅の瞳を一瞥いちべつして、僕は逆手から順手に持ち替えたナイフを容赦なくそいつの首に突き刺した。

 さらにそこからナイフをねじり、右一閃に振り抜く。

 切り口から勢いよく鮮血が噴き出し、生暖かいそれが僕の手や顔を濡らした。が、僕はそれに意識を向けるようなことはせず、素早く視線を巡らせると、次の標的を決めて走り出す。


 かたまっている二匹の内の一匹、一番前にいる槍を持ったゴブリン目掛けて一気に距離を詰める。

 だがそこは相手も命懸け。

 突進する僕に対して全身全霊の力で槍を突き出してきた。しかし、僕はそれを地面すれすれまで体勢を低くすることで躱し、スピードを緩めることなくそいつの懐に入り込む。


 そして、

「はぁぁ!」

 逆手に持ち直したナイフで、そいつの股下から頭部を縦一閃に断つ。


 槍ゴブリンはあっけなく絶命するが、僕は攻撃の手を緩めない。

 勢いそのままに、振り抜いたナイフを頭上で順手に持ち替え、絶命したそいつの横にいるロングソードを持ったゴブリン目掛け斜めに振り下ろす。

 それは見事ソードゴブリンの喉を切断し、先ほど同様、真っ赤な血が辺り一帯を真紅に染めた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 荒くなる呼吸を落ち着けつつ、僕は後ろを振り返り最後の一匹を視界に捉える。


――問題はこいつだ。


 僕の目の前で堂々と仁王立ちしているそいつは、先ほどまでのゴブリンとは根本的に違った。

 まずは大きさ。さっき僕が倒したゴブリンは大きくてもせいぜい一・五メトルほど。しかしそいつは少なくとも倍近くはある。さらに体つきは遠目からでも分かるほど筋肉質で、額には小さいとは言い難い立派な角が生えていた。


 準魔とはまた違った進化を遂げた者『ハイゴブリン』。


 準魔は、本来生き物を大量に殺し、後天的に進化を遂げた魔獣に対して使われる言葉だ。だが、こいつは違う。ハイゴブリンは生まれつき普通のゴブリンよりも体が大きく、また力も強い。言わば、ゴブリンの突然変異体であり、準魔が後天的ならばハイゴブリンは先天的。

 絶対的強者で、油断ならない強敵。

 僕は血で滑るナイフを握り直し、腰を落として少しずつ距離を詰め相手を観察する。

 体長約三メトル弱。左手には何も持っていないが、革製の胸当てを装備し、右手には巨大な棍棒を持っている。


――問題はあの胸当て……かな。


 ハイゴブリンの体長は三メトル弱と、僕よりも圧倒的に高い。つまり、一撃で仕留めようと思うと、心臓を狙うほかないのだが、胸当てを装備していてはそれも叶わない。かといって、持久戦に持ち込めば、体格で差をつけられている僕が圧倒的に不利なため、この選択肢も取れない。

 故に……。


――首か頭を狙うしかない。


 実際、僕とあいつほど身長に差がある場合、頭などの弱点を狙うのは現実的ではない。しかし、ハイゴブリンは体が大きい分、普通のゴブリンよりも動きが遅くなると予想できた。そこで僕のスピードを生かして攻撃すれば、対処できずに体勢を崩すかもしれない。


――そこを……。

「叩く!!」


 僕は全速力で駆け出した。


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