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自然崇拝教のシスター①/シスタープレイはありだな。




 その日の俺は、海辺の街に来ていた。


 特に目的があった訳でも、街に魅力を感じた訳でもない。

 空の散歩と洒落込んでいたところ、偶然見かけた街が何となく気になったのだ。

 日本の漁村のようにひっそりとした街並みではない。

 西洋風のレンガ造りの建物がびっしりと立ち並ぶ、洒落た街である。


 海と山とは観光スポットとしてよく比較される。

 山育ちの俺は、海には慣れてない。

 泳ぐのは得意な方だし、一部を除く海の幸も好きなのだが、海辺の地域が持つ独特の雰囲気に気後れしてしまう。

 海は集団的でリア充のイメージが強く、反対に山は孤高でボッチな感じがするのだ。

 まあ、捻くれ者の偏見だろうから、異世界という巨大な道楽を堪能する身として食わず嫌いは勿体ない。

 海岸地帯の特産物である褐色少女とか最高だしな。


 そんな邪な考えを巡らせながら、街中を闊歩していく。

 建物の多さと比例するように、人通りもそこそこ多い。

 俺みたいな余所者も珍しくないようで、奇異の目で見られないのは助かる。

 適当に見学させてもらおう。


「うーん……」


 しばらく歩き回ってみると、特筆すべき物が何もないと分かってしまった。

 観光を楽しめるような建物も催しも料理も、本当に何もないのだ。

 そうは言っても、気まぐれで立ち寄った街である。

 テレビで紹介される色鮮やかな観光地を期待したのが間違いだ。

 勝手に期待して勝手に失望するのは勝手が過ぎるだろう。


「お土産でも買って帰るか」


 俺からの土産を待ち望むような相手もいないのだが。

 世渡り上手なコルトやリリちゃんは喜んでくれるだろう。


 ――――そんな風に。

 見知らぬ街で物寂しさを気取りながら、帰路につこうとした、その時。


「……ん?」


 無駄に刺激を求めていたのが悪かったのだろう。

 望んでいたものとは違うタイプの刺激――――白い服の女性と男連中が言い争っている場面を見つけてしまった。


 脇道がない通りなので、このまま前進すれば嫌でも遭遇してしまう。

 回れ右をして離れるのが賢明だろうが、若く美しい女性が理不尽に困っているのであれば紳士として無視できまい。

 似非紳士だけどな。

 だが、いくら女性に格好いいところを見せたいといっても、厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ。

 これが男同士の揉め事だったら、ガン無視で通り抜けるのに。

 それとも憂さ晴らしに乱入するのもいいだろうか。


 脳内で色々な考えが混じり合う中、俺の歩く速度は段々と遅くなっていく。

 出来れば近づきたくない。

 近づくまでに終わってほしい。

 そんな乗り気じゃない気持ちの表れである。


「ああっ、もう一度だけでもお話を聞いてくださいまし――――」


 日頃の行いが良い俺の願いは叶ったようで、僅か数メートルと迫った時に男連中が去っていく。

 女性が引き留めているようだが、相手にされていない。


 チラリと視線を向けると、すっきり整った顔立ちが見えた。

 今は少し表情を曇らせているが、優しく慈愛に満ちた笑みが似合いそうな二十歳ほどの若い女性。

 怪我や服の乱れは確認できない。

 どうやら暴力沙汰ではなかったようだ。


 よかったよかった。

 厄介事は勘弁してくれ。

「若い時の苦労は買ってでもせよ」って言葉には一理あると思うが、俺には関係ない。

 もう若くない、おっさんだからな。


「――――ああっ、そこ行く御方様。是非とも聞いていただきたい大事な大事なお話があるのでございますっ」

「…………」


 安堵したのも束の間、ターゲットを俺に変更した女性が話しかけてきた。

 揉め事ではなく、勧誘の類だったようだ。

 しかも、シスターっぽい格好と丁寧な言葉遣いから、宗教的なお誘いと思われる。


 先程の選択は、足早に通り過ぎるが正解だったな。

 中途半端に迷ったのが失敗。

 何事も中途半端は駄目なのだ。


「あの、わたくしの声は届いていますか?」


 最後の抵抗とばかりに聞こえない振りをして通り過ぎようとしたのだが、横に並ばれてくいくいと袖を引かれてしまった。

 見かけによらずアグレッシブなお嬢さんだ。

 シスターからは逃げられない!


「……もしかして、特技も特徴も魅力もない寂れた中年男に、何かご用なのかな?」

「はいっ、そうでございますっ!」


 自虐ネタが素通りされるどころか肯定されてしまったぞ。

 あーあ、また変な女性と出遭ってしまったのだろうか。

 そりゃあ品行方正で杓子定規な女性よりは、一風変わっていた方が面白味を感じるけどさ。

 珍しい料理は、偶に食べるから美味しいのであって。

 そればかりだと飽きてしまうだろう?

 いい加減、本当に女難の相が出てやしないかと心配になる。


「…………」


 俺は、胸の内でため息をつき、歩みを止めて彼女と向かい合う。

 改めて服装を見てみると、修道服と呼ばれるような白い頭巾に、ゆったりとした上衣とスカートが繋がった白い服を着用していた。

 その服が白地のままだったらシスターで間違いないのだろうが、少々変わったところがある。

 白い服をキャンバス代わりに、たくさんの刺繍が縫い込まれているのだ。


 赤の糸で描かれた太陽と炎。

 青の糸で描かれた空と雲。

 緑の糸で描かれた木々と風。


 等々と……。

 それらは気品に満ちた紋様ではなく、子供向けに可愛く簡略化されたマークのように張り付けされている。

 だから、厳かなシスターというより、保育園で子供と遊ぶ保母さんの方が似合う格好だ。

 更にもう一つ、彼女には保母さんっぽい特徴があって――――。


「わたくしは、自然崇拝教に勤務するセシエルでございます。どうぞ、ご贔屓にしてくださいまし」


 あー、やっぱり宗教関連の人でしたかー。

 地球に居た頃は苦手としていた分野であり。

 特に文化や価値観が異なる異世界では、最も避けるべき鬼門だと思う次第で。

 率直に関わりたくないのだが。


 というか、教団に勤務って何だよ。

 お給料もらっているのかよ。

 嘘でも神に仕えるって言っとけよ。

 それに贔屓って何だよ。

 他の宗教よりご贔屓にって意味なら、うん、ちょっと面白いな。


「……俺はこの街には今日初めて来たばかりの余所者で、ちょうど今から帰ろうとしている通りすがりな旅人のグリンだ。その、お手柔らかに?」


 シスターは懸念した通り癖の強い人物みたいなので、牽制と懇願を込めた挨拶を返す。


「まあまあ、旅人様でございましたか。どうりで風変わりなお召し物だと思っておりました」


 うん、あんただけには言われたくない。

 もしかしてボケなのか?

 俺にツッコんでほしいのか?


「そう言うシスターも、素敵なおべべを着ているじゃないか?」

「ああっ、この服の素晴らしさを理解して頂けるのですねっ。神の姿をデザインして、わたくしが作った服なのでございます!」

「……うん、その、よく似合っていると思うよ?」


 駄目だ、皮肉が通じない。

 でも、その服がシスターのオンリー物でよかった。

 彼女が所属する宗教の信者が全員その服だったら、神様も泣いて逃げ出すぞ。


「うふふっ。ありがとうございます」


 ご自慢の服を褒められご満悦なセシエル嬢と目が合う。

 俺と目線が同じくらいなので、女性としては背が高い方だ。

 髪の半分は頭巾で隠れているが、長くストレートな金髪。

 ゆったりした服なので確実ではないが、ふくよかな丸みを持つ女性らしい体つき。


 そして何より、先ほど保母さんっぽいと思ったように、胸がでかい。

 いや、胸の大きさと保母さんに因果関係はないのだが、仮にも「母」なる字が付く職業だ。

 何となく乳が大きいイメージがある。


 そんな戯言はさておき――――でかい。

 でかすぎる。

 常軌を逸したでかさ。

 いわゆる巨乳と呼ばれるヤツだ。


 健全な男性らしく若い女性の瑞々しい肉体を好む俺だが、無駄に大きすぎる乳は苦手を通り越した不要なオプションである。

 女性の胸は手の平サイズの慎ましさがベストだが、巨乳か無乳かと問われたら迷わず無乳を選ぶ。

 ほんと、巨乳怖い。

 まじ怖い。

 人体のバランス悪すぎだろう。

 そんな一部分だけが突出していて普通に生活できるのかと心配するレベル。

 異世界に来て色々と経験値が増しているはずなのに、未だに女性の体は神秘のベールに包まれている。


「顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ、気にしないでくれ」


 圧倒的な乳を前に圧倒される俺を、シスターが気遣ってくれる。

 俺がどんなに巨乳を憎んでいても、宿主であるシスターに罪はない。

 いや、彼女にも多少の責任があるかもしれないが、きっと神はこう告げるだろう。

 あなたの罪を許しましょう、と――――。



「……それで、シスターさんがどんな用事かな? 俺は八百万の神々に嫌われたくないから、特定の神を贔屓する予定がないぞ?」


 とにかく話を進めて早めに退散しよう。

 巨乳シスターの姿が神々しすぎて気分が悪くなりそうだ。

 目を逸らしつつ話すしかない。


「ああ、いえ、ご安心下さいまし。勧誘ではないのでございます」


 おやおや、信仰されるのが大好きな神の僕であるシスターが、勧誘以外に何の話をしたいのだろうか。

 ……も、もしかしてシスターというのは設定で、そうしたプレイが楽しめる客引きだろうか。

 かなり心惹かれるサービスだが、巨乳オプションだけは有料でいいから取っ払ってくれ。

 それ以外の容姿は好みなので問題ないが、できれば普通の清楚な修道服の方がいいな。


「実は、旅人様に警告すべき事態が迫っているのです」

「…………」


 シスターは、温和な表情と裏腹に物騒な話を始めた。

 これって勧誘よりも厄介そうな流れじゃないかな。

 霊感商法はお断りだぞ。


 一通り喋らないと気が済まないお婆ちゃんの長話を聞かされる覚悟で、とりあえず耳を傾ける振りをする。

 おっさんになっても、人のあしらい方は中々上手くならない。

 学生時代にスーパーの前で待ち構えていた美人のお姉さんに言われるがまま手を合わせてお祈りした記憶が蘇る。

 途中で止める事もできず、周りの目が気になった苦々しい思い出だ。


「――――この地域――――地面が動く――――それに――――自然現象が――――発生するとのお告げがあったのでございます」

「……なるほど。……すごいな。……悪いのは君じゃない」


 ……今日の晩飯は何にしようかな~、などと考えながら適当に相づちしていたら、話が終わったようだ。

 意外と短かった。

 どうやら、宗教の勧誘でも夜のお誘いでも悪徳商法でもなかったようだ。

 疑って悪かったね、シスター。

 どうせ俺には関係ない話だろうと聞き流していたが、重要な単語は一応頭に残っている。

 それは、「地面が動く」と「自然現象」と「お告げ」。

 要約するに、「この地域で地震が発生するお告げがあったから警告」していたのだ。


「その地面が動くってのは、地震の事なのかな?」

「――――っ! もしや旅人様は、地面が動くという現象をご存じなのですか!? 是非とも詳しく教えてくださいまし!!」


 やけに嬉しそうに語っていたシスターは、俺の質問を聞くと目の色を変えてしまった。

 どうやら、超常的なお告げはあれど、発生する災害の具体的な内容は分からないようだ。

 この大陸では地震が起きにくく、珍しいのかもしれない。


「知っているというか、俺の地元では頻繁に発生していたぞ。大半は小規模なものだったけどな」

「そ、それは、どのような感じでございますかっ!?」


「文字通り地面が丸ごと揺れるんだよ。小さい揺れなら問題ないが、大きい揺れだと地面が裂けたり建物が崩れたりして被害が発生する危険な自然現象だ」

「自然現象!! それでございます! そのズシンに違いありませんっ!」


「ズシンじゃない、ジシンだ。俺の地元の言葉で地面が震えると書いて地震だ」


 ズシンはあんたの胸が弾む音だよ。

 お告げの正体が知れて興奮し、ぴょんぴょん飛び回るから巨乳様も凄い状態になっている。

 連動型地震とはこの事か。


 そういえば普通に会話しているが、実際にはお互いに使っている言語が違うのだ。

 最高級の翻訳アイテムを装着しているため、完璧に近い意思疎通が可能だが、発言側が意味を理解してない言葉や受取側が認識していない現象を表す言葉などは、変換されずにそのままの単語で聞こえてしまう。

 つまり、この地域で地震という自然現象が知られていない証拠、少なくともシスターが知らない証拠になる。


「ああっ、ジシン! 何という荘厳な響きでございましょうか! この広大なる大地をも動かしてみせるとは、正に神の力! 神の思し召し!」


 ふむ、昔の地球では、地震を神の怒りとして恐れていたからな。

 地震のメカニズムを識らない者から見たら、天罰と思えるほど絶大なインパクトなのだろう。

 それにしても、柔和な容姿なのに、急にテンションをMAXにするお嬢さんである。

 修道者は冷静沈着なイメージが売りだから自重した方がいいぞ。


「……シスター」

「はいっ、何でございましょうっ?」


 まだ小躍りするほど興奮しているシスターに、俺はお願いする。


「――――そのお告げについて、詳しく教えてくれるかな?」


 何はともあれ、地震と聞いては無視できまい。

 地球でも最大級の産地である日本人としては、特にな。

 地震が及ぼす影響は大きくて広い。

 離れていても、我が身に降りかかる恐れがあるのだ。

 だから地震の情報は、優先的に集めておくべきだろう。


 しかし結局、首を突っ込む羽目になっちゃったな。

 俺にとっても役に立つ話なので、仕方ないのかもしれないが。

 行く先々で厄介事に巻き込まれている気がする。

 これはもう、運が悪いとかそんなレベルではないと思われる。


 ……もしかして、俺が巻き込まれているのではなく、逆だとしたら。

 異世界人である俺が元凶となって、厄介事を引き起こしているのだとしたら。

 ははっ、ははははっ…………。


 ――――――まさか、な?




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