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オジサンに優しいギャルに分からせられたオジサン 1/3




 彼女は、人を疑わない。


 ちゃんと見て、ちゃんと話せば、どんな人物なのか、だいたい分かる。

 優しい人がいて、優しくない人がいて、それが当たり前。

 そもそも、根っからの悪人なんていない。

 そんな風になったのは、そうなる必要があったから。

 誰が相手であっても、言葉の通りに、感じたままに、受け取って、素直に返すだけでいい。


 そんな明け透けで物怖じしない性格もあって、彼女は娼婦になった。

 色んな思惑があるように見えても、娼婦を買う男は、女の子が好きなだけ。

 優しくても、素っ気なくても、暴力的でも、結局やることは同じ。

 とってもシンプルで、分かりやすい。

 それに、男に抱かれるという行為は、単純に気持ちいい。

 どんな男でも、相手の体温を感じるだけで、安心できる。

 彼女にとって娼婦は、天職だったのかもしれない。


『花が好きな男を捕まえなさい』


 それは、母親の口癖。

 小さい頃に、聞かされた言葉。

 その理由も聞いたはずだが、覚えていない。

 言葉の意味をまだ十分に理解できない子供だったので、頭に残らなかったのだろう。

 十五を過ぎ成人した今は理解できるはずだが、肝心の母親はもうこの世にいない。


『花が好きな男を捕まえなさい』


 意味を知らぬまま、その言葉だけが頭の奥にこびりついている。


「ん~? よしっ、一人目はあのオジサンにしよっ」


 だから、だろう。

 その中年男に、目が向いたのは。


 くすんだ緑色の髪と服が、植物を連想させる。

 珍しい格好で、初めて見る相手だから、余所の街から来たのだろう。

 地面に片膝を突けているのは、腰丈ほどの幼女と目を合わせるためか。


 緑髪の男が手に持つのは、光り輝く銀貨。

 幼女が手に持つのは、何の変哲もない花。


 一見、花売りの幼女からお花を買ってあげる大人の男、という微笑ましい構図なのに、どうしてだか怪しい雰囲気がある。

 緑髪の男が、幼女を意識しすぎているからだろう。


「あああっりがとうっございましたっ」


 その証拠に、花と銀貨との不等価交換を成功させた幼女は、早口でお礼を言い、そそくさと去っていった。


「かんばーっく、とぅーみーっ……」


 緑髪の男の呟きと、差し伸ばした手と、丸まった背中が、哀愁を感じさせる。

 おそらく、幼女から花を買う体裁で、実際は幼女自身を買えると思っていたのだろう。

 実際にそんな商売もあるそうだが、心身ともに未成熟な幼女への蛮行を見逃すわけにはいかない。

 少なくとも、自分の目の前では。


「ねぇねぇ、オジサン、暇ならあーしと遊ぼーよ?」


 だから、彼女は声を掛けた。

 幼女に向けられる欲望を発散させるために。

 そして、粗相できないよう散財させるために。


「えっ、ギャル? 異世界でギャルっ? しかもパッキン黒ギャルっ!?」


 振り向いた緑髪の男は、花売りの幼女と対面していた時以上に不審な言動を取った。

 どうやら、こちらの容姿に驚いているらしい。

 軽くウェーブしている金色の長い髪と、よく日焼けした肌。

 上半身はたわわな胸を覆うだけの服で、下半身は短パンからはみ出るむっちり太股。

 人懐っこい表情に、両手を使った決めポーズ。

 少し奇抜な格好だが、これを好む男性は少なくない。

 緑髪の男も、動揺しつつ喜んでいる感じなので、性的対象に含まれていると確信する。


「オジサン、ぎゃるってなーに?」

「ギャルってのはなぁ、見た目は派手で馬鹿っぽくて、実際にすっごく我が侭だけど、老若男女に分け隔てなく接する平等主義者で、誰にでも明け透けで優しくて、まるで太陽のように明るくて眩しくて尊い存在。特に陰キャにとっては、最後の希望なのさ」


「ん~? 意味不だけど、それがあーしのことなの?」

「うんうん、まさかこの前時代的なファンタジーワールドで君のような女神に逢えるとは思っていなかったよ。ギャル子ちゃんって呼んでいいかな?」


「どーでもいーけど、賛成ってことでいーの?」

「いいともいいともっ、ギャルと遊べるなら全てを投げ打つってもいいともーっ!」


 幼女好きなオジサンは随分とちょろいようで、腕を取って胸を押しつけるだけで、あっさり受け入れてしまった。

 意味不明な言葉が多いが、悪意は無いただの変態オジサンのようなので、商売相手として問題ない。


「刮目せよ! 陽キャ界隈における三大都市伝説の一つ、『おっさんに優しいギャル』は実在したんだーっ!!」


 緑髪の男は、片手を上げて涙を流しながら、またよく分からない言葉を叫んでいる。

 女にモテず性癖を拗らせている中年男には、奇人変人が多い。


「そんじゃ、宿に行く? それとも汚くていーなら、あーしのウチに行く?」

「えっ、もう会話パート終わり? 出逢って5秒でホテル?」


「1回だけなら銀貨3枚。2回目より上は銀貨1枚の追加でよろー」

「……もしかしてギャル子ちゃんは、そういうお仕事の人?」


「最初っからそー言ってるし」

「…………知ってた。うん、知ってた。ギャルがおっさんやオタクに優しく見えたとしても、好きって訳じゃないって知ってた」


 そう呟く緑髪の男の足取りは、まるで誰かに殴られたようにふらふらしている。

 どうやら、純粋な好意で若い女から話し掛けられたと思っていたらしい。

 よほどの自信家なのか、それとも大馬鹿者なのか、どちらにしろまともな思考の持ち主ではない。


「ん~? ちょーし悪いなら、やめとく?」

「!? 全然元気ですけど! 二十四時間戦えますけど! 持久力に難ありだけど精力剤があるから大丈夫ですけど!」


 上目遣いで、ちょっと悲しそうな顔を作るとイチコロだ。

 一人目ゲット~、と内心で喜ぶ。


『花が好きな男を捕まえなさい。花が好きな男は、女に甘くて、騙しやすいから』


 ふと、母親の言葉を思い出す。

 そうそう、そんな身も蓋もない理由だった。

 花好きの男は、か弱くて可憐なモノに弱いから、とても都合が良いのだ。



「じゃぁさっ、すぐ行こーよ」

「まてまて、据え膳食わぬは男の恥。なれど、情緒は忘れるべきではない。せっかく初めて来た街だし、観光がてらの同伴を希望するぞ」


「どうはんって、なーに?」

「本番の前に、街中を歩いたりご飯を食べたりとイチャイチャして気分を高揚させる大切な儀式のことさ」


「え~、そこまでしないと出来ないって、ヤバくない?」

「いやいや、ちゃんと直立するんだぞ! 今すぐホテルに行っても問題ナッシングなんだぞ! でもこう良い感じに焦らしてやるとよりいっそう元気になるんだぞ!!」


「でもオジサンだけに、そんないっぱい時間使えないよ?」

「ほうほう、一日に何人ものおっさんを転がすとは、ギャル子ちゃんはオジサンキラーなんだな。しかし主張はごもっともだから、同伴中の金も当然支払うぞ」


「どゆこと?」

「ちなみにギャル子ちゃんは、一日で最大いくら稼ぐのかな?」


「多くても、金貨2枚いかないかなぁ」

「よし、だったら俺は金貨3枚払うから、今から明日の朝まで付き合ってくれ! もちろん、昼飯と晩飯と翌朝の朝飯も好きなだけ奢るぞ!」


「ガチでっ!? オジサンってば、見かけによらずお金持ちじゃん!」

「はははっ、こう見えて俺は世界有数の成金だからな。ほら、その証拠に全額前払いしよう」


「やったーっ。オジサン、ガチでイケメンじゃん!」

「ああ、よく言われる。だからもっと言ってくれ!」


 冴えない中年男に見えた最初の客は、けっこうな太客だったらしい。

 母親が言っていた『花が好きな男を捕まえなさい』は、正解だったようだ。

 オジサンの自慢話にテキトーに話を合わせ、ご飯をたらふく食べ、夜にちょっと運動するだけで金貨が三枚も手に入るのなら、これほど割が良い仕事はない。


 ちょろい客が見つかってラッキーと、彼女は無邪気に喜ぶ。

 まさかその相手が、若い女の子が大好きな変態オジサンだけでなく、トラブルの女神に愛された厄介オジサンだとは知らずに……。、




 ◇ ◇ ◇




「あそこはね、よく知んないけど有名な建物で、たまーに人が見てたりするよ」

「ほうほう?」

「あーしからしたら、ただのおっきなウチだけどね」

「まあ確かに、どんなに立派な建造物でも時代背景が不明だと、建築業者しか理解できないな」


「ここの屋台は安くてまーまー美味しいんだよ。最後まで余ったら、あーしらにタダでくれるし」

「ふむふむ?」

「だから今日は、あーしが全部買っていい? あー大丈夫だよ、お金はこのオジサンが払うし、食べきれない分はそこらの子にあげるから」

「そういうお伺いは店の人じゃなくて、パトロンの俺にするべきじゃね?」


「ほらっ、あっちに花売りの子がいるよ。オジサン、花好きなんでしょ。いっぱい買ったげて」

「やあ、お嬢ちゃん。可憐な嬢ちゃんが持っている可憐なお花を全部もらおうか」

「ひえっ」

「怯えなくていいんだぞ。オジサンは悪いオジサンじゃないよ。女性に対してだけは良いオジサンだよ」


「あれは冒険者ギルドだよ。筋肉ムキムキの怖いオジサンがいっぱいな所だよ」

「世界の平和を守るナイスミドルも、ギャルにかかればこんな扱いか……。浮かばれないなぁ」


「ここの屋台は、街の人にだけ安くしてくれるんだよ。今日は余所から来たこのオジサンが払うから、いつもより高くしてね」

「値引きはしなくていいけど、値上げ交渉はひどくね?」


「あっちにもオジサンが好きな花売りの子がいるよっ」

「やあ、お嬢ちゃん。お花を全部もらうよ。それと怪我しているみたいだから、良いオジサンがよく効く薬を塗り塗りするからね」


「あれはどっかの教会だよ。お祈りしたら何か救われるらしーけど、ご飯はくれないんだよね」

「炊き出しもしないような教会には、お布施は必要ないな」


「ここの屋台は不味くて、いっつも売れ残ってるんだよ。でも今日は、あーしが買い占めるから安心だね。お金払うのはこのオジサンだけど」

「ギャルに心配をかけちゃ駄目だぞ。ほら、このレシピで勉強して真っ当な料理を作れるよう精進することだ」


「ほらほらっ、オジサンが大好きな花売りの子だよ」

「……これってもしかして、俺たち、ループしてる~っ!?」 

 

 微妙に違うだけの周回プレイを十回近く繰り返した後、緑髪の男はようやくツッコんだ。

 本当はもっと早く気づけるはずなのだが、ギャルとの似非デートを楽しむ男にとって、観光や金なんてどうでもよかった。


「あははっ、のーてんきなオジサンも気づいちゃったね」

「そりゃあ気づくさ。だって、さっきの花売り少女に逢うのは三回目だからな」


「オジサンが覚えてるのって、女の子の顔だけなんだね」

「それ以外に記憶する価値があるものなんて無いのさ」


「オジサンはガチで、女の子のことしか考えてないダメダメオジサンだね」

「ああ、よく言われる。だからもっと罵ってくれ!」


 魂胆がバレて怒られるかと思ったが杞憂だったな、と彼女は思う。

 幼女大好きオジサンは、予想以上に駄目な大人であった。

 でも、駄目な大人にも、二種類いる。

 弱者に高圧的な態度を取る乱暴者と、弱者を愛でるのが好きな道楽者だ。

 世間の評価はどちらも低いが、風俗業に携わる者にとっては、圧倒的に後者の方がマシ。

 その証拠に、昼の間だけで、緑髪の男が街に落としたお金は、前払いでもらった金貨3枚を軽く超えている。

 なのに、散財させられている件については、少しも気にした様子ではない。

 よほど金持ちの世間知らずなのだろう。


『花が好きな男を捕まえなさい。すぐに萎れて枯れてしまう花に金を出すような男は、有り余るほどの金を持っているはずだから』


 ふと、母親の言葉を思い出す。

 そうそう、そんな金銭目的の理由だった。

 花好きの男は、無駄にお金持ちで、財布のヒモが緩いのだ。



「でもさ、あーしだって手抜きした訳じゃないよ。だってこの街、おっきな建物以外なんにも無いじゃん」

「まあ確かに、普通観光地というと建物と風景がセットだが、この世界の街は魔物が出現するスポットから離れた平原に造るから、周囲に特徴的な自然が無いんだよなぁ。だから観光や旅行が広がらず、観光客相手のご当地グルメも発展しないんだろうなぁ。ほんとままならない世界だよなぁ」


「だからあーしの知り合いを回って、オマケに稼がせてもらおうかなって。……怒った?」

「まさかまさか、我が侭はギャルの特権だからな。特にデート中はどんどん我が侭を言っていいんだぞ。それに、街の売り上げに貢献しようとする地元愛にも共感できる。俺も出張の際にはお土産を買って、なるべく地域にお金を落とすようにしていたからな。でも、屋台はともかく、花売り幼女巡りは勘弁してもらいたいのだが……」


「どーして? オジサン、小さな女の子が好きなんでしょ?」

「少女は全人類が命に替えても守るべき国の宝だからな。それはともかく、娼婦のおねーちゃんとの同伴中に、花売り幼女から純粋な瞳でお礼を言われると、罪悪感やら背徳感やら達成感が込み上げてきて非常に複雑なんだよ」


「へー、オジサン、見かけによらず繊細なんだね」

「そうそう、オジサンって生き物はとても繊細なんだ。だから、大切に扱ってくれよ」


「それはオジサンに買われたあーしの台詞だってーの」

「ははっ、違いない」


 年は三倍近くも離れ、見た目も中身も正反対だが、不思議と会話は盛り上がっていた。

 緑髪の男は、若い娼婦を買うのに慣れているためか、身分が違うはずの小娘にも同じ目線で話し掛けてくる。

 気色悪い大げさな言動も、もしかして場を和ませるための演技なのかもしれない。

 だとしたら、花売りの幼女を異常に愛でようとするのも、不器用なコミュニケーションの手段だろうか。   

 幼女だけでなく、買いすぎて余った飯は腹を空かせた少年にも与えていたし。

 顔はものすごく嫌そうだったけど。

 子供を守るべき相手だと認識している大人は、好き。

 というか、子供や老人に優しくできない奴なんて論外。

 その点、緑髪の男は接し方に問題あるが、少なくとも弱者を踏みにじる側の人間ではなさそうだ。


「名所が少ないのは仕方ないけど、まだ回っていない地域があるようだが?」

「あっち側は行っちゃダメだよ。あーしや花売りの子やゴロツキが住んでる所だからね」


「貧困層が端っこに寄せられているのか。表通りを見るとけっこう裕福な街なのに、臭い物に蓋をってヤツだな」

「お金持ちがいっぱいだと、その何倍も貧乏人がいっぱいになるからね」


「不平等な社会構造は、この世界でも健在か。いや、貴族社会だからこそ、か。棚ぼたで成金やってる俺が言うのもなんだが、ほんと世知辛い」

「あっち側は何も無いし危険だから、こっち側でいっぱいお金使ってね」


「ふむ、それは今後のサービス次第だな」

「それは任せて!」


 小生意気な小娘への好待遇。

 だがそれも、金で女を買う男の見栄っ張りに過ぎない。

 気前が良く、子供に優しいが、結局はただのスケベオヤジ。


 彼女にとって、緑髪の男は、その程度の認識であった。



 そう、この時までは、まだ――――。


▼あとがき

コミック版の第3話が本日から配信開始です。

内容は「旅路の姉弟編」の後半です。

よろしければ是非ご覧くださいね!

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― 新着の感想 ―
[一言] そうですね オタに優しいギャルは現実世界ではなく 異世界にいるのですね。 連休初日の高揚感と 連休最終日の喪失感 同じ比率じゃないんだよなあ
[良い点] まさか この作品でギャルに出逢えるとはっっ!! [気になる点] なんか、読者たち このオジサンに似てきてね? あ、作者はもちろんのこと似てるよ
[一言] ずっとずっと更新待ってました!! ギャルが出てくるなんて、楽しみです!!
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