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とどめの一撃

 ぱちぱちぱちぱち。

 拍手をしながら突然乱入してきた身なりのいい老婦人は、柔らかい笑みを浮かべてカルセドニアが嬉しそうに寄り添う辰巳へとその視線を向けた。

「突然ごめんなさいね。でも、いい台詞だったわ。実際に貴族を前にして、なかなかあそこまで言えるものではないわよ?」

 改めて言われて、辰巳も自分の言ったことの大きさを自覚する。

 確かに怒りとその場の勢いに流された部分は大いにあるが、それでも「国が相手でも自分の想いを貫く」とはさすがに大きく出過ぎた、と顔を赤くした。

「ちょ、ちょっと言い過ぎたかもしれませんが……そ、それでも、俺は彼女を手放すつもりはありません。そこだけは事実です」

「ご、ご主人様……」

 うっとりと。それでいて幸せ満面といった様子のカルセドニア。きっと今の彼女には周囲は見えていないのだろう。老婦人──エリーシア・クワロート前公爵夫人はそんなカルセドニアを見て、呆れたような表情を浮かべた。

「あらまあ。あのカルセをここまで骨抜きにするなんて。やっぱり、あなたは相当手管に優れた女ったらしみたいねぇ」

「え? えええええええっ!? お、俺が女ったらしっ!? そ、そんなことないですよっ!! お、俺、親しくしている女の人ってチーコしかいませんからっ!!」

「ちーこ?」

「あ、あの……チーコっていうのはカルセの以前の名前……じゃなくて、そ、その……な、なんて言ったらいいのか……と、ところで、失礼ですがどちら様ですか……?」

 カルセドニアをチーコと呼ぶ理由が上手く説明できずに、思わずあたふたとする辰巳。それでいて、辰巳は目の前の老婦人が誰なのか、ようやくその点が気になった。

 その老婦人はと言えば、あたふたする辰巳が余程おもしろかったのか、手で口元を隠しながらくすくすと声を零しながら笑っていた。

「あら、これは名乗りもせずに失礼したわ。私、エリーシアと申します。ジュゼッペやカルセとは古い付き合いなの。これからよろしくね」

「あ、はい、俺はタツミ・ヤマガタと言います。そうですか、ジュセッペさんやチー……じゃない、カルセの知り合いの方ですか。それで、エリーシアさんはどうしてこの場に?」

 エリーシアに問いつつも、辰巳の視線はカルセドニアやジュゼッペに向けられている。

 今日のこの場は余人を招くような場所ではない。だが、ジュゼッペやカルセドニアの知り合いならば、何らかの理由があってジュゼッペかカルセドニアに呼ばれたのだろう。

 きょろきょろと何度もジュゼッペとエリーシアを見比べる辰巳を、再びエリーシアがおもしろそうに笑う。

「うふふふふふふ。本当、ジュゼッペの言った通りね。実際にこうして会ってみれば、あなたという人がどんな人物なのか、よぉく分かったわ」

「は、はあ……?」

 エリーシアの言っている意味がよく分からず、辰巳は首を傾げる。

「実はのぅ、婿殿や。今回の件にはエリーシアにも助力してもらったんじゃ。この女狐のところには腕のいい密偵がおるからの」

「あら、どこかの古狸が泣いて頼むから、仕方なく力を貸してあげたのよ?」

 口では辛辣なことを言いつつも、楽しそうな雰囲気のジュゼッペとエリーシア。辰巳はこの二人がとても親しいことをすぐに理解した。




「く、クワロート前公爵夫人っ!!」

 それまで口を利くことも忘れて、目の前の光景を眺めていたガルガードン母子。

 辰巳の「国が相手でも自分の想いを貫く」宣言に驚き、突然の大物の登場に驚き、そして、その大物と辰巳が実に親しそうに会話しているのを見て更に驚いた。

 だが、ようやく我に返ったシエナクァリアは、大慌てでその大物──エリーシアの傍らまで近寄るとその場でひれ伏した。

「大奥様もお聞きになられましたでしょうっ!? この者は不遜にも貴族である私たちに……いえ、ラルゴフィーリ王国そのものに弓引く愚か者! しかも、私の可愛い息子を縛り上げるなど、乱暴狼藉は数知れず! 何卒、大奥様のお力でこの愚か者に罰をお与えくださいっ!!」

「そ、そうでございます! この者は私の妻となるはずのカルセドニアを脅して様々なことを強要し、あまつさえ自分の妻にしようとする不届者! 大奥様はカルセドニアとも親しいとお聞きしております。ここはカルセドニアのためにも、この者をただちにお裁きくださいっ!!」

 縄で縛られたままの姿で、ラーライクも母親に倣ってエリーシアの足元に這い蹲った。

 そんなガルガードン母子を、冷たく見下ろすエリーシア。一方、辰巳はエリーシアが公爵という貴族の中でも最高位に近い存在だと知り、目を白黒とさせていた。

「カルセドニアを脅す……ね。本当かしら?」

 ちらりとエリーシアが辰巳を見る。その視線には強い力のようなものが含まれており、辰巳は首をぶんぶんと振りながら思わず数歩後ずさる。

 だが、そんな辰巳を庇うように、カルセドニアが笑顔のままエリーシアの前に立った。

「大奥様には以前にもお話し致しましたように、私は私の意志でご主人様……タツミ様を愛しております。決して脅されてなどおりませんわ。それどころか、今の私は本当に幸せです。タツミ様があそこまではっきりとおっしゃってくださったのですから」

 先程の辰巳の「国が相手でも自分の想いを貫く」宣言を思い出したのか、カルセドニアは見る者までもが心暖かくなるような極上の笑みを浮かべた。

「ええ。私もタツミがあなたを脅しているなど思っていないわ。もしもあなたを騙そうとしていたり、脅していたとしたら、あそこまで大きなことは言えないものね。ところで────」

 孫娘にも等しい愛しい娘の成長と幸せを喜び、目を細めていたエリーシア。そのエリーシアの視線が再び鋭いものを宿らせて、足元に這い蹲る二人を見下ろした。

「脅していたのは……いえ、脅そうとしていたのはどちらからしら?」

 じろり、と厳しい視線がラーライクを射抜く。

「な、なんのことでございましょうか……? わ、私はこれまでの人生で、他人を脅したようなことは一度とてなく……」

「あら、そうなの? ところでラーライク……だったかしら? あなた、これが何かお分かり?」

 そう言いながらエリーシアが取り出したのは、大人の握り拳程度の大きさの水晶だった。

 混ざり物のない無色透明な真球の水晶が、エリーシアの掌の上できらきらと輝いている。

「そ、それはもしや……『姿写しの水晶』では……?」

「そう、その通り。これはどこかの古狸の収蔵品の一つなのだけれど……これにおもしろいものが映っているのよ。見てみない?」

 エリーシアが姿写しの水晶と呼ばれるものに手を翳し、何やらキーワードのようなものを唱える。

 すると、その水晶の表面に何やら画像のようなものが浮かび、同時に声も聞こえてきた。

 この姿写しの水晶という魔封具は、映像と音声を記録して好きな時に再生できる、言わばビデオカメラのような機能を有する魔封具なのだ。

〈────まだ、タツミとかいう若い神官を痛めつけることができないのかっ!? 俺の主である方もお怒りなのだ。このままでは、俺もおまえたちもどうなるか────〉

 映し出された映像は、タツミを脅そうとしていたゴロツキたちとどこかの裕福な家の家人と思しき人物とが、何やら物騒な会話をしている場面だった。

 場所は場末の酒場のようで、周囲には喧騒が満ちていた。その中でこれだけはっきりと会話まで録音したということは、余程近くからこの魔封具を使用したのだろう。

 やがて映像は切り替わり、次に映し出されたのは豪華な調度品などが無惨にも破壊され尽くした部屋で、二人の男が何やら会話をしている場面だった。

 どうやら天井裏から撮影したらしく、やや斜め上からの俯瞰映像だ。それでも、部屋の中にいる男の一人が、先程のどこかの家人らしき男だとはっきりと分かる。

 そしてもう一人の男こそ、この場にいるラーライク・ガルガードンに間違いなかった。

〈おのれっ!! まだそのタツミとかいう神官の弱みは掴めないのかっ!? 雇った男たちは、いつになったらタツミとやらを痛めつけることができるのだっ!?〉

〈は、はい……どうやら逃げ足だけは物凄く速いようで、雇った男たちがどれだけ周囲を囲っても、するりと抜け出してしまうらしく……〉

〈言い訳は聞き飽きた! それよりも早く成果を出せ! さもないと……〉

 映像の中のラーライクが、目を細めて配下らしき家人へと言い放つ。

〈我がガルガードン家の力を以てすれば、貴様程度の人間など、どのようにも始末できるのだぞ?〉

〈しょ、承知しました、ラーライク様……っ!! 直ちにタツミという男を痛めつけさせます……っ!!〉

 そこでエリーシアが映像を停止させた。

 これまで辰巳がゴロツキたちから逃げ回っていたのは、エリーシアの配下の密偵がジュゼッペから借り受けた魔封具にこの映像を記録し、ラーライクのしたことの動かぬ証拠とするための時間稼ぎだったのだ。

「確かあなた……先程は『これまでの人生で他人を脅したようなことは一度もない』とか言っていたけど……私の聞き間違いだったかしら?」

「し、知りませんっ!! このような映像には心当たりはありませんっ!!」

「そ、そうですっ!! きっとこれはそこにいるタツミという卑劣な男が、私のラーラちゃんを陥れるために捏造したに違いありませんわっ!!」

「いい加減にせんかい、お主ら。魔封具に手を加えることは、その道の専門家でもなければ極めて難しいことは知っておろうが。そもそも、その魔封具に映っておったゴロツキどもはこの神殿の神官戦士たちが既に捕えておる。なんせそのゴロツキどもは、我が神殿の神官に乱暴しようとしたのだからの。神殿とその信徒を守るのは神官戦士の務めゆえ、我が神殿の神官戦士たちがしたことは至極当然のことじゃ。さて、あのゴロツキどもからどのような話が聞けるか楽しみじゃのぉ」

「あなたたち、自分たちが一体何を仕出かしたのか……本気で理解していないみたいね」

 呆れたような溜め息を吐きつつ、エリーシアが零した。




「王国と神殿は共に持ちつ持たれつ。あなたたちがしたことは、その両者の信頼関係を壊しかねないのよ。それが分かっていないようね」

 神殿は王国に属する組織ではないため、王国は神殿に対していかなる命令権も持たない。

 神殿もまた、王国の運営にはいかなる関与もしない。

 建前的な部分は多々あるとはいえ、それが両者の立場である。しかし、両者の間には当然ながら深い結びつきがある。

 神殿は国に属さないとはいえ、まったく庇護を受けていない訳ではないし、多くの国民にとって、神への信仰は精神的な支えである。

 王国と神殿の両者の間に深い亀裂が入れば、それは民たちの国に対する不安という形で現れてくる。

 仮に王国が神殿を怒らせてしまえば、神殿はその門戸を閉ざしてしまうだろう。そしてそれは、単に民たちが祈りの場を奪われるというだけでは終わらないのだ。

 神殿は祈りの場だけではなく、医療施設やその他の訓練施設としても機能している。

 怪我人や病人の看護や治療、神殿によっては身を守る技術や、算術などのちょっとした学問を教えている所もある。

 もしも神殿が門戸を閉ざしてしまえば、民たちはそれらを受けられなくなってしまうのだ。

 そうなると、当然民たちの怒りは王国へと向けられるだろう。民の信頼を失った国の行き先など、明るいものであるはずがない。

 それゆえ、国と神殿は互いに良好な関係を築くように努力している。

「あなたたちのしたことは、その両者の努力を踏み躙るに等しいもの。もしもそこの古狸……いえ、最高司祭様を本気で怒らせてみなさい。神殿と国の関係は悪化し、当然国はその責任をあなたたちに求めるでしょう。そうなれば……どうなるか分かるわよね?」

 言外に伯爵家の消滅を臭わせるエリーシア。

 ここに至り、ガルガードン母子は自分たちが進退窮まったことをようやく理解したのだった。




「王国と神殿との間に深い亀裂を入れかねないあなたたちの行為は、本来ならば国の法によって裁かれるべきでしょう。だけど、これ以上騒ぎを大きくしたくないの」

 ラルゴフィーリ王国において、現在のガルガードン伯爵領で生産される各種の金属製品は、極めて重要な要素となっている。

 自国の軍への武具の供給だけでなく、ガルガードン産の金属製品は特産品として国外にも輸出されている。

 ここまでその産業を大きくした現ガルガードン伯爵の手腕は大いに認められており、簡単にガルガードン家を取り潰すわけにはいかない。

 仮にガルガードン家を取り潰し、伯爵領を王家の直轄地に組み込んだとしても、今後同じようにガルガードンの産業を発展させていける保証はない。

 それほど、現当主の手腕は優れており、おいそれとそれを失うわけにはいかないのだ。

「よって、あなたたちの処遇は伯爵家のご当主である、アルモンド・ガルガードンに一切任せます。いいですね?」

 エリーシアが開け放たれたままだった扉へと声をかければ、そこから一人の中年の紳士が姿を見せた。

 おそらく、この人物がラーライクの父であるアルモンド・ガルガードンなのだろう、と辰巳は推測する。

「御意にございます、大奥様。この者たちは私が責任を持って処罰いたします。大奥様の寛大な処置、心より感謝致します」

 エリーシアに向かって大きく頭を下げるアルモンド。彼はジュゼッペに向き直ると、もう一度深々と頭を下げた。

「クリソプレーズ猊下にも、今回は誠にご迷惑を……もはや、なんと言ってお詫びすればいいのか見当もつきません」

「儂も詫びなど求めておらん。その代わり、しっかりとそやつらを処罰せい。くれぐれも、肉親の情などで流されるでないぞ?」

「はっ!! これ以上、猊下やカルセドニア様、そしてその婚約者殿には不愉快な思いをさせないと誓います」

「ですが、今回の件は国王陛下のお耳にだけは入れておきます。そして陛下より何らかの沙汰があった場合は、それを甘んじて受けなさい。いいですね?」

「承知致しました、大奥様」

「さて、伯爵よ。こやつら、お主はどう裁く?」

 いつもの好々爺とした雰囲気ではなく、サヴァイヴ教団の最高司祭としての威厳を纏ったジュゼッペが、アルモンドに問う。

 アルモンドもまた、理解していた。ここで妻や息子に情けなどかけようならば、本当にガルガードン家は滅亡するに違いないことを。

 アルモンドはこの時になって、いまだに床に這い蹲っている妻と息子へと初めて目を向けた。

「あ、あなた……お、お願い……た、助けて……」

「お、お父様……お願いします……何卒、何卒お慈悲を……」

 シエナクァリアもラーライクも、自分たちが窮地に陥っていることを悟り、一縷の望みをかけて夫であり父親であるアルモンドに縋る。

 だが、アルモンドが二人を見る目は、既にこれ以上ないほど冷えきっていた。

「シエナクァリアよ。おまえには離縁を申しつける。おまえの実家には、大奥様の方から話をつけていただけるそうだ。おそらく、おまえの実家もおまえが戻ることを受け入れはしないだろう」

 冷たく言い放たれた言葉に、シエナクァリアが息を飲む。そんな妻──既に元妻か──を無視して、アルモンドは息子へと宣告を下す。

「ラーライク。貴様を廃嫡し、今日限り当家より勘当する。今後はお前とは父でも子でもない。どこへなりとも好きな所へ行くがいい」

「そ、そんな……お父様はお母様と私に野垂れ死ねとおっしゃるのですかっ!?」

「そ、そうよっ!! 一人息子であるラーラちゃんを勘当して、ガルガードン家の跡継ぎはどうするのっ!?」

 厳しすぎるアルモンドの決断──少なくとも二人にはそう感じた──に、シエナクァリアとラーライクが騒ぎ立てる。だが、アルモンドはそれに耳を貸す素振りを見せない。

「あら、伯爵家の跡継ぎなら心配無用よ。私が責任を持って立派な若者を養子として紹介してあげるわ」

「なぁに、そこの馬鹿息子に比べれば、誰だって立派に思えるじゃろうがのぅ」

 狸と狐が聞こえよがしにそう言う。そんな二人の辛辣な様子に、辰巳は若干引いていた。

 そんな辰巳へ、エリーシアが意味有りげな視線を向けた。

「あら、そう言えば丁度いいところに将来有望そうな若者がいたわね。どう、ガルガードン伯爵。いっそのこと、このタツミという若者をあなたの跡継ぎにしてみない?」

「え、ええええええっ!? や、やめてくださいっ!! お、俺、貴族なんて柄じゃないですからっ!! 根っからの庶民ですからっ!! 貴族の跡継ぎなんて絶対に無理ですっ!! 務まりませんっ!!」

 辰巳は慌ててぶんぶんと勢いよく手と頭を振る。そんな彼の様子がおかしかったのか、ジュゼッペとエリーシア、そしてカルセドニアが笑い声を上げた。

 よく見れば、アルモンドが真剣な表情で辰巳を見つめていた。もしかすると、本気で彼を跡継ぎにとでも考えているのかもしれない。




 ガルガードン母子の起こした騒ぎから数日後。

 辰巳はカルセドニアと共に、ジュゼッペの執務室に呼ばれた。

 どうやら先日の騒ぎに一応の決着が着いたらしく、顛末を教えてくれるそうだ。

「それでどうなったんですか?」

 ジュゼッペの執務室に到着し、彼に進められて椅子に腰を落ち着けてから、辰巳はあれからのことを尋ねた。

「うむ。ガルガードン家には重いお咎めはなかったようじゃの。ただし、数年は余分に税を課せられることになったそうじゃ」

 貴族の家を取り潰すことは、決して簡単ではない。

 それまでその貴族に仕えていた者たちも路頭に迷うことになるし、その領地の運営も上手く継続できるとは限らないからだ。

「では、あの母子はどうなりましたか?」

 カルセドニアの問いにも、ジュゼッペは淡々とその結果を告げる。

「離縁し、勘当されたあの二人じゃが……結局、行く宛てもないので、ガルガードン伯爵が領地内に小さな家と畑を与えて、そこに住まわすことにしたそうじゃよ。もちろん、貴族ではなく平民としてじゃ」

「それであの二人が上手くやっていけるんですかね?」

「さぁて、そこまでは知らんわい。家と畑を与えるだけでも伯爵の恩情じゃしの。これで心を入れ替えて生きていくなら良し、そうでなければこのまま野垂れ死ぬしかない。それはこれからのあやつら次第じゃて」

 離縁され勘当されたシエナクァリアとラーライクが、このまま野垂れ死のうともガルガードン家にはもはや関係ないのだ。それを家と畑を与えたのは、かつての家族に対する彼の最後の恩情に違いない。

 辰巳が心の中で今回の件に結末をつけていた時、不意にジュゼッペから声をかけられた。

「のう、婿殿や。今回のような騒ぎがもうないとは限らん。そこでどうじゃろう? ここらでお主とカルセの立場を世間的にもはっきりとさせようと考えているのじゃが……お主はどう思う?」


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