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連続撃破

 今年もよろしくお願いします。


 カルセドニアとモルガーナイクの連携によって、鎧竜の一体を倒すことに成功した。

 特に言葉にすることもなく、咄嗟にあれだけの連携を見せた二人に、辰巳は素直に感嘆する。

 とはいえ、自分の最愛の妻が自分以外の男性と息の合った連携を見せたことに、嫉妬を感じないと言えば嘘になる。

 だが、それは些細な問題だ。

 今は無理でも、将来的にあのレベルに到達すればいいだけの話なのだから。

 横目で仲間たちの様子を確認しつつ、辰巳は『アマリリス』を操る。

 鎧竜の体に刺さっている(アンカー)を一端引き抜き、改めて魔獣の体に突き刺す。

 新たに突き刺さった場所は、魔獣の頭部。

 内部から破壊するならば、頭を潰すのが常道だろう。そう判断した辰巳は、朱金の鎖を通じて鎧竜の頭部に再度魔力を流し込む。

 流し込まれた魔力は鎧竜の体内で次々に爆発していく。それは飛竜さえも倒した辰巳の《魔力撃》だ。

 外素を吸収し己の魔力へと変換できる辰巳は、実質上無尽蔵な魔力をどんどん鎧竜の体内へと流し込む。

 流し込まれた魔力は、魔獣の体内を蹂躙する。体を内側から破壊される苦痛に大きく体を動かしていた鎧竜。だが、その動きが唐突に停止し、横倒しに倒れ込む。

 同時に、どんという破裂音と共に魔獣の頭部が弾け飛ぶ。

 それは辰巳の《魔力撃》が、鎧竜の頭を内側から破壊し尽くした瞬間だった。




「あちらの一体は俺が引き受ける。カルセはジャドックたちの援護を」

「分かったわ」

 素早く言葉を交わし、モルガーナイクとカルセドニアは再び別行動を取る。

 眼前に迫った鎧竜へと剣の切っ先を突きつけながら、モルガーナイクは遠ざかっていくカルセドニアの足音を背中で聞く。

 愛用の大槍は先程倒した鎧竜の体に突き刺さったままだ。そのため、今は回収している暇がない。

 しかも、大槍はカルセドニアの〈雷〉の魔法をまともに浴びている。もしかすると、柄が損傷しているかもしれない。

 だが、飛竜の素材を用いた穂先は無事のはずだ。後から穂先だけ回収できれば、柄を取り換えることは難しくはない。

 とはいえ、今回の戦闘中に大槍を使うことは諦めた方がいいだろう。

 主武器である大槍を失ったのは痛手だが、それでもまだ、モルガーナイクの手の中には剣がある。魔力だってまだまだ余裕がある。

 鎧竜を相手にしてもまだまだ戦うことはできる。そう確信しつつ、モルガーナイクは剣先をぴたりと鎧竜につきつけたまま、魔獣に向かって駆け出した。




 ジャドックがぶっ刺し斧を振り下ろす度、鎧竜の甲殻に穿たれた孔が徐々に広がっていく。

「もう一丁、いくわよン!」

 威勢のいい声を張り上げながら、ジャドックは渾身の力を込めてぶっ刺し斧を振り下ろした。

 ぶっ刺し斧の先端が魔獣の甲殻に突き刺さり、周囲に破片を飛び散らせる。

 だが、ジャドックが必死に開け広げた孔も、魔獣の巨体に比べれば人間が蚊に刺されたようなものでしかない。

 それでも自らの背中に陣取る小さな存在が気になるのか、鎧竜はその体を大きく仰け反らせた。

 鎧竜が体を仰け反らせたことで、唐突に「床」が「壁」へと変化する。ジャドックは振り落とされないように、鎧竜の外殻の突起を掴んでいる二本の腕に更に力を込める。

 とはいえ、さすがのジャドックもこの状態では攻撃できない。しかし、体を仰け反らせた鎧竜の腹の下にミルイルが素早く駆け込む。

 確かに鎧竜の甲殻は頑強だ。しかし、甲殻に守られていない腹側ならば、非力なミルイルでも打撃を与えることができる。

 灰褐色の甲殻よりも更に白い魔獣の腹。そこにミルイルは力一杯槍を突き刺した。

 繰り出された槍の穂先は、魔獣の腹を見事に穿つ。周囲に鎧竜の体液と血液が飛び散り、それはミルイルの鎧や衣服、そして髪や顔をも汚す。

 しかし、ミルイルは自身がどれだけ汚れようが、全く気にすることもなく槍を魔獣から引き抜き、そして再度……いや、連続で繰り出した。

 ミルイルの連続した刺突が、鎧竜の腹に幾つも孔を穿っていく。

「ミルイルさんっ!! 離れてっ!!」

 そして背後から聞こえた声に、ミルイルは咄嗟に大きく横へと飛ぶ。彼女が移動した呼吸一つ分の後、魔獣の腹を紫電が貫いた。

 ミルイルが背後を振り返れば、そこにいるのは思った通りにカルセドニアだった。

 《聖女》は既に更なる詠唱を行っており、詠唱の完了と共に手にした拗くれた杖をぴたりと鎧竜に突きつける。

 だが、その杖から電撃が迸ることはなかった。その代わり、鎧竜の周囲の木々がざわざわとざわめき、ぎちぎちと音を立ててその枝を魔獣へと伸ばしていく。

 周囲の木々から伸びた枝が、鎧竜の体を絡め取ろうとする。

 カルセドニアが使用した魔法は、〈樹〉系統の《樹草束縛》。一本、二本の枝では鎧竜の巨体を縛りつけることはできなくても、枝の数が三十本、四十本となれば話は違ってくる。

 ここは森の中であり、樹木には事欠かない。周囲の木々から次々と枝が伸ばされ、遂には魔獣の巨体を絡め取ってしまった。

 しかも、体を仰け反らせていた状態で絡め取られたため、弱点である腹部を晒したままだ。この時点で、魔獣の運命は決まったと言えるだろう。

 魔獣を絡めている枝を伝い、ジャドックは身軽に魔獣の背中から地面へと降り立つ。そして笑顔を浮かべてカルセドニアの元へと近寄ってきた。

「あれだけ大きな魔獣を縛り付けちゃうなんて、さすがはカルセちゃんね。ところでちょっと質問があるんだけど」

「なんですか?」

「カルセちゃんって、タツミちゃんみたいに空を飛ぶ魔法って使える?」

「空を飛ぶ魔法……ですか? さすがに旦那様のように自在に空を舞う魔法はありませんが、似たような魔法ならありますよ」

 カルセドニアのその言葉を聞き、ジャドックはその笑みを更に深めた。




 ジャドックは軽快に駆け抜ける。

 しかし、今の彼が踏み締めているのは地面ではない。

 鍛え抜かれたその身体が存在するのは、本来ならば支えるものの何もない空中。しかし、今の彼の足は、何もない空をしっかりと踏み締めていた。

 カルセドニアがジャドックに使用したのは、〈風〉系統《空中歩行》。その名の通り、何もない空中を歩けるようになる魔法である。

 辰巳の《飛翔》のように高速で空を飛ぶわけではなく、ただ空中を地面と同じように歩くことができる魔法。しかし、今はそれで十分だ。

 ジャドックは透明な階段を駆け上がるように、どんどん空を登っていく。そして彼が辿り着いたのは、大きく体を仰け反らせた状態で固定された、鎧竜の頭部だった。

「背中に孔を開けたぐらいじゃ、大した打撃にはならないでしょうけど……」

 何もない空中をしっかりと踏み締め、ジャドックはぶっ刺し斧と二振りの戦棍(メイス)を四本の腕でしっかりと構える。

「……脳天に孔を開けられたら、さすがの鎧竜も唯では済まないわよねぇ?」

 不敵な笑みを口元に刻みながら、ジャドックはぶっ刺し斧を頭部目がけて渾身の力を込めて振り下ろし、二振りの戦棍で同じく頭部を乱打する。

 硬質な打撃音が幾つも響くと共に、鎧竜の頭部の甲殻が無数に飛び散る。

 同時に、地面では柔らかい腹部にミルイルの槍とカルセドニアの魔法が、魔獣の生命力を徐々にだが奪っていく。

 身動き取れない体に無数の打撃を受け、鎧竜の強靭な生命力も少しずつ削られていく。

 そして遂に、一際大きな打撃音と共に、頭部の甲殻が大きく破損した。

「これで……どうっ!?」

 ここぞとばかりにぶっ刺し斧を大きく振りかぶり、ジャドックは全身の膂力とバネで以て破損した魔獣の頭部へと振り下ろした。

 鋭いぶっ刺し斧の切っ先が、頭部の甲殻を突き抜けてその内部へと到達する。

 とはいえ、魔獣の巨体に比してジャドックのぶっ刺し斧はやっぱり小さい。例え頭の内部へその切っ先が抜けても、一撃では致命傷には至らない。

 それを承知しているジャドックは、何度も何度もぶっ刺し斧を鎧竜の頭部へと振り下ろす。

 周囲に硬質な打撃音が何度も響き渡り、その音は巨大な鎧竜が活動を完全に停止するまで響き続けた。




「逃げろっ!!」

 遂に鎧竜の一体を倒してほっと安堵の息を吐く暇もなく、背後からミーラの鋭い声が飛んだ。

 カルセドニアとミルイルは、反射的に背後へと振り返る。

 樹上にいるミーラが、指先で自分の左側を指し示しつつ、大声で再び叫ぶ。

「早く逃げろっ!! デカブツが動いたっ!!」

 二人はミーラの指差す方へと顔を動かし、次いでその両目を大きく見開いた。

 なぜならば、巨大な球体が地鳴りをあげて転がり、高速で二人のいる方へと迫ってきていたのだ。

 球体の正体に思いを巡らせるより早く、カルセドニアとミルイルは球体から逃げるように走り出す。

 こういう時、人はなぜか迫る球体から遠ざかるように逃げるものだ。冷静に考えると横に逃げればいいのだが、咄嗟にそこまで考えが及ばないのだろう。

 しかし、球体の転がる速度は二人が走るよりも速い。球体と二人の差は見る間に小さくなっていき、遂にその差はゼロになる。

 走る二人の上を、球体が轟音と共に高速で通りすぎていく。

 球体は二人の上を通過し、周囲の木々をなぎ倒してようやく停止する。停止した球体はしばらく動かなかったが、やがてびくりと大きく震えて球体が割れる。

 そして割れた球体は、見覚えのある姿へと変化した。




「……やっぱり、鎧竜ってダンゴムシじゃないのか……?」

 困惑したような、それでいて呆れたような複雑な表情で、辰巳はそう呟いた。

 今、彼はその両脇に二人の女性を抱えた状態で宙に浮いている。もちろん、辰巳が抱えているのはカルセドニアとミルイルである。

 巨大な球体──ダンゴムシのように体を丸めた鎧竜──が二人を轢き潰す直前、《瞬間転移》で二人の元へ移動し、そのまま再び上空へと転移してカルセドニアとミルイルと救出したのだ。

「カルセ、鎧竜ってあのように体を丸めて転がるものなのか?」

「い、いえ……鎧竜にあのようなことができるなんて、聞いたこともありません」

「もしかすると、あれが変異体としての能力なのかもしれないな」

 一際巨大な鎧竜は、やはり変異体なのだろう。巨大な鎧竜とはまだまだ距離があったため安心していたが、あのような高速移動手段があったとは。

「申し訳ありません。完全に油断していました」

「助けてくれてありがとう、タツミ。お陰で命拾いしたわ」

 辰巳に小脇に抱えられたまま、カルセドニアとミルイルが辰巳に礼を言う。

 二人の頬が若干赤いのは、少々情けない姿で辰巳に抱えられているからだろうか。

「二人とも大丈夫っ? 怪我はないっ!?」

 三人の元へ、焦った表情のジャドックが宙を駆けて近付いてくる。

 辰巳に抱えられた二人が笑顔を向ければ、ジャドックは安堵の息を吐き出した。

「二人が轢き潰されたんじゃないかって心配したわ」

「心配させてごめんね、ジャドック。それより、そろそろ下ろしてくれないかしら?」

 いつまでも辰巳に抱えられた状態ではいられない。ミルイルの言葉に頷いた辰巳は、ゆっくりと大地へと降下する。

 そして地面に降り立ち、抱えていた二人を解放した。

「ジャドック、ミルイル。二人はモルガーさんの援護を。モルガーさんなら援護なんて不要かもしれないが、少しでも早く最後の標準体を倒して全員で変異体に当たろう」

 辰巳の指示にジャドックとミルイルは力強く頷き、そして駆け出す。もちろん、行き先は最後の標準体と戦っているモルガーナイクの元だ。

「カルセ。みんなが標準体を倒すまで、二人で変異体の相手をするぞ」

「はい、旦那様。もう油断はしません」

 二人は互いに見つめ合う。

 黒が紅を映し、紅の中に黒が輝く。

 見つめ合う四つの瞳には、信頼と愛情そして決意の光が宿っている。この光がある限り自分たちに敗北はないと、辰巳とカルセドニアは互いに悟る。

 辰巳とカルセドニアは、黒と紅の瞳を確固たる戦意と共に巨大な鎧竜へと向けた。


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