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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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86話 「隠し通路」

「えーっと……手紙の裏に刻まれている印を同じ印が刻まれた柱の壁に押し当てたらいいみたいです」


「手紙の裏の印? んー……お、あった。これじゃないか? 」


「あ、それですそれです。ここに手紙を押し当てたら……」


 フーは、組合から渡された手紙に書かれた指示に従って、手紙の裏にある印を噴水の中心にある柱の壁に刻まれた同じ印に重ねるように押し当てた。


 すると、一瞬紋章が光ると壁がぐにゃりと歪んで穴が開き、人一人が入れるほどの広さまで開いた。


「「「おぉー……」」」


 見ていたユリ達から静かなどよめきが起こる。


「資格がない者には間違っても開かれないように細工されてるのか。道理で誰も知らないわけだ」


 どこか納得した表情でリンが興味深そうに穴を覗く。


「未知のエリアってワクワクするねっ! 」


 ランは、期待に胸を膨らませてうずうずとしていた。


「ですね。情報が一切ないエリアは不安ですが、その分ワクワクしますね」


 ランに賛同するようにアルも頷く。

 初見のモンスターとの戦闘は、死に直結するアルの場合、未知のエリアというのは完全な初見のモンスターと遭遇する危険があり、誰よりもハイリスクでもあった。


 ただ、それでもアルは未知という言葉にランのようにワクワクを感じていた。





「それじゃあ、あたしが先に入るな」


 そう言って、最初に穴の中に入ったのはリンだった。


 穴の中には下に続く階段があり、周りの壁は石のブロックで出来ていた。

 壁や階段には緑色の苔が生えていた。その苔は薄らと発光して、暗闇に包まれた穴の中を僅かに照らしていた。



 しかし、それだけでは、暗闇の中でも視える【暗視】といった便利なスキルを持ってないリンには暗い。


「《灯火(ともしび)》」


 リンは、光源に【初級火魔法】で覚える《灯火(ともしび)》を使って視界を確保してから中に入った。


「ちょっと寒いな」


 穴の中は、ひんやりと冷えていた。中に入ったリンは、ぶるっと体を震わせた。意味はないと知りつつも、ついつい体を擦りながらリンはマップを確認して、周囲を警戒する。


 【索敵】持ちのリンのマップには、自分を中心に半径数十メートルの範囲のプレイヤーを含む生物の存在がアイコンとして表示されるようになっていた。



「んー…大丈夫そうだな。――入ってきても大丈夫だぞ」


 しばらく、マップと睨めっこしていたリンが問題ないと判断して、外から様子を伺う5人を手招きした。



 入り口は人一人が、やっと通れるほどの広さしかない為、一人ずつ順番に入ってきた。リンが手招きをして最初に入ってきたのはランだった。


 入ってきたランは気持ちが高揚しているようでやや落ち着きがなく、そわそわとしていた。大剣の柄をずっと握っている姿は、戦いたくてうずずしているように見えた。


 なお、狭いこの空間では大剣を2本振り回せる空間的余裕がないので、ランは大剣の一本を片手に持って、もう一本は背中に差していた。


 続いて、右肩にクリスを乗せて入ってきたユリは、壁や階段に生えた光る苔に気付くなり、おおっと目を輝かせた。そして、早速、手近な苔から採取をし始めた。


 次に入ってきたアルは、重く動きにくい全身鎧を着ているので、足元の苔やぬめりに足を取られることを警戒して壁に手を当てながら、おそるおそるといった様子で入ってきた。


 その後から入ってきたフーは、通路のひんやりとした空気に体を震わせると、アイテムボックスから茶色のローブを出して身に纏った。手には、油を染み込ませた布が巻かれた木の棒、松明を持っていた。


 そして、最後に片手に小刀を持ち、もう一方の手で手紙を握ったシオンが周囲を警戒しながら中に入ってきた。


 シオンが入ると、穴は少しの間を置いて閉じた。

 外から入ってきていた光が遮断され、辺りの闇がより一層濃くなった。


「光源がひとつだけでは心もとないので、明かりをつけますね」


 アルがアイテムボックスからランタンを出して灯りをつけた。フーもリンの火の玉に松明の先端を当てて火をつけた。


 6人の周囲が明るくなった。


「順番は、このままでいいのか? 」


「ん、このまま」


 リンがシオンに尋ねるとシオンは、すぐに頷いた。


「了解」


 リンは、そう言って周囲を警戒しつつ下へと降り始めた。それに続いて5人も階段を降り始めた。




◆◇◆◇◆◇◆



 


 一番前にいるリンとランがどんどん先に進んでいく中、その後ろのユリは、慎重に降りていた。

 降りるスピードが違うので、ランたちとユリの距離はだんだんと開いていくが、それでもユリは無理に速度を上げようとはせず慎重に降りていた。


 ユリが慎重になっているのは、噴水の柱に隠されていた隠し通路が急な螺旋階段で、足元にできた水たまりやぬめりや苔で非常に滑りやすくなっているからだった。

 一度盛大に滑って転んで頭を強打したユリは、それ以降はアルのように慎重に降りるようになっていた。



 ランは滑りやすい階段を2段、3段と飛ばしながら軽快に降りていくが、普通に降りようとして時折滑りそうになるアルやユリなどとは違って滑って転びそうな危うさは見られなかった。


 ユリとしては、どうしてそれでこけないでいられるのか分からず首を傾げずにはいられない。


 生じた疑問を考えながら降りていたユリは、ふと右肩に乗っているクリスの異変に気付いた。


「クリス……? 」


 右肩に乗ったクリスは、後ろ足で立ったままじっと上を見ていた。クリスに釣られてユリも上を見上げた。


 隠し通路の天井は高く、アルの持つランタンの光が届かないので天井は濃い闇に包まれていた。


 クリスには何か見えているのかもしれないが、ユリには真っ黒で何も見えなかった。


「ユリさん、どうかしたんですか? 」


 ユリとクリスが揃って上を見ながら階段を降りている様子を疑問に思ったアルが、後ろから声をかけた。それにユリは、上を見上げたまま答えた。


「いや、大したことではないんだけど……クリスがさっきからずっと上を見てるようだから、何か見えるのかなって思って」


「上、ですか? 」


 ユリにそう言われてアルも上を見上げる。アルの目にも天井は濃い闇に包まれていて何も見えなかった。


 アルが何となしに手に持ったランタンを天井を照らすように持ち上げた。

 ランタンの光が、闇を払い天井を照らした。


 そして、その照らされた天井には、黒く大きな一体のコウモリがぶら下がっていた。


「コウモリ? 」


「コウモリですね」


 ユリは、何でこんなところにコウモリがいるのかと思い首を傾げる。


 組合の手紙には、隠し通路にはモンスターはいないと書かかれていた。組合の情報を信じるのならここにモンスターがいる筈がないのだが……



 そこまで考えてユリははっと気づいた。


「もしかして、あの変な魔術師の仕業か? 」


「……可能性は高いですね」


 アルも同じことを思ったのか頷く。


 改めて、ユリは翼を体に巻きつけて天井にぶら下がっているコウモリを見た。コウモリの体は大きく、翼を広げてなくても目測で1メートルはあった。体色は黒く、金色の両目がランタンの光を反射して怪しく光っていた。大きさの割に顔は小さく、代わりに大きな丸い耳が特徴的だった。


 しばらく見ていると、コウモリを照らしていたランタンの光が動き、他の天井部分を照らす。ランタンの光から外れるとコウモリは再び闇に紛れて見えなくなった。


 ユリがアルの方を見ると、アルは掲げたランタンを動かしていた。

 他の天井部分もランタンの光で照らし、他にコウモリや別のモンスターなどがいないか確認していた。


 照らせる範囲を照らしたアルは、他にコウモリがいないことを確かめると、再びコウモリがいる天井部分を照らした。


「ユリさん、あのコウモリを撃ち落とせますか? 」


「ああ。多分できると思うぞ」


「では、お願いします」


「わかった。クリス、あのコウモリを撃て! 」


「きゅ! 」


 ユリの指示にクリスは元気よく答え、口から木の実の弾丸を飛ばした。

 プププという軽快な射出音と共に飛んだ木の実は、狙い違わずコウモリの体に当たった。


「ギキッ! 」


 木の実が当たったコウモリは痛みで金属を引っ掻いたような耳障りな鳴き声をあげて身を捩ると、天井から落下した。


「ギグッ」


 自分の意思で天井から落ちたわけではないようで、くるくると回りながら落ちたコウモリは為す術もなく地面に叩きつけられて呻き声を上げた。落下ダメージでコウモリのHPは、呆気なく0になった。


 その瞬間、床に光り輝く魔方陣が現れた。


 いつものようにガラスの砕けるような音共にコウモリの体が形を失い黒い光の粒子となると、その光の粒子は本来のように周囲に四散せずに床に展開された魔方陣に吸い込まれていった。


 1つ残らず光の粒子を吸収した魔方陣は、現れた時のように一瞬で消えた。


「え、これで終わりか? 」


「これは……」


 先程まで戦っていた異常種と比べて余りにもあっさりと消滅したコウモリに身構えていたユリは、拍子抜けする。逆に、アルはコウモリが消えた辺りを睨んで険しい表情になった。


「フーさん! 」


 突然、アルは後ろに向かってフーを呼んだ。


「はーい。なんですか~? 」


 アルに呼ばれたフーは、すぐにアルのところまで降りてきた。その後ろからはシオンもついてきていた。


「どうしたんですか、アルさん? 」


「フーさん、召喚獣(・・・)を倒した時は、消滅する際に魔方陣が現れるんでしたよね? 」


「ええ、そうですよ。それがどうしたんですか? 」


 アルの質問が理解できずにフーは首を傾げた。


「どうやら、敵は【召喚魔法】も使えるようです。さっき召喚獣らしきコウモリを倒しました」


 それを聞いたフーは顔色を変えた。


「……まずいかもしれません。すぐに先に行くお姉ちゃんとランさんと合流しましょう! 敵に私たちが気付かれたかもしれません! 」


 フーがそう言い終わった直後、先に進んでいたリンの声が通路に響いた。



「下から5体接近! 敵が来たっ! 」



灯火(ともしび)

【初級火魔法】で覚える魔法

暗い所などで光源代わりに使用する魔法

発動中、バレーボール程の大きさの火の玉が術者の近くを漂い、術者の移動に合わせて動く。慣れれば任意である程度動かすことも出来る。

それ自体に威力はないが、燃えている為、可燃物を近づければ発火する。

当然森などで使用すると場合によっては木々に燃え移ることもある。



『松明』

 大抵の街の店で売っている暗い場所の探索には必須とも言えるアイテム。

 一般的な松明は一度切りの消耗品だが、一度燃えると比較的長時間燃える。

 武器にも使え、火によるダメージが意外と効き、序盤のモンスター相手に使用するプレイヤーもいる。

店売りの松明の平均価格は、一本50G


『ランタン』

 大抵の街の店で売っているアイテム。

 松明より高いが、何度でも使用可能なので、お金に余裕があるプレイヤーは松明ではなくランタンを買う者も多い。

 照らす範囲も松明より広く設定されていて遠くまで照らすことができる。

 ランタンと言っているが、《灯火(ともしび)》の魔法が込められたれっきとした魔導具である。

 店売りのランタンの平均価格は、一つ2500G


【召喚魔法】

召喚獣を魔力や触媒を代償に召喚することが出来る魔法


・召喚獣

召喚魔法によって召喚されたモンスター

HPが0になると消滅する際に魔方陣が現れる。


【索敵】

自身を中心に半径数十メートルに存在するモンスター、NPC、プレイヤーをマップに表記するスキル。

表示されるアイコンは、同じなのでマップから識別することは難しい。

【隠密】系のスキルを有する存在は感知できない場合がある。

また、地中や上空、水中の存在や自分のいる場所から高低差のある存在の感知は、著しく下がる。

他にも、身を潜めたり擬態して、静止している存在の感知も著しく下がる。


索敵範囲や索敵成功率は、スキルレベルなどに依存している。




18/06/23

改稿しました。

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