78話 「説明会」
スサイゴブリンを倒したシオンたちは、アーツの再使用が可能になるまでのしばしの間、その場に座って小休憩を取っていた。
ユリは、休憩を取りながら手に届く範囲で赤く点滅する草や石を片っ端から拾ってはアイテムボックスに放り込んでいた。
そんなことをしていると、シオンが声をかけてきた。
「ユリ、ちょっと」
「ん? 何だシオン? 」
「アーツってわかる? 」
「ああ、魔法だろ? 」
「……使える? 」
「いや、使えない。魔法系のスキルを持ってないからな」
「…………」
ユリの頓珍漢な回答を聞いたシオンは、頭痛を堪えるように眉間を指で解す。
ユリがアーツのことを理解していない、もしくは知らないと考えていたシオンは、ユリとの会話からユリが魔法とアーツを混同して認識していることに気付いた。
「フー、ちょっとこっち来て」
「はいはい、なんですか天使ちゃん? 」
シオンは、自分で説明することも考えたが、教えるのには向いてないと自分で判断を下して、代わりにフーを呼んだ。シオンに呼ばれたフーは、すぐに反応した。
近づいてきたフーにシオンはユリを指をさして言った。
「ユリにアーツの説明して。勘違いしてる」
◆◇◆◇◆◇◆
そんなわけで急きょ開かれた説明会。フーは驚きながらも快くその役を引き受けた。
「ユリさんが未だにアーツを知らなかったことには驚きましたが、今からでも遅くないです。早く使えるようになりましょうねっ」
「手間を取らせてすみませんフーさん。よろしくお願いします」
急にアーツの説明をすると言われたユリは目を白黒させたが、自分が勘違いしていると指摘されて素直に説明を受けることにした。
できるだけ自分の力でゲームを進めていきたいと思っているユリだが、それは決して人のアドバイスに耳を貸さないというわけではなかった。以前にタクの提案を断ったのは、自分が模索する前に色々と教わるのを嫌がっただけであり、その後にタクに連携のコツを聞いたり、老人の話を聞くなどの聞く度量は持ち合わせていた。何より、何とかなるという甘い考えでチュートリアルを飛ばしてしまったことを今では、少なからず後悔していた。
だから、フーが説明してくれることに感謝はすれど断る気はユリの中には、毛頭なかった。
「ユリさんはチュートリアルを受けてないようなので、一から説明します。
アーツを知ってもらうためにまずスキルについて確認しますね。
スキルはSMOで何をするにしても重要な要素の一つです。スキルのあるなしで、結果は大きく変わってきます。そして、そんなスキルには大きく分けて四つに分類されています。
魔法系、戦闘系、生産系、補助系
更に分類も出来るんですが、今回は省きますね。
特徴としては、
魔法系は、詠唱という準備時間をかけた後、MPを消費して魔法を発動させることができます。スキルの効果も一部の魔法の効果を高めるものや詠唱を短縮させるものがほとんどです。
戦闘系は、スキルに適した武器や防具などを使った動作に補正がかかります。スキルの効果としては威力や速度の上昇、武器防具の重さ軽減などがあります。
生産系は、スキルにあったアイテムを製作する時に補正がかかります。スキルの効果としては、成功率や製作したアイテムの性能に補正がかかるものが多いです。
補助系は、先に話した三つに当てはまらないスキルが入ります。スキルの効果としては、自らの能力を上昇させたり、敵の能力を低下させたり、他のスキルの効果を増幅させたり、基礎的な動作の補正など色々とあります。
ここまでで何か質問ありますか? 」
「説明を聞く限りだと、俺の持っている【泳ぎ】と【発見】はどっちも補助系ってことであってるか? 後【調教】ってどれに分類されるんだ? 戦闘系か? 」
「はい、正解です!【泳ぎ】と【発見】は補助系です。それと【調教】は魔物をテイムするので一応生産系に分類されてます」
「生産系ってのは意外だな……」
「確かに意外ですよね。他に質問ありますか? 」
「いや、ない。どうぞ続けてください」
ユリがそう言うとフーは満足そうに頷き続きを話し始めた。
「ユリさんもスキルについては分かっているようなので次は、アーツについて話しますね。
アーツとは簡単に言えばMPを消費して使う必殺技のようなものです。稀にHPを消費する技もありますが、基本的にMPを消費します。戦闘系のアーツだと特にそんな感じですね。
アーツは、スキルを覚えると使えるようになります。スキルによって覚えるアーツはバラバラです。中には同じ名前のこともありますが効果は多少違ったりしますね。
アーツも大きく分けて5つに分けることができます。こちらは、プレイヤーが勝手に分類しただけなのですけどね。
攻撃系、防御系、間接系、生産系、補助系です。
特徴については実際に見た方が分かりやすいと思うので、私が実際にやりますね」
そう言うとフーは、ユリの前で腰を落として身構えた。
「《多連脚》! 」
――ビシュシュシュッ!
フーの蹴りが風切り音が聞こえる速さで連続で空を蹴った。赤い光の軌跡が空中に幾筋も残る。
「まず攻撃系。【疾脚】の《多連脚》がそれに当たります。特徴として必殺技のように強力な攻撃を相手に与えます。――アルさんちょっと私に斬りかかってきてください」
「わかりました」
アルは二つ返事で答えると、『青薔薇の直剣』を振り上げ、フーに振り下ろした。
「《受け流し》」
フーは、振り下ろされた剣の腹に籠手をあてると、そのまま籠手で剣の剣筋を自分の体から後方へと逸らした。刃先は籠手の上に滑るだけでフーにダメージを与えることはなかった。よく見ると両手と籠手には青いエフェクトに包まれていた。
「これが防御系。【受け流し】の《受け流し》です。特徴として敵の攻撃を防だいり、ダメージを軽減させたりできます。――ユリさんちょっとそこに立ってください」
「え、あ、ああ……」
ユリは、言われた通りに立ち上がる。
「《震脚》! 」
「おわっ!? 」
フーが地面に右足を振り下ろすと、その右足を中心に黄色いエフェクトが波紋のように広がり、地面が波打つように揺れ始め、ユリは足を取られ身動きが取れなくなった。
「これが間接系。【剛脚】の《震脚》です。特徴として敵の動きを妨害させたり能力を低下させたりします」
「《疾脚》」
フーの両足に緑のエフェクトが発生する。
「これが補助系。【疾脚】の《疾脚》です。移動速度が一時的に上昇します。特徴として自分や味方の能力を一時的に強化したります。
生産系はわたしは持ってないので見せることはできませんが、一瞬で剣を作ったりすることができます。
魔法系スキルは、今のところアーツがありません。
戦闘系スキルは、攻撃又は防御系と補助・間接系のアーツを覚えることができます。攻撃系と防御系どちらも覚えることができるスキルは今のところ珍しいですね。基本的にどちらかです。
生産系スキルは、【調教】のような一部例外を除いて生産系のアーツしか覚えません。
補助系スキルは、間接・補助系のアーツを覚えることができます。どちらも覚えることができるスキルもあれば、どちらかしか覚えれないスキルもあります。
ここまでで、何か質問はありますか? 」
「いや、ない」
ユリは頭を振って答えた。
「それでは最後に実践編ですねっ。わたしの言うとおりにしてくださいね」
「やっとか! よし、まずは何すればいいんだ」
ユリは、待ってましたとばかりにフーに指示を仰ぐ。
「まずは、メニュー欄を開いてください」
「開いた」
「次にスキル欄を」
「開いた」
「は、早いですね。次は、どれでもいいのでスキルをタップしてください」
ユリは、【拳】スキルを押した。すると【拳】スキルの説明文が出てきた。
「したぞ」
「スキルの説明が出ましたね? では、その画面を押したまま右にスライドさせてください」
「右にか? 下じゃなくて? 」
「右にです」
フーにきっぱりと言われたユリは、押したまま右にスライドさせると、表示されているのが変わった。
『【拳】現在覚えているアーツ
・《鉄拳》
・《連打》
・《袋叩き》
・《鉄拳制裁》
『アーツの使用を可能にしますか?Y/N』
』
「…………」
最後の一文にユリは、またかと思わず空を仰いだ。
「できたようですね。YESを押してください。」
ユリの反応を見て分かったフーは次の指示を出す。
「押したよ……」
ユリは言われる前にすでにYESを押していた。
「では、他のスキルも全部同じことになってると思うので全部使用可能にしてください。」
「はーい……」
「あ、派生させて強制的に控えになってるスキルもアーツを使うことができるので同様にしてください」
「うぁーい、できたー」
ユリは、気の抜けた声で返す。
「ユリさん、一気に気が抜けましたね」
さっきまでのやる気に満ちた様子から一転して脱力したユリにフーは、ふふふっと面白そうに笑った。
「あの一文でやる気をごっそり削られた……」
ユリは、疲れたため息を吐きだした。
こうして、ユリはSMOを初めて五日目にして、やっとアーツを使えるようになったのだった。
《多連脚》
【疾脚】で覚えるアーツ
前方に鋭く突き刺す蹴りを連続して入れる。
蹴りの回数は、3~5
《受け流し》
【受け流し】で覚えるアーツ
両手首から先で、敵の攻撃を逸らす。
手でなくとも、籠手や手で持つ武器でやることも可能。(剣や盾等
攻撃を防ぐのではなく攻撃を逸らすアーツのため、慣れないと失敗することが多い。玄人向け。(スキル、アーツ共に
《震脚》
【剛脚】で覚えるアーツ
地面を踏みつけた片足を中心に、半径2~4メートルぐらいに衝撃を伝える。衝撃を受けると身動きが取れなくなる。
地中にいるとダメージも入る。地に足がないと効果なし。
地形によって効果範囲、効果時間が変動する。
《疾脚》
【疾脚】で覚えるアーツ
3分間、移動速度が1.3倍
3分間、蹴り技の速度も1.05倍
他のアーツと併用して使うことが多い。
・各スキルごとにアーツのオンオフ設定があった理由
発声でアーツの絞り込み、プレイヤーの動作で同じ名称の中から適したのを選ぶので、余程のことでなければ、プレイヤーの想定した技とは違うのが出ることはない。
が、プレイヤーの行動によっては同じ名称の技が同時に二つ以上発動してしまうことがある。
それを防ぐためにオンオフ設定があります。
14/11/01 18/06/18
改稿しました。




