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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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76話 「取りあえず草原に行こう」


 ユリが無事に城壁から飛び降りた後、フーとリンが後に続き、無事に飛び降りることに成功した。そして、最後にシオンの番が回ってきた。


 城壁の上にいるシオンは、下から見上げるユリ達に向けて小さく手を振って合図をすると、躊躇することなく飛び降りた。


――ガキィィ!!


 シオンは、ラン以外が全員がしたようにクナイを壁に突き刺した。甲高い金属音が響くとすぐに壁を削る音が辺りに響き渡った。



――ガガガガガガガガガガッ!


 壁に一本の縦筋を削り出しながらシオンは落下する。落ちているシオンの様子はいつもと変わりない無表情。何を考えてるか、その表情から読み取ることは難しい。



「《ジャンプ》」


 地面まで後3メートルという高さになった所で、シオンはアーツを唱えて壁を蹴った。


 普通に地面を蹴れば、3メートルほど跳躍できるアーツで壁を蹴ったシオンは、水平に跳躍した。


――ズシャァァアア


 シオンは、水平の跳躍によって落下の勢いを殺して地面を滑りながら着地した。HPが全く減らない完璧な着地だった。



『おおーー』


 5人は、思わず感嘆の声を上げた。シオンは、その声を敢えて気にしないように目をそらすと、忍び装束の汚れを手で払うような仕草をした。ゲームなのだから汚れはつく筈もないので、それはシオンの照れ隠しだった。



 シオンは、5人の注意を引くように喉を鳴らすと今後の方針を5人に伝えた。


「これから、北に向かってゴブリンの草原に行く。戦う相手は、ゴブリン。途中でモンスターと遭遇したら、戦う。ゴブリン、もしくは異常種との戦闘は、アルとリンがタンク、私含めた残りがアタッカー。回復は各自、互いに。雑魚との戦闘は、各自の判断。群がる敵は殲滅。1人で厳しい場合は周りに助けを求める。……質問、ある? 」


 しばらく待っても誰からも何もなかった。


「ん、出発」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【豊かな森】を進む間、ランとシオンが先導するようにずんずんと前を進んでいた。2人は、邪魔なモンスターを発見次第、瞬殺していた。そのため、2人だけで向ってくるモンスターの大部分を倒していた。ラン達が取りこぼした僅かなモンスターも、すぐ後ろから続くフーとリンによってあっという間に倒されていた。ランとシオンは、モンスターをほぼ一撃で倒し、フーとリンも2人で連携して短時間で倒すので、一度の戦闘が短く、4人はモンスターが数多く潜んでいる森の中をサクサクと順調に進んでいた。


 それに対して、移動速度が遅いアルと一度の戦闘に時間がかかるユリの2人は、自然とその4人から遅れて、パーティーの最後尾となっていた。




「ゴアアッ!! 」


「うぐっ! 」


 大熊(ビックベアー)の太い前腕の横振りがユリの脇腹に直撃した。その衝撃で、ユリは吹き飛ばされて地面を転がった。ユリのHPが2割ほど削れた。


「くっそ、よくもやったなっ! 」


 すぐに起き上がったユリは、お返しとばかりに飛びかかって大熊の顔面を殴った。しかし、当たりは弱く、大熊のHPは1割しか減らなかった。


「ゴアッ!! 」


「あっぶねっ!? このやろっ! 」


 反撃とばかりに大口を開けた大熊に右手が噛みつかれる寸前に何とか引き戻すことができたユリは、噛みつこうとしてきた大熊の顎を思いっきり蹴飛ばした。


「ゴァ!? 」


 肉を打つ鈍い音ともに大熊のHPが3割ほど削れて、大熊が怯んだ。


「きゅっ! 」


 一瞬怯んだ大熊の目を狙って、クリスが木の実を連続して放つ。大熊の足止めをしてユリの支援をする。クリスが作ってくれた好機を逃さず、ユリはタメをつくって渾身の左後ろ回し蹴りを放った。


「これで止めだあああ!! 」


「ゴアアァァ……」


 左足の踵が無防備な大熊のわき腹に突き刺さり、ズドンっと肉を打ち抜く鈍い音が響いた。大熊は、断末魔の声をあげながら重々しい音を響かせて仰向けに倒れ、消滅した。


「ナイスだったぞ、クリス」


「きゅぅ」


 ユリは、大熊が消滅するのを見届けた後、肩に乗っているクリスを褒めた。


 そして、大熊と戦っている間に先に進んでいるパーティーに遅れないようユリは、ランが切り開いた道を駆け足で急いだ。



 その後も森を抜けるまでにユリは、様々なモンスターと戦った。

 角の代わりに木を頭から生やした木鹿(チュジーア)、深緑の甲殻を持ち、口から粘着性の糸を吐き出す森蜘蛛(フォレスパイダー)、高い攻撃力と防御力を持った獰猛な大熊(ビックベアー)、群れで襲ってくる灰色の毛並みの森狼フォレストウルフ、木の上から木の実を投げてくる隠猿《ハインドモンキ―》など、戦ったことのある相手から初見の相手までユリは戦い、時間をかけつつも難なく勝ちを重ねた。


 幸いなことに異常種には、パーティー全体を通して森狼の異常種である血紅狼の1体しか遭遇しなかった。その血紅狼も、戦陣を組む前に最初に遭遇したシオンとランの手で瞬く間にHPを削られて消滅した。



 終始、シオン達は危なげなく森の中をその後も進んでいき、ついに森を抜け出した。




◆◇◆◇◆◇◆




「キュウ!! 」


 先頭のシオンが森を抜けるなり早速、草原の茂みから角兎が襲ってきた。

 ここは、【ゴブリン草原】の戦闘エリアなのだが、どうやら【初心者の草原】で大量発生した角兎がここにまで流れてきたようだった。


「邪魔」


 その角兎は、シオンの振り下ろした小刀で、すれ違い様に喉を掻っ切られてあっさりと消滅した。近くには、その角兎しかいなかったようで、続いてくる他の角兎やゴブリンの姿はなかった。


「おぉ、やっと森からでれたー! 」


 シオンが周りを警戒していると、少し遅れてランが森の中から出てきた。


「おっ草原か? 」「疲れましたー」


 続いてフーとリンが一緒に森から出てきた。


「アル! やっと出たぞ。早く来いよっ」


「ユリさん、そんなに急かさないで下さいよ。僕遅いんですから」


 そして、最後にユリに急かされながらアルが森の中から現れた。



「ん、全員出てきた」


 シオンは、5人が全員森から出てきたのを確認すると、アルを除いた4人に初心者ポーションを投げつけた。


――カシャーン


 4人の体のどこかに当たって初心者ポーションは砕け散った。その効果によって多少減っていた4人のHPが全快した。



「あ、忍びちゃんありがとっ! 」「天使ちゃんありがとうございます」

「サンキュなシオン! 」「おっ、ありがとなシオン」


 シオンのさり気ない気遣いに4人は口をそろえて礼を言った。




「あのー……僕にはないんですか」


「減ってないから必要ない」


「ですよねー」




14/10/28 18/06/17

改稿しました。

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