74話 「戦闘準備」
シオンに連れられて、ユリ達の6人は、『ルルルの防具屋』に訪れた。
シオンがここに皆を連れてきたのは、皆の装備強化が目的だった。その為にシオンは、昨夜からルルルに連絡をし用意をしてもらっていた。以前の謝罪の意味もあってルルルは、シオンの急な頼み事にも快く応じた。シオンが装備の制作に必要な素材を全て用意する代わりに、ルルルは装備を人数分するとともに代金は無料で提供することになっていた。
「今回は、シオンさんから事前に聞いた皆さんの戦闘スタイルからいくつかの武器、防具を作ったのでそれを順番に渡しますね」
店に訪れた6人を迎えたルルルはシオンに頼まれた経緯を話すと、手元に一つの剣を取り出した。
それは、青を基調に銀で薔薇の装飾がされた豪華な鞘にしまわれた芸術品のような剣だった。
それを目にしたアルは、おぉと静かに感嘆の声をあげた。
「これは、すごいですね。もしかして、僕が貰えるのはこの剣、ですか? 」
半ば確信を持ってアルは、ルルルに尋ねた。ルルルは、にっこりと微笑んでアルに剣を渡した。
「はい、そうです。これは勇者さん用に作りました。勇者さんの代名詞となっている盾と鎧が青なので、それに合わせて剣の柄と鞘も青に、装飾も知り合いのおじさんに頼んで銀でして貰いました。刀身は鉄ではなく鋼鉄製です」
受け取ったアルは、鞘から剣を抜いた。
――シャラン。
刃が鞘を滑る音がした。鞘から光を反射する両刃の刀身が顕わになった。
磨き上げられた刀身は光に反射して輝き、鍔は青い薔薇の紋様、柄には銀で装飾された薔薇が描かれていた。まるで芸術品のような代物だが、その剣の刃は触れるだけで切れそうな危ない輝きを放っており、それは紛れもない斬る為の武器だった。
「……綺麗だ」
しばらくその剣に見入ったアルが、止まっていた息を吐き出しながら呟いた。
「ありがとうございます、ルルルさん。この剣はありがたく使わせてもらいます」
刀身を再び鞘に戻して腰に差したアルは、そう言ってルルルに45度の最敬礼をした。
「いえいえ、喜んでもらえてなによりです。ただ、その……『青薔薇の直剣』は、見た目に拘っているだけで実際の攻撃力は鋼鉄の剣より少し上という程度しかなくてすみません」
「いえ、これで十分です。十分すぎます。実は、剣だけは普通のを使っていたので他の装備と比べて見栄えが悪かったんです。ですが、この剣は最高です。ありがたく使わせてもらいます。強化する時は、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそぜひお願いします。その時はお金を取るので、しっかりお金を貯めてきてくださいね」
「はい」
次にルルルが取り出したのは、一対の巨大な大剣だった。
「あっ、ルルル姉。私の分ってこれでしょ! 」
一目見たランが嬉しそうに声をあげた。その声にルルルも笑って首肯する。
「はい、そうですよ。この2本の大剣は、大剣であり、一対の双剣でもあります。名前は『守り手の攻双剣』。特殊効果として、ガード判定範囲とガード範囲の拡大(微小)がついてます。攻撃力も鋼鉄製の大剣よりは高くなっています」
「おぉ、ルルル姉ありがとうっ! 」
ランはルルルの説明に目を輝かせた。そして、お礼を言って早速、装備を入れ替えはじめた。
そんなランの様子を尻目にルルルは、次に籠手と脛当を取り出した。
「この籠手と脛当は、フーさんに渡します」
「えっ! 本当ですか」
ルルルに籠手と脛当を渡されたフーは驚きの声をあげた。
「はい。フーさんは、ユリさんと同じで手足を使って戦うこともあるそうなのでそれに合わせて作ってみました。名前は『森狼の籠手』と『森狼の脛当』です。特殊効果として移動速度微上昇があります。鋼鉄製の籠手の上に森狼の毛皮を被せるような作り方にしたので、防御力は、鋼鉄製の籠手や具足より高くなっています」
「わぁ、いい防具ですね。ありがとうございますっ! 」
ルルルは、フーにその籠手と脛当を渡すとまた籠手と脛当を取り出した。
「この『血紅狼の籠手』『血紅狼の脛当』はリンさんに渡します。特殊効果として攻撃力微上昇と移動速度微上昇です」
「おお、ありがとなっ! 」
「できれば、フーさんにもリンさんと同じものを作りたかったんですが材料が足りず無理でした。すみません」
「いえいえ、無料でもらっているんですから気にしないでください。装備に特殊効果がついてるだけで十分嬉しいです。それに、こんなに早く特殊効果の付いたプレイヤーメイドを使えるようになるとは思ってませんでした。とっても嬉しいです。今度は、客として来た時に頼みます。ありがとうございます」
「はい! その時は喜んで作らせてもらいます」
続いて、ルルルが取り出したのはまたもや籠手と脛当だった。
「この籠手と脛当は以前ユリさんに約束していた物です。受け取ってください。名前は『血鮫の籠手』『血鮫の脛当』です。特殊効果として水中移動速度微上昇です。後、忍び装束を強化しようと思うので渡してください」
「えっ、今すぐにか? 」
「はい。今すぐにです。あ、もしかして着替えがありませんでしたか? 」
驚くユリの反応をそう受け取ったルルルは、新たに服を出した。
「それでしたら、お借りしている間は、このメイド服に着替えて待ってますか? 」
「ああ、分かった。ありがとう――――って嫌だよっ!! 」
ごく自然な流れでルルルから渡されたメイド服を受け取ったユリは、すぐに我に返ってメイド服をルルルに押し返した。連日の女装で、徐々に女物を着ることに違和感を感じなくなってきている自分に気づき、ユリは戦慄した。
「ちぇ。取りあえず、忍び装束を強化したいので布の服でも下着姿でもいいので着替えてください」
「ちぇってなんだよ……。はい。着替えたぞ」
残念そうに可愛らしく舌打ちをしたルルルにユリは半眼で睨みつつ、布の服に着替えて忍び装束をルルルに渡した。
「ありがとうございます。忍び装束はまた後で渡しますね」
受け取ったルルルは、忍び装束を一旦アイテムボックスにしまうと代わりに、籠手と脛当をまた出してきた。
「じゃあ、最後に無音さん。無音さんにはこの『荒熊の籠手』と『荒熊の脛当』を渡しますね。特殊効果は、攻撃力微上昇と防御力微上昇です」
「ん。ありがと」
「いえいえ。あ、無音さんも強化するので忍び装束と小刀を2本渡してください。忍び装束は前の謝罪の気持ちっていうことでタダです。でも、小刀の方の強化はお金を貰いますけど……いいですか? 」
「構わない」
シオンは、2つ返事で頷くと忍び装束から浴衣姿に着替え、腰に差していた小刀を外すと鞘ごとルルルに渡した。忍び装束と小刀を渡されたルルルは、シオンが着替えた浴衣を見て嬉しそうに顔を綻ばした。
「あっ、それはこの前に私があげた浴衣ですね。気に入ってくれたんですか? 」
シオンが着ている浴衣は、墨染めの黒に白い蝶が描かれたものだった。以前にルルルがシオンに忍び装束を売った時におまけであげたものだった。
試しに作ったので、というのが建前だったが、実際はシオンに着てもらうことを想像しながら作ったルルル渾身の一作だったりした。
「ん」
ルルルに聞かれたシオンは小さく頷いた。どうやら気に入っているみたいだ。
「「かわいいですね!! 」」
シオンのその仕草に胸を打たれたルルルとフーの声がはもった。
はもった二人は、少し驚いてお互いに顔を合わせた。
「「ですよね!! 」」
一瞬の視線の交差で意気投合した2人は、固い握手を交わした。
◆◇◆◇◆◇◆
それから10分後。
忍び装束と小刀の強化をするために店の奥に引っ込んでいだルルルが再び戻ってきた。
「はい。強化終わりました。無音さん、ユリさん」
「おっ」「ん」
店内の展示品を見ていたユリとシオンはルルルに近づいた。
「まずは、無音さん。小刀に『死剣兎の死剣角』を使って強化しました。名前が変わって『死剣兎の小双刀』になりました。特殊効果として攻撃時0.5%の致死付与が付きました。それと忍び装束に『駿角兎の毛皮』を使って強化しました。名前が変わって『駿角兎の忍び装束』に変わりました。特殊効果として移動速度微上昇です」
「ん。ありがと」
強化された小刀と忍び装束を受け取り、一瞬で浴衣姿から漆黒の忍び装束に着替えた。
以前と違い、シオンの忍び装束は黒一色ではなく灰色の縦筋が入り、小刀の鞘が茶色から黒に変わっていた。着替えたシオンは体を捻ったり、小刀を振り回して強化された装備の調子を確かめる。
「……よし。ルルルありがと」
装備の確認がすんだシオンは満足そうに呟くと、ルルルに頭を下げて礼を言った。
「あ~、もう! いちいち仕草が可愛いですね! お礼なら抱き着いていいですかっ! 」
「それは……やっ」
体をくねくねさせながら言うルルルにシオンは一歩後ろに後ずさって拒否した。
「む~~残念です」
わざとらしく残念そうに肩を落としたルルルだが、すぐに気持ちを切り替えた。
「それでお金の話になりますが、小刀2本合わせて1万G……なんですが、素材の方は全部シオンさんから頂いたのを使っているので、加工費のみで2000Gです」
「ん。ちょうど」
シオンは、所持金欄を操作し、銀貨2枚を取り出してルルルに渡した。
「はい。銀貨2枚。丁度ですね。ありがとうございます。さて、次はユリさんの分です。今回は籠手と脛当に合わせて『血鮫の皮』を使って強化しました。特殊効果は、水中移動速度微上昇です」
「ありがと。ん? ……見た目的には特に変わった様子がないな」
受け取ったユリは、すぐに着替えて体を捻ったりして前との違いを確認しようとするが、シオンの忍び装束とは違って明確に分かる様な変化はなかった。
「そうですね。元々ユリさんの忍び装束は紺色。血鮫の体色も紺色なので、あんまり変わらなかったみたいですね」
不思議そうに首を傾げるユリにルルルは理由を簡単に話した。
「あーそういう事か。それなら、いっか。ありがとうルルルさん。お金はいくらですか? 」
納得したところでユリは、ルルルに値段を尋ねた。
前回はお金がなかった為、物々交換のようになってしまったが、今回は少し使ったとはいえ2万近くのお金を持っている。だから今回はお金で払おうとユリは思っていた。
「へ? ……ああ、そういうことですかっ! いやいやユリさん。忍び装束の強化分の代金は、ユリさんにも迷惑をかけたんですから今回はタダですよ! 」
今回ユリからお金を貰う気が無かったルルルは、唐突にユリに言われ驚き、ユリが勘違いしていることに気付くとすぐに訂正した。
「え……? いや……でも、籠手や脛当をタダでもらったんだから、忍び装束ぐらいは……」
「いいですって、そっちは無音さんに頼まれた分ですから、別なんです! だからお金はいらないです」
「いや、でもなぁ……」
――それぐらい払わせてくれ。
そう言おうとしたユリだが、頑として譲らないという明確な意思をルルルの目から感じ取り、今回は折れることにした。
「……分かったよ。はぁー……ありがとう。ルルルさん」
「はい。今後もご贔屓にお願いしますね」
ルルルは、にっこりと営業スマイルを浮かべて頷いた。
『青薔薇の直剣』
ATK+33
見た目に拘った芸術品のような直剣
攻撃力自体は鋼鉄製の剣より多少高い程度
『守り手の攻双剣』
ATK+48
DEF+10
一対の巨大な大剣。
防御系アーツの効果範囲と判定範囲が僅かに拡大する。
攻撃力は、鋼鉄製の大剣より高い
『森狼の籠手&脛当』
各DEF+12
鋼鉄製の籠手と脛当を森狼の毛皮を使って強化したもの
それぞれ移動速度が微上昇。
防御力は鋼鉄製よりわずかに高い
【拳】系スキル装備時ATK+12
『血紅狼の籠手&脛当』
各DEF+15
鋼鉄製の籠手と脛当を血紅狼の毛皮を使って強化したもの
それぞれ攻撃力微上昇、移動速度微上昇
防御力は鋼鉄製より高い
【拳】系スキル装備時ATK+15
『血鮫の籠手&脛当』
各DEF+12
鋼鉄製の籠手と脛当を血鮫の皮を使い強化したもの
それぞれ水中移動速度が微上昇する。
防御力は鋼鉄製より僅かに高い
【拳】系スキル装備時ATK+12
『荒熊の籠手&脛当』
各DEF+16
鋼鉄製の籠手と脛当に荒熊の毛皮を使って強化したもの
攻撃力微上昇、防御力微上昇
防御力は鋼鉄製より高い
【拳】系スキル装備時ATK+16
『メイド服』
DEF+3
防御力は布の服並み
ほとんど展示&コスプレ用
(シオンが着ている)『浴衣』
DEF+5
墨染に白い蝶の柄の浴衣
βの時に試行錯誤の上に作った浴衣を、シオンに着てもらうために正式稼働の時にわざわざ作ったもの。着物を染めることは今のルルルにはスキルレベル的にできない為、知人のNPCに方法を教えて染めてもらった。
『死剣兎の小双刀』
ATK+41
死剣兎の死剣角を使って小刀を強化したもの
攻撃時に稀に致死が付与される。
因みに刀の製造もルルルの今のスキルレベルでは無理だったため、オルガンに方法を教え作って貰ったもの
『駿角兎の忍び装束』
DEF+24
駿角兎の毛皮を使って忍び装束を強化したもの
新たに移動速度微上昇
『血鮫の忍び装束』
DEF+21
血鮫の皮を使って強化された忍び装束
新たに水中移動速度微上昇
参考
『忍び装束』
DEF+15
森蜘蛛の糸と製作者の魔力が込められた忍び装束
魔法攻撃微耐性、斬撃微耐性、重量微軽減
『鎖帷子』
DEF+25
一つ一つの鎖を丁寧に作り繋げた一品
物理微耐性、斬撃耐性
『鋼鉄の剣』
ATK+30
『鋼鉄の双剣』
ATK+35
『鋼鉄の大剣』
ATK+40
『鋼鉄の短剣』
ATK+25
『鉄の~』
ATK-10(鋼鉄の武器と比べて全て)
『錆びた鉄の~』
ATK-10(鉄の武器と比べて全て)
『鋼鉄製の籠手(又は脛当)』
DEF+10
『鉄製の~』
DEF+5
『錆びた鉄製の~』
DEF+3
『革の~』
何の皮なのかによって変動
DEF+1~
『死剣兎』
剣兎の異常種
『駿角兎』
角兎の異常種
『荒熊』
大熊の異常種
14/10/23 18/06/17
改稿しました。




