73話 「新たなTSプレイヤー」
「皆さん。今日はよろしくお願いします」
「今日はよろしくなっ! 」
そうユリ達に挨拶したのは、新緑色の髪に金色の瞳をもつ色白の少女と燃えるような深紅の短髪で紅い瞳をもつ華奢な青年の2人だった。
少女の傍には無表情のシオンがいた。少女の手を頭の上に乗せられて絹糸のような柔らかな黒髪を愛おしそうに撫でられていた。
2人が訪れるまでの警戒が嘘だったかのようにシオンは、いつもの無表情のままされるがままだった。シオンにとっては、それは許容範囲内の行動のようであった。
「……こっちがフー、あっちがリン。2人は双子。――で、こっちがユリ、あっちがアル」
シオンが2人を紹介するように名を呼ぶ。ついで、アルとユリのことも2人に紹介した。
「よろしくお願いします。ユリさん、アルさん」
「よろしくな! 」
「よろしくお願いします。2人は双子なんですか。男女ってことは、二卵性双生児? どっちが上なんですか? 」
身近に双子がいなかったユリは、興味本位で2人に尋ねた。
すると、リンが自分を指さして
「あたしが姉だ」
そして、フーが自分を指さして
「私が妹です」
と答えた。
「あー、リンさんが姉でフーさんが妹ですか…………えっ、姉? 」
「あたしは、女だぞー」
驚くユリに見た目は、華奢な青年のリンはわざとらしく頬を膨らませて言った。
「ははは、やっぱ初対面じゃわからないですよねー」
アルはすでに知っていたのか驚く様子もなく笑う。
「おい、それどういうことだよアル。そんなにあたしが男に見えるって言いたいのか? 」
「お姉ちゃんの言動に問題があるんじゃないのかな……ううん、なんでもないよー」
「フー!! 」
「えー……つまり、リンさんも俺と同じTSプレイヤーってこと? 」
姉妹で口論を始めた2人を尻目にユリは確認するようにアルに尋ねた。
「まぁ、そういうことですね。リンさんはTSプレイヤーとして結構有名なんですよ?【風鈴姉妹】っていう二つ名があるくらいには」
「へぇ、そうなんだ。でも、自分以外にTSいるなんて思ってなかったな」
「まー、珍しいからな。あたしも自分以外だと君と………あいつと………あの子と………あいつか。4人ぐらいしか知らないな」
リンは、今まであったTSプレイヤーを指折り数えて言う。
「お姉ちゃん、それだとユリさんが誤解しちゃうよ」
そう言ったのは、先程までシオンを撫でていたフーだった。今は、ルカよりもたわわに実った重い果実をシオンの頭の上に乗せて抱き枕のようにシオンに抱きついていた。
「今のところ、TSプレイヤーは珍しいですが、実際の所では掲示板などで話題になったことのあるようなある程度有名なTSプレイヤーが少ないというだけで、意外といると言われてます。現在SMOをプレイしているプレイヤーは、約2万人。そのうち、100人前後のプレイヤーがTSプレイヤーだという説が今一番有力ですね。200人に1人の割合ですね」
「200人中1人の割合って……それはもう不良品じゃないのか? 」
「うーん……まぁ仕方ないんじゃないの? VRゲームだってまだまだ始まったばかりなんだし。確か、ゲーム機の説明書にも性別を機械が誤認する場合があるって書いてただろ。嫌なら性別を変更してもらうこともできるみたいだしな。実際にβの頃TSしていた知り合いが途中で性別を変更したしな」
「え? 性別変更してもらえるのか!? 」
さらっとリンが言った言葉にユリは驚きの声を上げた。いくら女装になれているからと言って別にユリは女装が好きという事ではない。性別を変えれるなら変えたいと思っていた。
「知らなかったのか? できるぞ。確か戸籍とか色々な書類用意して、自分のヘッドギアと一緒に箱に梱包。それをどっかの住所を書いて送付したらよかったんだっけ? まぁ方法はいいんだよ。その後一か月ぐらい待ったら性別を変更してくれたアバターを使えるようになるぞ。ただし、データは初期化されるみたいだけどな。あたしだったら性別変える為にデータ初期化は嫌だなぁ」
「あ、やっぱいいや」
性別を変えたいと言う気持ちに嘘はない。
が、一か月ゲームできない挙句データを初期化してまで変えたいとはユリには、思えなかった。
(はぁー……まぁ性別が違ってもあまり気にならないし。ゲームだし。このままでいいか)
ユリは心の中で諦めが多分に含まれたため息を吐いて自分に妥協した。
◆◇◆◇◆◇◆
その後もしばらくユリは、風鈴姉妹と話していると、最後の一人となっていたランが元気に走りながら帰ってきた。
「おっまたせー!! 朝食おいしく頂かせて貰いましたお兄ちゃん! あ、風鈴お姉ちゃんたち! 久しぶりですっ! 」
ランは、新たに来ていたフーとリンに気付くと元気よく挨拶をする。
「久しぶりっ! ランは相変わらず元気そうだな」
「お久しぶりですランさん! ん~~~っ! 天使ちゃんも可愛いですが、ランさんもまた違った意味で可愛いですね! 」
フーはそう言うとランを左手で自分の傍に引き寄せ、左手でランの頭を撫ではじめた。
「あ、フー姉。くすぐったいよ~」
ランは撫でてくる手を嫌がる様子もなくくすぐったそうに身を捩らせた。
「あぁ、至福です」
左手にラン、右手にシオンの頭を撫でる状況にとても満足しているようでフーは自然と満ち足りた満面の笑みを浮かべていた。
頭を撫でられたランは気持ちよさそうに目を細めて、シオンは不機嫌そうにも照れているようにもとれる微妙な表情をしていた。どちらが正しいのかはシオンにしか分からないが、ふり払わない様子から案外、照れている方が正しいのかもしれない。
ランが帰ってきたことで、シオンが誘ったプレイヤーが全員揃った。
シオンは、フーに頭を撫でられたまま、他のプレイヤー達がお互いに会話しているのを尻目に、メニューを開きフレンド欄からとあるプレイヤーの名前をタップしてフレンド通信を使用した。
『呼び出し中………』と表示された仮想ウィンドがしばらくすると『RRRに通信が繋がりました』に変わった。
それを確認したシオンは、虚空に向かって話しかけた。
「もしもし」
すると、シオンの耳元に直接、通信の相手であるルルルの声が響いた。
『無音さんですか! おはようございます。もう準備はできてますよ』
「ん。急な頼みなのにありがと」
『そんな! 気にしなくていいですよ。私だって儲かるんですから。それに風鈴姉妹に勇者なんて有名どころを連れてきてくれるんですからこちらがお礼を言いたいぐらいです』
「ん。これから行く」
『分かりました。待ってます』
「じゃ」
最後にそう言ってシオンは、ルルルとの通信を切った。
「武器防具屋に行く。ついてきて」
「あ……」
ルルルとの通信を済ませたシオンは5人にそう言ってフーの手から逃れると、先導するように前に出た。フーは、名残惜しそうに手を伸ばしたが、シオンはそれを無視して先に進んでいき、細い路地へと入っていった。
ユリ達もシオンの後に続くように和気藹藹と話をしながら路地へと入っていった。
「あーもう少しだけ触りたかった……」
「フー、お前もう少し自分を押さえろ。しつこいとお前の天使に嫌われるぞ」
「ええええええ! 私嫌われちゃうのお姉ちゃん!? ―――あ、待って置いてかないでっ」
「ランさん。ユリさんの手作りサンドイッチはおいしかったですか? 」
「うん! おいしかったよ。ブルーベリー味もあったの! お姉ちゃんすっごい料理上手なんだよ~」
「へぇーそうなんですか。あっそう言えばユリさん【料理】スキルもってましたよね? 今度作ってもらえませんか? 」
「いやいや、料理って言っても家庭料理ぐらいしかできないから。そもそもランと比べると誰だって上手いだろ」
「えー? そんなことないよ。ゆで卵ぐらいは完熟にできるもん! 」
14/10/22 15/06/14
改稿しました。




