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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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70話 「不倒の勇者」



「いつにも増して人が多い気がするな」


『始まりの街』の噴水広場にログインしたユリは、見渡す限り人で溢れかえった広場を見て目を丸くした。国内有数の観光名所に大型連休に訪れたかのような混雑具合で、人が多すぎて数メートル先も見れないくらいだった。


「この中からシオンを探すのには、苦労しそうだな」


 身長が低く小柄なシオンをこの人混みの中から探し当てるのは厳しそうだった。面倒だな、とユリは零して、頭を掻いた。


 困っていると、ユリの視界に仮想ウィンドウが表示された。


『フレンドの・・・・から通信が来てます。Y/N 』


 探し人であるシオンからの連絡だった。

 フレンドリストからユリのログインを確認したシオンがユリに直接連絡してきたようだった。



「シオンからの通信? なるほど、これなら会うのも楽だな」


 シオンの突然の連絡に少し驚いたユリだったが、すぐに納得し、YESを押した。


 すると、あの抑揚のない独特の声がユリの耳元で響いた。


『もしもし、ユリ? 』


「もしもし、そっちはシオンか? 」


『そう。……噴水? 』


「ああ、そうだぞ」


『分かった。なら、西門に来て』


「了解。新しい4人っていうのは、もう来てるのか? 」


『まだ2人、来てない。そろそろ、来る』


「そうか。じゃあ、すぐにそっちに行く」


『ん。待ってる』


 それを最後にシオンとの通信が切れた。


――プツッ


『・・・・からの通信が途切れました』


 ユリは用の済んだ仮想ウィンドウを消して、西門へと続く西大通りに足を向けた。

 広場の人の流れが、まだ門の開いている東門と南門に向いていたため、その流れに逆らう形になっていた。少々抜け出すのに苦労しつつ、ユリはなんとか噴水広場から抜け出して、西大通りへと出た。


「ふぅ、抜け出すだけで一苦労だったな。ええっと、ここが西大通りであってるよな。うん、大丈夫だな」


 一応、道が間違っていないことを確認したユリは、足早に待ち合わせ場所の西門へと向かった。




「――っと、そうだ。忘れない内にクリスも出しとこう」





◆◇◆◇◆◇◆





 西門の近くまで行くと、城壁の壁に寄りかかった黒い忍び装束を着た見知った少女を見つけた。

 シオンを見つけたユリは、片手をあげて声をかけた。

「シオン! おはよう」


「きゅ! 」


 肩に乗っていたクリスも以前会ったことを覚えていたのかユリの真似をして前足をあげて鳴いた。


 シオンの方も近づいてくるユリとクリスに気付いたようで、コクリと小さく頷いた。


「ん。おはよう」


「新しい2人はどこにいるんだ? 」


「あっちの2人」


 そう言ってシオンが指差した先には、青で統一された全身鎧と盾を装備している人の良さそうな青年と見覚えのある白ゴスを着た美少女がいた。


「あっ」


 シオンが指さした1人に見覚えがあったユリは、思わず声を漏らした。途端に顔が険しくなったユリは、ずんずんとその人物、ランへと詰め寄った。


「ラ~~~ン~~? どうして、朝食を食べてないのにこんなとこにいるのかな~? ちょ~っと、俺に話してくれないかな~? 」


 顔は笑っているが目は笑ってないユリが、ランに詰め寄る。その迫力に気圧されてランは、壁際まで後退してあわあわと眼前で手を振った。


「お、おお兄ちゃん!? え、あ、ええっと……あのですね。これはその~……ごめんなさい!! 忘れてました!! 」


 ユリがこれほど怒ってるとは思わなかったランは、何か言い訳しようと口ごもり、結局上手い言い訳を思いつかずに素直に謝った。


「育ち盛りなんだから起きてるならきちんと摂れ。今すぐ食べて来い! 」


「ら、ラジャー!! 」


 ユリの有無を言わさぬ命令にランは背筋をぴんっと伸ばして敬礼する。そして、すぐにメインメニューを開いてログアウトボタンを押して、ランは、その場で光の粒子になってユリの前でログアウトした。



「全く、ずっとやってたのか。気持ちは分かるが、食事ぐらいはちゃんと摂れよな」


「きゅ」


 怒ってるようで笑ってるような複雑な表情でランがいなくなった場所を見つめながら、ユリは独白した。それに相槌を打つように理解している筈もないクリスが鳴いた。



「……母親」


「ん? 何か言ったかシオン? 」



「……何でもない」




◆◇◆◇◆◇◆




 ランが朝食を食べるためにログアウトした後、ユリは、シオンに謝罪した。


「悪いな、シオン。勝手にランを帰らせたりして」


 そんなユリに対してシオンは、フルフルと首を振った。


「食事は大事。別にいい」


「ははっ、シオンさんの言うとおりです。 確かに食事は大切だ。あまり気にする必要はありませんよ」


「ん? ああ、ありがとう。」


 シオンの言葉に追従するように話しかけてきたのは、シオンが紹介しようとしていたもう一人のプレイヤーだった。


 青年の容姿は、ユリよりも明るい青髪で碧眼で、子供のような童顔だった。しかし、背丈はユリよりも高く180cmはありそうだった。装備している大盾と全身鎧には豪華な装飾がされていた。どちらも濃い青を主色として、大盾には交差する双剣の紋章が金と銀で描かれ、鎧のあちこちには銀の精緻な装飾がされていた。英雄譚に登場する英雄が着ているような装備だった。始めたばかりのプレイヤーには不釣り合いとも思える見た目の装備だったが、その青年には実によく似合っているようにユリの目には映った。



「ん~……どっかであったっけ? 」


 思わず見入ってしまうような姿だが、その姿に全く見覚えの無かったユリは、思わず声に出して青年に尋ねた。


「ああ、すみません。そう言えば、こちらの自己紹介はまだでしたね。初めまして、ユリさん。アルと言います。ユリさんのことは、さっきまでランさんから色々と聞かせてもらいました。ランさんから聞いた話よりも厳しいそうなお姉さん――いや、お兄さんでしたね」


 ランから話を聞いたと聞き、そういうことか、とユリは納得した。


「ランが色々と迷惑かけてないか? 」


「いやいや、そんなことないですよ。僕の方こそランさんの足を引っ張って申し訳ないくらいです。ランさんとパーティーを組んで、自分がまだまだというのを痛感しました」


「ランとパーティーを組んだことがあるのか? 」


「はい。先程まで【ゴブリン草原】の方で、一緒にゴブリンと戦っていたんです。とは言え、ランさんとシオンさんばかりがゴブリンを倒して、僕はほとんど助けてもらったばかりでしたが」


 アルは、そう言って恥ずかしそうに笑ったが、そばで聞いていたシオンがその言葉に反応した。


「嘘はよくない」


「嘘? 」


「アルはずっと壁役をしていた。大量のゴブリンを引き付けて相手にしていた」


「へぇ、それはすごいな」


「アルは、一度もダメージを受けてない」


「……え? 」


「アルは、スキルを一つも持ってない。それに鎧と盾が重すぎて足が遅い。周囲には、ゴブリンしかいない。敵は、連携に優れたゴブリン。それでノーダメ」


 自分を卑下するアルをフォローする為に、いつもは口数少ないシオンがいつになく長文で話していた。


「アルの方がすごい。助けられてたのは、私たち」


 シオンは、ユリを見上げてそう断言した。


「…………」


 自分もスキルをセットせずにゴブリンと戦ったことがあるからこそ、その偉業にユリは言葉に出すことはできなかった。


 ユリは知る由もなかったが、始まりの町付近にゴブリンの姿が見られなかったのは、ラン達が戦った影響だった。



「アルの二つ名は『勇者(笑)』。ずば抜けたプレイヤースキルを持つ不倒の勇者」



アルの二つ名は、アルの持つ称号が関係してます。




14/10/22 18/05/26

改稿しました。

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