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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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69話 「一時の休息」

――06:50


 太陽が東から昇り、窓から爽やかな光が差し込む早朝。

 ベッドから体を起こしたトウリは、両手で顔を覆っていた。


「はぁ……朝か。結局、一睡もできてない……」


 顔をあげたトウリは、爽やかな日差しが差し込む窓を見て、やっちまったと遠い目になる。窓の外からは、小鳥の鳴き声が聞こえていた。


 あれから街に戻った後も老人に道具屋までついていったユリ(トウリ)は、老人の新しい一面を知ることになった。腐れ縁と言っていた店主のマチルダと出会って早々にお互いに憎まれ口を叩いて大喧嘩を始める老人は、ユリに見せていた老成した穏やかな物腰を一転させた態度にユリは、目を白黒とさせて驚いた。

 結局、ユリが仲裁に入ったことで事なきを得たが、それから消耗品を買ったりしているうちに完徹することになっていた。



「一睡もしてないのに、眠くならないとか結構やばいよな」


 気分が高揚し、活力がどこからか湧いてきているのを感じるトウリは、その未知の感覚に非常に危うさを感じていた。



「寝ないといけないんだけど……寝ないと後が怖いんだけど……全く眠る気が起きない」


 ベッドで横になっていればすぐに眠れるだろうという予測は簡単に出来るが、何故かそわそわと落ち着かず、実行に移すことができないでいた。


「……こうなったら、一度ベッドから出て何かしてからの方が寝れそうだな」



 今すぐに寝ることは無理だと結論付けたトウリは、ベッドから出ることにした。





 一階に降りたトウリは、昨日冷蔵庫で冷やしておいた麦茶を飲んで一息ついた。椅子の背もたれにもたれながら朝食の献立について思考を巡らす。


「う~ん、もうサンドイッチでいいかな。……そういえば、サンドイッチ用の食パンってまだ残ってたっけ? あれなら作り置きできるし……ちょっと冷蔵庫にあるか確認してみるか。――よっこらしょ」


 年寄りくさい掛け声で椅子から立ち上がったトウリは、冷蔵庫を開けて中身を確認した。


「あー……買いに行かないとないか。あ、ハムとイチゴジャムも切れてる……この時間だとコンビニしかないよなぁ」


 冷蔵庫の中にはサンドイッチを作るには、材料が不足していた。時間を確認したトウリは、材料を買うためにコンビニに行くことにした。


「確かサンドイッチ用の食パンもあそこのコンビニなら売ってたよな。よし、準備するか」


 外出することになったトウリは、服を着替えるために自分の部屋に戻った。





 部屋に戻ったトウリは、適当にタンスから着替えを取り出した。


「……まぁ、これでいいかな」

 

 服を決めるとトウリはその場で寝間着代わりに着ていたTシャツを脱ぎ、そして選んだ服に着替える。

 着替えをするすぐ近くには、タクヤが寝ている布団があったのだが、徹夜の影響で注意力散漫となっていたトウリは、見落としていた。



「よし、これでいいな―――!? 」


 と、口にしたところで、トウリはいつの間にか目を覚ましたタクヤが寝惚け眼で自分を見ていることに気付いた。


「よう、おはよう。今日はお前も徹夜したn――」


 トウリの着替えを見ていたタクヤは気にした様子もなくトウヤに話しかけた。


 が、タクヤの言葉が最後まで言い終わる前にトウヤによって物理的に阻まれた。



「――見るなぁああああああ!! 」


「ブッ――!? 」


 トウリの問答無用の理不尽な踏みつけがタクヤの顔面に炸裂した。


 トウリは、自分の裸――というよりも着替えの最中を人に見られるのを極端に嫌っていた。学校でも着替えはトイレや空き教室を利用する徹底ぶりだった。さらにタクヤにとって運が悪いことに徹夜で情緒不安定になっていたトウリは、過剰に反応した。


 その為、不可抗力であったにも関わらず、その踏みつけはいつもより手加減がなく、また躊躇いもなかった。


「痛っった!? おまっ、朝から何すんだよっ」


「人の着替えをジロジロ見るタクが悪いっ!! 」


 顔を手で押さえて蹲るタクヤがトウリに抗議したが、トウリはタクヤの抗議をばっさり切って、不機嫌さを隠さないまま部屋を出て行ってしまった。


「あいつ、朝から短気すぎだろ。はぁ、ついてねぇ」


 部屋に残されたタクヤは、蹲ったまま割と平気そうな様子で愚痴をこぼした。


 それから3分後、一階に下りてきたタクヤはケロリとしていた。




◆◇◆◇◆◇◆




「全く……タクの奴、俺がジロジロ見られるのが嫌いなの知ってる癖に……」


 トウリは、徒歩でコンビニに向いながら不機嫌そうにタクヤの文句を零していた。


「なにが『よう。おはよう』だ! 人の着替えを見た後に言う最初のセリフがそれかっ!? ああ、思い出すだけで腹が立ってくる……」


 普段以上にトウリは、タクヤに対して憤りを感じていた。それは、着替えを見られたと言うよりは、徹夜明けで妙に神経が高ぶりやすくなってしまっているのが原因なのかもしれない。


 普段ならば、叱責は飛んでも蹴られたりしなかっただろうに……タクヤは、とても間が悪かった。



 その後もコンビニに着くまでの間、トウリは終始タクヤの文句を零していた。





「ありがとうございました~」


 買い物を済ませたトウリは、コンビニを後にする。

 手に持つビニール袋には、サンドイッチ用の食パンを4パックとハム、イチゴジャム、ブルーベリージャムが入っていた。


「よし、さっさと帰って作るか。……タクに会ったら、謝っとくか」


 先程までのタクヤに対する憤りはすっかり消えていた。頭の冷えたトウリは、改めて思い返して、タクにそこまでの非はなかったんじゃなかったのか? と思わず感情的になって蹴ってしまったことを反省していた。


 蝉が一斉に鳴き始めた大合唱の中、トウリは早足で家に戻った。






「さっきは、いきなり蹴ってごめん」


 家に帰ったトウリは、ソファで横になっていたタクヤを見つけると謝った。



 タクヤからすれば、トウリが着替えを見られるのを嫌ってるのは以前から知っていたことだし、何度か似たようなことを起こした事があるので、特に気にした風もなく


「故意じゃないにしても、お前の着替えてるのを見たからな。俺も悪かった。気にすんな」


 と言って、あっさりとトウリを許した。


「まぁ、悪いと思ってるならサンドイッチを多めに寄こしてくれればいいよ」


「ああ、わかった。いいよ」



 タクヤと和解したトウリは、キッチンでテキパキと手慣れた様子でサンドイッチ作りに取り掛かった。

 イチゴとブルーベリーをそれぞれ塗ったジャムサンド、たまごサンド、ハムとレタスサンドの4種類のサンドイッチを作ってお皿に盛りつけた。サンドイッチは食べやすいように四等分にカットした。タクヤには、たまごサンドの余りとハムとレタスを使ったボリュームたっぷりのサンドイッチを用意した。



「よし、できた。まだカオル姉とランは、起きてきてないな……まぁ、そのうち起きてくるか。――タク、サンドイッチ出来たから食べれるぞ」


 皿に盛ったサンドイッチをテーブルに並べ終えたトウリは、ソファに横になってテレビを見ているタクヤに声をかけた。


「ん~? おう、出来たか」


 テレビを見ていたらしいタクヤは、トウリの声に返事をするとテレビを切って起き上がった。



「何見てたんだ? 」


「『アルステナ』についての特番。SMOについてやってたから見てた」


「ああ、あのVR技術を開発したっていう会社か。で、どんな内容だったんだ? 会社関係の人とか出てたのか? 」


 SMOを開発した『アルステナ』という会社についてしていると聞いて、少し興味の湧いたトウリは、サンドイッチを食べ始めてるタクヤに詳しい話を促した。


「いいや、全く。ほとんど今まであったことを整理してるだけだった。以前に『アルステナ』の社長がVR技術を世界中に発表した当時の映像とか、今までにVR技術を使って行われたこととか、SMOのことを少しぐらい。真新しいことは、ほとんどなかったな。つーか、あそこの会社、インターネットで調べてもほとんどと言っていいほど、詳しいことが分からない。どこに会社があるとか、VR技術を開発した技術者はどんな奴だとか、ほっとんどわっかんね。SMOに使われてる高性能な人工知能技術だって、あの会社しか持ってない技術だし、噂じゃ政府が積極的にその会社の情報を隠してるっていうのもあるし、ホント謎だらけなんだよな~」


 タクヤは、そこまで言って言葉を区切る。


「―――まぁ、俺としてはゲームがより面白く刺激的になるんならそれでいいんだけどな」


 そう話すタクヤの口角は自然と上がり、獰猛な笑みを作っていた。


「ふーん……そうなのか」


(やっぱこいつは重度のゲーマだな)


 トウリはそんなタクヤを見て、そう結論付ける。


 2人は、サンドイッチを食べながら、深夜の前哨戦でお互い自分に起きた話をして、お互いに情報を交換をした。


「――ということは、トウリは9時に噴水のとこに忍びちゃんと待ち合わせしてんだな? 」


「ああ、5時ぐらいにシオンから連絡があってな。どうやら新たに4名増えたから紹介したいらしい」


「ふーん。じゃあ、一緒に狩りしようと思ってたけど時間がなさそうだな。まっ、いいや。――ごちそうさまでした、じゃ、俺はすぐゲームするから上に行くね」


「おう、精々死なないように頑張ってな」


 自分の分のサンドイッチを食べ終わったタクヤは、椅子から立ち上がってタクヤにそう伝えた。タクヤはそのままSMOをするために二階に上がっていった。


 トウリは、それを見送った後、20分程は新聞を読んだり洗濯物を畳んだりして時間を潰しながらカオルとランが下りてくるのを待っていたが、結局、シオンとの約束の時間が迫る時間まで下りてくることはなかった。


「ったく、ランたち何で降りてこないんだよ。まだゲームやってんのか? 」


 シオンとの待ち合わせの時間が迫ってきたトウリは、文句を言いながら2人の分をラップして冷蔵庫にしまい、テーブルの上に『朝食のサンドイッチは、冷蔵庫に入れてあります』と書かれた紙を残して、自分の部屋へと戻った。



 トウリは戻るときに、ランの部屋に寄ってノックしたが全く反応がなかった。



「やっぱり、これはゲームしてるな。朝食くらいちゃんと食べろよあいつ……」

 トウリは、着替えの最中を人に見られるのを嫌う人です。といっても、普段は問答無用で蹴ったりしませんが、タクヤは運が悪かったんです。


手加減は普段よりも出来てないというだけで最低限の手加減は無意識で出来てます。


女装の時も、幼い時はともかく今は基本、一人で着替えます。




14/10/20 18/05/23

改稿しました。

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