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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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68話 「深夜の前哨戦の結果」


『始まりの町』近辺の戦闘エリアで同時多発的に起きた前哨戦が始まってから、3時間が経過した。



 【豊かな森】に出る東門は、3時間たった今も固く閉ざされ、門からの出入りは不可能になっていた。

 森にいたプレイヤーたちは、撤退もしくは死に戻りによって全員がモンスターで溢れかえった森からいなくなっていた。

 東門の開門クエストをクリアし、門をくぐり抜けて街に帰還を果たした者は最終的に27人となった.勝因は、多人数で協力して事に当たったことだった.中には、ソロや5人以下のパーティーだけで挑戦したプレイヤーたちもいたが、クリアすることができず、結局死に戻りという形での帰還となった。

 プレイヤーがいなくなり、阻む者がなくなった森からは、わらわらとモンスターたちが東門をとり囲むように続々と集まってきていたが、理不尽なくらいに堅牢な1人の門番に阻まれ、門を直接攻撃することができなかった。城壁の上から衛兵やプレイヤーたちの支援を行い、門の周辺に集まるモンスターの数は一定の均衡を保って、門を突破される心配はなかった。




 【アント廃坑】に出る西門は、3時間がたった今でも開門されていた。

 これは、数十人のプレイヤーたちが連携して廃坑の出入り口をすべて押さえて、廃坑から出てきたモンスターを叩くことで地上への進出を阻止していた結果だった。

 待っていれば、モンスターの方から固まってくるのでプレイヤーからしたらおいしい狩場だった。


 しかし、モンスターが進攻を始める前に廃坑に入っていたプレイヤーの生存率は低かった。


 進攻が始まった当初は、500人以上のプレイヤーが廃坑内にいたにも関わらず、無事に廃坑から出れた者は、100人にも満たなかった。そのほとんどが出口に比較的近かった者だった。廃坑の奥にいたプレイヤーは、例外なく全員死に戻りとなった。


 廃坑内で死に戻りとなったプレイヤーは、道を埋め尽くす程の大量の巨大蟻から逃げる間に迷い、又は進行方向を巨大蟻の群れに阻まれ、最終的に無数の巨大蟻に押しつぶされる形で死んでいき、一時間も経たない内に廃坑内はモンスター以外存在しない場所となった。


 また、廃坑の外で出入り口を包囲しているプレイヤーの数は、西門が開いているので落ちる(ログアウトする)プレイヤーと新たに街から来たプレイヤーで時間の経過で常に変動していた。

 新たに街から来たプレイヤーの中には偶に、周囲の忠告を無視して廃坑の中に直接入っていくプレイヤーもいたが、廃坑の出入口近くに犇めく大量の蟻を見て引き返すのがほとんどだった。それでも意地を張って侵入を試みた勇者(愚か者)もいたが、無数の巨大蟻に噛まれて潰され街に死に戻った。




 【初心者の草原】と【ゴブリン草原】に出る北門は、一部損傷していたが固く閉ざされたままだった。


 【ゴブリン草原】は、他エリアのモンスターが街に侵攻してきているにも関わらず、街から見える範囲にゴブリンの姿は全く見られなかった。むしろ、【初心者の草原】から溢れてきた角兎に侵食されていた。

 【初心者の草原】は、3時間が経過してプレイヤー側が盛り返してきたことで、全体の数を考えれば極僅かかもしれないが、少しずつその数を減らしていた。

 『コエキ都市』から団体のプレイヤーたちが来たため、ある程度の実力をもつプレイヤーが増えて、これまで戦っていたプレイヤー達も戦闘に慣れてきたことで、死亡するプレイヤーの数は減少傾向にあった。

 しかし、未だ門が閉ざされているので、補給が行えないため、ポーションを切らして死ぬプレイヤーが出始めていた。中には、ログアウトするためにわざと死ぬプレイヤーもいたが、現実が深夜だということを考えれば仕方のないことだった。

 また、北門が損傷することになった原因は、モンスターによるものではなく、一部のプレイヤーたちの暴走が原因だった。

 いつまで経っても開かない北門に業を煮やして、暴走したプレイヤー達が門番の制止の声を無視して門に対して魔法を放ったことでできた損傷だった。暴走したプレイヤーたちは、すぐに1人の門番によって一刀のもとに瞬殺され、門は一部炭化しただけで済んだ。


『許可なく門を破ろうする者は、犯罪者として問答無用で斬り捨てるぞ!! 』


 暴走したプレイヤーたちを全員斬り捨てて、全身から怒気を噴出している門番の一喝で、それ以降門を壊そうとするプレイヤーが出ることはなかった。


 また、ソロで角兎の群体と戦っていたラン、勇者、シオンの3人の姿は3時間たった今、【初心者の草原】からは姿を消していた。




 そして、ユリと老人、それとクリスが戦っていた【深底海湖】は、3時間が経過した今――――



◆◇◆◇◆◇◆




 モンスターの侵攻が始まって3時間が経過した現在、【深底海湖】にいるプレイヤーはユリだけではなかった。


 ユリが見る限り数十人のプレイヤーたちが、湖から出てくるモンスターを相手に奮闘していた。


 一緒に戦うプレイヤーたちがこうして増えたのは、ユリと老人とクリスの2人と1体が尽力して、2人と1体だけで約一時間近く前線を保ち続けて、南門の閉鎖を食い止めた結果だった。他の戦闘エリアで死に戻りしたプレイヤーや他の門が閉まり始めてから街にログインしたプレイヤーたちが、開いたままだった南門からぞろぞろとやってきたのである。



 元々、水中に適した水生モンスターの為、いくら陸にあがることができても水中の時よりも弱体化していることが多かった。特にどのモンスターも水中と比べて移動速度が遅くなっていたのと、老人が魔法と銛を巧みに扱い、ユリとクリスを掻い潜ってきたモンスターを撃ち漏らすことなく的確に仕留めてカバーしていたのが大きな要因だった。


 プレイヤーが南門から続々とくるようになってからは、ユリと老人の役はほとんど終わり、数に物を言わせたゴリ押しでモンスター達を湖まで押し戻すことに成功した。


 だが、全てがうまくいったというわけではなかった。

 体長3メートルはある巨大な異常種、『黒色軟牛(ブラックソフカウ)』という名の黒いウミウシが交戦中に湖の近くにあった老人の家だった小屋を踏み潰すというアクシデントがあった。その黒色軟牛は激怒した老人によってすぐに討たれたものの、老人の家は完全に踏み潰されて瓦礫の山となってしまっていた。



「あんまりじゃ……あまりにもこれは酷過ぎる。儂の、儂の家が……」


 瓦礫の山になってしまった元小屋の前で老人は膝をついて項垂れていた。その後ろでは、どうフォローしたらいいかユリがおろおろとしていた。


「これで儂の家が壊されたのは何度目じゃ? 8度目じゃぞ!? いくらなんでも酷過ぎるじゃろ! 儂に何の恨みがあると言うんじゃ! 儂はただここで静かに暮らしているというのに……あの黒色軟牛(ブラックソフカウ)め……儂の家を粉々に踏みつぶしていきおってからに!! あと百回殺し尽くさなければこの怒りは治まらんぞ! 」


 地面に何度も拳を叩きつけて怒りを顕わにしている老人に、同情するユリだが、どう声をかけたらよいのか分からず、老人が落ち着くのをただ待つことしか出来なかった。





 それからしばらくして、ようやく老人が落ち着いた頃に、ユリはおそるおそる慎重に言葉を選びながら老人に声をかけた。


「あー……爺さん? 」


「…………なんじゃ」


 声をかけられた老人は、ぶすーっと不貞腐れた表情で振り向いた。老人の目が少し赤くなっていることは、老人の為にもユリは見なかったことにした。


「家が壊れたのは残念だったけどさ。壊れたら建て直したらいいんじゃないのか? ――ほ、ほら! 前よりもっと丈夫で立派なのを作ればそうそう壊れることはないだろ? 俺も手伝うからさ」


「建て直す」とユリが言うと、あからさまに諦めを多分に含んだ辛そうな表情になる老人に、ユリは慌てて言葉をつけたしながらユリなりに老人を励ます。


「……もっと丈夫な家か……」


 ユリの言葉に老人は考える余地はあると思ったのか、不貞腐れた表情をしつつも呟く。


 しばし無言で、考え込む老人の次の言葉をユリは待った。


「……ふむ、そうじゃの。次はもっと丈夫な、そうそう壊れぬ家を建てるかの。その為には色々やることは多いが、娘の言葉に甘えて娘にも手伝ってもらうことにするかのぅ」


「お、おう! 遠慮なく言ってくれ! 」


 いつもの様子に戻った老人にユリは内心ほっとしつつ、元気よく応えた。


「頼りにしとるからの。――ふむ、儂がいなくともこの様子ならここは大丈夫なようじゃし。休憩する為にも『始まりの町』に行くかの。……儂の休む場所はなくなってしまったしの。娘も一緒に街に戻ってポーションなどの消耗品を補給したらどうじゃ? 」


「ん? ああ、そうだな。……初級ポーションが後3本しかないしそうする。それにもう4時過ぎてるから落ちないとな」


 ユリは仮想ウィンドウを操作して、ポーションの残数と現在の時刻を確認すると老人の提案に頷いた。




「――よし、それじゃあ行くとするかの」


 老人は瓦礫の山からいくつかのモノを拾うと、ユリと一緒に南門へと歩いて向かった。



「なぁ爺さん。家ができるまでは、どこで暮らすつもりなんだ? 」


「……あやつの手を借りるのは、真に不本意じゃが、背に腹は代えられない。しばらくは、街にいる知人の家に厄介になろうと思っている」


「へぇ、ちなみにどのあたりに住むんだ? 」


「南大通りに面した古臭い道具屋じゃよ。あそこの店主の老いぼれ……マチルダとは知り合いじゃ。湖で採れる薬草を条件に出せば、あやつも嫌とは言わんだろう」


「道具屋……ああ、あそこのお婆ちゃんがやってる。爺さんの知り合いだったんだ! 」


「腐れ縁じゃがの」


 そう言って、ふんと鼻を鳴らした老人と共に『始まりの町』に戻ったユリは、その店で老人の新たな一面を知ることになった。




という訳で深夜の前哨戦は最終的にこうなりました。

前哨戦自体はまだ終わってないですが、プレイヤー側もこの突然の事態に対応し落ち着いてきたので一区切りとします。


次話は、リアルになります。

始まりの町に入った後の話も書こうと思ったんですが、長くなりそうだったので思い切ってカットしました。カットした内容は後日談とかでまた別のタイミングに投稿することになるかもしれません。





14/10/20 15/05/18

改稿しました。



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