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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
68/138

67話 「蠢く白と抗う者」

――【初心者の草原】


 そこは、普段の緑あふれる長閑な草原から一変し、見渡す限りの純白の雪原を想起させる白一色に変わっていた。


 草原を埋め尽くす白は、数百数千数万と集まった角兎の大群だった。


 その白の濁流とも言うべき大群は、唸り蠢き、その足で大地を鳴動させて、真っすぐと伸びたその白い角の先を生ある者に向けていた。




 草原に残る者たちは各々の武器を構えて、その数の暴力に抗った。


 多くのプレイヤーは、未だ慣れないモンスターとの戦闘を重ねるうちにいつしか捌ききれなくなり、白き角を体に突き立てられて白い濁流に呑み込まれるか、押し流される。


 生き残ったプレイヤーたちは、押し流されて合流して、いつしか門の周辺に固まって戦うようになっていた。


 だが、大群と言えど、所詮は最弱に位置するモンスター。場馴れした一騎当千のプレイヤーやNPC(・・・)にとっては、苦戦はしても負けることはない戦いだった。


 両手に小刀を持った忍びは、角兎と角兎の間に生まれる僅かな隙間を縫うように移動しながら、すれ違いざまに小刀で斬り捨てていく。隙間のない時は、斬って道を開けていく。角兎が少女に気づいても、流れに逆らい進んでいく少女に流れに従う角兎は決して追いつけなかった。すぐに角兎は流れる先の敵に意識を向けて、少女は更に奥へと進んでいった。


 フードを目深に被った黒衣の魔法使いは、角兎の大群の中をたった一人で詠唱しながら次々とくる角兎の突進を回避して、完成した単体魔法で角兎たちを攻撃していた。黒衣の裾をはためかせ、火に水に土に風にと多種多様な魔法を角兎にお見舞いして暴れていた。


 光沢をもつ青い盾と鎧を身に着けた盾戦士は、白い濁流に呑み込まれながらも一歩も引くことなく、HPも減らすことなくその場に留まり続けていた。突き出される角の切っ先を的確に盾で捕えて、受けて、後ろに流す。ただそれを熟しているだけなのにその守りを角兎たちは一度たりとも破れなかった。


 中華包丁のような分厚い包丁を手にした料理人は、その中華包丁を振り回して角兎を切り裂き、投げナイフのように小振りの包丁を投げては、周囲の角兎を倒していった。「大漁、大漁」とご機嫌に口ずさんでいた。


 そして、2本の大剣を軽々と扱う双剣士は、死をまき散らす暴風となって角兎の大群に真っ向から食らいついていた。


 双剣士、ランの間合い(大剣の届く範囲)に入った角兎は、近づくことすら許されず、その身を光の粒子へと変えて散る。フリルが贅沢に使われた純白のドレス(白ゴス)は、ランが舞うたびにふわりと揺れて、ランの周囲に舞う光の粒子と合わさって幻想的な雰囲気を醸し出していた。



 ランは、気の向くままに前進していたが、ふと何かに気づいてその場に止まった。待っていたと言わんばかりに一斉にランの元に角兎が殺到したが、ランが舞った次の瞬間には、白い光の粒子が吹雪のようにあたりに舞った。


「あれ、さっきアル兄がいなかった? 」


 ランが切り開いてきた道は、角兎によってすぐに塞がれていた。周りを見渡しても角兎が邪魔でよく見えなかった。


「ぶー見えない……」


 ランは、何とか周りを見渡そうとして、ここにきて初めてアーツを行使した。


「《強撃》《剣舞『風』》!! 」


 2本の大剣に赤い燐光を纏わせて、自身にも緑の燐光を纏わせたランは、大剣を先ほどの非ではない速さで振り回しはじめた。


「 纏 め て 吹き飛んじゃえーー! 」


 その言葉と共にランの四方を取り囲んでいた角兎たちは、ランの振り回す大剣によって上空にかっ飛ばされた。それを何度も繰り返して満足したランは、最後に飛んで行った角兎を見て快活に笑った。


「ホームラン! なんちゃって」




◆◇◆◇◆◇◆




 中央に交差する剣の意匠が描かれた青く輝く盾に、傷一つない荘厳な造りの青く輝く全身鎧。

 仁王立ちの姿勢で全方位から襲ってくる角兎の攻撃を防ぎ、受け流して傷つかないその姿は、難攻不落の城砦を彷彿とさせ、モンスターに包囲された状況でも焦りや絶望の表情が見られない毅然とした態度を見せる青髪碧眼の青年は、英雄譚で語られる英雄を想起させた。


 そう。それが例え、盾や鎧が布の服以下の防御力しかなかろうと、鎧の重さのせいでその場から一歩も動けないだけだろうと、青年が勇者(・・)だと言うことは揺るがぬ真実だった。



「キュ――ィィィィィイイイイ! 」


 そんな勇者の近くに、悲鳴とも思える鳴き声を響かせながら青年の死角の方から何かが飛来してきた。

 その何かは、鳴き声に驚いた青年が後ろに振り向いた時には、既に地面に叩きつけられて白い光の粒子となって消えていくところだった。




「…………。今、何が落ちてきた? 」



 それからすぐに大剣を振り回すランがその場に現れ、2人は合流するのだった。

《強撃》

【大剣】スキルで覚えるアーツ

装備している大剣に当たったモノの吹っ飛び率を30秒間2倍にする。

その代わり、対象のダメージは、通常時の0.8倍になる。

MP消費量はあまり多くないが、冷却時間は2分と長い。

時間を稼ぐ時や相手との距離を無理やり置く時に使うことがある。


《剣舞『風』》

【双剣】スキルで覚えるアーツ

素早さが1分間1.2倍になる。

剣舞には他にも3種類あり、『風林火山』を模している。

『風』は素早さ

『林』は隠密性

『火』は攻撃力

『山』は防御力

が上昇するようになっている。

MP消費量はあまり多くなく、冷却時間は1分程なため

多用するプレイヤーは多い。




14/10/17 18/05/17

改稿しました。

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