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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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66話 「兎を狩る死の剣舞」


「今、門の外に出るのは危険だと言ってるんだ! 」


 『始まりの町』の閉ざされた北門の前で全身鎧を身に着けた門番の怒声が響いた。


「だいじょーぶ!! 」


 門番の怒声に怯むことなく言い返したのは、白ゴス姿のランだった。


 【初心者の草原】【ゴブリン草原】に通じる北門は、街の中で一番初めに閉ざされた門だった。

 幸か不幸か、モンスターの進攻が始まる前に一度街に戻ってきていたランは、北門から【初心者の草原】に出れなくなっていた。



「大丈夫でないから言っているんだ! 角兎がいくらモンスターの中で弱い部類だろうと、あれは弱くともモンスターだ。数が集まれば、その存在は危険だ! いくら個の力が強くとも、圧倒的な数の前では無意味だ」


「そんなことない! 角兎なんて何体いたって大丈夫だもん! 」


「はぁ……仮にお前にそれだけの力があったとしても門を開くことはできん。そんなことをするために門を開く危険を冒すことなどできるはずがない」


 折れる気のないランとの問答に疲れたように門番はため息を吐いて、それだけは譲れないと頭を振った。


「うーん。あ、じゃあ、門を開けずに外に出るならいいよね? 」


 名案とばかりに両手をぱんっと鳴らして合わせたランに門番は、頭が痛いとばかりにヘルムを押さえた。


「この街は高い城壁で囲まれて出入り口は四方に設置された門しかない。門が閉まれば、当然出入りは不可能だ」


「城壁から飛び降りたら外に出れるよっ! 」


「死ぬに決まってるだろ!? お前は自殺がしたいのか! 」


「大丈夫だいじょーぶ! 」


 とんでもないことを言い出したランに門番は、ぎょっとして声を荒げた。それに対してランの反応は軽いものだった。


「……分かった。そこまで言うなら城壁の上まで連れて行ってやろう。その後どうするかはお前自身で決めろ」


「やった! 門番さんありがと! 」


 ランには何を言っても無駄だと悟った門番はランを諭すことを諦めて、城壁の上に案内することになった。実際に城壁の上に行けば、この少女も考えを改めるだろう、とその時の門番は考えていた。ランに後ろからついてくるように言った門番は、門の横に作られたドアに向かった。



 無邪気に喜びながらついてくるランを盗み見た門番は、ヘルムの奥で深い溜息をついた。





◆◇◆◇◆◇◆





「おぉ! おおおおーー!! すっごく、たっかーいっ! うわー……確かにリアルで落ちたら死んじゃいそうだね! 」


「お、おう。そうだろ」


 門番に連れられて城壁まで上がってきたランは、目を輝かせて城壁から顔を出して下を覗いた。その高さにビビるだろうと思っていた門番は、その様子に意表を突かれた。



 ひとしきりその高さを味わったランは、【初心者の草原】へと視線を上げて、翡翠のような目をまん丸くさせた。


「草原が真っ白! すっごい真っ白だっ!! 」


 緑生い茂る草原が角兎の白に埋め尽くされていた。もこもことした無数の白い塊(角兎)がランの眼下で蠢いていた。


 城壁の上からは、その角兎で埋め尽くされた草原の中で戦うプレイヤーの姿も一望することが出来た。


 そのプレイヤーの数は多く、特に真下の北門付近に密集していた。

 『コエキ都市』から移動してきただろうプレイヤーの集団が、白い濁流をかき分けるように門へと向かってきている姿も見えていた。



「うぅー、私も戦いたいっ!! 」


 何百人ものプレイヤーが戦っている姿を見たランは、体の奥底から湧き上がってくる興奮を抑えきれなかった。背中に差していた2本の大剣に手を伸ばして、その場で抜き放った。


「お、おい! お前何をするつもりだ! 」


 突然、大剣を抜き放ったランに門番は戸惑った様子で声をかけた。その手は、腰の剣にあてられ、いつでも抜刀できる構えを取っていた。



「もう我慢できない!! 門番さん案内ありがとう! じゃあね! 」


 ランは、城壁まで案内した門番に礼を言うと、一切の躊躇を見せずに城壁から飛び降りた。


「お……おいっ!! 」


 ランの行動を理解できずに一瞬、呆気にとられた門番は、理解すると慌てて城壁に駆け寄り身を乗り出して真下を見た。


 城壁の真下には、ランの姿があった。多少HPが減っているもののピンピンしているようだった。


 門番は、ランが無事な姿を見て安堵のため息をついた。


「し、心臓に悪い。あの少女、破天荒すぎだろ……」


 城壁の上から門番が見守る中、ランは両手に2本の大剣を持って角兎の群れに単身で突っ込んでいった。



◆◇◆◇◆◇◆




 城壁から飛び降りたランは、一時の浮遊感に楽しそうな笑い声を上げ、地面に叩きつけられる瞬間には、両手に持った2本の大剣を体の前で交差させて【盾】で覚える武技(アーツ)《ガード》を使った。


「《ガード》ッ!――うっぷ!? 」


 《ガード》によって落下のダメージは大幅に減衰し、ランのHPは2割ほど削れただけですんだ。



「さっきの衝撃はビックリしたー」


 けろりとした様子で立ち上がったランは、パンパンと手で服の乱れを直した。そして、地面に落ちてる2本の大剣を拾うと調子を確かめるように2、3度素振りをする。


「よ~しっ。レベル上げ頑張るぞー!! 」


 簡単に戦闘準備を済ませたランは、自分にそう言うと早速、近くにいた角兎を蹴散らし始めた。ランが大剣を振り回すと、それだけで角兎が数体まとめて木の葉のように吹き飛ばされた。


 立ち塞がる角兎を意にも介さないランは、角兎を一切寄せ付けずに一度も止まることもなく一歩一歩確実に前進していった。


 ランの通った後にぽっかりと角兎がいない空間ができるほどにランは角兎相手に無双していた。


 ランが新たに【剣】の派生スキルである【双剣】と【大剣】の2つを取得したことで、角兎を一撃で屠る攻撃力を手に入れたことで生まれた状況だった。



 軽やかに舞うランの周囲には、角兎が消滅する際に発生する白い光の粒子(エフェクト)が舞っていた。


 白い燐光が舞う中の可憐な少女(ラン)が舞う剣舞は、とても幻想的で、近づくモノを斬り飛ばす死の剣舞だった。




 兎を狩る剣舞はまだ始まったばかりだった。







ランの物理攻撃力は、魔法やアーツを除けば現在トップクラス。(トップではない


【初心者の草原】で戦っているプレイヤーや新たに参戦するプレイヤー(第二の町から)の数は、他の戦闘エリアと比べて、一番多いですが、死に戻りするプレイヤーはそんなに多くない。

角兎の攻撃力と防御力が低く、異常種の出現率も他と比べれば極端に低いのが主な理由。(といっても数の暴力で少なくないプレイヤーが死に戻りしている。




14/10/15 18/05/17

改稿しました。

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