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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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64話 「開門クエスト」



 森から出てきたタク達は、固く閉ざされた門を見て、それぞれ悲鳴に似た声をあげた。

 タク達が門が固く閉まっているという絶望(現実)を受け入れるのには、しばしの時間が必要だった。



「まぁ、タクさん、ラリリさん! それにダイゴさんにチェルシさんまで! 奇遇ですね」


「おータクじゃないか! タク達も森に来てたんだな」


 そんなタク達に声をかけてきたいのは、緑髪の巨乳少女と赤髪の華奢な青年だった。


「あ……お、おう。フーちゃんとリンか」


 2人の顔に見覚えがあったタクは、両手を上げて応える。コンビを組んで活動している2人とは、β時代からの知り合いだった。


 リンと呼ばれた華奢で線の細い赤髪の青年は、タクの声に元気がないのに気づいて、こてんと首を傾げた。


「ん~どうした、タク? 元気がないな」


 リンは、顎に指を当てて考えるような素振りでタクに中性的な顔を近づけた。


「もしかして門の件か? 」


「ああ、そうだよ。ったく、ここまで来たってのに街に入れないとか……はぁ」


 タクは、肩を落としてため息をついた。そんなタクを見て、リンはニヤリと笑ってタクの肩に手を置いた。


「やっぱそうだよな! 戻ったら門閉まってるからあたし(・・・)達も困ってたんだよ。ねっ! ちょっと手伝ってくれないか? 」




◆◇◆◇◆◇◆




「すみません。街に入れて欲しいんだけど、中に入れてもらえないか? 」


 そう言ってタクが閉じられた門の正面で仁王立ちしている門番に尋ねた。


「む、冒険者か? 現在、この門はモンスターが接近してきているため開けることはできない。モンスターが街に侵入する危険があるからな。すまないが、その願いを聞き入れることはできない」


 申し訳なさそうにしていたが門番は、タクの願いを聞き入れなかった。


「やっぱり、ダメか……。なんとか街に入る方法はないのか? 街に入れるのなら何でもする」


 タクは、なおも食い下がりながら門番に頼み込んだ。


「むぅ……ないこともない」


「マジか! なにをしたらいいんだ」


「それはだな―――」


 そう言って門番は、門を開ける条件をタクに教えた。


 門番と話終えたタクは、メインメニューを開き、クエスト欄で新しいクエストが出現したを確認した。


『門にモンスターを近づけるな! 』――NEW!

 大量のモンスターが『始まりの町』西門に接近してきた。

 街にモンスターを侵入させないために西門は閉められてしまった!

 門を一時的に開けてもらうために西門に15分間モンスターを近づけるな!



 希望が見えてきて、ほっと息をついたタクは、見守っていたリン達の元に戻った。


「リン。お前の言った通り、クエスト受けてきたぞ」


「で、どうする? 」


「勿論やるよ。やらないと街に入れないし、ログアウト出来ないからな。みんなもそれでいいよな? 」


 自分のメンバーに反論がないかタクは聞いたが、タクが門番に話に行っている間にリンとフーからクエストの概要を聞いていた4人は、全員首を縦に振って応えた。カラクもあくびを噛み締めながらもクエストを受けることに賛成していた。



「じゃ、決まりだ。今回はよろしくなっ! 期待を裏切ることしたら承知しないんだからな! 」


 リンは子供っぽい笑顔を顔に浮かべながら、タクに手を差し伸べた。


「俺のパーティーがリンの期待を裏切るわけないだろ。リンの方こそへますんなよ」


「へっ、いうじゃねぇか」


 タクは、やる気に満ちた表情でリンの握手に応じた。




◆◇◆◇◆◇◆




「ガウッ! 」


「あーもうっ! うんざりだよ。たかが15分って思ってたけど、モンスターの数多すぎ! はぁ……眠い」


 森狼の噛みつきを躱しながらカラクは、うんざりとした声音でぼやく。


「はい、お疲れさん。《連撃》」


 カラクは、森狼の首筋に右手の短剣を振り下ろして斬り下ろす。赤い軌跡が森狼の首筋に残り、《連撃》にの効果によって目にも留まらぬ速さで、赤い軌跡に沿うように剣を斬り上げて森狼を倒した。


「タクー、そっちの方に8体。モンスターの団体さんが来てるよー」


 別の場所で木鹿3体を相手にしているタクに向かって、カラクは自分の索敵範囲に入ってきた情報を伝える。



「マジか!? というかさっきから俺のとこ団体さんばかりなんだけ、どっ! 」


 タクが、最後の木鹿を倒したところで、正面の森から森狼が3体、隠猿が2体、森蜘蛛が2体と大熊(ビックベアー)が1体が現れた。


「げっ!? 熊とか蜘蛛まで出てきやがった! 」


 その団体さんを見て、タクは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ガアアアアア!! 」「「ガウガウッ! 」」


 森から出てくるなり、大熊と森狼がタクに猛然と突進してきた。


「ちっ。《怒声》、失せろ雑魚があああああああ!! 」


 小さく舌打ちしたタクは、【大声】スキルのアーツ《怒声》を使って向かってきた大熊と森狼を怯ませた。


「《スラッシュ》! っと《連撃》! ――更に《チャージング》! 」


 タクは、森狼の一体を《スラッシュ》で倒し、水平に横一線で森狼2体を仲良く横薙ぎの《連撃》で斬り捨てた。《怒声》の効果が切れて、タクに大きな前腕を振り下ろしてきた大熊に対して盾を掲げて、その前腕を防ぐ。《チャージング》の効果で前腕を弾き飛ばして大熊に大きな隙を作った。


「アーツは使えないが、削りきってやるよおおお! 」


 タクは叫びながら仁王立ちしている大熊の懐に潜り込むと、片手剣で無防備な腹を斬り付ける。

 タクは一撃一撃を途切れることなく繋げて、短時間で大熊のHPをガリガリと削っていく。


「ゴアアアアアアアア!! 」


 しかし、大熊が反撃する前に残りHPを削りきることができず、大熊の反撃を許した。懐に入っていたタクの頭上から大熊は両腕を振りおろした。


「やっべ、《ガード》! 」


 タクは、その攻撃を盾で防いで《ガード》でダメージと衝撃を緩和させる。


「くぅぅ……! 」


 それでもその衝撃は強力で、押し潰す様な衝撃をタクは歯を食いしばって堪える。


 両腕を振り下ろした大熊は、今度は覆いかぶさるように上からタクに噛みつこうとした。大熊の鋭く尖った犬歯がタクの目に映った。


「お前から弱点の顔を近づけてくれて助かった、よっ! 」


 タクは、それに怯むことなく、片手剣を熊の顔面に突き刺した。


「ガアアアアア!? 」


 片手剣を眉間に刺された熊は大きく仰け反り悲鳴を上げ、そのまま消滅した。


「よし、あと猿と蜘蛛が残って……た? 」


 大熊を倒したタクは、残った猿と蜘蛛を警戒するように前方に向き直って、蜘蛛が火だるまになっているのを見た。その光景は、蜘蛛が焼失したことですぐにおさまった。


「タクさ~ん。残りは倒しておきました~」


 その光景に目を白黒させたタクだが、後ろから聞こえてきたチェルシの声で納得した。


「チェルシ援護ありがとう! だけど、火魔法使う時は周りに燃え移らないように気をつけろよ! 」


 タクがそういうと、後ろから動揺した様子のチェルシの声が聞こえてきた。


「あ、そうでした! は、はい!! 気を付けますっ! 」


 あわわわわ、と声を出して意味もなく両手を振りまわして慌てるチェルシの姿を想像して、タクは苦笑した。


「タク~。またまたそっちに団体さんだよ~」


 タクが盾と片手剣を持ち直しているとカラクから再び敵の来訪を告げられた。

 そして、そのカラクの言う通りモンスター6体が新たに現れた。


「げっ!? 異常種の森狼もいんのかよっ!? 」


 新たに出てきたモンスターの団体の中には、巨大な体躯で狂気に染まった真っ赤な双眸を持つ赤黒い毛並みの狼。森狼の異常種クリムゾンウルフ(血紅狼)に気付いたタクは驚きで声を上げて、嫌そうに顔をしかめた。



 ぷつんとタクの中で、何かが切れた音がして吹っ切れた。


「――ああ、もう! いくらでもかかってこいやあああ! 」


 やけっぱちになったような、自分を叱咤するような、大声を上げたタクは、森狼を引き連れてくる血紅狼に自らぶつかりに行った。


「タク、無茶するな! 」


「えええ!? タクさ~ん! 」


 タクの突然の暴挙にダイゴとチェルシが慌ててタクの援護に回った。


「悪いなみんな。ちょっと暴れさせてもらわああああ!! 」


 開き直ったタクは、両目を爛々と輝かせて口には獰猛な笑みを浮かべ、駆け出した勢いそのままに跳躍した。


 

「シッ! 」


 血紅狼の頭上まで跳躍したタクは、空中で体を捻って回転させ、その勢いのまま片手剣で血紅狼の顔を切り裂いた。


「UGA!? 」


「はははは!! まだまだ行くぞ! 犬っころ!! 」


「GYAN!? 」


「まだまだぁ!! 」


「UGA!? ……GRURURuru」


「はっはっはっ! どうしたっ! 反撃してこいよ! 」


「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!! 」


「《ガード》! そんな遠吠えが聞くわけないだろ! 」


 タクは、血紅狼に反撃させる隙を与えることなく畳みかけていった。時に【大声】でスタンさせ、時にアーツを使って動きを封じたりしながら、血紅狼相手に一方的に攻撃していった。



「タク……そんなに(まと)の周りを動き回られると狙いにくい。こちらのことも少しは考えてくれ」


「ま、まぁダイゴさん。タクさん連携に気を使ってあんまり前にでてなかったんですから、今回くらい大目に見ましょうよ」


「うっはあ! やっぱタクはすっげぇな! 見てたらあたしももっと戦いたくなってきたな! フー! あたしも行ってくる! 」


「あ、お姉ちゃん。持ち場をきちんと守らないと……もう、仕方ないですねぇ。お姉ちゃんの分を私が頑張るしかありませんね」



「いつみても本気になったタクには、敵いそうにないねぇ~。一見がむしゃらのようで、狼の攻撃はしっかり盾で軽減させてるし……よくあんな芸当できるんだよ。私には無理だね」


「まぁ、タクは、この辺りでならソロでも全然余裕だしねぇ~。あ、ラリリの方から2体来てるよー」


「あいよー」



 そんな感じでタクのパーティーとリンとフーは、クエスト『門にモンスターを近づけるな!』を無事にクリアした。



《怒声》

【大声】スキルで覚えるアーツ

《恐喝》と似ているが、相手の数に関わらず、効果範囲のモンスター、プレイヤー、NPCを一定確率でスタンさせる。スタンする確率は、スキルレベルと対象によって変動する。

効果範囲に入っていると味方もスタンする可能性があるため使いどころが難しいアーツ



《スラッシュ》

【剣】スキルで覚えるアーツ。《連撃》と一緒で初めに覚えるアーツ

通常攻撃より速く強力な単発攻撃を繰り出す。

通常攻撃と違い技後硬直が存在し、ダメージは通常攻撃の1.5倍程度の為

《連撃》と違い、序盤ではよく使われるが慣れてくると使わなくなるプレイヤーが多い。




14/10/13 18/05/17

改稿しました。

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