54話 「情報交換」
『始まりの町』に無事についたユリは、そろそろ夕食の時間ということもあって一旦ログアウトした。
◆◇◆◇◆◇◆
SMOからログアウトしたトウリは、タクヤがまだ起きてないのを確認した後、1階に降りて夕食の支度を始めた。
「あ、お姉――じゃなかったお兄ちゃん。もうご飯できてるの? 」
トウリが料理を始めて30分程経った頃、2階からランが降りてきた。
「ラン。……お前今、言い間違えたよな? 」
「き、気のせいだよお兄ちゃん♪ 」
お姉ちゃんと呼びかけて、台所で作業をしているトウリから鋭い視線を向けられたランは、笑って誤魔化した。
「それにしてもと~っても香ばしいいい匂いがするね! 今日のご飯って何? 」
椅子に座ったランが鼻をひくつかせながら尋ねた。
「今日の夕食はチャーハンだぞ」
「チャーハン! 焦げ臭いにおいがしないねっ」
周囲の匂いを嗅いだランが驚く。ランの中では、チャーハンとは焦げた匂いがする料理のようだ。
「当たり前だっ!! お前が作ったチャーハンと一緒にするなっ! 」
自分たちが作ったあの焦げたチャーハンが強く印象に残っているのだろう発言とは言え、トウリは思わず声を荒げた。
「あ、そうだよね。お兄ちゃんの料理は全部おいしいもんね」
「はいはい。ランも女の子ならおいしいの作れるようもうちょっと頑張れよ」
「うん。私もおいしい料理をお兄ちゃんに食べてもらえるよう頑張るよ! 」
元気よく答えるランを見て、トウリは複雑そうな表情でため息をついた。
「本当に……そんな日がいつか訪れるのかな……」
トウリの呟きは、チャーハンを炒める音でランに聞こえることはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
「ラン。そんなにチャーハン取ったら、カオル姉達の分がなくなるぞ」
「あ、そうだった……うー残念」
自分の分の皿にチャーハンをたくさん盛っていたランは、トウリに指摘されてしぶしぶ取りすぎた分を戻す。
完成したチャーハンを4人分に分けて皿に盛りつけて、食卓に並べていく。
ついでに作った味噌汁もお椀に注いで食卓に並べた。
ちょうど並び終えたところで、カオルとタクヤが降りてきたので、4人で揃って夕食を食べ始めた。
「ん、おいしい! 」
「やっぱりチャーハンってのはこうだよなっ」
「どうして焦げずにこんなにパラパラになるのか不思議だわ」
トウリのつくったチャーハンは、3人にとても好評だった。
昼食と比べたら、トウリの作ったチャーハンは家庭的ですごくまともな料理だった。トウリ自身も自分の作ったチャーハンがいつになくおいしく感じていた。
夕食が食べ終え、片づけも済むと、ユリ達はそれぞれお茶やコーヒーといった好みの飲み物を飲みながら情報交換を兼ねた雑談を始めた。
「トウリちゃん、あの後何か進展はあったの? 」
「うん、あったよ。やっぱりイベントが発生した原因は、俺の出会った魔術師が原因だったみたいだ」
食後のアイスコーヒーをちびちびと飲みながらトウリは答えた。
「えっ!? ホントお兄ちゃん!? 」「マジかっ!? 」
初耳のランとタクヤは、トウリのその言葉に喰いついた。
「で、それでどうなったの? 」
カオルも続きが気になるようで、テーブルから少し身を乗り出して、トウリに続きを促した。
その様子にカオル姉もやっぱゲーマーなんだなという感想を抱きながらトウリは、3人に今日、コエキ都市で起きた出来事をざっくりと話した。
「……この情報は、あんまり流さない方がいいな」
「そうよね。これはシオンちゃん限定のクエストのようだし、魔術師を狙うプレイヤーが多いと、モンスターから街を防衛するプレイヤーが減るものね」
「初の大規模クエストだし難易度はそんなに高くないんだろうけど、一気に四方向から攻めてくるようだからな。正式稼働からのプレイヤーは未だ戦闘に慣れてない奴も多いし、防衛するプレイヤーの数が多いに越したことはない。質が低いなら数で補うしかないしな」
「陣頭指揮してくれるようなプレイヤーが各門に居たらいいのだけど、時期的に期待は薄いものね。魔術師の討伐は、少数精鋭で行くのがベストね」
トウリが話し終えると、タクヤ達は楽しそうにお互いに意見を出し合い、そういう結論に落ち着いた。
「でも、そんな初めから決められた人しかボスを倒せないってのはいいのか? 」
タクヤとカオルが会話を聞いていたトウリは、思ったことを2人に尋ねた。
「断言はできないけれど、恐らく大丈夫よ。イベント内容に言及されてなかったってことは恐らく魔術師自体は隠しボスみたいな扱いだと思うわ。4つの門を目指す強いボスが各エリアから現れるそうよ。そのボスは多分トウリちゃんの言う異常種になってると思うからそのボスモンスターを倒すことがプレイヤー全体での目標になると思うわ」
へ~と3人が口を揃えて感嘆の声を上げる。ランやタクヤもこのイベントで各エリアのボスが出ることは初耳だった。
「姉ちゃん、よくそんなこと知ってるな。そんなことどこで知ったんだ? 」
「大したことじゃないわ。NPCから聞いたのよ。SMOのNPCって結構色々なこと知ってるのは知ってるでしょ? 各門にいた門番や冒険者に話を聞いたら、こちらに来てるモンスターの中にボスモンスターを見たとか、肌が黒かったとか色々教えてくれたわ。
戦闘エリアの奥はもうモンスターで溢れかえってるそうよ。私の知り合いがすでに確認を取ってるわ。実際にエリアの奥からモンスターが街を目指して進行中みたいよ。その集団の中にまだボスは確認されてないけど、イベントが始まれば多分異常種になったエリアボスが現れると思うわ」
「「「えっ? 」」」
カオルがさらりと語った内容に驚いた3人の声が重なった。
3人の中で一番理解が早かったのはタクヤだった。
「そうか! あのイベント開始までの残り時間は、モンスターが街を襲撃を始める時間であって、モンスターが街の近くまで進行し始めるのはその前からだったのか! 」
イベントの告知の内容から、モンスターが進行を始めるのは残り時間が無くなってから、という先入観をタクヤ達は抱いていた。
「あーくそっ、一本取られた。もうモンスター達の進行は始まってたのか」
「いつもよりモンスターちょっと多いなーって思ってたけど、あれってイベントの影響だったんだ……」
「イベントが始まってないのにそんなのありなのかよ」
ゲーム経験の少ないトウリは、それを卑怯と思ったが、他の2人の反応を見ると驚きはしたが、別段おかしなことではないという感じだった。
こういうことは当たり前なのかとトウリは、もやもやしつつも理解した。
「あら、もうこんな時間ね。約束があって、そろそろログインしないといけないから、先にお風呂に入らせてもらうわね」
友人との約束があったカオルは、約束の時間が迫ってるのに気付くと席を立った。カオルと一緒にお風呂に入りたかったランもカオルに続いて席を立ちあがった。
「私もカオル姉と一緒に入る! 」
「ふふっ、いいわよ。ランちゃんも一緒に入りましょうか」
カオルは嬉しそうに笑って、ランを連れて着替えを取りに2階に上がっていった。
「あ、そうだ。タク、今回のイベントでシオンと組むことになったからちょっと連携のコツを教えてくれないか? 」
「ああ、別にいいぞ。コツだけじゃなくて最低限のマナーも教えてやるよ。どうせ知らないんだろ? 」
「そうだな。教えてくれると助かる」
「おっけおっけ。じゃあ、先にマナーから教えてやる」
カオルとランが風呂から出てくるまでの間、タクヤはパーティーを組んだ時のマナーを含んだ最低限の常識と連携のコツをトウリに伝えたのだった。
運営は偶に予想の斜め上をいくことをすることがあります。
今回のイベントは、プレイヤーに告知された時点から、【深底海湖】【豊かな森】【アント廃坑】【初心者の草原】【ゴブリンの森】のモンスターのポップ率が大幅に上がります。稀に異常種も出てくるようになります。
前回のユリの兎の遭遇率の高さはこれが影響してます。
といっても【初心者の草原】は、元々ポップ率が高いので変化には気づきにくいです。
14/8/30 18/04/19
改稿しました。




