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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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51話 「手がかり」





――『コエキ都市』



 降って湧いたイベント発生。

 その知らせにコエキ都市にいたプレイヤーのほとんどが忙しなく動き始めていた。そんな中、ユリは目の前の展開されたイベント内容を見て首を傾げながらのんきに歩いていた。


「うーん……このタイミングだとやっぱり俺が原因なのか? 」


 廃墟で見つけた隠し部屋で怪しい魔術師の男と会って、そう時間も経たない内に来た知らせにユリは、関連性を疑っていた。これがタクやランであればこの時点で間違いないと断言しただろうが、ゲーム知識に疎いユリはその関連性に確信が持てなかった。


「偶然かもな。まぁ、誰かに聞いてみるか。とりあえず、予定通りに組合に行ってみるか。もしかしたら何かわかるだろ」


 一人じゃ結論はでないと思ったユリは、ひとまず置いておくことにした。そして、街に来た当初に予定していた組合に向かうことにした。


「ひとまず大通りに出て時計塔まで戻るか」


「きゅう! 」


相槌を打つように鳴いたクリスをユリはひと撫でして、薄暗い路地裏から明るい路地へと出て行った。







 道幅の広い方へ、広い方へと、歩いていくうちに大通りへと出た。

 10分程かかってユリは、中央に立つ大きな時計塔まで戻ってきた。


「えーっと、組合は……あ、あそこだな」


 キョロキョロと周囲の建物を見て回ったユリは、よく目立つ組合の建物をすぐに見つけた。

 建物の一番よく見える位置に掲げられた組合の紋章を確かめようとしたところで、ユリの視界に突然仮想ウィンドウが展開された。


「うん? 何だこの画面? 」


「きゅぅ? 」



『フレンドのRUKAから通信が来てます。Y/N 』


 邪魔されたことに若干眉をひそめつつも内容を確認するとルカからの通信だった。


「ルカ姉から通信? あ、フレンド通信か」


 初めてのフレンド通信に少し驚きながらもユリは、YESを押した。

 すると、ユリの耳元からルカの声が聞こえてきた。



『あ、ユリちゃん? 私の声、聞こえてる? 』


「ん。大丈夫、ちゃんと聞こえてるよルカ姉」


『よかった。ところで、ユリちゃんはイベントのお知らせはもう確認した? 』


「うん、もう見たよ」


『見たのね。今回のイベントでは、始まりの町にモンスターが押し寄せてくるようだけど、ユリちゃんはこのイベントに参加するつもり? 』


「とりあえず、参加してみようかなーって思ってる」


『そうよね! 折角の初イベントだものね! ユリちゃんは、イベントの始めは、どこにいるつもりでいるの? 』


「まぁ、面白そうだしね。まだ特に考えてないけど、ルカ姉はどうするつもり? 」


『私もまだ決まってないわ。だけど、いつものパーティーと一緒に行動することになると思うわ。ユリちゃんとも一緒に組ってみたかったんだけどね。ごめんなさい』


「いや、気にしなくていいよ。元からソロでいくつもりだったし」


『そっか。……ユリちゃん、これからの予定は? 来たばかりだけど、もう始まりの町に戻るつもりだったりするの? 』


「いや、ちょっと組合に一度行ってみようかなって……あ、そうだ。ルカ姉にちょっと相談したいことがあるんだけど、今は時間大丈夫かな? 」


『え、ユリちゃんが私に相談? ええ、ユリちゃんの相談ならもちろん大丈夫よ! それで、どんな相談なの? 』


 ユリから相談があると言われたルカは、通話の向こうで一瞬驚いたが、すぐに喜色を滲ませた声音で言葉を返した。


「ありがとうルカ姉。イベントの知らせがくる直前にあった出来事のことなんだけど……」


 

 ルカとの通信中、話しながら移動していたユリは、組合の入口のすぐ近くまで来ていた。入口から中を覗くと人でいっぱいで、中の喧噪がここまで聞こえてくるくらいに騒がしかった。

 

 中での通話は無理かな、と携帯電話の感覚で判断したユリは入口近くで立ち止まって、その場でルカに廃墟で起こった一連の出来事を相談したのだった。




◆◇◆◇◆◇◆




「――と、いうことなんだけど……ルカ姉、これってイベントと何か関係性があると思う? 」


 

 廃墟で起きた出来事を包み隠さず話し終えたユリは、一拍置いてからルカに尋ねた。


『……ねぇユリちゃん、そもそも何でそんなことを街でしてるのよ』


「いやー……ちょっとした好奇心? 」


 少ししてから返ってきたルカの呆れた声音に、ユリは少し居心地悪そうにして答える。


『この街にそんな隠し部屋があるなんて初耳よ。攻略サイトにも乗ってない情報よ。街の探索自体はしているプレイヤーがいるようだけど、大した発見はないようなのよね。もしかしたら、秘匿していたのかもしれないけど、どの道、情報なしでそんな場所を発見したユリちゃんはすごいと思うわ! 』


 ルカ自身も街の探索はそこそこしていたので、偶然とはいえ、あっさりと隠し部屋を見つけたユリを呆れつつも称賛した。


『まぁ、それで隠し部屋の出来事だけど……その怪しい魔術師のセリフを考えると、イベントと大きく関係していると思うわ。その魔術師が言ったことにユリちゃんに心当たりがないのがよくわからないけど……。そう言えば、隠し部屋でアイテムが色々手に入ったのよね? もう全部チェックしてみた? もしかしたらその中に何か他の手がかりがあるかもしれないわ』


「あ、そういえば、何か読めない文字が書かれた紙束があったな」


 ユリは、ルカに言われてクリスが見つけた紙束のことを思い出した。


『読めない文字? ああ、こっちの世界で使われてる言語のことね。この辺りの共通語だったりしたら、NPCなら読めるかもしれないわね』


「道理で見慣れない文字なわけだ。でも、それなら爺さんに聞けば……」


 そこまで言いかけて、ふとユリは目の前の建物を見上げる。組合の紋章が掲げられたでかくて、立派な建物だった。


「と思ったけど、折角組合の目の前にまで来てるんだし、組合の人に聞いてみるか。ルカ姉、取りあえず組合の人に聞いてみるよ」


『そうしたらいいと思うわ。もし何か重要なことがわかったら、食事の時にでも教えてね。またねユリちゃん』


「またねルカ姉。わかったことは夕食の時に話すよ。ありがと」


『どういたしまして』


――プツッ


『RUKAからの通信が途切れました』


 耳元で切れる音がすると新たに仮想ウィンドウが表示され、ルカとの通信が終わったことをユリに知らせた。


 ユリは、その仮想ウィンドウを消してメニューを新たに開いた。

 ルカに言われて、ユリは改めて隠し部屋で入手したアイテムを一覧表で確認した。


「えっと、あそこの部屋で見つけたアイテムは下の方にあるよな」


 取得順にズラーっと並んだアイテムを下にスクロールさせていく


「乱雑で分かりにくくなってきたな……っと出た出た」


 一番下までスクロールしたところで、やっと隠し部屋で収集したアイテムが見つかった。



・謎の液体が入ったガラス瓶×6

・空のガラス瓶×23

・中級錬金セット

・読めない本

・中級ポーション×5

・初級ポーション×10

・中級マナポーション×15

・初級マナポーション×25

・読めない本

・読めない本

・読めない本

・銅のインゴット×8

・読めない本

・読めない本

・草×13

・草×15

・読めない本

・鉄のインゴット×5

・読めない紙束

・銀のインゴット×3

・椅子×4



「ちゃんと見てなかったけど、名前が被っているアイテムがやっぱり多いな。これってやっぱり【発見】スキルのレベルが足りないせいだよな。……確か、アイテム名を押したら詳細が出るんだっけ? 」



 名称がダブっているアイテムが多いことにユリは改めて驚いた。


 豊かな森で植物の採集に励んでいた時にユリは、あることに気づいていた。

 採取した際に葉の形や花の色が異なるものが、アイテムボックスにしまうと別々に記載されつつも同じ『薬草』という名称で記載されたりするということに気づいていた。名前が被っている最たる例が『木の実』であり、大小形様々な木の実は、一律してアイテムボックス内では『木の実』として記載されていた。


 これは、【発見】スキルのパッシブ効果である《簡易アイテム鑑定》がそのアイテムの詳細を開示する最低水準を満たしていないことで起こる現象だった。

 鑑定が必要なアイテムはモンスタードロップやクエスト報酬、店売りを除いたアイテムで、それに応じた特定の鑑定系のパッシブ効果《アイテム鑑定》《武具鑑定》《防具鑑定》《道具鑑定》《言語理解》が必要になってくるのだ。


 その水準を満たさないアイテムは未鑑定とされて、十分な情報が得られないようになっていた。


 しかし、水準を満たさず未鑑定状態で名称は同じとは言え、アイテムの外装はしっかりと違いがあり、アイテム詳細に記載された内容も多少違っていた。


 そんなわけで各アイテムの説明にはどんなことが書かれているかをユリは、確認してみることにした。



・謎の液体の入ったガラス瓶

 禍々しい黒い何かがガラス瓶の中に入っている。

 しばらく見ていると、黒い液体が蠢いているように見える。



・空のガラス瓶

 中身が何も入っていないガラス瓶。

 液体を入れる容器として使われる。



・中級錬金セット

 より錬成できる物が増える。

 器具もより性能がよくなっている。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 所々、魔方陣や絵などが描かれているページがある。


・中級ポーション×5

 初級よりも回復量が格段に上がっている。

 とても青臭い。


・初級ポーション×10

 即座にHPが回復する回復薬。

 とても青臭い。


・中級マナポーション×15

 初級より回復量が格段に上がっている。

 とても苦い。


・初級マナポーション×25

 即座にMPが回復する回復薬。

 とても苦い


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 魔方陣や呪文らしきものが書かれている。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 びっしりと文字が書き込まれている。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 所々、破けているページがある。


・銅のインゴット×8

 鉱石から錬金術によって抽出した銅。

 純度は高い。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 モンスターの絵が大きく書かれている。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 びっしりと文字が書き込まれている。


・草×13

 どんな効果を持つのか分からない草。

 微弱だが、魔力を感じる。


・草×15

 どんな効果を持つか分からない草。

 ツンとした匂いを放っている。


・読めない本

 見たこともない文字で書かれている本。

 所々、魔方陣や絵などが描かれているページがある。


・鉄のインゴット×5

 鉱石から錬金術によって抽出した鉄。

 純度が高く、微弱だが魔力を帯びている。


・読めない紙束

 何百枚にもよる量の紙にびっしりと見たこともない文字が書かれた紙束。

 所々、魔方陣や呪文らしきものが書かれているページがある。


・銀のインゴット×3

 鉱石から錬金術によって抽出された銀。

 純度が高い。


・椅子×4

 木製の椅子。

 



 一通りアイテムの説明を読んだユリは、腕を組んでしばらく考えこむと、一言。



「全く分からないないな」


 清々しいほどにあっさりとユリは、そう言い切った。やはり未鑑定のままで情報を得ようとするのは厳しかったみたいだった。



「本なら読める人がいるかもしれないし、組合の人に聞いてみるか」


 ユリは組合の人にも相談することを決めて、中へと入って行った。


パッシブ効果:《アイテム鑑定》《武具鑑定》《防具鑑定》《道具鑑定》《言語理解》


 主にアイテムの詳細を見るために必要。

 スキル【鑑定】【鍛冶】【裁縫】【錬金】等のスキルのパッシブ効果としてついている。スキルレベルによって効果は変動する。


《アイテム鑑定》は、アイテムの名称や詳細が詳しく記載される。

他の《武具鑑定》《防具鑑定》《道具鑑定》のように特化していない分、詳細があいまいだが他とは違い、幅広いアイテムを鑑定することができ、採集した素材アイテムの名称や詳細も見ることができる。


《武具鑑定》《防具鑑定》《道具鑑定》

などは特定の種類のアイテムの名称や詳細が詳しく表示されるようになる。また、それに関連した素材アイテムについても詳細を知ることができる。


 一度プレイヤーに鑑定されたアイテムは、制限されていない場合は他プレイヤーに渡しても変わらず名称や詳細が詳しく表示されるようになっている。


クエストのキーアイテムに限っては、《鑑定》系がなくとも名称のみ分かるようになっている。


《言語理解》

SMOの世界の言語を理解できるようになる。文字や言葉がわかるようになる。

スキルレベルによって理解度は大きく変動し、足りないと全く読めなかったり、一部分しか読めなかったりする。

 


14/8/19 18/04/16

改稿しました。

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