49話 「イベントフラグ? 」
路地裏の突き当りにひっそりと建っていた廃墟。
その中でユリは、棚で隠されていた隠し扉を見つけた。
その先にある『何か』を見るために、暗闇の中、ユリは階段を降りていた。
「いつまで続くんだよこの階段……」
「きゅぅ」
暗闇の中、階段を延々と降り続けてユリがうんざりとし始めた頃、ユリの視線の先に光が見えた。
「光だ! もしかしてついにっ」
それは壁とドアの隙間から漏れ出る光だった。ついにユリとクリスは、隠し部屋まで辿り着いたのだ。光が隙間から漏れているドアの前までの残りの階段をユリは駆け下りた。
「クリス! 隠し部屋だぞ! 」
ユリは、興奮を隠し切れない顔でドアノブに手をかけた。
「開く、か? 開いたっ! 」
ユリは、先の隠し扉のことを考えてそーっと慎重にドアノブを回して押すと隙間が大きくなり漏れ出す光の量が増えた。
普通のドアだった。
それが分かると、ユリは何も考えずに勢いよく開いた。
――バァン!!
「隠し部屋来たー! 」
「きゅ~~! 」
テンションが少しおかしくなっていたユリは、中の様子を確認をすることなく叫びながら光で照らされた部屋へと飛び込んだ。
中に何があるか、誰がいるか、その時のユリは気にも留めていなかった。
ただ、隠し部屋まで辿り着けたことにユリは妙な達成感を得ていた。
「っ!? き、貴様、何者だ!! 」
これに驚いたのは、隠し部屋の中にいた黒ローブの男だった。黒いローブで身を隠し、フードを目深に被った男は、妖しい魔術師といった姿をしていた。
「やったー!! って、ん? …………あ」
魔術師の声で我に返ったユリは、今更になってその存在に気づいた。
「…………」
「…………」
しばし、2人の間に気まずい沈黙が流れた。
先に動いたのはユリだった。
「か、勝手に入ってすみません! 」
てっきり、人がいないものだと思い込んでいたユリは、相手が何かを言う前に急いで謝った。
しかし、その謝罪の声は目の前の男には届いていなかった。
「そうか……貴様だったか。貴様だったのか……! 」
魔術師のフードの奥から鮮血のような赤い瞳が憎々しげにユリを睨みつける。
「ついに貴様はこの場所まで嗅ぎつけて、私の前に現れたかっ! 」
それは、まるでここに予期せぬ来訪者がいつか来ることがわかっていたかのような振舞いだった。
「私の計画を邪魔する者が、一体どのような傑物かと思えば、こんな小娘であったとは……! 忌々しい」
「え? 」
「貴様のせいで始まりの町で用意していた駒が使えなくなった! あそこの組合の力を削いで、街を孤立させていくのにどれほどの時と手間がかかったと思う! 貴様が盗んだもののせいで、それが全てが台無しだ! 貴様のせいで組合にも露見してしまった! 森に放った荒熊を殺したのも貴様だろ! 私の計画をことごとく邪魔した挙句、しまいにはこの場所にまで来たか! 何故、貴様はそれほど私の邪魔がしたいんだっ!? 」
怒りを堪えるように奥歯を噛みしめた魔術師は、射殺さんばかりにユリを睨む。その赤い瞳には狂気が宿っていた。
「は? 」
全く記憶にない言いがかりにユリは首を傾げる。魔術師の言っている内容はどれもユリの記憶にないものばかりだった。
「貴様は、私の野望を阻止しようとここまで来たのかもしれないが、一足遅かったな! 」
「いや、ちょっと話を――」
「フハハハ!! 今更止めようとしても遅い! 既にもう手遅れだ! 私の実験は既に終わっている! あとはもう実行に移すだけだ! これから起こる惨劇の日こそ私が再び全てを支配する始まりの日となるのだ!! フハ、フハハハハハハハハ…………」
戸惑うユリの前で、狂ったように高笑いする魔術師をどこからか現れた黒い霧が包み込む。そして、黒い霧が霧散した時には、魔術師は部屋から忽然と姿を消していた。
「えぇ……一体、今のは何だったんだよ」
「きゅぅ? 」
理解の追いつかない展開にユリとクリスは揃って首を傾げた。
◆◇◆◇◆◇◆
「さっきの妖しい魔術師みたいな奴は、何だったんだ? というか、今のってイベントか何かだよな? よく分からんけど」
魔術師が去った後の部屋を物色しながらユリは首を傾げずにはいられなかった。
「あんなイベントに繋がる様なクエストなんてやってたか? そもそも一度もクエストらしいものはしてないぞ」
ユリが気づいていないだけで、既にいくつかのクエストをユリはクリアしていたのだが、それでも、ユリがこのイベント関連のクエストやっていないのは確かだった。
「まぁ、悩んでも仕方がないな。後でラン達にでも会った時にでも聞いてみるか」
自分1人で考えても情報量が少なすぎて結論が出ないと判断したユリは、自分よりも遥かに多くの情報を持っているラン達に相談するまでは、取りあえず気にしないことにした。
「さて、取りあえず、さっきの魔術師? みたいな奴は敵っぽいし、そいつの部屋なら物盗ってもいいよな? 」
「きゅう! 」
ユリの独白にクリスが元気よく鳴いた。
「よし、クリス、何か隠してる場所があったら教えてくれ! 俺は目に見える物を片っ端から回収するからっ」
「きゅっ! 」
ユリは、クリスにそう指示を出して、自らは【発見】によってうっすらと光るアイテムを見つけたそばから全てアイテムボックスに放り込んでいった。中には使い道の良く分からないものも含まれていたが、ポーションやマナポーションなど便利なアイテムも多く手に入った。
そんな時、ユリの肩から降りて部屋を探索していたクリスが、部屋の隅にあった宝箱の下に隠されたスペースを見つけた。それをクリスは、鳴き声を上げてユリに知らせた。
「きゅ、きゅぅ! 」
「おお、何か見つけたのか! この下に何かあるんだな? さて、何があるのかなーっと」
宝箱を鼻でつっつく仕草をするクリスの意図を読み取ったユリは、宝箱をどかした。その下の床は、外せる仕組みになっていたようで、【発見】で赤く点滅していた。その床板を捲り上げると、中の小さなスペースには紙束が収納されていた。
「ん? 紙束? 何か書かれてるな……読めないけど、まぁ、これも後回しでいいか」
ユリには読めない文字で書かれていた紙束だったが、重要そうだったので、ユリは取りあえずアイテムボックスに放り込んだ。
「よし! クリス、他にもあるか探してみてくれ」
「きゅ! 」
そんな調子で、隠し部屋を調べつくしたユリとクリスは、若干のもやもやを残しつつも隠し部屋を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆
――ゴ、ゴチッ!
「あいたっ! ~~っ! 」
「うきゅ~~ぅ!! 」
廃墟に引き返す最中、鉄のドアが閉まってることに気付かなかったユリとクリスが鉄のドアに勢いよく激突した音が響いた。
「いつつっ、今のはドアか? 何でドアが閉まってるんだよ……。っていうか、完全に油断してた。イテェ……」
「きゅぅ……」
14/8/18 18/03/30
改稿しました。




