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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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47話 「第2の街到着!! 」

――【初心者の草原】第2の街付近




 ボス戦で勝利を収めたユリ達は、小休憩を取った後に再び第2の街を目指していた。

 ボスと戦った場からルカの指示を受けながら歩いていくと、ただただ草花が広がっていた草原にチラホラと低木や岩といった目印となるものが見え始めた。


 そんな変化をユリは、どこか人為的だった草原が自然なものへと戻ったように感じた。



 それからすぐにユリ達は、街道らしき露出した土が踏み固められた道に出た。 



「ルカ姉、それって結局何だったの? ボスに会うために必要って言ってたけど」


「ああ、これのこと? そっか、まだきちんと説明してなかったわね」


 ルカは、歩きながらユリに自分の指にはめた指輪のようなアイテムを見せる。指輪には、ガラス玉のような透明な球がはめ込まれていた。その球の中には、半分を赤く染めた細長いひし形の針が浮いていた。よくよく見ると、赤い針の先からは細い赤い光線が薄っすらと出ていた。光線は、指一本分くらいで目視できなくなるようなか細いものだった。

 

 それを見せながらルカは、ユリに説明を始めた。


「これは『街指針(シティガイド)』っていう道具(アイテム)よ。近くにある街の方角を示してくれるのよ」


 指輪を外して、ルカが指輪をくるくると回して見せると、それに合わせて球の針もくるくると回った。適当なところでルカが回すのを止めると赤い針は、ぴたりとユリ達が進んでいる方角、つまり街のある方角を指した。


「赤い針が指す方角に街があるってことか」


「ええ、北じゃなくて街を指すコンパスみたいなものだと思ったらいいわ」



 街指針(シティガイド)は、旅をする上でパーティーに1つは必要とされる必需品ともいえるアイテムだった。


 ルカの持っている街指針(シティガイド)は、指に嵌める指輪型のタイプだが、他にも腕輪型、水晶型、板型、浮遊型など色々な(タイプ)が街では売られている。 


「でも、そのアイテムがボスの出現と関係があるんだ? 」


「ボスが現れた場所は【初心者の草原】の中でも特殊なエリアなの。まっすぐ進んでるつもりでも気付いたら、あらぬ方向に進んでいるような迷いやすい場所なの。プレイヤーの間では、『幻惑の間』って言われてるんだけど、そこを抜けないと街に行けない仕組みになっているのよね。あと、あのボスは『幻惑の間』を抜けそうになるとプレイヤーの前に出現することが明らかになってるの。だから、私たちが街指針(シティガイド)に従って『コエキ都市』にまっすぐ進んでいたから、ボスが慌てて出てきたのよ」


「そいうことだったのか」


 ユリは、ルカの説明で先程までルカがしきりに街指針(シティガイド)を確認して進む方向を指示していたことに合点がいった。


「あ、そう言えば」


「ん? どうしたのユリちゃん? 」


「ボスのデスソードラビット(死剣兎)って最初は体が赤かったし、小さかったよね? 」


「うん、そうだったわね」


「すぐに大きくなって真っ黒になったけど、もしかして元々は、こいつらと同じモンスターだったのか? 」


 前方でシオンとランの2人が蹴散らしている赤い兎を指して、ユリはルカに訊ねた。

 ユリが指差したモンスターは、角兎のように額から刃のような鋭い角を生やした体長が1メートルほどの赤毛の兎だった。


 ユリの指摘する通り、その姿は死剣兎が変容する前の姿と酷似していた。というか全く同じだった。



「そうよ。ボスは元々、ここらに出てくる剣兎(ソードラビット)と同じなの。その剣兎が変容した(狂暴化)した姿が、あの死剣兎(デスソードラビット)なのよ」


「ふーん。でも、なんでその辺に出てくるようなモンスターがあんな風に変わっちゃうの? 」


「何でって聞かれても、私もそこまで詳しいことはわからないわ。でも、剣兎が死剣兎に変容したのは、黒い靄みたいなのが関係しているんじゃないかって、掲示板では話題になってたわ」


「えっと、掲示板ってパソコンの話だよね? 」


「ええ、そうよ。そこのクエスト検証用掲示板で話題になってたの」


「掲示板かー。あそこって見方がよくわからないんだよね。それに書いてある文章も読めないようなのが多いし」


「うーん、そうね。トウリちゃんは、あんまりパソコンを使わないし、掲示板とかを見ないからネットスラングを理解するのは難しいかもね」


「だよなー」


「でも、SMOで知りたいことがあれば、私に聞いてくれれば、大抵のことならアドバイスして上げれるわ。それに今後、トウリちゃんが掲示板を自分で見たくなったら私に声をかけてくれれば、力になるわ。少なくとも愚弟(タク)よりわ」


「う、うん。ありがとうカオル姉」


 力になると言って、両手でユリの左手をがっちりと熱く握ってきたルカにユリは、少々押されがちに頷いた。現実の話をしていたせいで、ついつい現実の名前をお互い呼んでしまっていることに2人は気づいていなかった。



 そんな風にユリとルカの2人が後ろで呑気に雑談をしている間、前の2人は次々と現れる剣兎と戦っていた。


 それを観戦していたユリは、剣兎の1体がランの後ろに回っていることに気づいた。



「あ、ラン。後ろから兎が来てるぞ」


「分かってるー! 大丈夫だよー」


 背後の剣兎の存在にも気づいていたランは、前後から同時に飛びかかってきた剣兎の刃のような角が体に触れるよりも早く、両手に2本の大剣を握ったまま独楽(コマ)のように回って、2体の剣兎を叩き切った。一撃で致命傷となった2体の剣兎は、爆散するかのように赤い光の粒子を四散させて消滅した。



 その傍では、シオンが飛びかかってくる剣兎を軽やかに躱し、すれ違いざまに小刀で剣兎の首を掻き切った。首に致命的な一撃を受けた剣兎は、断末魔の鳴き声を上げながら赤い光の粒子を撒き散らして消滅した。



 2本の大剣を振り回してまるで暴風のように暴れ回るラン。的確に剣兎の急所をついて一撃で屠っていく暗殺者のようなシオン。


 前の2人は現れる剣兎とそんな戦いを続けて、ばったばったと倒していた。



「……ランとシオンだけで十分だな」


「ええ、本当にね」

 

 周囲の剣兎を2人が競い合うように片っ端から倒していくので、ユリとルカは手持ち無沙汰だった。

 危険であれば助太刀しようと思っていたのは最初のうちだけだった。




「今日はあんまり役に立てなかったな」


 前の2人が戦う様子を見ていたユリは、ぽつりとそんな言葉を漏らした。


 ボス戦の時も道中も積極的に攻めていたランとシオンと、後ろで巧みに魔法を駆使していたルカの3人の目覚ましい活躍に対して、ずっと後ろでルカを護衛という名目で待機していたユリの活躍は、あまり目立つものではなかった。


 そのことについてユリは、自分は足手纏いだったのではないかという負い目を少し感じていた。



 少し顔を俯かせたユリにルカが、あら、と目を瞬かせた。


「そんなことないわよ。トウリちゃ……ユリちゃんは、十分役に立ってたわ。私の方に死剣兎の注意が向いた時に体を張って守ってくれたし、ランちゃんが危ない時にポーションで回復してあげてたじゃない。大事なことよ」


 そう言ってルカは、ユリに対して穏やかに微笑みかけた。


「それにユリちゃんはまだ始めたばかりなんだから、これからよ。ユリちゃんならきっと、とっっても強くなるわ。私が保証するわ」


「ありがとうルカ姉」


 たゆんと揺れる胸に手をおいて自信満々に言い切ったルカにユリは、少し苦笑した。



 そうこうしていると、遠くに街の城壁が見えてきた。


「あ、やっと城壁が見えてきたね。でも思ったより遠かったね」


「そうねぇ。街と街の間って結構距離があるのよね。βの時は、バスみたいに馬車が一時間に何本か出てたんだけど、今は一本もないのよねぇ。どうも、それもあの死剣兎絡みの問題みたいなのよねぇ」


 ちょっと面倒よねぇとルカが零すと、それにランとシオンも反応した。


「徒歩、めんどう」


「ホントだよ! あーあ、街から街に一瞬で移動できないかなぁ。そしたら移動が楽になるのにっ」


 2人とも街の行き来が面倒なことに不満に思っていたみたいだ。その憤りは、襲ってくる剣兎たちに向けられた。より一層猛々しく剣兎が2人によって屠られていった。



 そんな時にふと、ランとシオンが示し合せたかのようにお互いに顔を見合わせた。



「駆け抜ける? 」


「うん。2度目だし駆け抜けよう! 」


 2人は、同時に同じことを思いついたようだ。


「素材はもう十分」


「じゃあ、行こう! お姉ちゃん、ルカ姉! 私たち先に言ってるね! 」


 ユリとルカにそう言い残してランは、猛ダッシュで草原を走り始めた。


 スタートダッシュの合図もなしの唐突のスタートだった。



「いぃぃやっふぅぅううー!! 私がいちばーーん!! 」


「卑怯。負けない」


 上機嫌に叫びながら走っていくランの後ろを出遅れたシオンが追い抜かんと続いた。2人とも競争とは言っていなかったが、もうそれは競争だった。


 すごい速度で草原を駆け抜けていくランとシオンの2人を見送ったユリは呟いた。



「……うすうす感じてたんだけど、ランとシオンってどこか似てるな」


「奇遇ね。ユリちゃん。私もそう思うわ」



「ところで、どうする? 俺たちもあの2人を走って追う? 」


「止めておくわ。私のスキル構成だとあまり足は速くないの。ゆっくり行きましょう」


「わかった。じゃあ、剣兎は俺に任せてね。ルカ姉は、俺が守るから」


「ふふっ、頼もしいわね。可愛いわユリちゃん」


「そこは男らしいって言ってよルカ姉……」




◆◇◆◇◆◇◆




――『コエキ都市』



 それから10分ほど経って、ついにユリは第2の街『コエキ都市』に到着した。


「おお、やっと着いた! 」


 新しい街に来れたことが嬉しいユリは、興奮した様子でキョロキョロと周りを見渡した。


「あ、転移門が時計塔だ! たかぁ……。中はどうなってんだろ。おっ、あそこにある大きな建物は爺さんの言ってた組合かっ! 」


 街の中央に建てられた高さ何十メートルもある巨大な時計塔。盾の上に杖と剣と槌が交差した組合のマークが掲げられた大きな石造りの建物。


 どちらも『始まりの町』にはなかったものだった。

 ユリは、『始まりの町』とは違うものを見つけては驚いたり、興奮したりと忙しそうに楽しんでいた。



 それを少し離れた場所から見ていたラン達は


「お姉ちゃんが、こんなにはしゃいでるのって珍しいね」


「こういうユリちゃんも可愛いわ~」


「…………」


「じゃあ、私ちょっと買いたい物があるからここでお別れだね! 」


「私も報告してくる」


「そうね。私も少し用事があるから、解散しましょうか」


「そうだね。お疲れー」


「お疲れ」


「お疲れ様です」




「うはー! 間近で見ると時計塔の迫力、すげぇなー」




「……ユリちゃんはどうしましょうか? 」


「お姉ちゃんは、そっとしとこうよ」


「……じゃ」




 結局、ユリが落ち着いたのはそれから20分後のことだった。




「あれ? ラン達はどこいった? 」


 気付けば、ユリは独りぼっちになっていた。



移動に関して。


・主な移動手段は、徒歩。


・転移門は、β時代からプレイヤーは使用できない状態が続いている。

・街から街を繋ぐ駅馬車は、β時代では確認されていたが、現在は運行していない模様。

・個人所有の馬車は販売されているが、牽引する生物を『始まりの町』で用意するのに難航している。



14/8/9 14/8/16 18/03/18

改稿しました。


・移動に関する記述を追加したため、後書きに補足を記載。

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