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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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46話 「初ボス戦」

――【初心者の草原】


「ボス戦ってどういうことだ? 」


 当然のようにボス戦に向かおうとするランにユリは尋ねた。


 聞かれたランは、ユリの言った意味が分からずコテンと首を傾げたが、


「あ、そっか! お姉ちゃんは知らなかったね。今、『始まりの街』から第2の街『コエキ都市』に行こうとしたらボスを毎回倒さないと辿り着けないんだよ」


 ランの言葉にユリは絶句する。


「ボスを毎回!? 本当に? 」


 ラン達も一度通った道のようで、ユリの驚く様子をルカやランは生暖かい目を向けていた。


「その気持ち、よぉくわかるわ。この仕様は、正式稼働が始まってからみたいなのよね。恐らくだけど、専用のクエストを誰かがクリアするとか、何らかの条件を満たさないといけないようなのよね」


「折角、ボスを倒して第2の街に辿り着いたのに『始まりの街』に戻ってもう一回行こうとしたら、ボス戦だよ!? 初めはバグかと思ったけど、とっくに他のプレイヤーが運営に確認してたみたいで運営は『仕様です』の1点張り何だよっ。 今はやっきになって、その解放条件を探してるんだよ」


「組合に報告があるから困る」


 三人から口々に吐き出された愚痴から憤りと不満が溢れ出していた。


「そ、そうか……。そういや、昨日見つかったばっかりなんだよな? ボスの出現条件とか大丈夫なのか? 結構難しいんじゃないのか? 」


 ラン達にユリは少し気圧されながら、以前聞いたことを思い出して尋ねた。


「出現条件? それなら全然大丈夫だよ。特に条件自体は難しくないから。何が条件なのかってことがはっきりしたのが昨日なだけで、それ以前から偶然、条件を満たしてボス戦をした人はそこそこいるんだよ」


「そうなのか。ところで、これからそのボスに戦いを挑みに行くようだけど、全く準備してない俺は大丈夫なのか? 」


「うん、まぁ、大丈夫かな? 」


「問題ない」


「ルルルの防具をしていたら十分よ。ポーションとか消耗品は、たくさん持っているから必要だったら分けるわ。だから、ユリちゃんは私が守るから安心してねっ! 」


 ルカの返答は微妙に違ったが、3人から返ってきた反応から準備ができてなくても大丈夫そうなことがわかり、ユリは安心した。



「よし! じゃあ、お姉ちゃんも納得してくれたことだし、改めてボス戦行ってみよー! 」


「「おー!! 」」


「おー」



 こうして、足を止めていたユリ達は、再び進み始めた。


(初ボス! 準備不足が少し不安だけど、ラン達が大丈夫と言うから大丈夫なんだろう。そもそも厳しかったら連携もまだ上手くできない初心者を誘ってこないだろうしな。どんなアイテムが手に入るんだろう。楽しみだな)


 ボスのいる場所へと向かいながら、ユリは初ボス戦に胸を躍らせるのだった。





◆◇◆◇◆◇◆





――【初心者の草原】


 ランがリーダーの即席パーティーは、【初心者の草原】の奥地へとぐんぐんと進んでいき、ボスが出現するというエリア(場所)まで来ていた。


 【初心者の草原】の奥地は、丈の短い草花がただただ広がる場所だった。

 街の城壁はいつしか見えなくなっており、北門から伸びていた街道も見失い、目印となるような低木や岩もない、ただただ干拓地のような平らな大地に草花が生える草原であった。


 

 それは、これまでユリが触れてきたSMOが作り上げた精巧な自然環境とは違い、酷く稚拙な殺風景な印象を抱かせるエリアであった。


 それをユリは、違和感として感じていたが具体的なことには気づかなかった。また、その違和感をボスが出現する場所だからという処理で済ませていた。



 周囲の雰囲気が変わったことで、ユリはボスが現れるのを今か今かと周囲を警戒しながら待ち望んでいた。



「ルカ姉、ボスはいつでてくるの? 」


 危なっかしい、という理由でユリは後衛に置かれていた。ランとシオンの2人の前衛が、時折草むらから飛び出してくる角兎を蹴散らしていくのを隣を歩くルカと一緒に危なげなく眺めていた。


「うーん、そろそろ出てきもおかしくない頃なんだけど……あ、ランちゃーん! そっちじゃないわよ。こっちよー! 」


「はーい! 」


 ユリと雑談をしながらルカは、先を進むラン達に指示を出す。


 先程からルカは、指に嵌めたコンパスのような道具をしきりに確認しては、時折ラン達に対して指示を出して軌道修正していた。


 それが何の意味があるのかユリにはさっぱりわからなかったが、ボスが出現することに必要なことだとルカからは聞かされていた。


(ただ真っすぐ進んでいるだけだよな……)


 先へ進んでいくランとシオンの2人が時折、あらぬ方向に足を進み始めるのをルカが逐一正しているのを見ながら、内心首を傾げながらユリはついていっていた。






「キュウ」



 それからもずっと、ルカの傍でラン達が角兎と戦っているのを見ているだけだったユリは、早く戦いたくて、うずうずしていた。


 そんなユリの前に茂みから真っ赤に染まった兎が姿を現した。角兎のように頭に角が生えていたが、それは刃物のように鋭そうだった。



 あ、赤い兎だ。と、呑気に見ていたユリを除いて、赤い角兎の出現に他の3人の行動は、早かった。



「っ!? ユリちゃん、すぐに離れて! ランちゃん、ボスが出たわ! 」


「みんな戦闘準備!! 」



 3人は、赤い角兎から距離を取り、素早く武器を構えて臨戦態勢に入った。



「えっ、これがボス? 」


「ユリちゃん、危険だからすぐに離れなさいっ!! 」


 前にルカが話したボスの容姿と食い違っていることにユリが戸惑っていると、ルカが有無を言わせない強い口調で離れるように言った。


 自分に対して滅多にしないルカの口調にユリは、ようやく我に返って赤い角兎から距離を取った。


 ユリが慌てて距離を取っていると、黒い靄のような不気味なものがまるで空間から滲み出てくるように現れた。それは、赤い角兎をユリ達から覆い隠すかのように包み込み、その濃さを増していった。



――バクン!


 黒い靄に包まれた赤い角兎の体が一気に何倍にも巨大化した。


 頭に生えた刃のように鋭い角もそれに合わせて巨大化し、より鋭利に。より禍々しいものへと変わった。巨大化に伴い、毛色も赤から黒に染まっていき、黒かった兎の瞳は狂気の宿る赤い瞳へと変わった。



「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! 」



 ユリ達の目の前で変容した禍々しい黒い靄を纏った黒兎、『死剣兎(デスソードラビット)』が、狂気の宿った赤い瞳をユリ達に向けた。



 ユリにとっての初のボス戦が始まった。





◆◇◆◇◆◇◆




 ボス戦が始まってからラン達は危なげなく立ち回り、ボスのHPを削っていた。

 初めてのボス戦であるユリ以外の3人は、ボス戦は当に経験済みであり、ランとシオンに至っては死剣兎(デスソードラビット)と一度戦ったことがあったため、問題らしい問題もなく順調に進んでいた。



「GYUAAAAAA!! 」


 死剣兎(デスソードラビット)が甲高く鳴き、攻撃してくるランとシオン(忍び少女)の2人を振り切って背後のルカを狙った体当たりをしかけてくる。



「お姉ちゃん、行ったよ! 」


「了解っ! オラァッ!! ルカ姉には触らせねぇぞ! 」


 ランの呼びかけに応えたユリは、鋭利な刃物のようになっている刃角でルカを切り裂こうとする死剣兎に横から飛び蹴りをぶちかまして、よろめかせた。


 ユリが強引に死剣兎の足を止めたところを追いついたシオンが、2本の小刀で死剣兎の首を斬りつける。


「GYU!? 」


 首を斬られた死剣兎のHPが目に見えて減った。運よくクリティカルが出たようだった。


「たあっ!! 」


 怯んだ死剣兎の後ろからランが2本の大剣を振り回し、死剣兎の後ろ足を斬りつけた。


「GYUUUUUUU!? 」


「みんな下がって! 《水の刃(ウォーターカッター)》!! 」


 3人に警告したルカが、死剣兎から全員が離れた時を見計らって、水でできた扇状の刃を死剣兎に向けて飛ばした。


 しかし、その水の刃は死剣兎が跳んだために避けられてしまった。


「GYUAAAAAAAAAA!! 」


「ッ!?《ガード》!! 」


「くっ……」


 攻撃を避けた死剣兎は、頭の刃角を出鱈目に振り回して。近くにいたランとシオンを攻撃した。


 ランは死剣兎の攻撃を大剣を盾にして【盾】スキルのアーツを発動することで、威力(ダメージ)を減衰させたが、シオンは防ぎきることができず、肩から斜めに体を斬られた。


 幸いなことにユリと同じ、物理防御にも優れた忍び装束のおかげで、シオンのHPから2割削られるだけで済んだ。それでもチクチクと削られていたためにシオンのHPは残り2割以下にまで減っていた。


 シオンは肩を抑えながらも死剣兎から距離を取り、アイテムボックスから素早くポーションを取り出し、ガラス瓶を割って回復した。



「兎さんの相手は私だよっ! 」


 シオンが回復をするために下がった今、暴れる死剣兎をルカ達に近づけさせない為にランは大剣を盾に死剣兎の進路を阻んだ。


 しかし、いくら大剣で防いでるとはいえ、減衰したボスの攻撃はランのHPをガリガリと削っていた。回復しようにもアイテムボックスからポーションを取り出す余裕は今のランにはなかった。


 その時、ポーションを持ったユリがランへと呼びかけた。


「ラン、回復するぞ!! 」


「ありがとうお姉ちゃん!! 」


 ユリが投げたポーションがランの体に当たって砕け、ランのHPはは全回復した。



「ランちゃん、もう一回いくよ! 《水の刃(ウォーターカッター)》! 」


 もう一度、詠唱し直したルカが、ランによって足止めをされている死剣兎に新たな水の刃を飛ばした。


「UGYUU!? 」


 今度は死剣兎の顔面に当たり、怯ませた。


 その時を狙ったかのように怯んだ死剣兎の頭上からシオンが降ってきた。


「これで止め。《連撃》」


 シオンは小さく呟いてアーツを発動させると、両手に持った2本の小刀で死剣兎の背中を切り裂いた。


 切り裂かれた切り口に赤い光の軌跡が残る。


 間髪入れずに、赤い光の軌跡を沿うように2撃目が死剣兎を切り裂いた。同時二カ所の二連撃に残り少なった死剣兎のHPは0になった。


「GYUAAAAAAAAAAAA!? 」



 死剣兎の断末魔が辺りに響き渡った。


 断末魔は次第に小さくなり、最後にはドサッと地面に倒れて死剣兎は、ガラスの砕けるような音とともに黒い光の粒子に変わっていき、消滅した。纏っていた黒い靄も死剣兎が倒れた際に霧散した。




「やった~!! ボス撃破!! 忍びちゃんお疲れっ! 」


「シオン。お疲れ。ランとルカ姉もお疲れ様」


「みんなお疲れさまです」


「お疲れ」




 こうして、ユリの初めてのボス戦は、無事に勝利という形で終わった。



アーツ《連撃》

【剣】スキルで覚える基本スキル。

1撃目の剣の軌跡を沿うように2撃目を加える。

剣2本で同時に発動した場合、MP消費量と冷却時間が2.5倍になるが、使用可能


双剣を使うプレイヤーの多くが、序盤では常用するアーツである。


《水の刃》

【初級水魔法】スキルで覚える魔法の一つ

MP消費量は少なく、冷却時間も数秒で再使用可能なため、序盤でよく使われる魔法の一つ

1メートル程の長さの高圧の水を敵に向けて扇状に射出する。


横向きか縦向きかは、使い込めばプレイヤーの意思で変えるようになってくる(初めは横向き固定)


《ガード》

【盾】スキルで覚えるアーツ

敵の攻撃ダメージを大幅に減衰させる。

失敗する時もあり、失敗すると、スタン状態で固まる。

冷却時間が1分とそこそこ長いが、使い所を見誤らなければかなり頼ましいアーツである。


14/8/15  18/03/16

改稿しました。

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