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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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41話 「消火活動」






――【豊かな森】


 ユリ達と合流したタク達は、正座するルルルとルカの2人がユリに怒られている光景を目撃した。


 そのユリの背中には小柄な忍び姿の少女が隠れ、その4人から離れた位置で耳をふさいでしゃがみこんでいるランの姿がなんとも異様な光景だった。




 その光景を見たダイゴは言葉を失い、チェルシは杖をぎゅと握り体に寄せて一歩後ろに下がった。

 タクは、やっちまったなという表情でその光景を見ていた。


(どんな経緯でこうなったかは、わからないがユリを切れさせるとは、姉ちゃんとルルルさんは一体何したんだか……まぁ、あの2人だし大方予想は付くけど)


 タクは呆れた笑みを浮かべると固まるチェルシとダイゴを置いて、ユリ達から離れた場所でビクビクしているランに近づいた。



「よお、ランちゃん」


 プルプル震えているランの背中にタクは手をポンと置いて、いつもと変わらない調子で声をかけた。


「ヒャァ……ッ!? 」


 ビクリと大きくランの体が震える。

 そして、恐る恐る顔を上げた。


 普段のランの姿からは考えられない怯えっぷりだった。


「タ、タク兄! 」


 驚きで綺麗な新緑色の瞳を大きくしたランはタクを見た。


「よっ、ランちゃん。なぁなぁ、あそこのユリ達どうしてああなったか、ちょっと教えてくれないか? 」


「え? あ、うん」


 小声で話しかけてきたタクにランは、ユリの方にチラッ視線を向けてコクンと頷いた。



◆◇◆◇◆◇◆



「――それでね、私はお姉ちゃんがルルル姉とルカ姉を止めている間ずっと忍びちゃんを止めてたんだけど、お姉ちゃんが大きな声をあげてね。その隙にルルル姉が後ろから忍びちゃんに抱き着いたの。忍びちゃんは嫌がって逃げようとして、私も手伝おうとしたんだけど……」


 喋っていたランが言葉を切って、恐る恐るユリの方を見た。


 いつの間にか、一緒に聞いていたチェルシとダイゴも釣られて怒れるユリを見てしまい、バッと視線を逸らした。


 こちらからはユリの表情は見えない筈なのに、怒りで表情が抜け落ちたユリが冷めきった瞳をこちらに向けたような気がしたからだ。


「そしたら、お姉ちゃんがプッツンしたみたいで……こう、ガシッっと無言でルルル姉の頭を掴んで忍びちゃんからルルル姉を強引に引きはがしたの、すっごくお姉ちゃん怒ってた……」


 そう話すランの声は震えていて、いつものような元気は全くなかった。

 ランにとってユリは大好きな()であるが、両親が共働きでほとんどユリに面倒を見てもらってきたランにとっては親代わりでもあり、よく叱られていた。マジ切れしたユリはランのトラウマだった。


 以前タクが爆笑してプッツンしたユリは、羞恥心が振り切ったユリだった。

 怒りが振り切ったユリは、そのユリの比ではないほどランにとっては怖かった。


「それで、その後はルルル姉とルカ姉を正座させて、あそこでお説教ししてる………私、昔思い出しちゃって怖くて、怖くて」


 怯えるランにタクは「分かる。分かるぞ。その気持ち」というような感じにしきりに頷き、ランの頭をポンポンと叩いた。

 トラウマにはなってなかったが、タクも経験があったからだ。むしろ、ユリを怒らせた回数はランよりも多いかもしれない。


「怖いのは仕方ないよな。あいつ怒るとホント怖いし」


 そう言ってユリ達の方を見たタクは、しばらく悩んで行動に出ることにした。


「うーむ……よし、ちょっと行ってくるか。チェルシとダイゴはランちゃんとそこにいろよ」


タクは、そう言い残してユリがいる死地へと一歩踏み出していった。




◆◇◆◇◆◇◆




 ユリは本気で怒っていた。

 以前アバターが女性になっていることが分かってタクにずっと笑われて切れた時の5割増しで頭にきていた。

 人と言うのは、感情が振り切ってしまうと逆に冷静になってしまうようで、感情が抜け落ちたような無表情になったユリは抑揚のない、しかし言葉の端々に怒っていることを感じさせる声音で、淡々と機械のようにルルルとルカに対して正論を説いて叱っていた。


 正座をしているルルルとルカの2人は、青ざめていた。まるで酒を飲んで酔っ払ったように暴走していた2人も叱られている内に正気に戻ったようで、2人ともちょっぴり目が潤んでいた。


 怒れるユリの後ろにいる被害者である忍び姿の少女は、何も言わず、ただユリの後ろで黙ってその様子を見ていた。無表情というお面を被った少女からは相変わらず感情を表情から読み取ることは出来なかった。




「よお! ユリ。こんなとこで何やってんだー? 」


 そんな重苦しい空間に陽気な声が響いた。


 その声に、機械のように淡々と喋っていたユリが反応した。


「今、ルカ姉とルルルさんがやったことを厳しく注意してるところなんだけど、何? 」


「何となく予想はつくけど、どんなことしたんだ? 」


「嫌がる彼女に抱き着いたりしたんだよ。周りの言葉も全く聴かずに」


 そういってユリは、後ろにいる忍び少女を指さす。


「なるほど、やっぱり予想通りだな。で、まだ説教続けるのか? もう2人とも反省してるように俺には見えるが」


 タクは、正座している2人に視線をやった。タクの言葉に2人は必死に無言でコクコクと頷いていた。


「俺は―――」


 ユリは何か言おうとして、少女に視線を向けて口を噤んだ。


 ユリの視線に釣られてタクも少女の方に目を向けた。


――許すかどうかは、彼女が決める。


 ユリは無言でそう言っていた。



「……もういい」


 2人に見つめられた少女はそう答えた。


 それに対してユリが何か言おうと口を開いたが、続く少女の言葉によって遮られた。



「……貴方が私の代わりに怒ってくれた、だからもういい」



「だとさ、ユリ。というわけで、今回はここまでってことでいいよな? 」


タクの問いかけにユリはしばらく黙っていたが


「あーもうっ! 今回はこれで終わるけど、ルカ姉もルルルさんも今後このようなことを彼女にするなよ! 分かった!? 」


正座している2人にそう言ってユリは、照れくさそうに忍び少女から視線をそらした。


「ちょっと浮かれすぎてたわ。嫌がってたのにごめんなさいね。今後気を付けるわ」


「無音さんすみません。興奮して我を見失ってました。今後気を付けます。ホントごめんなさい」


 そう言って、2人は少女に対して謝った。



 こうして少女を巡る混乱は治まった。


5/14最後の一文を修正しました。


14/8/15 17/10/20

改稿しました。

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