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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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38話 「愛でる為なら警告なんて気にしない」



――【豊かな森】


 鬱蒼とした森の中にルカ、ユリ、ルルルの3人の姿があった。件の少女を捕まえたというランの連絡を受けて【豊かな森】に来たのだった。その3人は、森の中で異様な光景を目にして歩みを止めていた。


「なんだこれ……」


「あー……これはランちゃんっぽいわね」


「すごい数のアイテムが散乱してますね。これをランさんがやったんですか」


 立ち止まる3人の視線の先には生い茂る木々と茂みで出来た天然の緑の壁はなく、その壁にぽっかりと穴が空き地面に木の枝や木の実などが散乱した一本道があった。先程までユリ達が移動していた獣道ではなく明らかに人為的に出来た道だった。


 アイテムが散乱した異様な道にユリは驚き、ルカとルルルの2人は道を切り拓いたプレイヤーに見当がついていた。先程本人から連絡もあって2人はほぼ確信していた。


「え……これランがやったのか? 」


「たぶんそうね。まぁ迷わないから楽よ。ほらユリちゃん、樹が生えてくる前に早く行きましょう。この道を辿っていけばランちゃん達がいると思うわ」


「道理でモンスターと余り会わなかった筈です。ランさんがこの辺一帯のモンスターをいっぱい倒しちゃってたんですね。樹をこんなに切り倒したのなら相当な数のモンスターを討伐してそうですね……」




 SMOでは時間経過でモンスターがポップする(湧く)速さは、戦闘エリアによって異なっている。『始まりの町』周辺の戦闘エリアでは【初心者の草原】が一番速く、次いで【深底海湖】、【ゴブリンの草原】、【アント廃坑】、【豊かな森】と続いていく。


 しかし、戦闘エリアにいるモンスターの数の上限は決まっており、【豊かな森】と【アント廃坑】が最もその上限が高く、次いで【深底海湖】、【ゴブリンの草原】と【初心者の草原】は同じくらいであった。


 つまり、【豊かな森】は『始まりの町』周辺の戦闘エリアで【アント廃坑】を除けば、最も多く多様なモンスターが森の中に潜んでいるが、その反面新たなモンスターが時間経過で湧く速さは最も遅かった。


 その為、同じ場所でモンスターを狩りすぎるとその場所が枯れてしまうモンスターがいなくなってしまうことがあった。


 βテスト時代はそんな森の特徴を活かして生産職が森でアイテムを集める際には、戦闘職が周辺のモンスターを狩り尽くすことでモンスターのいない疑似的な安全地帯を作りだし、生産職は安心して採集できるようにすることもあった。


 現時点では枯れてしまうのでレベル上げには不向きな為、多くのプレイヤーは2つの草原でのレベル上げが主流になっていた。


 なので、森の中で周辺のモンスターが枯れる程にレベル上げに励むプレイヤーは滅多におらず、そんな森の中でモンスターが枯れていて、ドロップアイテムが散乱している場所は、少女を追っていたランが通った場所と考えられた。


「このまま消失(ロスト)させてしまうのも勿体ないですから回収してしまいましょうか」


「それもそうね。もう所有権は放棄されてるみたいだし」


「ん? 落ちてるアイテムを回収するのか? 」


「ええ、後でいくつか見繕って渡してあげればランちゃんも喜ぶでしょう」


「それじゃあ、私も今度ランさんがいらっしゃった時に何かサービスさせていただきますね」



 そんなわけでランがこの先にいることを確信した3人は、散乱したアイテムを拾いながら一本道を進んでいった。


「あ、いた」


「ルカ姉! ルルル姉! あ、お姉ちゃんも来たんだ! 」


 そして、3人はその先で表情を変えずにユリ達を見る忍び姿の少女とその少女の左手を掴んだ手を持ち上げてブンブンと振る嬉しそうなランの姿を見つけた。


 少女は大人しくランに手を握られてぶんぶんと振らされていた。


 されるがままにされている少女の気持ちは一見無表情でユリ達を見ているように見えるが、悔しそうにキュッと上唇を噛んでいるので少女的には不本意なことなのだろう。


「無音さん!! 」


 ルルルは少女を見るなり走り出した。ルルルの声に少女も反応した。さっと身構えた所から普段ルルルが少女に対して何をしているのかおおよそ見当は付く。


 身構える少女を覆いかぶさるようにルルルは、抱きついた。

 小柄な少女を包み込むような優しい抱擁に少女は驚いたように目を見開く。


 ランも「へ? 」と声を漏らし、笑顔だった表情を固まらせる。振っていた手を下ろして、少女の手を放す。


 ユリも突然のルルルの行動に内心驚きを隠せていない様子でルルルと少女を見た。ルカは、先程から少女とルルルに視線を固定したままピクリとも動いていなかった。



 5人の周囲から音が消えた。



「もう無音さん、ダメじゃないですか。衛兵さんに追われるような無茶したら。心配させないで下さいよ」


 少女に抱きついているルルルの表情は誰にも見えることは叶わない。


 ルルルの声は小さくか細く、震えていた。



 ルルルの体は小刻みに震え、少女の体を強く強く抱きしめた。



「……ルルル」


 抱き着かれている少女は申し訳なさそうな声音でルルルの名前を呼んだ。


 少女のプックリとした桜色の唇が開き、新たな言葉を紡ごうと息を吸い込む。


「ごめ――」


「あーもう我慢できません! 衛兵に追われたと聞いた時は私の忍び装束(・・・・)が心配で心配で堪りませんでしたけど、もうそんなことはどうでもいいです!! あー可愛いです可愛いですよ無音さん。この抱き心地、この触り心地堪りません! 」


「……」


 ルルルは少女を強く抱きしめて少女の頬にグリグリと自分の頬を擦り付ける。当然ルルルの視界には警告のウィンドウが表示されているが、ルルルは少女が可愛すぎて少女しか目に入らないようだった。



「「………」」


 ランとユリの2人はその光景を見て、無言で一歩後ろに後退った。2人はルルルの豹変に引いていた。



 その一方でルカの方は


「ルルル! こんな可愛い子を独り占めはよくないわよ! 」


 ルルルに対抗するように少女を後ろから抱き付いた。


 固まる少女は、ルルルとルカの2人に前と後ろから胸を押し付けられながらされるがままになっていた。





 しばらくルカとルルルの胸の間でなすがままにされていた少女の瞳がすっと据わった。

 正気に戻ったらしいことで、現状に殺意が湧いたようであった。


「死んで……」


 その言葉とともに少女は腰から抜いた小刀を同時に2人の首に突き刺した。




「これは……自業自得だな」


「うん……正当防衛だと思う」


 その光景を離れた位置で見ていたユリとランは揃ってそう零すのだった。

『始まりの町』周辺の戦闘エリアの湧く速さ

【初心者の草原】>【深底海湖】>【ゴブリンの草原】>【アント廃坑】=【豊かな森】


戦闘エリアごとの上限

【豊かな森】=【アント廃坑】>>【深底海湖】>>【ゴブリンの草原】=【初心者の草原】






14/8/14 17/10/17

改稿しました。

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