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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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35話 「忍びに変身!」



――『ルルルの防具屋』


「ルルル! ユリちゃんを連れて来たわよ」


 ルカは、店の扉を勢いよく開けて中へと入る。ルカに引っ張られる形でユリもそれに続いた。


「あ、ルカさん! ユリさんもよく来てくれました! 」


 ルルルは、満面の笑みで2人を迎えた。


「……どうもおはようございます。ルルルさん」


 ひきつった笑みでユリはルルルに挨拶した。

 ここに来たのは別にユリの意思ではなかった。


「じゃあさっそくユリさんは、脱ぎ脱ぎして着替えましょうか」


「え? 」


 ルカからユリ受け取り(・・・・)、店の中央まで引っ張っていくと、ルルルは手をワキワキさせてそんなことを言い出した。

 そのルルルの様子にうすら寒いものを感じたユリは、思わず脱出しようと出入り口の方に視線を向けたが、そこにはルカとタクがニコニコ、ニヤニヤとした笑顔で出入り口を塞ぐように立っていた。


「いや、ルルルさん……ちょ、これゲームですから……一人でも着替えれますから大丈夫ですよっ! 」


「遠慮しなくて大丈夫ですよ~。私が手取り足取り手伝ってあげますから」


 脱出路をふさがれたユリは、後ずさってルルルから距離を取ろうとしたが、ユリが後ろに退けば退くほどルルルも近寄ってきた。


 そんなに広くない店の中なので、ユリはすぐに端へと追いつめられた。


「さぁ、ユリさん、ぬぎぬぎお着替えしましょうね~!! 」


「ひっ」


 ユリは思わず目を瞑り両手で顔を庇って悲鳴を上げた。



 しかし、いつまでたっても、ルルルの手がユリの体に触れることはなかった。

 しばらくプルプルと顔を両手で隠して震えるユリを間近で見ていたルルルは


「………ップ。あはははは! 」


 堪えきれなくなって笑い出した。


「え? 」


 ルルルが突然笑い出した理由がわからず、両手をそーっと顔からずらしてユリはルルルを見た。


「すいませんユリさん、そんなに怖がらなくていいですよ。冗談ですよ。冗談。からかってごめんなさいね」


 そう言って笑いながら謝るルルルは、アイテムボックスから改めてユリに着てもらう装備を出して、それを渡した。


「はい、ユリさん。今回はユリさんにこれを作ったので、着てください」


「……え? 冗談なんですか? 」


 ルルルに渡された綺麗に折り畳まれた紺色の服を受け取ったユリはまだ状況が理解できていないようだった。きょとんとした顔でルルルへと尋ね返した。


「当たり前じゃないですか。ユリさんを見てちょっとからかいたくなっただけですよ」


 そう言ってルルルはニッコリと笑う。


「ハハハハ……そうだったんですか。安心しました」


 ユリは、乾いた笑い声をあげながら安堵した。



「ルルルさん、的確にユリの隙をついてるな……手馴れてるというか、姉ちゃんに似てるな」


 出入り口のドアの傍でルルルとユリのやり取りを見ていたタクは、玩ばれてるユリに苦笑して、自分の姉であるルカとルルルを交互に見た。


「何? 」


「いや、なんでもない」


「あっそう。――はぁ~やっぱ怯えるユリちゃんも可愛いわぁ」


(ユリも姉ちゃん達みたいな人に好かれて大変だな)


 ユリを見て恍惚とする自分の姉を見てタクは深いため息をついてユリに同情した。


(強く、生きろよ)


 タクは心の中で、ユリに合掌した。




◆◇◆◇◆◇◆



 ルルルに新しく装備を渡されたユリは早速、その装備に着替えた。


 ルルルに渡された新しい装備は、紺色の忍び装束一式と鎖帷子だった。


 紺色の忍び装束は、袖がなく胸元は大きく肌蹴たゲームや架空の物語に登場するヒロインが着ているような忍び装束だった。その下に着た鎖帷子が肩と胸元から顔を覗かせて鈍い光を放っていた。

 腕には、肘の辺りまである忍び装束と同じ布で出来た紺色の手甲を身に着け、足にも同様に同じ布で出来た紺色のニーソのようなものを履いていた。 革靴の代わりに草履を履いた姿は、可愛くデフォルメされているとはいえまさしく忍者、忍びと言った装いだった。


 その上に籠手と脛当を装備すれば、よりその印象が強まった。


 あと忍び刀と言った日本刀や手裏剣などを装備して覆面をすれば、外国人辺りが「ニンジャ! ニンジャ! 」と喜びそうである。


 全体的に紺色が多く使われていて、ユリの青い髪に合わせられているかのように似合っていた。



 これには、いつもは茶化すタクも「似合ってるな」と好評価だった。


 肌蹴た胸元から覗く鎖帷子では隠しきれない白い素肌に興奮するルカも絶賛していた。誰が見ても美女だと答えるような容姿のルカだが、色々と残念だった。



「ユリさん。この忍び装束は、私が今手に入るアイテムと技術を総動員して作った自信作なんですよ!

 森蜘蛛から編んだ布は私の魔力が練りこまれて魔法防御力にとても優れています。服の下に来ている鎖帷子は、物理防御力に優れています。この装備だけでもこの辺りのエリアなら十分なくらいです! それにこの忍び装束全部着ているとセットボーナスまで付くんですよ! あ、あと必要な強化素材を持ってきてもらえれば、強化も出来るので出来れば愛用してくださいね」


 ルルルは、熱心にユリに新しい忍び装束の素晴らしさについて語った。


「あ、うん。大切に使わせてもらいます」


 その熱意にユリは、若干引きつつも礼を言った。


「それでですね、その忍び装束の代金ですけど……えっと性能にこだわりすぎて、お金がちょっと高くなっちゃったんです。……端数切り捨てでも8万になります」


 ルルルは、忍び装束の値段を言い難そうに恐る恐る告げた。


 8万という金額は、正式稼働4日目で考えれば、とてもではないがポンと出せるような手軽な値段ではなかった。というか、普通にかなりの大金だった。


「わかったわ、ユリちゃんのは私が払うから大丈夫よ」


 とはいえ、それは『正式稼働からのプレイヤーが』という前置きがあり、β時代のお金が引き継げる元βテスター……しかもその中でもトッププレイヤーだったルカにとってはポンと気軽に払える値段だった。少なくともユリの為になら全く躊躇わない程度の値段でしかなかった。




「ちょっと待ってルカ姉」


 しかし、上機嫌で8万を払おうとするルカをユリは止めた。

 流石にこれほど高性能な防具をルカに支払ってもらいタダで貰うのにはユリの気持ちが許せなかったのだ。


「ルルルさん。今回の代金、俺が払います」


 そう言い切ったユリにルルルは困ったような表情になる。


「こっちとしては別にいいんだけど……お金足りる? 」


「……分割って可能ですか? 」


「分割、ですか……可能と言えば可能ですけど。金の代わりに手持ちのアイテムをいくつか貰うっていうのでも私はいいですよ」


「え? それでもいいんですか」


 ほとんど金を持ってないユリとしては願ったり叶ったりの提案だった。


「はい。希少価値でプレイヤー間で高くなっているアイテムとかもありますから、そういうアイテムを換金してお金で払ってもらうより、そっちの方が助かります。ユリさんが構わないのなら、早速ユリさんのアイテム欄を開いて見せてもらえますか? 」


「分かりました。それでお願いします」


 ルルルの提案を受け入れたユリは、アイテム欄を開いてルルルに見えるように画面を操作した。


 ズラーっと色々な種類のアイテムが乱雑に記載されているを見てルルルは驚いた様子だった。


「うわっ、一杯持ってるんですね。……兎とかすごい量。狼もあるし……猿もありますね! うわっ!? 鮫もあるよ!? 魚もいろんな種類があるみたいですし……うぅむ、ユリさん結構手当たり次第にモンスターを狩っているんですね。これは悩みますね……」


 ルルルは、欲しい素材が多く見つかったようでどれにしようかとしばらく頭を悩ませた。そして、10分ほど、うんうんと画面の前で唸った上で決断した。


「決めました。ユリさん『ホーンラビットの毛皮』を90枚、『森狼の牙』を5つ、『森狼の毛皮』を5枚、『隠猿の毛皮』を2枚、『血鮫の皮』を2枚に『血鮫の牙』を5つください」


「わかりました。――はい。どうぞ」


 ユリは、ルルルに言われたアイテムを言われた数だけ、アイテムボックスから取り出してルルルに渡した。


「はい。ありがとうございます! これで、新しいアイテムが作れます! 鮫の素材とかは、まだ湖を攻略するプレイヤーがほとんどいないせいで、市場では全く取引されてなかったのでとても助かります」


 ルルルは、嬉しそうに笑ってユリに礼を言った。


「ユリさん。アイテムを売る時は、ぜひ私のところで売ってくださいねっ! 」


「あ、うん。わかった」


 別に断る理由もなかったこともあってユリは頷いた。

 どうせアイテムをお金に変えるならそのアイテムを有効活用してくれるだろうルルルに売る方がいいだろうぐらいしかユリは考えていなかったが、ルルルからすれば、現在希少価値の高いアイテムをいくつも持っているユリからそのアイテムをそこそこの値段で売ってもらえるというのはとても助かるわけで、ルルルは、小さくガッツポーズした。




「それにしても、この忍び装束って、どこかで見たことあるんだよな。……どこで見たっけ? 」


 ユリは、自分の服装を見て、どこかで見たような気がずっとしていたのだがそれがどこでだったか思い出せず首をかしげた。


「あ、もしかして無音(ムオン)さんに会ったんですか? 」


 すると、偶然ユリの呟きが聞こえたルルルは、心当たりがあったのかユリの知らない自分の名前を出した。


「え? ルルルさん知ってるんですか? その人ってどんな見た目ですか? 」


 ずっと気になっていたユリは思わず、ルルルに聞き返した。


「無音さんはですね。βの時から私の常連さんでいっつもここで装備を買ってくれる可愛い女の子なんです! とっても小さくて可愛くて黒髪の可愛い子なんです!! しかも、見た目子供なのに実際は高2で私と同い年なんですよ! すごく可愛いんですよ! 」


 するとルルルは興奮した様子で無音という少女について語り始めた。

 その姿が興奮した時のルカと似ており、何度も可愛いと力説するルルルの話を聞く内にユリの顔がひきつってしまうのは仕方のないことだった。


この人(ルルルさん)、ルカ姉と同類だ。


 ルルルに初めてあった時から薄々感じていたユリは、そう確信した。


 そんなことを思いつつ、ルルルの如何にその子が可愛いかというのに重きを置いた説明からユリは、ログインした時のことを思い出した。


「……思い出した。噴水のところで衛兵に追いかけられた子だ」


 その言葉に、近くで話を聞いていたルカとタクが少し驚いた反応を見せた。

 しかし、それに一番驚き、反応したのはルルルだった。 


「ええっ!? ユリさんそれはどういうことですかっ!? 」


 驚きで目を見開いたルルルが、ユリの肩を掴み説明を求めた。


「ちょ、ちょっと落ち着いてルルルさん! 」


 その剣幕にユリは少し気圧されながら、簡単にその時のできごとを話した。



 ユリの話を聞き終えた3人は揃って難しい表情になった。


「……衛兵に追いかけらてたってことはPKでもしたのか? 」


 タクが、少女の状況を推測する。


「多分、そうなんでしょうね。それにしても小柄な黒髪ロングの忍び少女ちゃんかぁ……ちょっと気になるわね」


 ルカもタクの推測に同意したが、ルカにとってそれは些細なことでしかないのか、ユリとルルルから聞いた少女を想像して真剣な表情で会いに行こうかと検討し始めた。


「いや、姉ちゃん。わからなくはないが、注目するところはそこじゃないからな」


 違う理由で、少女に興味を持ち始めているルカに突っ込みを入れるタク。その横では、ルルルが絶賛暴走中だった。


「無音さんが、PKをして衛兵に追いかけられている? 無音さんはそんなことをするプレイヤーではなかったはずです。PKは無音さんのプレイスタイルとは似て非なるものですし……そもそも無音さんが捕まったら、私の苦心して作った忍び装束がっ!? いやあああああ!! それは、()です! 折角無音さんに似合う忍び装束を作ったのに、あれが無くなっちゃうなんて絶対にダメです!! 絶対に!! 」


「……何が何だかもうわけわかんない」


 自分の赤い髪をぐしゃぐしゃとかき回して絶叫するルルルの様子を遠巻きに見るユリは、それに全くついていけてなかった。



「こうしちゃいられません! 私もちょっと無音さんを探してきます」


 暴走していたルルルは、そう言って自らのメニュー画面を操作して支度をし始めた。


「待ってルルル! 私も行くわ! 」


 ルカも結局少女への好奇心を抑えることができず、ルルルに同行の許可を求めた。


「分かりました。一緒に行きましょうルカさん! 」


 作業服のような恰好から赤い礼服のような恰好に服装を変えたルルルは腰にレイピアを差してルカの同行を認めた。


「ほら、ユリちゃん行くわよ! 」


 ルカは、傍観していたユリの腕を掴んでそう言った。


「えっ!? 俺も! 」


 驚くユリを無視して、ルカはユリを引っ張って先に店を出たルルルの後を追った。ユリが外に連れ出されるとタクもその後ろに続いて外に出てきた。


「たすけて! 」


 ユリはタクに再度助けを求めた。


「悪い。俺はこれから用事があるんで別れさせてもらう。じゃあなユリ! 頑張れよ! 」


 しかし、無情にもタクは、そう言い残してユリを見捨ててルカ達が進む反対方向の道へと実にいい笑顔で走り去ってしまった。



「タクーー!! この裏切者ー!! 」


ユリの怒声が路地裏に響き渡った。




14/8/14 17/06/30

改稿しました。

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