34話 「ルカ姉暴走再び」
新キャラ登場します。
ぐっすりと眠れたトウリは、その日は比較的いつもより早く起きた。
下に降りるとカオルが起きていたので、2人で朝ごはんのおにぎりをつくった。カオルが七味の詰め替え用をフリカケと間違えるというハプニングがあったものの、ご飯に混入する前にトウリが気付き、それは未然に防がれた。その後は無事におにぎりが完成した。
完成した頃に早朝からSMOをやっていたタクヤと起きてきたランが2階から降りてきて、4人揃って朝食を食べた。
そして、食べ終えたトウリは家事を済ませた後、部屋に戻ってSMOにログインした。
◆◇◆◇◆◇◆
――『始まりの町』噴水広場
他のプレイヤーの中に紛れてユリが噴水広場に姿を現した。
青い光球から姿を現したユリは初め目を瞑っていた。少しして恐る恐る目を開くと周囲と自分の姿を確認する。そして深い安堵のため息をついた。
「よかった……今回はちゃんとログインできた」
噴水の中に召還されなかったことにユリは心底ほっとする。
「そこの貴様動くな!! 」
そこへ突然、噴水広場に響き渡る大きな怒鳴り声がした。
その怒鳴り声にユリは、ビクッと体を震わせ驚いた。
声のした方を見ると何やら物騒な雰囲気を出した全身鎧を着た門番と似た姿の6人の集団が、まっすぐに自分の方に向かってきていた。
「え? え? 」
ユリは自分に近づいてくるその集団に困惑して反応できずにいると、小さな舌打ちが横から聞こえた。そのすぐ後に小さな黒い影がユリの横を横切った。
その影は、小さな忍者だった。
黒い装束は一目で忍び装束と思わせるコスプレのような見た目であり、短い袖の先から伸びた白く華奢な手足とランよりも低い背丈と腰まで伸びた黒髪を紐で縛って一本に纏めている姿からして、その忍者は幼児体型の少女のようにユリの目には映った。
そして、一瞬見えた少女の黒い瞳は、まるで闇のように黒く塗り潰されていて感情という色が見えなかった。
そんなイロモノの集団であるプレイヤーの中でも浮いた姿の少女は、人と人との隙間を縫っていくように人で溢れ返った噴水広場の中を素早く移動して、あっという間にユリの前から姿を消してしまった。
「っ逃げたぞ! 追え! 追うんだ! いいか、決して取り逃がすな! 各門の担当にそれぞれ警戒の指示を伝えろ! 」
衛兵と思われる人たちは、4人が門の方へと向かい他の衛兵に指示を出していたリーダー格の衛兵と残りの1人が逃げた少女を追いかけていった。
どうやら衛兵達はあの忍者の姿をした少女を追いかけているようだった。
それを、ユリはまったくついていけないという表情で見ていた。
「あーー! お姉ちゃん見~つけた! 」
少女と衛兵が消えていった方向を見ていたユリの後ろから元気な少女の声と共にユリの背中に衝撃が走った。
「うわっ! なんだランか。急に飛びついてくるなよ」
急な衝撃に前に倒れそうになったユリが蹈鞴を踏んで、後ろを振り返るとそこには銀髪の少女、ランが抱きついていた。
服装は以前見たお人形のような、どこぞの魔法少女のような、フリルをふんだんに使われていた可愛らしい服を着ていた。
「ん~なになに? お姉ちゃんさっき何を見てボーっとしてたの? 何か面白いものでもあったの? 」
腰に抱き着いたまま顔を上げたランが興味津々に聞いてくる。
どうやら先ほどの少女と衛兵達の逃避行の時にはいなかったようだ。
期待と好奇心できらきらと輝く新緑色の瞳と小柄で人形のような容姿と相まってランは、リアルよりも更に幼く見えた。
「さっき衛兵みたいな人たちが忍者みたいな少女を追いかけているのを見たんだよ」
ユリは、体にしがみ付いているランを引き剥がしながら答える。
「忍者みたいな少女!? なにそれカッコいい!! どこどこ! どこにいるのそんな娘! 」
握った両手をぶんぶんと上下させながらランが尋ねる。完全に子供だった。今の姿のランを見て、中2だということに気付く人はいないだろう。
「落ち着け。今はもういないからな。あっちの方にとっくに逃げていったよ」
ユリは子供をあやす様に優しく答えた。
「ホント? 本当なんだよね! じゃあ私その忍者の娘探してくる! 」
ランは、そう言うが早いか、ユリが止めるよりも先に少女が逃げた方に走り去ってしまった。
「あ……おい! ラン! ってもう見えなくなった。速いな」
ユリはランが駆け出していった方向に伸ばした手を戻しつつ苦笑した。
「まぁ、放っておいてもいいか。よし、今日は森の探索でもしようかな。クリスの木の実も集めないと――んむっ!? 」
行ってしまったランは放って置いてユリはユリで【豊かな森】に行くため西門へ続く大通りに向かおうとして、突然後ろから肩を捕まれ、体を反転させられたユリは顔面に何か柔らかい物を押し付けられた。
「ユリちゃん確保~♪ 」
聞き覚えのある声がした。
その声の主はルカだった。
ユリを豊満な胸に埋めながら上機嫌でユリの首の後ろに腕を回してユリが逃げれないようにした。
ユリの視界に警告のウィンドゥが表示された。
「ちょ、ちょっとルカ姉! それなし! 警告されてるから! 」
そう言ってユリはルカの拘束を振り解いて脱出した。
過激なスキンシップにユリの頬は紅潮し、ルカの方はニコニコと笑っいた。
「さあ、ユリちゃん! 私と一緒にルルルの店に行くわよ。ユリちゃんの新作の服が早速できたそうなの」
「はっ!? まだ一日しか経ってないよ! 速すぎるよ! 」
この場合、ユリはルカの暴走と新作の服の完成、二つのことを指して言っていた。
「さぁ早く行くわよ! ユリちゃん」
そしてユリは再び『ルルルの防具屋』に強制連行された。
その様子を少し離れたとこから見ていたタクは、ルカに引っ張られていくユリに近づいき肩を叩いてニヤニヤと笑っていた。
「お前もついていないな~」
完全に傍観者として楽しんでいるタクにユリは睨んで「少しは助けろ」とアイコンタクトを送るが、タクは首を左右に振った。
「俺は、無駄なことはしたくないんだ。――それに見てて面白いし」
「地獄に落ちろ!! 」
ユリは心の底からの気持ちをタクにぶつけたがタクはへらへらとユリの隣で笑っていた。
周りのプレイヤーはそんな3人のやり取りをコントを見るかのように面白そうに見ていた。
14/8/13 17/06/30
改稿しました。




