表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
30/138

29話 「桟橋で戯れるスク水少女」

――【深底海湖】桟橋



「うーん……」


 スク水姿で桟橋の縁に屈むユリは、水面を覗き込みながら頭を悩ませていた。


「サメが思ったよりも簡単に倒せるのはわかったけど、毎回あんな思いまでして桟橋までレースするのは精神的にきつすぎるんだよな。水中で楽に倒せたりはできないかな……」


 陸に上げてしまえば勝てる。


 ユリは、先程の戦いでそれを実感していた。


 サメを桟橋にまで誘き寄せて挑発して、ジャンプを誘発させて陸に上げてしまえば、後は槍なり拳なりで簡単に倒せてしまえる。クリスの攻撃で簡単に削れたのだからサメの防御力は今までのモンスターとあまり変わらない。


 陸に上がって機動性を失ったサメは、まな板の魚と同じだった。

 


 しかし問題はいくつかあった。


 陸に上げるまでに手間と危険が伴うということだ。


 誘き寄せるには水中に一度入る必要がある。水中でのサメの機動力はかなり高い。今回無事だったからといって毎回、桟橋にまで無事に辿り着けるとは限らない。それにユリの精神的にも大口を開けたサメに追いかけられるのはキツかった。


 何より敵から尻尾を巻いて逃げるというのはユリの趣味ではなかった。


 だから、ユリは水中でサメを倒すことを考えた。


 先程まで喰われかけたサメを怖がっていたのに今は倒すことを悩むのだからユリは、肝が太いのか細いのかよく分からない。そういうのは忘れっぽい性質なのかもしれない。


「クリス、お前はどう思う? 」


「きゅ? 」


急に話を振ってきたユリにクリスは、何? とばかりに頬に魚が丸々詰め込まれた状態でユリの方を向いた。


 魚が大きすぎてクリスの左頬が魚の頭に変形していた。


「ぶはっ! クリス、頬っぺたが魚の形に膨らんでるぞ! 」


 クリスの不意打ちにユリは、堪えきれずに噴き出した。


 クリスはその間に魚をゴクンと呑み込んだ。それでもユリはおかしくてしばらく笑っていた。



「あぁ、おかしかった」


 やっと笑いが収まったユリは桟橋の縁に足を投げ出して、ブラブラさせながらクリスを両手で持ち上げた。


 ユリは、頭の中でサメを水中で倒す方法を考えながら両手でクリスを抱えたままクリスの頬を親指でつつく。クリスの頬っぺたは柔らかいな~とむにむにとクリスの頬をつついてユリは、ふにゃっと表情を崩して微笑んだ。


 傍から見れば、スク水少女がペットの栗鼠とじゃれている様にしか見えない光景だった。



「あ、そう言えばスキルってどうなったかな」


 ふとスキルレベルが気になったユリは、メニュー画面を操作してスキル画面を目の前に表示させる。

 その間、片手でクリスのお腹をなでていた。クリスのお腹は毛が柔らかく肉も柔らかいので、ふにふにもふもふとしていた。


「おお! 全体的に上がってる。特に【泳ぎ】と【投】が結構上がったな」




スキル

【拳LV16】【脚LV14】【投LV16】【関節LV3】

【調理LV6】【泳ぎLV8】【発見LV8】


控え

    なし


称号

【無謀な拳闘家】【ラビットキラー】【見習い料理人】【見習いテイムマスター】



【関節】を除くスキルのレベルが軒並み上がっていた。



「すごいけど、【関節】が全くレベルが上がってないな……。まぁ、絞め技ってあんまり使い勝手よくないもんな。使ったのはウサギぐらいだっけ? 集団戦だとあんまり関節決めてる暇なんてなかったしなー。そもそもこれが正しい使い方なのか怪しい所なんだよな」


 まったく上がっていない【関節】にユリは眉を顰めた。

 関節がよく曲がりやすくなったりするなら面白そうだというとても残念な理由で選んだはいいものの【関節】は使い勝手のあまりいいとは言えない微妙なスキルだった。


 このスキルには、関節技や絞め技に補正(アシスト)がかかるだけでなく、関節駆動範囲の拡張と体の柔軟性の向上する効果はあるにもあるのだが、ちょっとリアルよりも体がよく曲がるようになったかな?というあやふやなもので、現状は実感できるほどの効果は現れていなかった。


 しばらく【関節】を眺めていたユリはあることを閃いた。


「もしかしたら、魚にも関節技や絞め技って効くのかも! 」



 実際このユリの考え方は正しかった。

【関節】スキルは、ほぼどんなモンスターでも継続的にダメージを与えることができるスキルだった。


 しかも一定のダメージを一部の部位に与え続ければ、気絶や部位損傷による移動速度の低下、腕力低下などのバッドステータスを与えることができた。


 しかし、敵に密着状態になるので攻撃を受けやすく、集団戦だと的にされやすいという欠点があり、効果が出るまではずっと絞め技をかけ続ける必要があった。そのため、【関節】を好んで使うプレイヤーは少なかった。


 しかし、そんなことをユリが知るわけもなく、人間ではない兎に効いたのだから同じ骨があるモンスターなら効くかも知れない! という発想からだった。


「よし、魚に試してみるか! クリス、お留守番よろしくなー」


「きゅ! 」


 そう言って再びユリは湖に飛び込んだ。そんなユリをクリスは元気な鳴き声で見送った。




14/8/12 17/05/03

改稿しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ