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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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27話 「【泳ぎ】は危険【釣り】は安全」

――【深底海湖】湖の中


 『始まりの町』で起きたユリの精神をガリガリと鑢にかける如く削る出来事を忘れようとユリは無心に湖の中を泳いでいた。


 泳いでいる最中に上着を煩わしく思ったユリは、途中で水着へと着替えた。


 あんな恥ずかしい思いを先程したばかりだというのに、性懲りもなく再びスクール水着を着る辺りがユリらしいと言えばユリらしかった。神経が繊細なのか図太いのか今一わからなかった。


 湖の水面近くで漂うように泳ぐ多種多様のカラフルな魚たちは、ユリがすぐそこまで接近してきても気にすることなく暢気に泳いでいた。ユリもそんな魚たちを気にすることなく泳いでいた。


 また、前回泳いだ時よりユリは確実に移動速度も潜水時間も上がっていた。ユリ自身、そんなことを気にする余裕がなかったが、既に湖の水面近くにいる魚たちよりもその泳ぐ速さは勝っていた。



(ここの湖は綺麗だなー……)


 先程までの疲れたため息ではなく感嘆のため息を口から気泡として吐き出す。


 ユリは水中で仰向けになり水面越しに空を見る。

 水の中から見える空は、波にゆらゆらと揺れる水面で太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。


 湖を囲うように生える森が空を包み込んでいるかのように見えた。



(森の中にある湖か……綺麗だな)


 ユリの落ち込んでいた気持ちが、その景色を眺めているとだんだんと薄らいできた。

 ユリの傷心はその美しい景色に癒され、ユリの心は徐々に立ち直りつつあった。





 景色を楽しみながら泳いでいる内に立ち直ることが出来たユリは、その後も水面近くを泳いでいた。



(あ、あのタイ、前に釣った奴だ。……そういや水の中でも素手とか足で攻撃しても魚にダメージが入るのかな)


 ユリの近くに以前釣り上げた紅いタイに似た魚が泳いでいた。ゆったりと水中を泳いでいるタイを見て、ユリは倒せれるかなと考えた。


 好奇心に負けて、ユリはタイへと接近した。


(てい! )


 間近にまで接近したユリは、タイを軽く殴った。



――パシ


 タイはユリの攻撃を避ける素振りも見せずに簡単に当たった。タイのHPは、一撃で半分以上も減少した。


(お? )


 攻撃を受けた途端、タイがさっきまでのゆっくりとした動きを一変させ、体を素早く旋回させて方向転換すると、そこそこ速い速度でユリに突撃してきた。


――パシ


 タイがユリの体に体当たりするよりも早くユリの拳がタイの体に当たった。タイのHPは0になり、タイは呆気なく消滅した。


(あれ? この魚ホーンラビットより弱くね? )


 たった2撃で倒せたことにユリは驚いた。


(……と、言うことは魚を倒し放題? よし、今度は魚料理に挑戦してみるか)



 水中を泳ぐ魚たちを見てユリはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。




 こうして、ユリの蹂躙が始まった。 





◆◇◆◇◆◇◆




(よっしゃあ! これで76匹目! さっきの紫色の魚はウナギなのかな? まぁ、ゲームだし考えるだけ無駄か)


 魚を狩っている内に【泳ぎ】のLVが上がり、ユリの泳ぐ速度は魚よりも格段に速くなっていた。潜水時間も約10分とかなり長い時間、潜れるようにまでなっていた。


(釣りよりも断然こっちの方が俺にはあってるな)


 ホーンラビットと違って最初は必ず先制攻撃ができるノンアクティブの魚達は、かなり狩りやすい敵だった。


(次の標的は、あれだな)


 ユリは、近くを泳いでいた細長く白い魚を次の標的に見定めると右手に持った槍を投擲した。槍は外れることなく魚を貫き、魚はビクンと体を痙攣させた後ガラスが砕ける音共に体が白い光の粒子に変わり消滅した。


(よし、これで77匹目っと。よく分からんけど、槍は投げた方が攻撃力あるんだよな~っと回収回収)


 魚が消滅し底に沈んでいく槍を、ユリは慌てて回収する。

 一度槍が沈むことを知らなかったためにユリは、すでに1本の槍を底に沈めて失くしてしまっていた。


(物は大切にしないとな。……ん? 底の方から魚がきてるな)


 底に沈む槍を回収した際に水の底の暗闇の中で魚の形をした影が動くのが見えた。


 新しい魚か? と、ユリが思っている間にその影はじょじょに大きくしていき



(おお結構大きい魚――ってあれサメじゃねぇか!? )


 こちらに接近してくる巨大な魚影の正体に気づいたユリが驚きのあまりゴボッと口から大きな気泡を吐き出した。


(え、あのサメ、俺の方に近づいてきてるよな? ――いやいやいやっ! そんなわけないよな。うん。ここは落ち着いて気が付かれないようにゆっくり桟橋に上がれば大丈夫……ってやっぱり俺気付かれてるっ!!? )


 まだ距離があるから大丈夫だと自分に言い聞かてユリは、落ち着いてサメの進路方向とは違うの方に逃げたが、サメもまっすぐ進んでいた進路を変えてユリを追いかけてきた。


 狙われているのは自分だと気付かされたユリは、必死に手足を動かして前回よりも速い速度で桟橋まで逃げた。



 いくらゲームでも、サメが無駄に迫力があった上に初戦が若干トラウマになっていたユリに戦おうなんて意思は全くなかった。



(いやいやいや!! サメ早すぎるだろ! ぎゃあああ! 近づいてくるぁぁああああ!! 誰かタスケテ!! )


 全速力で逃げるユリだったが、それでもサメの方が速いのかサメとの距離は徐々に縮まっていった。少しずつ近づいてくる脅威にユリの精神はかなり追い詰められていた。



 ユリは、ガボガボと口から気泡を吐き出しながら桟橋に辿り着こうと必死に泳いだ。しかし、それでも桟橋まではまだまだかなりの距離があった。こんな時、桟橋からかなり離れて行動していたことが悔やまれる。


(うおおおおお!? マジで近づいてくんな! いやほんと来ないで! 嫌だ! 怖い! 来るな!! 俺おいしくいないからー! )


 残り1メートルを切ったところまで迫ってきたサメにユリは、もはや完全にパニック状態に陥っていた。


 しかし、それでもユリの必死の泳ぎで桟橋まであと少しの距離まで来ていた。


 サメに食われるか、桟橋まで逃げ切れる、今はかそんな状況だった。


 サメはすでに口を大きく開いて、ユリに食らいつく準備は万端だった。口にずらりと並んだ鋭い歯が後ろをちらっと振り返ったユリの恐怖を更に煽った。


(あと少し、あと少しでっ! ぎゃああああ!? 今ちょっと足がかすった!! 足がかすった! やばいやばいやばい! 誰かあのサメを止めてくれー!! )


 手を伸ばせば桟橋に届くだろうという僅かな距離、その時にはサメとの距離もほぼゼロ距離になっていた。サメの牙がユリの左足にチクチクと当たっていた。


 ユリの焦りが最高潮に達したその時


――プププププ!!!


「っ!? 」


 ユリの耳にそんな小さな音が聞こえたかと思うと、サメがビクンと硬直して速度が僅かに落ちた。

その隙にユリは、素早く桟橋の上に上がった。


「ハァハァ……ハァ…………ハァ、ク、クリス。ナイスアシストだった」


 背中を床につけて仰向けで倒れたユリは、荒くなった呼吸を整えながら自分の胸によじ登ってエヘンと胸を張ってこちらを見下ろすクリスに礼を言った。


 先程の小さな射出音は、クリスが木の実をサメに撃った時の音だったのである。


「きゅぅ」


 絶妙なタイミングで支援してくれたクリスは、礼を言われて得意そうに鳴いた。


 サメは、陸上にいるユリ達を攻撃することができないのか、様子を窺うように桟橋の周りを旋回していた。


 クリスのおかげでユリは死に戻りすることはなく無事に生還することが出来た。


「ハァハァ……もしかして、釣りのメリットって、サメに襲われないことかもしれないな……」


 未だに緊張で荒い息をするユリは、ふと老人に勧められた釣りの良さに気付くのだった。




サメがプレイヤーを襲うのは、アクティブモンスター共通である

・プレイヤーから攻撃を受けた場合

・サメの索敵範囲に入った場合


の2つの場合


そのサメの特有の条件である


・プレイヤーが湖のモンスターを一定時間内に決められた討伐数を超過した場合

・プレイヤーが湖に入っている時に一撃で自らのHPを4割以上削られた場合


などを一つでも満たした場合プレイヤーを襲うのようになります。



5/13改稿


14/8/12 17/04/25

改稿しました。

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