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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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26話 「ユリは、みずのなかにいる! 」

――『始まりの町』


ゴポゴポゴポゴポ………


 いつもならば、ログインした時は噴水広場の石畳の上に立った状態で現れるのだが、ログインしたユリがいたのは、気泡で視界が埋め尽くされた水の中だった。


(……は? )


 想像もしていなかった事態にユリの思考は、停止した。


(え、水中? は、なんで? )


 あまりのことに理解が追いつかなかった。声を出そうとしても言葉にならず、ゴボボと口から気泡が吐き出されるだけだった。


(と、ともかく、いったん水面に……! )


 トウリは、上から流れ落ちてくる水流に体を押さえつけられていた。視界を埋め尽くす程の気泡に包まれながらもユリは、水面に出て状況を把握しようと水の底に押し付けられた四肢に力を入れて浮上しようとした。


――ザバァ……


「あれ? 」


 深い、と思っていた水は案外浅く簡単に水面から顔を出すことが出来た。というよりも底に足がついて立てれるほどの深さしかなかった。


「ここ、噴水か……? なんでこんなとこに……」


 ユリは噴水の中に立ち尽くしたまま辺りを見渡した。そこはユリの記憶にある『始まりの町』の中央の噴水広場の景色だった。

 大量の水と共にプレイヤーである光の球を吐き出す巨大な噴水の中に臍辺りまで水に浸かったユリがいた。そのすぐ近くで中心の柱から噴きだした大量の水が頭上から降り注いで水しぶきを上げていた。



 周囲のプレイヤーが突然噴水の中に現れたユリに注目していた。

 特に男性プレイヤーの一部が興奮気味にいやらしい視線でユリを見てきていた。



「取りあえず噴水から出るか………」


そんな周りの様子に気づいていないユリは噴水から出ようとしてふと、下を見た際に自分の服装に気づいて、絶句した。


 スクール水着を着たままだった。


 

 ユリは、自分がスクール水着に青ニーソという変態的な格好をしていることに今更ながら気が付いた。



「…………ぃゃ……」



 それと同時に周囲のプレイヤーのほとんどが自分を見ていることにユリは遅まきながら気づく。その中の何人かのプレイヤーからは、あからさまにユリをいやらしい目で見てきていた。


 自分に置かれた状況を把握したユリは、その雪のような白い肌を真っ赤に上気させてぷるぷると小刻みに震え出した。


「いやぁぁあああああ!!! 見るなぁああああああああ!! 」


 羞恥に耐えられなかったユリは噴水を飛び出し、叫びながら西大通りへと爆走していった。





 後日、某掲示板に専用スレが立てられた。




◆◇◆◇◆◇◆



――【豊かな森】西門


 ユリは、他のプレイヤー(・・・・・・・)からは見えにくい西門の死角となっている場所で、膝を抱えて落ち込んでいた。


 ユリの後を追ってきたプレイヤーが中にはいたが、門の近くで落ち込んでいるユリに気づく者はいなかった。


 服装は、ここに来た際に元の執事のコスプレのような姿に戻っていた。


「最悪だ……。いくらゲームの中でもあれはない、あれはないよぅ……。あぁぁぁぁ……終わった……! 」


先程の出来事はユリにとってかなり衝撃だったようでブツブツと呟きながら落ち込んでいた。ハイライトが消えた瞳は、まるで星の輝きを失った夜空のように黒ずんでいた。



「…………」


 唯一ユリの存在に気づいている西門の門番は、どんよりした重い空気を纏っているユリにかける言葉が見つからず、その付近には決して近づかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆



――『始まりの町』南大通り



 30分後、西門の近くで落ち込んでたユリの姿は南大通りにあった。


「アハハハハハハ!! 水着がどうしたー! もう知らねー! 湖で泳ぐぞー!! アハハハハハ!! 」



 普段見せない笑顔を顔に張り付けて、笑い声をあげながら南大通りを走っていた。


 もはや別人だった。

 元気になったというよりは壊れたように見える。どうやら未だ絶賛混乱中のようだった。完全にキャラが崩壊していた。



 周りのプレイヤーもそんなユリに決して近づく者はいなかった。先ほどのスク水少女と今のユリを同一人物だと気付くプレイヤーはその中にはいなかった。



 この時のユリの様子を知人が見ていなかったことが、せめてもの救いだった。



「アハハハハハハ! 待ってろよ俺の湖ー! 」



◆◇◆◇◆◇◆



――【深底海湖】


「マジで何だったんだ……? さっきまでのテンションは……」


 湖についた頃にやっと正気に戻ったユリは、桟橋の上で膝を抱えて座り込んだまま虚ろな目で湖を見て黄昏ていた。その膝の上にはクリスが乗っていた。


 正気に戻ったようだが、元気になったわけではないようだ。


「はぁ……それにしてもなんで噴水なんかに……」


 こうなったのもスクール水着を着たまま噴水に出たことが原因だった。その原因を考えようにも情報が少なすぎてユリには見当もつかなかった。



 まさか運営の悪ふざけなどとは夢にも思っていなかった。


「ええい! 落ち込んでても仕方ない!! 」


 しばらく湖を眺めていたユリは、自分を叱咤するためにも大声を上げて、勢いよく立ち上がった。


「きゅぅぅぅ~~!? 」


その拍子に膝に乗っていたクリスが桟橋に転げ落ちた。



「気分転換に湖で泳ぐ!! 」


 クリスが落ちたことに全く気づかないまま沈んだ気持ちを無理やり切り替えて、スクール水着に着替えたユリは、勢いよく桟橋から水面へとダイブした。


――ザパーン!!


 大きな音を立てて湖に飛び込んだユリは、そのまま潜っていった。


「きゅ~……」


 桟橋に取り残されて、徐々に離れていくユリを見るクリスは寂しそうに鳴いた。

 クリスはまたしてもユリに置いてけぼりにされてしまった。




Q.ログインしたら噴水の中に出ました。バグですか?

A.いいえ、仕様です。水着を着用している場合、『始まりの町』ではログイン時と蘇生時では噴水の中に出るように設定されています。




14/8/12 17/04/15

改稿しました。

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