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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
25/138

24話 「湖で魚釣り」

――【深底海湖】桟橋



 白髪の老人の提案に乗ったユリは、桟橋の縁に腰掛けて老人から借りた釣竿から湖に釣り糸を垂らして釣りをしていた。その隣には老人が座って、一緒に釣りをしていた。

 


「…………」


「…………」


 釣りをする2人は、どちらも無言で自分の釣竿を持ったまま水面をじっと見つめていた。


――ピククク……


「む! 」


 老人の持つ釣竿の先が僅かにしなり、水面に小さな波紋が生じた。


――ピク、ピク、ピク


「……」


 老人の持つ釣竿がピクピクと小刻みに動くが、それに対して老人は動かなかった。


「…………なぁ、爺さん。釣竿、動いてるぞ」


 横で見ていたユリが老人がいつまでたっても動かないので思わず声をかけた。


「………」


 しかし、老人はユリに声をかけられても水面をじっと見たまま無言で動かなかった。

 そんな老人に痺れを切らしたユリが、もう一度声をかけようと口を開きかけたところで老人の竿が大きくしなった。


―グググッ!


「今じゃ! 」


 釣竿が大きくしなった直後、老人は素早く腕を上に振り上げた。

 その動きに合わせて水中に入っていた釣り糸が水面から引きずり出され、先端の釣り針に食いついた魚と一緒に桟橋に上がった。


「おおっ! すげぇ! 」


 静からの動。

 魚を釣り上げた老人の熟練した技にユリの口から感嘆の言葉が漏れた。


「ふふん……そうじゃろ? 」


 老人もまんざらでもない表情だった。


「よし! 俺もやるぞ! 」


 老人に感化されて、ユリは今まで以上にやる気を出して自身の釣竿へと向き直った。





◆◇◆◇◆◇◆





「…………」


 ユリは、ジッと自分の釣竿を睨みつけていた。


 その横では老人もユリの釣竿を黙って見ていた。


――ピククク……


 ユリの持っている釣竿が僅かにしなった。


「お、きたか? 」


「まだだぞ。まだ釣竿を上げてはいかんぞ娘よ。もっと魚が食いつくのを待つのじゃ」


「わかった」


 すぐにも持ち上げそうなユリを老人が窘める。



――ピク、ピク、ピク……



「まだじゃ、まだじゃぞ……」


「………」


 ピクピクと小刻みに揺れる釣竿を持ち上げたい衝動をぐっと我慢してユリは、その時をじっと待った。



――ググググ!


 しばらくして大きく竿がしなり、持っている釣竿が急に重くなった。


「今じゃ! 娘、一気に引き上げるんじゃ! 」


「――ッ! 」


 老人の合図とともにユリは思いっきり釣竿を持ち上げた。

 ユリが力にものを言わせて釣竿を引っ張りあげると釣り針に食いついた体長40cmはありそうな紅のタイのような魚が釣れた。


「やった!やっと釣れた! 」


「おお! ついに釣れたの。よかったのぅ」


 ユリは、桟橋の上でビチビチと飛び跳ねる紅のタイを両手で持ち上げて喜びの余りはしゃぎまわる。

 老人は、それを孫娘を見るような優しい目で見ていた。



29回目にして(・・・・・・・)やっとの思いで成功したユリは、タイをアイテムボックスにしまってからもしばらく大喜びしていた。




◆◇◆◇◆◇◆





「いやー爺さん楽しかったわ」


 ようやく興奮が収まったユリは、満足した表情で老人に礼を言った。


「ほっほっほ、楽しんでもらえてなによりじゃ」


 老人も笑いながら釣竿を返してくるユリに答える。


「じゃが、釣り竿はそのまま持っておけばよい」


「え、いいのか? 」


「偶にでいいんじゃ、湖で一緒に釣りをしてもらいたい」


「そんなんでいいのか? まぁ、釣りはあんまり俺に向いてないことがわかったが、爺さんとの釣りは楽しかったし、偶にでいいなら別にいいぞ。ありがとな爺さん」


 老人がもらっていいと言うのでユリは、その釣竿をありがたく貰った。普段使うかと言えば微妙だった記念品と考えれば嬉しかったユリは、老人に再度礼を言った。


「よい、よい」


 礼を言うユリに老人は、笑いながらそう言って桟橋から去っていった。


「釣り、楽しかったな。…………あんまり向いてなかったけど」


 老人が去っていく方を見ながらユリは、ポツリとこぼした。


「……って、あ!? もう12時きてる!! やっばっ! 早く帰らないとっ」


 3人には昼ごはんを13時と伝えていたので、ユリは早く昼ごはんを作らないといけなかった。


 以前作ったカレーライスはよく食べる人が2人もいたので、すでに食い尽くされていた。


「仕方ない。湖に入るのは、昼飯を食った後にするか。早く街に戻ってログアウトしよう」


 ユリは、桟橋から街に続く小道へと走っていった。




 そんなユリは、スクール水着を未だに着たままだった。

 焦っていたユリは、そのことにまだ気づいていなかった。






14/8/11 17/04/12

改稿しました。

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