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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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15話 「会って即刻ばれた」

――『始まりの町』噴水広場


 ログインしたユリ(トウリのプレイヤー名)は、噴水広場に立っていた。



 朝と変わらず周りは人で溢れていて、その中から目的の人を探すのは苦労しそうだった。


 ユリはキョロキョロと周りを見渡しながら、タクヤ達との待ち合わせの場所である南門へと続く大通りと街の中央にある円形の噴水広場の境目に辿り着いた。


 やはりというべきか、南門へと続く道は人通りが少なく、精々両手で数えれる程の人しかうろついていなかった。


 これならすぐ分かるだろうと考え、ユリは壁に寄りかかってこちらにやってくるプレイヤーを待った。



 しかし、そんな時になってユリは致命的なミスに気付いた。


「あっ! しまったな……。タク達に名前を入力ミスしたのを伝え忘れてた」


 以前、タクヤに名前を聞かれた時には、TORI(トリ)にしたと答えたが、入力ミスでYURI(ユリ)になっていたことが今朝発覚していたのだ。


 そのことを伝え忘れてしまったいた上に名前以外にもユリは、容姿を多少弄っているし、性別が男から女へと変わってしまっているので、タクヤ達に見つけえもらう可能性は絶望的になってしまった。


 トリという名前の男性プレイヤーを探すタクヤ達がユリという名前の女性プレイヤーがトウリだと気付くわけがない。髪も現実と違い肩まで伸びて、黒髪が青い髪に変わってるのだ。あっちから気付く可能性はないに等しい。


 ユリはそう思った。


「……俺から探さないといけないな。あー面倒なことになった。タク達のプレイヤー名しか俺も知らないのに……。あ、そう言えばランの場合は名前すら知らないな」


 今朝の朝食の時に突然カミングアウトしてきたランは、トウリを驚かせたかったつもりだったようだが、トウリの反応は「へ~そう」というあまりにも軽いものだったので、ランが不満そうにしてたのをユリは思い出した。


「あの時は、てっきりカオル姉からもらったとばかり思ってたからな。……まさかβテストを受けてたとはな」


昼の時は、βテストの時の話になり、その時初めてランがβテストをやっていたことをと知ったが、「は? ランもβテスト当選してたのか!? 」と驚いた。あの時のランは、トウリの反応に満足したのか胸を張って満足気だった。張る胸なんてほとんどなかったが


「どんだけ俺に自慢したかったんだよ」


 その時のことを思い出して、ユリはおかしくなってクスリと笑った。そんなユリの元に1人のプレイヤーが近寄ってきた。


「ん? 誰かこっちに来てるな。……何だ、金髪か。違うな」


 ユリへと近づいてきていた人は、身長180㎝はあるだろうがっしりした体型の少し日焼けした肌をしたツンツンとした鈍い金髪の男性だった。革鎧を着込んで腰には剣を差していた。

 顔は誰が見てもイケメンといった顔立ちで、ユリはどこか見覚えのある顔だと思ったが、金髪なので気のせいかと浮き上がった疑念を振り払った。


 と、ここでユリはあることに気付いた。


「……そういや、他人の名前ってどうやればわかるんだ? 」


 今更過ぎる疑問だった。3人と会うことができるのか少々不安になる言動だったが、そのことについてユリがそこまで悩む時間はなかった。


「よっ! 待ったか? お前、名前ユリになってんじゃねぇか。入力ミスでもしたのか? 不器用なやつだな」


 ユリに向かって先ほどの金髪プレイヤーが笑いながら声をかけてきた。

 こちらを知っているように話しかけてきた男にユリは、驚いたように目を見開いた。


「え、あなた誰ですか? 」


 と、ユリは警戒した様子で尋ねた。

本気でそのプレイヤーが誰なのかユリは全くわかっていなかった。




◆◇◆◇◆◇◆




「は? ……お前、もしかしてまじで分からないのか? 俺だよ俺、タクヤだよ」


 ユリの質問に金髪プレイヤーは、呆気に取られたように一瞬固まった後、やや呆れたような口調で「誰だこいつ? 」と言う表情で見てくるユリに答えた。

 

 そのプレイヤーはこの世界でのタクヤだった。



「え゛っ、タク? 」


 全然分からなかったといった様子でユリは青い瞳を大きく見開いた。ポカンと小さく開いた口を手で押さえるユリは、本気で驚いているようだった。


 しかし改めて見てみると、リアルのタクヤとどこか似ているとユリは思った。


 金髪で毬栗のようにツンツンとした髪型の上に瞳の色は深緑に変わっていて別人のように見える。 

 しかし、身長はリアルとあまり変わってなかった。体型はリアルよりスマートになっている程度だった。肌は、少し日に焼けたぐらいの健康的な肌色でリアルと同じだった。


 顔は、全体的にリアルより割増しでイケメンになっていて、より一層頼れるお兄さんのような雰囲気が出ていた。この世界風に言うなら頼りになる前衛という感じだった。


 

「………言われてみればタクに見えなくもないかな? ………本当にタクなのか? 」


 そうして、目の前のタクヤを見直したユリだったが、まだ少し疑ってるのか疑いの眼差しでタクヤを見ていた。


「いや、普通わかんだろっ!? 名前見ろよ名前! ちゃんとここに、TAKUって書いてるだろがっ」


 タク(タクヤのプレイヤー名)は、自分の頭上の一点を指差した。


「え? そんなのないぞ? って、おおぉ!? タクの頭の上に文字が出てきた! 」


 タクに指差す辺りを首を傾げながら見ていると突然、タクの頭上に『TAKU』と半透明の青いウィンドウが出てきた。それにユリは飛び上がらんばかりに驚いた。


 その反応にタクは「はぁ~……」と深いため息をつく。


「お前ほんとに何も知らないんだな」


 疲れたような声で呟くタクの声は、興奮気味に周りのプレイヤーの名前を確認しているユリの耳に届くことはなかった。




◆◇◆◇◆◇◆




 しばらく、ユリがプレイヤーの名前確認を頼んでいると、キョロキョロと周りを見渡すユリを呼ぶ声が新たに聞こえてきた。



「あっ! お兄ちゃんだー! 」


「タクは、もう見つけてたのね。ナイスよ」


 ユリが聞こえてきた声の方を向くと、軽快な足取りで駆けてくる小柄な少女と落ち着いた足取りで近づいてくる長身の女性の2人がこちらに向かってきていた。


「……一応言っておくけど、あの2人はランちゃんと姉ちゃんだからな」


 誰? と内心思っていたユリの心を読んだわけではないが、タクがこっそりとユリの耳元で伝えた。


 そう思ってみると、小柄な少女の方がランで、長身の女性がカオルだとユリにも何となくわかった。



 ランと思われるRAN(ラン)という名前の少女は、背丈と体格こそリアルとそう大差ないようではあったが、一番目につくのは白髪と見間違える白さの白銀の髪を腰の辺りまで伸ばしたツインテールだった。ランの動きに合わせて陽射しを反射してキラキラと光っていた。若葉を思わせる鮮やかな新緑色の瞳はパッチリと見開かれていた。淡い桃色の唇はユリと会えたことで開かれて、白い整った歯を覗かせていた。元々中学2年とは思えない幼さの抜けない童顔だったが、ツインテールなどからその印象をより一層強いものにしていた。

 


 一方、カオルと思われるRUKA(ルカ)という名前の女性は、背丈は女性にしては長身で目測で170㎝くらいだった。ちょうどユリと同じくらいだった。海を思わせる鮮やかな青い瞳はユリの瞳の色と近い色合いで、蜂蜜のような鮮やかな金髪は、緩やかに波打ちながら腰まで伸びていた。その体はゆったりとした紺色のローブを着ていることで隠されていたが、ローブを下から押し上げる存在のせいでその女性が大変豊かな双丘を持っていることを知ることが出来た。また、安産型であることも察せられた。ローブでも隠し切れないそのスタイルと整った顔立ちは、すれ違う男たちを振り返させるには十分な美貌を持っていた。

 



「2人ともやっときたか」


 タクがそんな2人へと手を挙げて声をかけた。

 どちらも美形ばかりのプレイヤーの中でも一際目立つ美形だと言うのに全く気後れした様子はなかった。それはユリにもいえて、うわっ全然違う。という思いを抱かせるだけだった。



「あれ? ランは本名じゃないか。タク、あれはいいのか? 」


「あんまよくないけど、本人がいいならいいんじゃないか? 」


「ふーん、そういうもんなのか――「ダ~イブ♪」おわっ!? ちょっ、ランっ!? お前、急に飛び掛かってくるなよっ。危ないだろっ」


 タクの方を向いていたユリにランが走った勢いそのままで飛びついた。不意を突かれたユリは、ランと一緒に石畳の上に倒れ込んだ。



「ふっふ~ん♪ お兄ちゃんゲット~……って、あれ? 」


 ユリの胸に顔を埋めていたランが、違和感を感じてユリの胸に手を当てた。


「ま、まさか……嘘ぉ!? どういうことお兄ちゃん!? 」


「お前こそ何してんだよ!! 」


――スパーン!


 ガバっと起き上がって顔を寄せてきた妹の頭をユリは容赦なく(はた)いた。


「あいた!? なんで叩くのお兄ちゃん! 」


「人の胸を触ってくるからだろうがっ!? 」


 ユリの目の前には青いウィンドが点滅していた。


『GMコールをしますか? Y/N 』


 セクハラ行為の表示だった。ランの画面には『警告!』と書かれた赤いウィンドが表示されていた。


「そんなことよりお兄ちゃん。なんでお姉ちゃんになってるの!? 」


 セクハラをそんなこと呼ばわりしたランは、立ち上がってユリに詰め寄る。

 身長が低いので、ユリを下から見上げるような状態になってるので全然怖くないのだが、ユリの返答は歯切れが悪いものだった。


「あー……うん、そうだな。気付いたら女になってたみたい。うん、そんな感じ。言っとくが、俺も今日初めて知った」



「ぶふぅっ!? マジかよっギャハハハハ! マジで女になったのかっ! 腹いてー! 」


「ええっ!? トウリちゃんが女の子になっちゃったの!? 」


 ユリの返答にタクが噴き出して腹を抱えて笑いだしたのに対し、ルカは驚きの声を上げた。

 どのタイミングで言おうか悩んでいたが、まさか対面して即刻3人にばれるとは夢にも思わなかったユリは、居心地悪そうに指でポリポリと頬を掻いた。




14/8/10 17/03/31


改稿しました。

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