130話 「イベント報酬ととばっちり」
その日の夜にトウリは、SMOにログインすることなく就寝した。次の日の朝、一通りの雑事を終えたトウリは、SMOにログインした。
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SMOのソフトを起動させてログインしたユリは、何もない白い空間の上に立っていた。
その白い空間に訪れたのは、以前に駿角兎に殺された時以来であった。
「やっほー! みんなの女神、アルステナちゃんだぞ! 」
ポンっと軽快な音と共に小さなピンク髪の少女がユリの目の前に現れた。言わずと知れたゲーム会社の公式マスコットキャラクターであるアルステナである。
「お姉ちゃん。この間の騒動では大活躍だったね! 功績値がいっぱい溜まってるよ! 交換期限がもうすぐだから、功績値の交換はお早めにね! 」
手のひらサイズの小さなアルステナが、クルクルと宙を舞いながらバッと手を広げると、少女の背後でパンパンッと軽快な音が炸裂して紙吹雪が舞った。そして、デカデカと『36520』という数字が表示されていた。
「期限までに交換し忘れてたら、私が勝手に選んじゃうからね! 」
アルステナは、最後にそう言うとパチンとウィンクをして、ぱっと手を振った。アルステナの振った手の軌跡に沿って生じた青い燐光がユリに降りかかり、ユリの視界はホワイトアウトした。
ユリの視界が再び戻った時、ユリは『カジバの街』の聖火塔広場に立っていた。
「功績値か……そう言えば、タク達が前にそんなこと話してたな」
今の今ままで忘れていたことを思い出したユリは、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。
「前にそれっぽい画面見たことがあったな。確か、ここにあったような……」
メニューを開いて、クエスト欄にある【襲いかかる黒きモンスターの襲撃】のクエストをタップする。すると、画面の右下に『交換』というボタンが表示されていた。
「あっ、やっぱりあった」
ユリが、そのボタンをタップすると新たな仮想ウィンドウが展開され、ずらーっとアイテムの交換リストが表示された。
数日前にユリは、この画面を見たことがあった。
前に達成済みのクエストから報酬を受け取っていた時に、ユリは他の達成済みクエストのように達成していた【襲いかかる黒きモンスターの襲撃】から報酬を受け取ろうとした。
しかし、通常のクエストであれば、『報酬』となっている所が『交換』となっていた。そこをタップすると、報酬が受け取れるのではなく、今のように新たな画面が開いてアイテムの交換リストが開いた。
それを見て、交換リストからアイテムを選ぶことまでは理解できたが、それにとられる手間を嫌って、その時は見送っていた。そして、そのまま今まで忘れていた。
「武器各種に防具各種、服にアクセサリー、消耗品、道具類って感じか。何にしようか悩むな」
交換リストをざっと見ながら、ユリは顎に手をあてて唸った。
正直言って、アイテムの良し悪しがよく分からないユリは、アイテムの簡素な説明を見てもピンと来なかった。
「まぁ、欲しいもんを選べばいいか。となると、武器とか防具よりも道具の方が気になるな」
交換リストは、アイテムの種別ごとにカテゴリーを分けることも出来たので、ユリは道具類だけを表示して、目を通した。
「あっ、『モンスタークリスタル』も交換できたのか」
その項目の中に『モンスタークリスタル』を見つけて、声をあげた。
「800ポイントか……あそこで買うよりもこっちで交換した方が得だったな」
惜しいことをした、とユリは、眉を潜めた。
実は昨日、ログアウトする前に北大通りに面した道具屋で先日捕らえたジャイアントクオッチのレイヴン用に『モンスタークリスタル』を購入していた。1万2千Gと決して安くない買い物だった。
「はぁ……嘆いても仕方ないか。次の時ように1つくらい交換しとくか」
それでもモンスタークリスタルは、今後テイムモンスターの数が増える予定なら予備を持っていて損はない。ユリは、交換を即決で決めた。モンスタークリスタルの項目にチェックをつけて決定をタップし、最終確認を終えると、仮想ウィンドウが現れた。
『【モンスタークリスタル】を交換しました。交換されたアイテムは、アイテムボックスに送られました』
これで『モンスタークリスタル』が入手できたようだった。
「あとは……何か、面白いものがないかなっと」
そう呟きながら、ユリは、画面に映し出されるアイテムに目を通していった。
『怪盗の七つ道具(1200)』『登攀セット(600)』『剣術の指南書(2000)』『携帯鍛冶キット(2500)』『携帯錬金キット(2500)』『溶錬魔炉(5000)』『隠遁の煙管(1800)』『安らぎの香炉(2500)』『水中式魔光ランタン(1200)』『中級調合キット(2500)』『鑑定の眼鏡(8000)』『索敵の鈴(8000)』『小鬼の角笛(15000)』
「鑑定の眼鏡……! こんな便利なのあったのか! それに水中でも使えるランタンってのもいいな。他には……あっ! 」
『鑑定の眼鏡』と『水中式魔光ランタン』にチェックを入れた後に他のを探していると、あるアイテムがユリの目に止まった。
「これだよ! こういうのが欲しかったんだよ! 」
ユリは、迷わずそのアイテムにチェックを入れて、決定ボタンをタップした。
『【鑑定の眼鏡】、【水中式魔光ランタン】、【万能鞍】を交換しました。交換したアイテムは、アイテムボックスに送られました』
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満足のいく交換ができたユリは、ホクホク顔で『カジバの街』の西大通りを歩いていた。ユリの首元には、リスの立体絵が刻まれているクリスタルと並んで、鳥の立体絵が刻まれたクリスタルが紐に通されて下げられていた。
そんな時、鼻歌でも歌い出しそうなほどにご機嫌なユリの前方から無精ひげを生やしたガタイのいい男2人がやってきた。
その時は、馬車が数台通っていたせいで道が狭くなっていて、ちょうどユリが進む先を遮るように男たちは、やってきていた。歯抜けの黄ばんだ歯を見せながら馬鹿笑いをしている男たちは、どちらもまだ前から来ているユリには気づいていないようだった。
ご機嫌だったユリは、自ら道を譲って道の端に寄った。
――ガシャーン!
道の端に寄ったユリのすぐ横からそんな破砕音がした直後に大の男が吹っ飛んできて、ユリを巻き込んだ。
「ぐふっ!? 突然なんだよっ!? 」
不意を突かれ、飛んできた男に押しつぶされたユリは、全身にガツンと走った衝撃に、目を瞬かせる。
「いってぇな、こら! 何しやがる!? 」
ユリの上に乗っかていた男は地面に手をついて体を起こすと、自分が飛んできた方向、すなわち大通りに面した酒場に向って赤ら顔で怒声をあげた。
「それは、こっちのセリフだっつの……! 」
「ん? うおっ」
飛んできたモノが大の男だと分かったユリは、100キロはあろう大男を片腕で強引に押しのけて横に転がした。
「てめぇ、何しやがんだ!? 」
下から押しのけられて地面に転がされた男は、ユリにまで噛みついてきた。
「邪魔だからどかしたんだよ」
立ち上がったユリは、冷たい目で男を見下ろしていた。ユリの機嫌は、男に押しつぶされた時から急降下していた。
「んだと……! なんだよその目は! 」
ユリの向けた目が男の癇に障ったのか、覚束ない足取りで男は立ち上がった。立ち上がった男は、2メートル近くあり、タクよりも高く、ユリを見下ろした。ぶはー、と吐いた男の息は酒臭く。どうやら、男は酒に酔っているようだった。
この時、勘のいいプレイヤーならば、SMOではプレイヤーが飲酒ができないことから目の前の男がNPCだと気付き、さらには何らかのクエストに絡んだ突発的なイベントだと気付くのだが、あいにくユリがそれに気づくはずもなかった。
ただ、酔っ払いに絡まれたユリの機嫌は最悪だった。
男が今にも殴りかかってきそうな物騒な雰囲気に呼応して、ユリもまたいつでも反撃できるようにぎゅっと拳を握りしめた。
「おいおい」
一触即発の空気の中、酒場の方から2人に聞こえる声量で声がした。チラリとユリが目を向けると、酒瓶を片手に持った赤ら顔の男が酒場から出てきていた。今、ユリが対峙している大男と比べると細身に見えるが、十分にガタイのいい男だった。
「てんめっ」
「お前さんの相手は俺、だろっ」
「ぶふっ!? 」
酒場から出てきた男の方を見て怒気をあげかけた大男の顔面を男が空いた手で殴り飛ばした。
「「おおおおおっ!! 」」
「いいぞー!」「もっとやれー!」
大男が殴り飛ばされると、酒場の中から歓声と野次の声が上がった。
殴られた大男は、1、2歩後退って踏鞴を踏んで堪える。が、ふらついている間に懐に入り込んでいた男のアッパーカットが、大男の顎を捉えた。
それが止めとなったようで、大男は白目をむいて崩れ落ちた。
大男が倒れると、酒場の方からわっと喝采が起こった。
間近で見ることになったユリは、その一連の流れに呆気に取られていた。
喧嘩をすることは、タクと何度もして慣れているユリだったが、他人の本気の喧嘩を間近で見るのが始めてだった。
大男に対して抱いていた苛立ちも、いつの間にか霧散していた。
酒を煽ろうとしていた男は、そんなユリの存在に気づいた。
「ん? ああ、喧嘩に巻き込んでしまってすまんかったな嬢ちゃん」
「え、ああ……」
「俺は、ハドックっていう。詫びに一杯奢らせてくれ嬢ちゃん」
ハドックと名乗った男がそう言って、酒場の方を手で指した。その中では、酔っぱらった男たちが集まってがやがやと騒がしくしていた。その様子にユリは、朝っぱらから酒かよ、と内心思う。
そんな雰囲気に酒場に興味がないわけではなかったが、朝から……となるとご遠慮したいとユリは思った。
「いや、先を急いでるんで。また今度にしてください」
「そうかい。俺は、いつもあそこの酒場にいるから気が向いたら、声をかけてくれ。その時は、一杯奢ってやるよ嬢ちゃん」
ユリが断ると、ハドックはそう言って酒場の中へと戻っていった。
変な目にあったな。
ユリは、ため息を一つついて再び、西門を目指して足を進めた。
遅くなりました。
今回は、掲示板回で少し話題にしてたくらいで碌に触れてなかった大規模イベントのポイント制の報酬について、でした。
ポイントの獲得条件は、いくつかありますが、大体こんな感じです
・異常種を倒す、または無力化する。(異常種ごとに割り振られたポイントを入手
・短時間での連続討伐ボーナス
・ボスを討伐した
・イベントの進行に何らかの形で貢献した。(イベント期間中にアイテムを生産し、使用または、参加中のプレイヤーに売買することも含まれる。
・大規模イベント終了後に用意されていた関連のクエストを達成する
普通に参戦していた一般プレイヤーの総功績値は、大体1万から1万5千くらいです。
ボス戦に参加した、イベント終了後に関連の高難度のクエストを達成するような上級プレイヤーだと、大体2万から4万くらいです。
シオンとかランだと、積極的に残党狩りも続けているので5万とか6万いってます。
大体イベント報酬の目安としては、ポイントが5000以上のアイテムは、市販されてないアイテムです。2500とかは、希少だったり高値だったりしますが、まだ買えます。
1万を超えると完全な非売品で、ドロップアイテムだったり、特定のクエストでしか手に入らないなどの入手が困難なものとなります。
『万能鞍』は、作中では明記されてませんが、8000ポイントです。




