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127話 「組合での再会」


 カジバの街の中央広場の中心には、始まりの町の噴水のように筒状の白い建造物が立っていた。その天辺で炎が煌々と燃えていた。

 

 ぼっ。

 中央広場の何もない場所に青白い炎が立ち昇った。その炎は一瞬のうちに消えて、その中からユリが現れた。




 SMOにログインしたユリは閉じていた目を開け、キョロキョロと周囲を見回した。

 カジバの街を現在拠点としているプレイヤーはまだ少ないようで、炎を立ち昇らせて広場に現れるプレイヤーは、まばらだった。


 カジバの街は、始まりの町のように中央広場から東西南北の四方に門まで続く大通りが通っている。その四方の大通りの入り口付近には案内板がいくつも立てられていた。ユリはその案内板に関心があるようで、ちょろちょろと中央広場を歩き回って、案内板を確認して回る。


 そして、東大通りの手前に立てられた案内板の中から冒険者互助組合のシンボルが焼き印された案内板をユリは見つけた。


「組合はこっちか」


 先程からユリが探していたのは、組合のようだ。


 行く先がわかったユリは従魔結晶からクリスを呼び出し肩に乗せると、東大通りへと足を進めた。





 大通りをしばらく歩くと、大通りに面した組合のシンボルが掲げられた大きな建物に辿り着いた。その建物からは、武装した屈強な冒険者たちが忙しなく出入りしていた。


 よく見ると建物は煤で汚れ、至る所に刀傷ができていた。

 華やかな装飾も少なく、華やかな装飾と汚れ一つない小綺麗だったコエキ都市の組合に対して、カジバの街の支部の建物は、武骨で荒々しかった。出入りする冒険者たちの人相も相まって、一般市民には近寄り難い雰囲気が出ていた。


 そのせいか、東大通りを歩く人々(NPC)は武装した冒険者が多く、冒険者を対象にした武器屋や酒場などの店が東大通りには密集しており、武装していない市民や女子供の姿はほとんど見かけられなかった。




 他の冒険者に紛れて、その中へと入っていったユリは内装に目を向けながら受付の列へと並んだ。列はスムーズに進んでいき、すぐにユリの番が来た。


「ようこそ、冒険者互助組合カジバ支部へ! 本日のご用件はなんでしょうか」


「アイテムの鑑定と売却をしにきました」

 

「アイテムの鑑定と売却をご希望されるのですね。それでしたら担当の者をお呼びします。少々お待ちください」


 ユリが用件を告げると受付嬢は営業スマイルで淀みない返答をユリに返した。



 ユリは言われた通りに列から外れて待っていると、少しして奥から男性がやってきた。


YURI(ユリ)様ですね。初めまして、担当のバーボンと申します。本日の用件は、未鑑定品の鑑定とその売却を希望とのことですが、あっておりますでしょうか? 」


「はい。あってます」


「承知いたしました。それでは、別室に案内致しますので私についてきてください」


 そう言って、バーボンは先に進み始めた。ユリは、その後ろについていった。




 

 何故、こうしてユリが組合に訪れたのかと言えば、それはタクの助言によるものだった。


 ユリのアイテムボックスが未鑑定のアイテムで溢れていることを知ったタクが、組合でアイテムの鑑定を行ってくれることを教えてくれたのである。


 アイテムボックスをそろそろ整理したいと思っていたユリには渡りに船の話だったため、こうして早速、足を運んできていた。




 ユリが案内されたのは、大きなテーブルと椅子が置かれただけの質素な個室だった。バーボンに促されて、ユリは椅子に座る。その対面にバーボンが座った。


「さて。それでは何から鑑定をしましょうか? 」


 バーボンがそう言うと、ユリの視界に大きな仮想ウィンドウが2つ、勝手に左右に並んで展開した。


 右は見慣れたアイテム欄だったが、左は正方形の枠が、一列に6マスずつ並んだウィンドウだった。スクロールすると、それが何列も続いているのがわかった。


 試しにアイテム欄の中から適当なアイテムをタップしてみると、左のマスにそのアイテムのアイコンが表示された。


(右のアイテム欄から鑑定したいアイテムを押したら、左に選んだアイテムが表示される仕組みなのかな? )


 ふと、左ウィドウの右下を見ると、【鑑定】というボタンが浮かび上がっていたので、まずそうだろうとユリは思った。


 鑑定したいアイテムをアイテム欄から選んでいけばいいだけなので、出す手間も省けてこりゃ楽だな。とユリは思った。



 ユリは、上から順に片っ端からアイテム欄のアイテムにチェックを入れていった。用途不明の雑草からただの石ころまですべてにチェックを入れていき、左ウィンドウのマスが埋め尽くされていった。



「まっ、こんなところかな」


 10分程かけてようやくアイテム欄の下までチェックを入れたユリは、大変な量になったなぁと苦笑しながら【鑑定】のボタンをタップした。


『【326】種類のアイテムが選択されています。手数料として【100,000】Gが発生します。鑑定を行いますか? Y/N』


 326種類もあったのか。

 その数の多さにユリは苦笑しつつ、最終確認の仮想ウィンドウの文章を最初の方だけを見て、YESと押した。


 すると、仮想ウィンドウが勝手に閉じられ、代わりにテーブルの頭上にアイテムがぎっちり詰まった木箱が現れ、重力に従って落ちてきた。



 ドンッ!!


「ッ!? 」


 木箱は、大きな音を立ててテーブルの上に落ちた。

 不意をついたその演出にユリは驚いた猫のように身を竦ませて、声も出せずに目を真ん丸とさせた。肩に乗って寛いでいたクリスもユリの反応に驚いて、尻尾をぶわりと逆立たせた。



 対面に座るバーボンはそれを気にした様子もなく懐からモノクル(片眼鏡)を取り出してかけると、慣れた手つきで木箱からアイテムを一つ取り出して鑑定を始めた。



    『鑑定中  0%(0/326)  鑑定中』


 固まるユリの視界に、新たな仮想ウィンドウが現れた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 鑑定が終わるまで自由に過ごしていたらいいと言われたユリは後ろを振り返った。中でバーボンがアイテムの鑑定を行っている最中の個室のドアを見つつ、どうしようかと思案する。


 視界の端にどけた仮想ウィンドウに表示されている作業進度は、0.6%(2/326)と、全然進んでいない。


「30分くらいはかかると思ってた方がいいかもな。それまで適当に時間を潰すか」


 そう結論付けたユリは、クリスを肩に乗せて歩き出した。




「うん? なんの集まりだ? 」


 廊下を歩いている最中に階下でたむろする冒険者たちに気づき、ユリは2階の手すりから下を見た。

 階下では、武装した冒険者たちが一か所に集まり、ユリの真下の壁を揃って見ていた。死角になってユリからは、はっきりと見ることはできなかったが、何か紙切れのようなものが何十枚も張られているようだった。時折、壁から紙切れを剥がしていく姿もあった。


「何やってんだろ? 」 


 ゲーム経験の少ないユリにはすぐにはその意味が分からず、人が集まるその場所に興味を惹かれた。


 早足で階段を下りてその場に行ってみると、壁には何十枚と紙切れが張りつけられた掲示板がかけられていた。


「掲示板? 」


 掲示板に張られた紙切れはユリの知らない文字がびっしりと書かれていた。その一枚に注視すると、それに重なるように仮想ウィンドウが表示された。それには、ノキュア草という薬草の納品を求める依頼が書かれていた。他の紙に視線を移すと、モンスターの討伐や素材の納品などの依頼書が次々と表示された。


「あ、ここに依頼が張ってあるのか」 


 以前にタクが話していた組合で受けられるクエストという話を思い出し、組合のクエストがここに張られているのかとユリは気づく。


「なんか求人情報誌の昔の形って感じだな」


 そんな感想を抱きながらユリは他の冒険者と一緒に依頼書が張られた掲示板を眺める。


「でも、ノキュア草とかロードシーって言われてもよくわからないな。図鑑とかあれば助かるんだけど、こういう情報は、ネットの攻略掲示板とかで、調べたらすぐにわかるのかな」


 タクかカオル姉に付き合ってもらって、一度、ネットでそういう情報が載っているサイトを見てみようかな。とユリは考える。


 今後、SMOをやっていく上で入手したアイテムの名称や用途を知っておくのは重要だろうと、SMOに慣れてきたユリは、遅まきながら考えていた。


 ユリがそんなことを考えていると、そのすぐ後ろから「おや? 」という声がした。



「もしかしてユリさんですか? 」


 遠慮がちに声をかけてきたその聞き覚えのある声にユリは後ろを振り返った。そこにいたのはよく目立つ青色の立派な全身鎧を着こんだアルだった。


「アル? どうしてここに」


「奇遇ですね。今日ついたばかりなので、組合で情報収集をしてたんですよ。ユリさんは、これから依頼を受けるのですか? 」


「いいや。組合で未鑑定のアイテムを鑑定してもらえるって知人から聞いて、今は鑑定結果待ち。しばらくかかりそうだから組合の中を適当にぶらぶらしてたとこ」


「ああ、そうだったんですか。ちなみにおいしい依頼はありましたか? 」 


「悪いけど、依頼に書かれてるモンスターとかアイテムの知識がないから俺には判断できないよ」


「そうですか」


 ユリの言い分にアルは、あっさりと納得した。

 βテスト経験者ならともかく正式稼働から始めたユリがモンスターやアイテムについて詳しくなくてもおかしくはなかった。


 むしろ、ずぶの初心者でありながらチュートリアルを飛ばしてアーツの使い方すら知らなかったユリが、モンスターやアイテムにやたら詳しい方が驚きである。



「あ、でしたらユリさんも一緒に行きませんか? 」


「どこにだ? 」


「資料室です。組合には今ユリさんが知りたがっているモンスターや素材についての資料があるんですよ? 」


 そう語ったアルは、人差し指を立てて得意げに片眼を瞑って笑った。




ネット小説大賞で、一次選考通過しました。

これも読者の皆さまのお陰です。今後も精進していきます。



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