表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/138

119話 「結成! 登山隊」


「なぁ、一緒に『カジバの街』に行かないか? 」



 SMOをログアウトしてぐっすりと眠った翌朝、朝食のテーブルの席でトウリはタクヤからそんな提案をされた。


「カジバの街って言ったら、あの廃坑の向こうにある街のことだよな? 」


「うん、そうそう」


「どうしてまた? 」


「ほら、一昨日に話しただろ盛夏祭(せいかさい)、SMOの夏祭り。覚えてるか? 」


「あー……プレイヤー同士で戦う大会のことか? 」


「覚えてたか。その大会の予選が今から一週間後に始まるらしいんだ。で、予選で使われる闘技場は一般に公開されてて観戦することも肩慣らしに戦うこともできるらしいんだ! お前も行くよなっ! 」


「……えっ、なんで? 」


 興奮してるのか、ややテーブルから身を乗り出して語り掛けてくるタクヤに、トウリはきょとんとした目を向けた。そんなトウリの態度にタクヤは、肩透かしを食らってよろめいた。


「いや、なんでって、お前興味ないのか? PVPだぞ? 」


「んー……今はサメの相手で手一杯だしな。それにまたあそこ(廃坑)に行くってのはちょっと……」


「なんだトウリ。お前、あのサメがうじゃうじゃ出てきている湖に行ってるのか? どう見てもあれは遊泳禁止エリアだろ。泳いでたらサメの餌になるのがオチだぞ」


「流石にそこまで馬鹿じゃない。ちゃんと策を練ってサメを陸に誘き寄せて戦ってるんだよ」


「ほぅ、考えてるじゃないか。トウリにしては堅実だな。何も考えずに水中戦を仕掛けると思ってたが」


「流石にアーツも使えずにサメに水中戦は仕掛けれないよ」


 馬鹿にしたようなタクヤの発言にトウリは、むっとしながら言い返した。

 その返答にタクヤは、うん? と首を傾げた。


「お前もしかして水泡草(・・・)のこと知らないのか? 」


「なんだそれ? 」


「摂取すれば、一定時間水中でも声が出せる消費アイテムなんだが、知らないのか? 」


「知らない。そんなのがあるのかっ! 」


 【泳ぎ】スキルを上げることなく水中で声を出せるアイテムと聞いてトウリは喰いついた。声が出るということは、アーツや魔法が水中でも使えるということである。それが可能になれば、水中戦での幅が広がることになるのは間違いなかった。


 そんなトウリの様子にタクヤはにんまりと笑みを浮かべた。


「そーかそーか。知らないか。いやー、勿体ないなー。水中戦の必需品なのに知らないかー。いやー、それは勿体ないなー」


「どこで手に入るんだ? 店とかで売ってるのか? 」


「いやー、今の水泡草は希少価値が高いからなー。露天や『はじまりの街』の店じゃ売ってないんじゃないかな」


「そっか。ないのか」


「もし、そんな希少な水泡草を俺が持っていると言ったら? 」



「全て寄越せ。命だけは許してやる」



「お前はどこの盗賊だ。おーけー、落ち着け。俺はお前の説得(物理)には決して屈しないからな」


 すっ、とファイティングポーズを取ったトウリに呼応してタクヤも構えを取った。



「力尽くで奪ってやる……っていうのは、冗談として。どうせ、あれだろ? 水泡草欲しけりゃ、付き合えって言いたいんだろ? 」



 トウリが構えていた拳を下して席へとついた。それを見届けたタクヤは構えを解いて「勘弁してくれよ……」と疲れたように呟いて座り直した。


「ああ、その通りだよ。ついでに言うと、『カジバの街』へ廃坑の中を通らずに行くルートが見つかったから今回は、そのルートで行ってみたいんだ」


「新しいルート? 廃坑の中を通らずってどうやって行くんだ? あの辺は険しい山だろ……あっ」


「気付いたか。そう、新しいルートはずばり登山だな。登山、興味あるだろ? 」


 トウリは「むむむ」と唸った。

 

 登山。

 それは実に魅力的な響きだった。



「あ、そう言えばタクはいつものメンバーとは行かないのか? 」


「ああ、今日から2日間はメンバーの予定がつかないから自由行動だ」


「ってことは2人か」


「そうなるな」


 乗り気になってきているトウリの発言にタクヤは上手くいったとほくそ笑みつつ鷹揚に頷く。



 と、そこでバーン!! と大きな音を立ててリビングのドアが開かれた。



「話は聞かせてもらったよお姉ちゃん!! その遠征、わたしもついてくっ! カジバの街の闘技場は私も興味あるっ! 」


 リビングの入口で腰に手を当てて仁王立ちしたランが、意気揚々と啖呵を切った。



「おっ、ランちゃんも来るか? いいよ、いいよ。ランちゃんがついて来てくれたら心強いよ」


「やった。じゃあ、お兄ちゃん、タク兄。よろしくねっ」



「一体いつから廊下で聞き耳立ててたんだよ……」



 こうして、トウリとタクヤとランの3人は、『カジバの街』へと行くことになったのだった。





「カオル姉は、ついてこないのか? 」


「ごめんなさいね。今日は先約があるから駄目なのよ。本当に残念だけど、今回は遠慮しとくわ。その代わり、今度一緒にどこかに狩りに行きましょうね」


「うん、そうだね。楽しみにしてるよ」



「タクヤ、もしトウリちゃんをみすみす死なすようなことがあったらおしおきだからね」


「俺から誘ったんだから、トウリのことは俺が死んでも守るよ。姉ちゃんこそ、トウリ可愛さに先約すっぽかしたりするなよ」


「そんなことしないわよ。わたしを何だと思ってるのよっ」


「トウリ狂い」


「そんなことを言うのはこの口かしら? 」


「いひゃい、いひゃい! 」

『カジバの街』

【アント廃坑】を越えた先にある街。

鍛冶が盛んな街で有名で、武具や防具を求めてか荒くれ者も多く集まる。闘技場があり、盛夏祭では大会が開かれる。


・盛夏祭

 ざっくりと言ってしまえば、夏のイベント祭り。

 各街でそれぞれ特色のあるイベントが起きる。



長らくお待たせしました。頑張って更新速度を上げていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ