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115話 「戦闘の終結」

「いくぜ! 新必殺! 《回し蹴り》《岩砕脚》! 」


ユリの妙なテンションの掛け声で繰り出された赤とオレンジの光を纏った右足の回し蹴りは、直撃した狂兵蟻を一メートルほど吹き飛ばして一撃で消滅させた。


『お見事! 』


開きっぱなしの通信からルルルの称賛の声がユリの耳に入る。


「よっし! ルルル、これで後何体だ」


『えっとですね。あ、今ヴァルリーさんが三体倒したので、残り十体を切りましたね。残りの敵は味方の蟻と交戦中ですね。もう時間の問題ですね』


「やっとそこまできたか」


残りの敵の数を聞いてユリは、案外どうにかなったなと内心呟く。


ヴァルリーとアフリーの範囲魔法で一気に数を減らせたのが功を奏して、ユリたちが相手をする狂兵蟻の数がグッと減っていた。その後も規模は小さくなったが《猫騙し》で呼び集めた狂兵蟻をヴァルリーとアフリーの範囲魔法で数を減らしていったことで、共闘している蟻たちの数がついに狂兵蟻たちを上回り、防戦一方だったのが攻勢に出れるようになった。


それによって、狂兵蟻たちの数は見る見ると減らしていた。



「さてと、一応加勢に行こうかな」


「「ギィィ! ギィ、ギィィイイイイ! 」」


そう言ってユリが新兵蟻たちの加勢に行こうとすると、狂兵蟻たちと戦っていた新兵蟻たちが俄かに騒がしくなった。




「ん? 何かあったのか」


『あ、今最後だった蟻が倒されたみたいです。勝利の歓声を上げてるんですかね』


「あ、そうなのか。加勢はいらなかったみたいだな」


『あはは、まぁ無事に終わってよかったです。あ、今確認できました。クエストは達成扱いになってるので、多分もう敵はいませんね。お疲れさまでした。多分この後何らかのイベントがあると思うので私たちも今からそちらに降りますね』


「おう、わかった」


――プツッ

『RRRからの通信が途切れました』


ユリが返事をすると、すぐに通信が途切れた。


「ん~~っ! やっと終わったー! 」


ユリは、視界に表示された仮想ウィンドウを消すと大きく伸びをする。


「きゅ! 」


「ああ、クリスもお疲れ」


懐から顔を出してきたクリスの首根っこを掴んで引っ張り出すと、ユリは自分の肩に乗せた。

そして労いの言葉をかけながらアイテムボックスから木の実を数個取り出してクリスに与えた。

お腹が空いていたのか、ユリから奪い取るかのように木の実を受け取ったクリスは急ぐように口に詰め込んでいく。


「こらこら、そんなに急ぐと喉を詰まらせるぞ」


クリスの食い意地が張ったようにも見える食べ方にユリは苦笑しつつ窘めていると、ヴァルリーがこちらに来ているにユリは気づく。ヴァルリーは抜き身の剣をダラリと下げたまま持っていて完全に戦闘態勢を解いているわけではないようだった。


「お互い何とか生き残ったようだな」


開口一番でそう言う辺り、今回の戦いは中々に過酷だった。


「ああ、ヴァルリー達の魔法のおかげだな。ありがとな」


「なに、ユリが蟻を一ヶ所に固めてくれたからこその成果だ。いつもこう上手くいくわけではない」


「そうなのか」


「ああ、今回のMVPはユリだな。私が決めた」


「そんなことはないだろ。ヴァルリーやアフリーの魔法がなかったら俺は蟻に貪り喰われて死んでたよ」


ヴァルリーの評価にユリは苦笑して答える。だが、頑張りを褒められて満更でもなさそうだった。






お互いに褒め称えあっていると、降りてきたルルルたちが合流してきた。


「ユリさーん、ヴァルリーさーん。お疲れ様でしたー! 」


「あの、えっと、お、お疲れさまでした」


「おーお前ら、よく頑張ったなー! お疲れさん」


ルルルは、満面の笑みで声をかけてきて、アフリーはオドオドしながらも小さな声で労いの言葉をかけ、ガノンドルフは、労いの言葉と共にユリとヴァルリーの肩をバシンと強めに叩いた。


「っ! ……おう、おっさんもな! 」


ユリも返事代わりにガノンドルフの分厚い胸板をドンと叩いた。


「ゴフッ!? 」


叩かれたガノンドルフは、カフッと肺から空気を吐き出して呻いた。………ガノンドルフのHPを見ると若干減っていた。どうやら攻撃と判断されたようだった。


「あ、悪いおっさん。大丈夫か? 」


咳き込み始めたガノンドルフにユリは慌てて背中を擦りながら謝る。


その様子をヴァルリーはやや呆れた様子で眺め、ルルルはツボに入ったのか笑いを堪える表情になり、アフリーは2人のやりとりをビクビクとした様子で眺めていた。




「ギギギギギギ……」


そんな五人の前に共闘していた蟻たちのボス格である大きな女王蟻が歩み出てきていた。女王蟻の背後には、ボールのような蜜蟻と新兵蟻よりも厳つい蟻たちが控えていた。そして、気づけば周囲を新兵蟻に囲まれていた。



そんな状況で警戒するなというのが無理な話で、和やかだったパーティーの雰囲気は一変して緊迫した雰囲気に包まれていた。今回の廃坑探索の依頼主であるルルルと後衛のアフリーを中心にしてユリとガノンドルフとヴァルリーの三人が三方について蟻たちの動向を警戒した。


「………なぁ、今さらなんだけどさ。助けた後にもう用済みだって殺されたりしないよな? 」


「さ、さぁ? モンスターの共闘クエスト自体、初めて目にしましたし、相手がモンスターであることを考えればその可能性はないとは言い切れませんね」


「おいおい、勘弁してくれよ。ここまで頑張って助けた奴に殺されるとか最悪じゃねえか」


「そりゃあ流石にねぇだろ。いくらあの鬼畜運営でも……いや、運営ならありえるか……? 」


「救援クエストで助けた奴が殺人鬼で、お礼と称して殺された話なら私は聞いたことがあるんだが……」


「ありえますね……」


「ふ、ふぇぇ……」


ユリは、ゴクリと喉を鳴らす。

自分の不安を払拭するために尋ねた質問で、余計に不安を煽られてしまっていた。




しばし、両者の間で睨み合いが続く。


最初に動きを見せたのは女王蟻だった。

後ろに振り向き、女王蟻が顎を擦り合わせて鳴くと近衛兵のような立ち位置の厳つい蟻たちが、ガサゴソと動き始め、しばらくして十体の近衛蟻たちが、玉のような蟻を九体と白いカプセル状の物体を一つ運んできてユリたちの前に積んでいく。

腹部が玉のように膨張している蟻は自力で動くのが難しいのか足をしきりに動かしていたがその場から動けていなかった。


もしかして……とユリたちが薄々女王蟻の意図を理解し始めた時、遅れて十数体の新兵蟻たちが、鉱石のような岩を各々抱えて前に出てきて、これまたユリたちの前に積み上げていった。


「ミ、ミスリルの原石!? 」


その鉱石に対してルルルは鑑定を行ったのか、素っ頓狂な声をあげる。


「嘘だろ!? 」


その声に真っ先に反応したのは、ルルルと同じ生産者であるガノンドルフだった。自分でも鑑定を行ったのか、目の前に表示された鑑定結果に目を剥いていた。


「ひょっとしてこれは……」


「全部、報酬? 」


「ってことは喰われない? 」


五人がそれを実感するのに数秒の時が必要だったが、その後五人の歓声が広間に反響した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




ユリたちに報酬を渡し終えた女王蟻たちは、その後広間の奥の下に進む坑道を通って去っていった。


残されたユリたちは、広間で休憩を取りながら蟻たちから直接渡された報酬と、クエスト欄から得られた報酬を話題に大いに盛り上がっていた。


ユリたちが、直接女王蟻から受け取ったものは、ミスリルの原石を10つと小さい壺に入った蟻蜜が45個、王乳(ロイヤルゼリー)が9個、そして蟻の卵1つだった。そして、クエスト欄から各々が得られた報酬は、5SPと二万G、女王蟻の涙と呼ばれる青い宝石だった。


話し合いの結果、ミスリルの原石はルルルが他のアイテムの権利を放棄することとこのパーティーメンバーの武器や防具に優先して使用することを条件に8つ受け取り、ガノンドルフがミスリルの原石を2つと蟻蜜を9個。ヴァルリーが蟻蜜を14個と王乳を3個、アフリーが蟻蜜を13個と王乳を3個、そして、ユリが蟻蜜を9個と王乳を3個、そして蟻の卵を1つということになった。


この配分に5人からは、文句がでることなくあっさりと決まった。



「うはははは! こんなにもミスリルが手に入るなんて思ってなかったです。キャー!もう私は死んでもいいかもしれません。早くこれを精錬したいです」


ルルルは、頭ほどある黒ずんだ岩を抱えてその岩に頬ずりせんとするばかりに興奮していた。

そんなルルルの痴態を他所にユリは、傍のガノンドルフに声をかける。


「なぁ、おっさん。ミスリルってのは、そんなにすごいものなのか? 」


「なんだ。ユリは知らないのか? ミスリルって言えば鍛冶師にとって喉から手が出るほど欲しい希少な魔鉱石なんだよ。ミスリルを使った武器や防具の値段は、最低でも鋼鉄製の十倍はするからな。文字通り桁が違う。他のこの辺で取れる魔鉱石と比べてもダントツで優秀だ。値段にしても三倍近く違うからな」


「鋼鉄製の十倍。へー、そりゃすごいな。どんな特徴なんだ? 」


「最低でも、だがな。ミスリルの一番の特徴と言えば、魔力が通り易くて付与をかけやすい点だな。素の強度は鉄よりも劣るが、強化してやれば鋼鉄よりも硬くなる。その上軽い。あと魔力が通り易いから魔法使いの杖の素材としても相性抜群だ。武器にしても防具にしても文句なしの素材だな」


「何それ、めちゃくちゃ優秀じゃん」


「だろ? まぁ、ゲームが進めばもっと優秀な金属や合金があるんだが、現時点なら最高の金属だろうな。けど、難点を言えば現時点の製作難度が高すぎることだな。ぶっちゃけ俺にはしばらく手におえん」


「作れないってことなのか? 」


「ああ、そうだ。多分現時点だとルルルも厳しいんじゃないか? あいつの異様な上達速度を考えると自信はないが」


「え、でもすぐにでもやりそうなんだけど」


「あいつは、裏技を使うつもりかもな」


「裏技? 」


どういうことだ? とユリは首を傾げる。


「ようするにコネだ。自分よりも上手いNPCに精錬でもしてもらうつもりなんだろ」


ガノンドルフの答えに、ユリはなるほどと頷く。

確かにそれならば、ミスリルを加工することができるだろう。


「ところで、ユリは蟻の卵はどうするつもりなんだ? 」


「んー今のところは、特に何も考えてない。どうやって孵化させたらいいかもわからないし、まずはそこから調べないといけないな」


「そうか。俺の方で何かわかったら連絡しようか? 」


「助かる。サンキューおっさん」


「なに、気にするな」


ガノンドルフは、ニッと人のいい笑みを浮かべるとユリの頭をやや乱暴にぐりぐりと撫でまわした。


「さてと、そろそろこのバカを引っ張って地上に帰るか。流石にここまで収穫があれば十分だろ」


そう言って立ち上がったガノンドルフは、ミスリルの原石に頬ずりどころか熱烈なキスをしているルルルの頭に拳骨を入れにいった。


「んー、チュッチュッ~――ふぎゃ!? 」


「何、馬鹿なことをやっとるんだお前さんは、そろそろ時間だ。地上に帰るぞ」


「うぅ、鼻に岩が当たりました……」



こうしてユリたちは、望外の収穫を得て来た道を引き返す形で帰路につくのであった。


帰りにまた狂兵蟻の群れに襲われ逃げ回る羽目になるのは余談である。



『ミスリル』

別名「聖銀」とも呼ばれる聖気を帯びる魔力の籠った白銀色の金属。

対アンデット用の武器や防具としては最適の金属。

また、魔力伝達力に優れていて、優れた魔力触媒となる。

金属としての素の強度は、鉄に劣る柔い金属だが、付与(エンチャント)の相性が抜群なため、強化を施されたミスリルの強度は鋼よりも硬くなる。

ミスリルの原石は、黒ずんでいる。

現時点では、アント廃坑の女王蟻が稀に落とすレアドロップアイテムとしか明確な入手経路がなく大変貴重な鉱石。有用性もあって、市場にでることはまずない。また、現時点でプレイヤーの生産者でミスリルの加工ができるものはいない。


『蟻蜜』

女王蟻のいるボスの間で取り巻きとして出てくる蜜蟻(ミツツボアント)がドロップする甘味料。

蟻酸の酸味のある蜜でレモンティーのような味がする。



王乳(ロイヤルゼリー)

蜜蟻から極稀にドロップするレアドロップ品。

とても体に良いと言われている。摂取すると、軽度の状態異常を回復する効果がある。




普段であれば、そうドロップしないのだが、女王蟻からの報酬の一つとして出されているので確定で手に入った。



『蟻の卵』

生きた蟻の卵。

孵化するかも……?


譲渡可能品。


ユリは 蟻の卵を 手に入れた!



ユリたちは 蟻の群れに 追われている!

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