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107話 「リベンジ」

先日、ユリが初死した際に、ふと総合PVを目にしたら、444万4444アクセスで、見事なゾロ目でした。

一瞬何かいいことあるかもと思い、しかし不吉なゾロ目だからその逆かなと思い直しましたが、このゾロ目は、ユリの死を祝福したものだとすぐに気付きました。


ありがとうございます。

HPが0になり視界がブラックアウトしたユリが再び見えるようになった時、ユリは白い空間に立っていた。


「う……あれ、ここは……? 」


キャラメイキングの時と似た何もない空間。ユリがキョロキョロとしているポンッという軽快な音と共にピンク髪の小さな少女が現れた。


「やっほーみんなの女神 アルステナちゃんだぞ! 初めてモンスターに倒された気分は如何かな? お姉ちゃんっ」


目の前に現れたピンク髪の幼女ことアルステナ、言わずと知れたゲーム会社『アルステナ』のマスコットキャラクターだった。


ユリの目の前でふわふわと浮かぶ掌サイズの小さなアルステナは、両手を広げてにぱっと笑いながら痛烈な一言をユリに浴びせた。ユリの顔がひくっと引きつった。


「その顔じゃあんまり良くなさそうだね」


ユリの反応にアルステナは空中でくるっとターンしながらニコニコと笑った。

アルステナのがパッと手を横に振ると、その軌跡に沿うように青い燐光がユリに降りかかった。


「次は勝てるといいねっ!また死んだら会おうね。バイバイお姉ちゃん! 」


青い燐光を浴びたユリの全身は呼応するように青く輝き始めた。アルステナが手を振って別れを告げるとユリの視界はホワイトアウトした。



再びユリの視界が戻った時、ユリは『コエキ都市』の時計塔広場に立っていた。


「あー……死んだのか、俺」


ユリはしばらく中央の時計塔を見上げてようやく理解が及んだのか、自分の頭をガシガシと掻いた。


「っと、そうだ。《召喚(サモン):クリス》」


ユリが首にかけたモンスタークリスタルを握り締めてコマンドを唱えると、クリスタルから光が溢れ、地面にクリスが現れた。


「きゅ! 」


「ふぅーよかった。ちゃんと召喚できた」


もしかしたら置いてきたかもと焦ったユリは、無事にクリスを呼べたことに安堵した。


「きゅきゅ! 」


クリスは、ユリの足先から駆け上がって肩まで駆けのぼると尻尾をユリの頬に擦りつけた。


「ははっ、くすぐったい」


珍しく自分からじゃれついてくるクリスは、初めての死に少なからず落ち込んでいるユリを慰めているようだった。クリスの細やかな気遣いにユリはしばし癒される。


小動物と美少女が無邪気に戯れる様子に魅せられるプレイヤーもいたが、声をかける不遜な輩は居らず【初心者の草原】へと出る南門に向かうユリ達を遠巻きに見ているだけだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よし、次は勝つぞっ!」


「きゅー! 」


南門から外に出て胸の前で握り拳を作るユリは、初めての死のショックもクリスのお陰か無事に問題なく乗り越えられたようだ。負けたばかりでデスペナルティでHPとMPの最大値が7割になっているというのに対策もなくリベンジに燃えるところは、戦闘慣れしてない初心者らしい無鉄砲さがあったが気合十分に意気込んでいた。


ユリは『始まりの町』に戻るためではなく、自分を殺した駿角兎たちにリベンジする為に前通ったうろ覚えの道を意識して足を進めた。



「いたっ! 」


向かってくる剣兎や角兎を鎧袖一触の勢いで蹴散らしながら再び、自分の死んだ地へと舞い戻るとその場にユリを殺した2体の駿角兎が居座っていた。


「GYUuuu………! 」


「GYUUUUUUUUUUU! 」


ユリに受けた傷を癒すためか地面に丸くなって座り込んでいた一体と、それに寄り添うように座っていたもう一体は、接近するユリに気付くなり威嚇の鳴き声をあげながら身を起こした。



「ハハッ、リベンジに来たぞ。黒兎共!! 《剛脚》《疾脚》《柔拳》! 」


高揚感からか獰猛な笑みを浮かべたユリは、まだ冷却時間が終わってない《獣の本能》を除いて先程のようにアーツで自身の身体能力を高める。


「かかってこいよっ! 」


「GYUUaaaaAAAAAA! 」


ガンガンッと籠手を嵌めた両手の拳を打ちつけて挑発するユリに応えるように一体の駿角兎が額の角を向けて駆けだした。HPが減ってないところを見ると、為す術もなくユリを殺した方の駿角兎のようだった。


巨体に似合わぬ速度で距離を詰めてくる駿角兎に、ユリはニヤリと笑った。


「喰らえ! 《一投入魂》」


腰に差した得物『角兎の短槍』を抜き放ち、アーツによる強化を施した上で真っ直ぐ突っ込んでくる駿角兎目掛けて投げ放った。


「GYUッ! 」


黄色い軌跡を虚空に描きながら真っ直ぐと駿角兎に向かった角兎の短槍は、駿角兎の象徴でもある螺旋状の角とぶつかり、カンっと音を響かせて弾かれた。角兎の角で出来た槍とその異常種の駿角兎の狂化された角とでは、駿角兎に軍配が上がったようである。


「っち、クリス撃て! 」


「きゅ! 」


その結果に舌打ち一つしてユリは、クリスに指示を出す。クリスはそれに従って木の実の弾丸を迫る駿角兎に浴びせはじめる。その攻撃に意に介した様子のない駿角兎だが、HPは受けた分僅かだが減っていた。


迫る駿角兎とユリの距離が四メートルを切った。

駿角兎は、最後に一気に距離を詰めるべく後ろ脚で地面を強く蹴ろうとした。


「っ! ここだっ。《震脚》! 」


その直前、ユリが前に一歩強く足を踏み込み、その足を中心に黄色いエフェクトが波紋のように地面を広がり、地面を蹴ろうとした駿角兎の後ろ足まで広がり揺さぶった。その結果、充分な踏み込みが出来ず、駿角兎はつんのめった様にユリに飛び込んできた。


それは、偶然。

しかし、少しでも勢いを殺そうとしたユリの目論みは成功した。最後の踏み込みに失敗した駿角兎の体当たりの勢いは以前と比べるまでもなく落ちて、ユリから見たら絶好のカウンターチャンスだった。


「おっらぁああああ! 岩砕脚! 」


「GYUWAッ!? 」


頭を下げていた駿角兎の顔をかち上げるような強烈な蹴りが入る。しかし、残念なことにデスペナルティでMPの最大値が減ったことでユリがMP管理を誤り直前に唱えた《岩砕脚》はMPが足らず、発動されなかった。

それでも、弱点である鼻にあたったことで駿角兎のHPは、2割ほど減少した。


「よしっ」


それに満足してユリは追撃せず、即座にその場から離脱して駿角兎から距離をとった。

チラリともう一体の駿角兎に目を向けるとこちらに駆けだしてきているところだった。距離は10メートルと言ったところ、駿角兎の駿足を考えるともうすぐだった。


「クリス次くる、撃て! 」


「きゅ! 」


言葉少なめのユリの指示、しかしそれでクリスには伝わり目標を新たに迫る駿角兎に切り替えて木の実の弾丸を吐き出した。


以前の戦いでユリにHPを大きく減らされた駿角兎は、まだ完全には回復しきっておらず既にHPの最大値よりも2割ほど減っていた。


「GYUUUU! 」


「当たるかよっ! 」


愚直に真っ直ぐと突っ込んでくる駿角兎は、その速さこそ厄介ではあるが知っていればどうということはなかった。最後の踏み込みを警戒していたユリは、弾丸の如く飛び出してきた駿角兎を躱して大きく距離をとった。アーツを使うためのMPが足りず決定力に欠けた状態をユリは嫌った。


《疾脚》で強化されたユリの脚力は、駿角兎には劣るにしても僅かな間で大きく距離をとることに成功した。なるべく早くすることを意識して仮想ウィンドウを操作してアイテムボックスから『初級マナポーション』を取り出すが、それでもやはり、アイテムボックスがごちゃごちゃしてて目的の物が見つけにくいせいか、単にまだ操作になれてないせいか。マナポーションを手元に出す頃には2体の駿角兎はすぐ傍にまで迫ってきていた。


「くっ、やっぱ早い! 」


迫る巨体にやや気圧されるもののユリは努めて冷静を保ち、駿角兎が最後の踏み込みで方向転換がきかなくなるタイミングで横っ飛びで左に逃げた。躱す際に肩が駿角兎の体を掠めたが、ギリギリ躱すことに成功する。


「つぅ~~~っ。だけど、これでっ! 」


鈍器で叩かれたかのように痛む肩に顔を顰めつつも、手に持つマナポーションを振り上げて地面に叩きつけた。カシャーンとガラスが砕け散る音とともにユリのMPが全回復する。


「《鉄拳制裁》《健足》! 」


早速回復したMPを消費して効果時間の短いアーツを重ね掛けして更に自分の身体と攻撃力を高める。


そうしていると、2体の駿角兎が方向転換して向かってきた。クリスが、執拗に木の実の弾丸を浴びせたお陰で、どちらの駿角兎も最後に見た時よりもHPが減って、残り七割ほどになっていた。


飛びかかってくる駿角兎の横を掻い潜って避ける。その際に、強引な体勢で駿角兎の横っ腹に拳を当てる。


「GUGYUっ」


殴ると言うよりは当てたに等しいパンチだったが、スキルの補正とアーツの補正で強化を重ねたユリのパンチは思っていたよりも駿角兎に効き、目に見えてわかるくらいにはHPが減少した。


目の端で減少したHPを目にしたユリは、望外の結果にニヤリと笑った。


「っと、いかんいかん。またさっきの二の舞になっちまう」


接近戦での駿角兎の危険を身をもって知っているユリは、駿角兎が2体いる中で接近戦を仕掛けようとする自分の気持ちを諌める。気持ちを切り替えるためにもユリは、再び駿角兎たちから距離をとる。


しかし、堪えたものの自身の中で接近戦を求める気持ちはなくなったわけではない。

一対一で、勝てる自信はあった。しかし、駿角兎の足からして分断は出来そうにない。どうしようか、ユリは追ってくる駿角兎達から一定の距離を保ちながら対策を考える。

そして、至極単純な結論に至った。


「先に一体倒すか」


腰に結んだ皮袋から石ころを取り出し、その場から向かってくる駿角兎の一体目掛けて投げつけた。


「GYUWAッ」


「よしっ。クリス、今当てた奴を集中して狙え」


「きゅ! 」


拳大の石ころは、ほぼ真っ直ぐと飛んでいき駿角兎の体に当たった。その結果にユリは、満足げに頷きクリスに新たな指示を出した。先程まで均等に木の実の弾丸を浴びせていたクリスは、その指示に従って集中的に浴びせはじめた。


ユリが動き続けるせいで、クリスの吐き出した木の実はあらぬ方向に飛んでいくことも多かったが、的が大きいからよく当たった。ユリもまた、一定の距離を保ちながら石ころを投げつけてジワジワとHPを削っていった。




「GYUUuuuu……! 」


そして数分後、ユリとクリスから集中砲火を受けた駿角兎の一体が沈んだ。HPを全損させた駿角兎は、形を崩し黒く光る粒子となって周囲に四散した。


「これで、やっと一対一で戦える」


残り一体となったことで、ユリは足を止めた。重ね掛けしていた全てのアーツが効果時間を経過してなくなっていたが、ユリはそれを気にした様子もなかった。


「ほら、かかってこいよ。決直をつけるぞ」


「GYUUUUUUUUUUUUUUUU! 」


これまでと変わらず愚直に突っ込んでくる駿角兎のHPは、クリスの流れ弾がいくらか当たって残りHPは半分ほどだった。


「はっ、今さら当たるかよ! 《連打》」


最後の踏み込みによる加速も慣れたユリは弾丸のような速度で体当たりしてきた駿角兎を躱して駿角兎の横っ腹に赤い燐光を纏った拳を放つ。腰の入った拳が駿角兎の横っ腹にめり込み、くっきりと赤く光る跡を残した。一瞬拳を引いた後、先程の動きをなぞるような軌跡で寸分違わず再度拳が、同じ場所にめり込んだ。


「GUGYUッ」


HPを1割近く削る痛打に苦しげな声を漏らして駿角兎の動きが硬直した。


「《連脚》! 」


ユリの攻撃はそれだけでは終わらない。今度は赤い燐光を纏った脚が駿角兎の体を二度蹴りする。


「《回し蹴り》! 」


「UGYUッ!? 」


僅かな技後硬直の後、強烈な後ろ回し蹴りを駿角兎の側頭部に当てた。苦悶の声を上げて駿角兎がよろめいた。


「GYUUUUUU! 」


まるでサンドバックのように一方的に殴り蹴られたことの怒りからか、即座に体勢を整えた駿角兎は、自慢の角をユリに向けて、ど突くように角の先をユリの胸に突き立てようとした。


「はっ! 」


しかし、最後の力を振り絞った反撃もユリは、鼻で笑って躱した。


「これで終わりだ!! 《岩砕脚》! 」


ユリの放った後ろ回し蹴りが弧を描くような黄色い軌跡を遺して駿角兎の角の根本、額に入った。黄色い光の波紋が右足を中心に広がり、駿角兎はその衝撃で地面に横倒しに叩きつけられた。


ドゴンッと空気を打ったような重い音が周囲に響き、駿角兎は悲鳴をあげることも出来ずにHPを全損し、消滅した。



ユリのリベンジが叶った瞬間であった。



「よっしゃ!! 」


黒く光る粒子が周囲に舞う中、ユリは勝利のガッツポーズをとった。



「やった! やったぞ、クリス! 」


「きゅわっ!? きゅきゅきゅっ! 」


喜色満面のユリは、肩に乗ったクリスをガシッと両手で掴み、頭上に掲げてユリはくるくると回りながら体全体で喜んだ。


それからすぐに、怒ったクリスに指を噛まれたりしたがユリにとってとても満ち足りた一時(ひととき)だった。



《連脚》

【脚】スキルで覚えるアーツ。

《連打》や《連撃》同様の技。



ユリはクリスがいるのに、これで一対一だなんて言ってましたが、まぁユリの中では自分とクリスで「1」という認識だったんだと思います。はい


あと、ユリのセリフで《岩砕脚》がMP不足で発動しなかった時、《》が抜けてますが、あれはアーツとして発動条件を満たしてなかったことで、システム的に認められなかったと言うことで意図的に省きました。


身体能力を強化するアーツを無駄打ちしている辺りに、ユリの未熟さを見てくれたりしたら作者としては嬉しいです。


感想欲しいです。超欲しいです。



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