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106話 「兎の逆襲」

打ち上げは、フーとリンが用事で落ちるログアウトする15時まで続いた。『バンリーの酒場』での打ち上げの後は、特に二次会ということもなくお互いに「また機会があったら」と別れの挨拶を交わして解散した。


フーとリンはその場でログアウトし、ランは別のパーティーとの待ち合わせ場所に向かい、シオンはいつの間にか姿を眩まし、アルもふらりと人混みに消えて行った中ユリは、もう用は済んだとばかりにクリスを肩に乗せて軽い足取りでそのまま『コエキ都市』を後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【初心者の草原】の『コエキ都市』よりのエリアにのみ出現する剣兎は、イベント前日の時と比べて数は減っていたがそれでも遭遇する回数は多かった。


「キュウッ! 」


ユリの死角となっていた茂みから飛び出してきた剣兎が、跳躍しその額から生えた剣角をユリの喉元目掛けて飛びかかる。


「チィィッ! 」


別の剣兎の相手をしていて反応が遅れたユリは、迎撃を諦めて右腕の籠手で剣兎の剣先を受け止めた。

ガキッと硬質な音が響き、防ぐことには成功したが突進の勢いに押されユリは、半歩後ろによろめいた。


「キュウ! 」


「おっ、らぁあああ!! 」


「ギュワッ!? 」


奇襲を防がれた剣兎は、地面に着地すると後ろ足で地面を蹴って再度跳躍し、今度はユリの懐に飛び込んだ。懐に飛び込んできた剣兎、それに合わせるようにユリは大振りの左アッパーを剣兎の横っ腹に叩き込んだ。


見事にカウンターを喰らった剣兎は一撃でHPを全損し錐もみ回転しながら吹っ飛び、空中で光の粒子となって四散した。

キラキラと舞う赤い光の粒子、それに紛れて先程までユリが相手していた別の剣兎がユリに迫った。


「きゅ! 」


「ギュッ!? 」


「ナイスだ、クリス! 」


しかし、剣兎が攻撃を仕掛ける前にユリの肩にのったクリスが木の実の弾丸で迎撃した。そして怯んだところをユリにサッカーボールよろしく蹴り飛ばした。宙を舞った剣兎は空中で光の粒子となって四散した。


連続で2体倒したユリはまだ他にいないか辺りを警戒して、もういないことがわかると安堵のため息をついた。


「あぶなかったぁ……まさかあのタイミングで新手が来るとはな。クリス、最後の援護ありがとな」


「きゅぅ」


ご褒美としてクリスに木の実を数個与えるとクリスは嬉しそうに頬張った。

酒場で散々餌付けされたクリスだが、胃袋はまだまだ余裕があるようだ。


「木の実も随分と消費したな。そろそろ森の方にもいかないといけないかな」


そんなクリスの様子に微笑みながらユリは、アイテムボックスに木の実がもうほとんど残ってないことを確認してぼやいた。どうやら雑食らしいクリスは、魚でも木の実でも野菜でも果物でも何でも食べれるが、その中でも木の実が大好物のようで木の実を食べる時が一番嬉しそうだった。

クリスの餌用にとそれとなく街の露店などで木の実を探してみたが、残念なことに見つけることはできなかった。現状、木の実を入手するためには【豊かな森】に潜って採取するしか手はなかった。



頭の中で始まりの町に戻った後の段取りを考えながら歩いていると、また周囲の茂みから剣兎が襲ってくるが、警戒していたユリによって呆気なく返り討ちにされる。

死角からの奇襲が厄介ではあったが、真正面から戦えば今のユリでは何の問題もなかった。


そうこうしていると、【初心者の草原】の中央を通過して出現するモンスターが剣兎から角兎から切り替わった。剣兎よりも弱い角兎が束でかかっても今のユリには何の問題もなかった。


しかし、今の【初心者の草原】に危険がないわけではなかった。


「「GYUUuu……」」


「げっ。黒兎が二体かよ」


狂った赤い目を爛々と輝かせた駿角兎が2体、ユリの前に現れた。



「GYUッ! 」


【ゴブリン草原】方面から疾走してきた2体の駿角兎のうち1体は、立ち止まって身構えるユリの元に減速することなく額の角を突き出して突っ込んできた。


「クリス援護頼むぞ! 《獣の本能ビーストインスティンク》! 《剛脚》《疾脚》《柔拳》! 」


迷いなく向かい討つくことにしたユリは、補助アーツを重ね掛けして異常種に対抗するために強化を図る。

クリスは赤い燐光を纏い、ユリは両足に赤と緑の入り混じった光を纏い、両手に黄色い光を纏った。


そうこうする内にみるみると距離を詰めた駿角兎は、最後に強靭な後ろ足で思いっきり地面を蹴り、放たれた弾丸のような勢いで体当たりをしかけた。ユリは、横っ飛びでその体当たりを躱した。


体当たりを躱された駿角兎は、ズザザザッと茂みを押しつぶして地面を滑るようにして勢いを殺すと方向転換し再度体当たりをしかけてきた。


「《岩砕脚》! うらぁぁああああ! 」


「GYUGAッ!? 」


しかし、先程までと違って助走がない分勢いは落ちていた駿角兎の突進をユリは、好機と見て頭を下げて迫ってくる駿角兎の顔面をカウンター気味に右足で思いっきり蹴り飛ばした。駿角兎の顔面に深々とめり込んだ右足を中心に黄色い光の波紋(エフェクト)が広がり、その衝撃で角は跳ね上がり、勢いのついていた駿角兎の巨体がその場に押し留まった。弱点である鼻面を叩けたからか駿角兎のHPは、その一撃で一気に4割程削れた。しかし、勢いのついていた駿角兎を受け止める形で真正面から蹴ったのがまずかったのか、ユリにもダメージが発生して、右足がズキィッと痛んだ。


「――ッ! 」


予想していなかった上に右足を痛めたような痛みに、ここが仮想空間であることを忘れてユリは、顔色を変えて一瞬体を硬直させた。



その一瞬の隙が、もう一体の駿角兎にとっては絶好の機会だった。


「きゅ! 」


「GYUUUUUUUUU!! 」


新たにユリの元に迫ってくる駿角兎にクリスは牽制するように強化された木の実を弾丸を吐き出すが、駿角兎は、クリスの攻撃など意にも介さず猛然と駆けて、最後に後ろ足で地面を蹴って体当たりをしかけた。


ユリは、それを躱そうとしたが無意識の内に右足を庇って動きが遅れた。

結果、ユリは駿角兎の体当たりを真正面から受けてしまった。


接触する瞬間、咄嗟に自分の胸元に迫る角を両腕をクロスさせて受けようとしたが僅かに逸れただけで角はユリの右胸に突き立った。不幸中の幸いなのは、下に着こんだルルル渾身の作である鎖帷子が角を紙一重で防いだことだろう。忍び装束だけでは、やすやすと体を貫かれていたことだろう。


体を貫けなかった角は、ガリガリと鎖帷子の上を滑りながら上へと逸れて、ユリの首元を抉りながら通過していき駿角兎の体がユリの体を捉えた。


「ぶっ――」


「きゅぅぅううう! 」


駿角兎の体当たりを諸に受けたユリは吹き飛び、錐もみしながら五メートル以上空を舞いゴロゴロと地面を転がった。その衝撃でクリスもユリの肩から弾き飛ばされ草むらに落ちた。



「カハッ……」


受け身もとれずに地面に叩きつけられたユリにはノックバックが発生して、数メートルほど地面を転がった後も体が硬直してすぐには立ち上がれなかった。

ユリの視界に映る自分のHPは、駿角兎の体当たりと角での刺突攻撃で7割近く持っていかれたようでも3割を切っていた。アイテムボックスからポーションを出そうにも体が動かなかった。

そして、敵がその暇を与えなかった。



ユリが最後に見た光景は、疑似太陽を遮って降ってくる黒い大きな2つの影だった。



駿角兎の2体同時のスタンプ(圧し掛かり)攻撃で踏みつぶされて、ユリはSMOでの初の死を経験した。



自分の力を慢心したユリにとって苦い死であった。







祝! 初死! 

今日はお赤飯を炊かなきゃ!


はい。死にました。


あんなに駿角兎よりも強い敵と戦い勝ってきたのに、こんなことで負けるなんておかしいと思うかもしれませんが、あれ全部ユリの実力というか周りの多大な助けがあったおかげです。ユリ個人の実力は駿角兎一体になら勝てるでしょうが、複数ともなると厳しいです。複数の同格以上の敵を相手にした戦闘経験が圧倒的に足りませんから。あと、VRゲームの戦闘に慣れてないのもあります。


次回は、リベンジになると思います。


「ユリがやられただと……! 」

「ふん、所詮あのユリは死を経験していなかったひよっこだ」

「例えユリが倒れようとも第二第三のユリが何れ憎き黒兎を駆逐するだろう」

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