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103話 「依頼の報酬」

「初心者ポーション、五本セットで10G! 20本セットで35Gだよー! 」


「初級ポーション、中級ポーションならウチで買って行ってくれ! 初級なら200、中級なら800だよ! 高いが効果は保障するぞ! 」


「鉄製の武器なら何でも揃ってるよー。ぜひ見てってくれー! 」


「角兎のマント(外套)や手袋はいりませんかー。もこもこでふわふわですよー! 」


「そこの綺麗な御嬢さん、バニースーツはどうだ! 今なら黒と白の二種類つけてお安くするよ! 」


店を後にしたユリは、北門目指して北大通りを歩いていた。

北大通りでは、北門に多く集まる人を目当てに露店が立ち並び、道行く人々に呼び込みがあちらこちらで行われていた。五日目にもなると、露店をやっている人プレイヤーの姿も多くみられるようになっていた。NPCの露店と比べてプレイヤーの露店は、比較的質の悪いものであったり、珍妙なものが多くあったが、その分安く、店主であるプレイヤーの呼び込みに反応して立ち止まるプレイヤーも少なくはなかった。中には、客に対してナンパ紛いのことをするプレイヤーもいたりした。


一応、美少女に分類されるユリもまた、そんな露店の店主であるプレイヤーに声をかけられることもあるのだが、何言ってんのこいつ?とばかりの射殺すようなユリの冷たい眼差しに意気揚々とかけた声を萎ませてすごすごと退散していた。同性である野郎に下心ありで絡まれてもユリからしたら不快極まりなかった。


「ん? 」


そんな道中で、ユリはある露店の呼び込みに反応して歩みを止めた。


街指針(シティガイド)はいかがですかー! コエキ都市に行くなら街指針(シティガイド)が必須だよー! 今なら指輪、腕輪、水晶の三種類を選べるよ! 」


それは、以前ルカが持っていた『街指針(シティガイド)』を売っている露店の呼び込みだった。

その呼び込みを聞いたユリは、『初心者の草原』のボスを倒して迷うことなくコエキ都市に辿り着くためには必須のアイテムだとルカが話していたことを思いだした。


街指針(シティガイド)か……忘れるとこだった。持ってないし買った方がいいな」


そう思ったユリは、『街指針(シティガイド)』を売っている露店に近づいた。


「いらっしゃいませ! どの型も一律1500Gです! どれにしますか! 」


ユリがその露店の前までくると、売り物を見るユリを客だと判断したのか店主をしている青年は嬉しさからか顔を綻ばせながら言った。


「戦闘中でも身に着けてられるようなものがいいんだけど、どれがいいんだ? 」


「それなら指輪か、腕輪ですね! ………あれ、でもお客さんはもしかしてモンク(武闘家)ですか? 」


青年は、ユリの装備を見てそう尋ねた。


「モンク? 」


聞き慣れない言葉にユリは、首を傾げる。


「武器を使わず、拳を使って戦うスタイルのことですよ」


「ああ。まぁ、そうだな」


「やっぱりそうなんですね。うーん、だとしたら籠手と腕輪の相性は悪いですし、指輪も厳しいですね。水晶も戦闘中ともなると邪魔ですし……」


ユリの要求に売り物が十分に応えられないことに青年は、難しそうな表情で腕を組んで唸った。

そして、しばらく悩んでから青年はおずおずと言った様子でユリにある提案をしてきた。


「ちょっと値が張りますが、イヤリングはどうですか? 」


「イヤリング? 」


「はい、イヤリングなら戦闘中も身に着けてても邪魔にならないと思います」


そう言って、青年が自分の仮想ウィドウを操作して手元にイヤリング型の街指針(シティガイド)を出した。

そのイヤリングは、大小二つの透明な球とそれに絡まる銀の植物の装飾がされていた。大きい方の小指の爪ほどの大きさの球の中には半分が赤く塗られた針が浮かんでいた。


「へー、いいね。値段は? 」


「今売ってるのよりも手が込んでいるので、その……4000Gほどします」


嬉しそうにイヤリングを手に取って聞いてきたユリに青年は言い難そうに値段を告げる。


「4000Gか……」


やっぱり結構するんだなーとユリは、店売りの他の武骨なデザインの街指針と見比べながら思った。

イヤリングが気に入ったユリは、迷うことなく所持金から4000G分の銀貨四枚を取り出して、青年にポンッと渡した。


「えっ? あ、お買い上げありがとうございます! 」


一瞬青年は、手渡された銀貨を見て呆気にとられた後、すぐに満面の笑みに変わった。


その後、ユリは青年からイヤリング型の街指針(シティガイド)の使い方を教わり、準備万端の状態で北門を潜って外に出た。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



結論から言えば、ユリは大して苦労することなく『コエキ都市』に到着した。

警戒していた異常種とは一度も戦うことなく、懸念していたボスとも一戦も交えることもなく呆気なくユリは、【初心者の草原】を踏破してしまった。

どうやら、イベントを達成した影響なのかボスを倒さずとも『コエキ都市』に辿り着けるようになっていた。『幻惑の間』もまた無くなったようで、折角用意した『街指針(シティガイド)』も真価を発揮することなく今回の役目を終えてしまった。


ユリからすれば拍子抜けもいいところだった。腹立ち紛れに襲ってくる剣兎を蹴散らすもイベントで成長したユリとは実力差がありすぎてこれまたユリの物足りなさを加速する要因になってしまった。


「あーくっそ、なんか物足りねぇ」


そう呟きながらユリは、『コエキ都市』の門を潜って中に入るとその足で組合に向かった。




組合は、相変わらず人が多く賑やかだったが以前来た時よりも落ち着いていた。


「えっと……こっからどうしたらいいのかな」


取りあえず、組合まで来たはいいもののそれからどうすればいいのか分からずユリは、入口前でキョロキョロと忙しなく辺りを見渡す。それに釣られてユリの肩に乗るクリスも揃って顔をキョロキョロと辺りに向ける。


少しして以前シオンがしたように受付の人に聞けばいいことに気付いたユリは、受付の列に並んだ。

まだ数の少ない従魔(テイムモンスター)のクリスの存在や全く出回ってないプレイヤーメイドであろう忍び装束姿のユリは組合にいるプレイヤー達からチラチラと好奇の視線を向けられたが、幸いにも声をかけてくるプレイヤーはいなかった。


「はーい、次の方どうぞー」


しばらく列に並んで待っているとやっとユリの番が来た。ユリはカウンターに身を乗り出して気付き易いように手を上げてくれている受付嬢の受付口の前に移動する。


「ようこそ冒険者互助組合コエキ都市支部へ! 本日のご用事はなんでしょうか」


「支部長と話がしたいんですが、今会えますか? 」


老人から呼びだされた理由が、支部長であるガユンに関係することなんだろうなーと考えいていたユリは、受付嬢にそう言った。


「ガユン様とですか? ……すいません、ガユン様にどんなご用事がお聞きしてもよろしいですか? 」


「さぁ? 至急くるように言われただけなので」


実際、ユリは呼ばれた側なので、何の用があるのかはむしろユリが聞きたかった。


「………すいませんが、お名前はYURI(ユリ)様で会っていますか? 」


「はい、そうです」


「少々お待ちください」


そう言って尋ねてきた受付嬢は、席を立つと奥へと消えた。

しばらく待っていると受付嬢と共に中年の男性が現れた。


「支部長から事情は伺っております。今からご案内しますので私について来てください」


「よろしくお願いします」


カウンター席の出入り口からこちら側に出てきた男に、ユリは礼を言ってついて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――コンコン


「失礼します」


二階の一室に案内されたユリは、男がノックして中に入るのに合わせて部屋の中に入る。

部屋の中には、ガユンと普段と変わらぬ格好の老人と老婆、それにシオンの4人がいた。


「おお、来たか」


「よく来たユリよ」


「あ、なんか遅くなってすみません」


自分が遅刻したような気分になり、ユリは申し訳なさそうに謝る。


「よいよい、気にするな。無理行って呼ぶように言ったのは儂だ。むしろ思ったよりも早く来てくれて助かった。別で話を聞く手間が省けて助かる」


そう言ってガユンは、以前会った時よりも穏やかな様子でにこやかに笑った。

ユリは、その言葉にホッとしながら無言で自分の隣に座るようソファをポスポスと叩くシオンに促されるままにシオンの横に座った。


「ユリ、此度は事態の収拾に尽力したことを感謝する。お主のお陰でアクネリアをサタンファントム(魔王の残滓)の魔の手から救い、またザハランに憑りついたサタンファントム(魔王の残滓)を倒すことが出来たというのは既に他の者から聞いておる。よくやってくれた」


「俺は止めを刺したくらいしか出来てないんだけどな……」


ガユンに感謝されて、ユリは戸惑ったように髪を弄りながら口籠る。

足手まといだった自覚があるだけに素直に喜べなかった。


「何、その辺のことも既に聞いておる。勘違いから特に敵視されていたこともな。そんな状況でよくぞやってくれた。儂はその辺を評価しておる。ついては、まだ冒険者登録をしていなかったようじゃから追加報酬でFランク冒険者の証を用意した。受け取ってくれ」


ガユンは、懐から1枚のカードを取り出してユリに手渡した。それは名刺ほどの大きさの銀色の金属製のカードだった。カードの裏には組合の紋章が刻まれて、表にはでかでかと刻まれた『F』と、ユリの名前が刻まれていた。


「何じゃ、1つしか変わらんじゃないかケチじゃのー」


それを横目から見た老人(ジーフェン)が茶々を入れる。


「黙れ。本来なら依頼と昇格試験を合格しなければならんのじゃから、十分破格の扱いじゃ。ユリが望めばすぐにでもEランク昇格試験を受けさせる用意もしておる」


「ユリ……羨ましい」


ガユンがそう言うと、シオンがユリの袖をくいくいっと引っ張って相変わらずの無表情で言った。


「これ、そんなにすごいことなのか? 」


「簡単だけど、面倒な依頼を何度も受けた上に、面倒なだけの試験をパスできるのは羨ましい」


今一わからないユリがシオンに尋ねると、シオンはコクンと頷いてそんなことを言った。


「面倒なのか……」


「ん、すごく面倒」


いつになく力のこもった様子のシオンの声に、ユリは貰った方がよさそうだなと判断して、有難くガユンから『Fランク冒険者の証』を受け取った。


その後は、ガユンからの質問攻めだった。

他のメンバーから捕捉してもらいながらユリは、知っていること、気になったことを洗いざらいすべて吐き出された。


その際に、ユリが新たに入手した『暴走する黒き欲望』や『破損した紙束』、『魔王の残滓の欠片』について話をすると『破損した紙束』については、買い取りを持ちかけられ6千Gで売れた。

ユリは、最初に持ちかけられた3千Gで良かったのだが、老人がガユンに喰ってかかって値段を倍まで釣り上げた。どうやら、あまり仲がいいわけじゃないんだなとその時の2人のやり取りでユリはこのガユンという老人もまた爺さんの腐れ縁の1人なのだと判断した。


『暴走する黒き欲望』は、モンスターに使用することを硬く禁じられたが所持することは認められ『魔王の残滓の欠片』もまた、魔王の残滓(サタンファントム)が完全に消滅した今、結晶化した魔核の欠片から復活するなどの危険はないと告げられて、所持を認められた。優れた素材になるので、高く買い取るぞとガユンから持ちかけられたがお金には困っていなかったのでユリは丁重にお断りした。



また、気になったことをガユンから聞き出すことも出来た。


希少な幻獣である光兎を従魔にしていたザハランという魔術師は、組合に登録している有名な冒険者の1人だったが、数年前から行方不明になっていたそうだ。

今回の件の黒幕は、魔王の残滓(サタンファントム)だと結論されて、光兎に乗せられて再び姿を暗ませたザハランはお咎めなしとなった。ただ、長年魔王の残滓(サタンファントム)に憑かれていた後遺症が懸念されるため見つけ次第保護する方針ではあるそうだ。

また、地下水湖にいるアクネリアについては、あまり口外しないようにガユンに念を押されて言われた。

地下水湖の出入りなどは、アクネリアから許しを得ていることもあってすんなりと許可されて、噴水の柱からの出入りは目立つということで別ルートの出入り口をいくつか教えてもらった。


地下水湖での戦いの時には、老人は噴水の柱とは異なるルートを通って地下水湖に来ていたのをこの時ユリは、老人の口から知った。


また、まだ広まってはいないが【初心者の草原】に出現していた『幻惑の間』とボスである死剣兎は、やはり魔王の残滓(サタンファントム)が関わっていたようで、魔王の残滓(サタンファントム)の消滅に合わせて無くなっていることをユリは改めて知った。


他のメンバーの聞き取りは、ユリが来る前に粗方終わっていたようでユリの聞き取りが終わると、最後に依頼の報酬をパーティーを代表してシオンが受け取り、色々聞き出され、聞き出した会談は終了した。



街指針(シティガイド)(イヤリング型』

街の位置を示す街指針(シティガイド)のイヤリング型。


小指の爪ほどの大きさとビーズほどの大きさの大小二つの透明な球が銀の植物に絡まるような装飾のイヤリング。大きい方の透明な球の中には、半分が赤く塗られた針が浮かんでいる。


イヤリングに付けられた大小あるガラス玉の内、小さい方の球がスイッチとなっていて、そこを弄ることで大きい方の球から、他の街指針よりも太くはっきりとした赤い光線を出すことができる。


イヤリング型は、針を直接見て確かめるのではなく、その赤い光線を見て街の位置を確かめる。左右に付けたイヤリングから発生した光線でなるべく誤差のないように工夫してある。


必要のないときは、消すこともできる。



『バニースーツ』

DEF+6~10

角兎、剣兎、駿角兎、死剣兎、森蜘蛛などの素材を使って作られた服。

尻尾と耳付き。使用した素材によって色が変わり現在は白、黒、赤の三種類ある。

また防御力は低い順に角兎<剣兎<駿角兎<死剣兎<森蜘蛛となっている。

駿角兎と死剣兎で作られたバニースーツは、追加効果として『移動速度微上昇』を持っている。


性能は悪くないのだが、露出度が高いせいか売れ行きはあまりよろしくない。

一応、男女ともに装備が可能。


『Fランク冒険者の証』

組合に所属するFランク冒険者が持つ証。

ランク制限がかけられた依頼をFランクまでなら受けることが出来るようになる。


ランクには下からG~A、AA、AAA、Sの十段階で、Fランクは下から二番目。

ランクは、何度も依頼を受けて、次のランクの昇格試験を受けて合格することで上げれる。


今回の依頼で、ガユンに評価されたことでFランクからのスタートとなった。

因みに、シオンは五日目の時点で既にDランクで、プレイヤーの中では現在最高ランクでもある。


組合が、第二の街からしか存在せず、第二の街までの行き方が確立されてからまだ二日しか経ってなかったり、イベントの影響などで登録はしたもののランク上げが進んでいないプレイヤーが多い。



書けてしまった。毎日更新を意図したわけではなかったですが、書けちゃったので更新します。これが、感想パワーか。すごい! 力がみなぎるぞぉぉおお!


応援ありがとうございます。嬉しかったです。


そろそろガス欠の予感。いつまで続くかなこの調子。


すごく励みになるので感想欲しいです。



15/05/25

街指針(シティガイド)(イヤリング型』の説明を忘れてたので追加しました。

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