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101話 「商談」

始まりの町に戻ってきたユリは、南大通りで談笑しているNPCのおばさんの1人に声をかけた。


「すいません。あの、ここで依頼(クエスト)を受けれるって聞いたんですけど、何か頼み事はありませんか? 」


「ああっあんたがあたしの頼みを聞いてくれるのかい! いやーありがいね、助かるよ」


ユリが声をかけた恰幅のいいおばさんは、そう言うと買い物鞄から大きな包みを取り出してユリに渡した。


「これを武器屋のオルガンさんのとこに持っていってくれ。場所はこの紙に記してるからね。頼んだよ」


「っと、はい。わかりました」


包みを受け取ったユリは、思ったよりも重かったのか抱え直しながら返事をした。

恰幅のいいおばさんは、それを見て満足そうに頷くと、自分は談笑する友達たちの輪の中に入っていった。



ユリは重い包みを持ったままその場から離れると、包みを一度地面に置いてクエスト欄を開いた。



「おっ、ちゃんとクエストが発生してる。『街の配達屋さんになろう! 』いや別に配達屋になる気はないんだけど………」


クエストのタイトルを見てユリは、思わず苦笑する。


「まぁ、いい。早くこの荷物を持っていくか」


ユリは、クエスト欄を消して包みを持ち上げるとおばさんに渡されたメモを見ながら再び歩き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


タクから勧められたクエストの中からユリが最初に選んだのは荷物や手紙を運ぶ配達クエストだった。

選んだ理由は、色んなNPCと顔なじみになるいいきっかけになるクエストだったからだ。NPCと知り合いになれば、そのNPCに関連したクエストが出るようになる。その中にはタクの把握してないユリにあったクエストと出会うかもしれない。そう勧めてきたタクに言われ、ユリはこのクエストを最初に選んだ。


「ここか……」


おばさんのメモに従ってユリは西大通りに面した店の前に辿り着いた。


「すいませーん」


メモをアイテムボックスに仕舞ってユリは、クエスト中仕舞うことの出来ない重い荷物を抱え直して体で店のドアを押しあけた。


――カランコロン


店の中は、武器店らしく部屋中に様々な武器が展示されていた。店の奥にあるカウンターでは顎髭を生やした厳つい男と見覚えのある赤髪の少女が向かい合って何やら話し合っていた。ドアに付けられたベルが来客を告げる音を店内に響かせると、2人は会話を中断して揃ってドアの視線を向けた。


「いらっしゃい」


「あ、いらっしゃいませー。ってユリさんじゃないですか。どうしたんですか? 」


「えっ、ルルルさん? 」


店主らしき男の後に続いて挨拶をしながらこちらを振り返った少女は、ユリを見るなり驚きで目を丸くさせた。ユリも目をパチクリとさせて驚く。


「ん? 何だお前の知り合いか? 」


「あっはい。私の店の常連さんです」


「ふーん、そうか。で、うちに何の用だ? こいつの店の客なら武器目的じゃないだろ」


「えっと、オルガンさん宛ての荷物を持ってきました」


そう言ってユリは両手に抱えた包みを持ち上げて見せた。それを見たオルガンは、それだけで事情を理解したのか深い深いため息をついた。


「またアイツはその辺で油を売ってるのかよ。ったく、毎度毎度…………ああ、わかった。理解した。わざわざ届けに来てくれてありがとな」


愚痴を言いそうになる口を噤んでオルガンは、カウンターから出てきてユリから荷物を受け取った。

両手で持っていた重い荷物をオルガンは、ひょいと片手で軽々と持ち上げた。

オルガンは、空いた手でゴソゴソと腰につけたバックの中を漁ると銀貨を二枚(1000G)を取り出してそれをユリに投げ渡した。


「それはちょっとした礼だ。受け取ってくれ。ああ、そうだ。ついでに何か買うか? 今なら少しはまけてやれるぞ」


「んーいや、いいです。それじゃ失礼します」


オルガンの提案にユリは首を横に振って断ると、もう用は済んだとばかりに踵を返して店を出ようとした。


「あっ、ユリさんちょっと待ってください」


そんなユリにルルルから突然待ったがかかった。


「ユリさん、ちょっと私とお話しませんか? 昨日のイベントのこととかで頼みたいこととかがあるんですけど」


「え? いや……まぁ、いいけど」


突然の申し出にユリは戸惑いながらも頷くと、ルルルは顔を綻ばせた。


「ありがとうございます! えっと、じゃあ……」


どこで話をしようかと迷うルルルの視線がキョロキョロと忙しなく移動する。


「悪いがうちは喫茶店じゃねぇぞ。話をしたいなら余所でしろ」


そんなルルルの様子にオルガンは、念を押すように話す。その言葉にルルルは納得したように頷く。


「あっそれもそうですね。じゃあオルガンさん、しばらくの間奥の部屋使いますね」


「なんでそうなるんだよ! 余所へ行け余所へ!! 」


「えー!? 私とオルガンさんの仲じゃないですかー。ちょっとだけ使わせてもらうだけですから」


さらっと私室である店の奥の部屋を使うと言い出したルルルにオルガンは憤慨するも、両手を合わせて「おねがい! 」とルルルが頼み込むと、オルガンは渋い顔をしつつも「少しだけだからな……」と言ってしぶしぶ部屋の使用を認めた。


「ありがとうオルガンさん! じゃあユリさん、一緒に来てください」


「ええっと……すみません、お邪魔します」


「おう、いつものことだ。お前が気にすることじゃねぇ」


遠慮がちにユリが頭を下げると、渋い顔をしつつもオルガンは気にするなと手をひらひらとさせた。



オルガンの私室は、はっきりと言ってごちゃごちゃとしてて汚かった。

鉱石らしき石がつめられた袋が無造作にあちこちに転がされ、そこから零れ落ちた鉱石や空になった酒瓶が床に転がり、部屋に一つだけあるテーブルの上に空き瓶やまだ中身のある酒瓶が雑然と並べられ、僅かな隙間には袋から出された鉱石が広げられていた。


部屋全体に漂う酒の匂いにユリは、眉を寄せる。


「酒くせぇ……」


「うわー相変わらずオルガンさんの部屋は汚いですねー」


見慣れた様子のルルルは、部屋の前で立ち止まるユリの横を通り過ぎて慣れた様子で床に転がる鉱石や空き瓶を片付け始めた。ユリもそんなルルルを見て、部屋の片づけに参加した。



「よし、大分綺麗になりましたね」


取りあえず部屋の片隅に空き瓶や鉱石を仕分けしてまとめて置いたところで、片づけは終わった。

部屋に充満していた酒の匂いもいつの間にか薄れて匂わなくなっていた。


「さっ、ユリさん座ってください」


ルルルは、椅子を引いてユリに席に座るよう促して、自分もその対面に座った。

お互い向き合うように席につくと、ルルルは真剣な目でユリを見た。そんな目に見つめられたユリも自然と居住まいを正した。


「ユリさん! 異常種の素材を私に売ってください!! 」


お願いします! と勢いよく頭を下げたルルルは、額をテーブルに勢いよく叩きつけてゴンッと鈍い音を響かせた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆




ルルルが改めて頭を下げてまで買い取りを求めたのは、今回のイベントでユリたちが倒した暴君の小鬼(タイラントゴブリン)や、暴虐の刃鮫ティラニーエッジシャーク呪われの水姫ホンデッドウィンディーネ魔王の残滓(サタンファントム)の素材だった。


暴虐の刃鮫は、ユリとアルが戦い老人が倒したモンスターの名前であり、呪われの水姫は、アクネリアが魔王の残滓に憑りつかれた時の名前だった。


ユリたちしか出会ったことのないモンスターの名前をルルルが知っているのは、イベント中に全プレイヤーに通知される勝利条件に含まれるキーモンスター(エリアボス)の討伐の報告で、倒したのがシオンたちであることと名前だけは知っていたのと、ユリに持ちかける前に他のメンバーにも昨日の内に買い取りの打診をしていたからである。



「取りあえず、売るか売らないかは別にして何が手に入ったか確認してみないか? そう言えばきちんと俺見てなかったし」


「そうですね。私も一緒に見ていいですか? 」


「うん、いいよ」


ユリは二つ返事で答えると、すかさず横に移動してきたルルルが見えるように仮想ウィンドウを移動させて一緒にアイテム欄を確認した。


「うわー……ユリさんのアイテムボックスは相変わらずの玉石混淆っぷりですね」


雑然と様々なアイテムが表示されるアイテム欄に目を通したルルルはそんなことを言う。

【発見】スキルに反応する素材を暇さえあれば片っ端から採集しているユリのアイテムボックスは、ルルルの言うとおり、ゴミも宝もごちゃ混ぜになった見事な玉石混淆っぷりだった。


「ユリさんが鑑定スキル持ってないのが悔やまれますね。これだけあれば当たりもありそうなのに」


さらに言えば【発見】の持つ《簡易アイテム鑑定》では情報公開されない未鑑定のアイテムもあり『草』や『読めない本』、『石ころ』など名前が被っているのが多く、どれが当たりなのかも分からなかった。


そのことを残念に思いながらも見ていると、ポツポツと異常種の素材がアイテム欄に表示されてきた。

パーティーを組んでいると、メンバーがモンスターを倒すと貢献度に応じてパーティーメンバー全員にそのモンスターのドロップアイテムが入手される。

例え、そのモンスターとの戦闘で一切かかわっていなくとも低確率ではあるが、ドロップアイテムが手に入るのでユリが入手していた異常種の素材は種類もさることながら数も膨大だった。特に乱獲し決死小鬼(シサイゴブリン)駿角兎ソリットホーンラビット死剣兎(デスソードラビット)の数は多かった。


「あっ『暴君の鬼角』です! それに『暴君の断罪剣』もありますね」


「おーあったな」


最初に見つけたのは、イベントで最初に倒した小鬼の暴君(タイラントゴブリン)のドロップアイテムだった。運がいいのか、ラストアタックが評価されたのか角が二本と剣を一本入手していた。


「ユリさん、角2本で10Kでどうですか? 」


「10K? 」


Kが千を表すことを知らないユリは、意味が分からず首を傾げた。


「すみません、角2本で1万でどうですか? 」


「ああ、1万か。いいよ」


その様子にユリが初心者だったことを思い出したルルルは、すぐに言い直した。

それでやっとわかったユリは未だSMOのゲームマネーの価値を把握できてないので1万がどれくらいの価値か正確にはわからなかったが、色々と世話になってるルルルを信用してすぐに了承して、『暴君の角』をアイテムボックスから取り出してルルルに手渡そうとしたが、やんわりと断れた。


「受け取りは最後にまとめてしますから今はまだ持っていてください」


そう言われては、仕方ないのでユリは角を仕舞わずテーブルの上に置いた。


そして引き続きアイテム欄を確認していると、ルルルは突然歓声を上げた。


「わっ光苔!! 流石ユリさん、こんなにたくさん採集してたんですね! 」


「どうした急に」


「光苔って武器防具に光属性を付与したり、魔法のランタンの素材になったりするとっても価値のある素材なんですよ! ユリさん、これも売ってください!! 」


「んー……全部じゃなくていいならいいよ。どれくらいいる」


「じゃあ30ください! 一株500、1万五千で買います! 」


「うん、それならいいよ」


ルルルがユリに求めたのは、光苔の総数の約三分の一だった。

それくらいなら問題ないと判断したユリは、すぐに了承した。


「やった! 」


ルルルは、小さくガッツポーズして喜んだ。



そして再びアイテム欄を確認すると、光苔のすぐ下に暴虐の刃鮫、呪われの水姫、魔王の残滓と倒した順にドロップアイテムが並んでいた。


『憤怒の赤牙(せきが)』『暴虐の刃鮫皮』『暴走する黒き欲望』『魔王の残滓(サタンファントム)の欠片』


「『暴走する黒き欲望』って……何でこんなものが」


ルルルと一緒に目を通したユリは、魔術師の隠し部屋で見つけたアイテムがそこに存在することに首を傾げた。


「あ、魔術師が飲んでたし、それでかな? 」


あの時のことを思い返し、ユリはそう結論付けて1人納得した。


「で、ルルルさんは、何がいるの? 」


「うーん、取りあえず『憤怒の赤牙』や『暴虐の刃鮫皮』は全部欲しいところなのですが『魔王の残滓の欠片』はどうしましょうか……シオンさんたちも持ってませんでしたし、レアドロップですかね? ユリさんは、このアイテム売る気はありますか? 」


「別にいらないし、欲しいなら売るよ」


「え、売るんですか。いや、まぁ私としては嬉しいんですけど」


イベントの黒幕だった魔王の残滓の欠片という如何にも重要そうな怪しいアイテムを即決でいらないと言ったユリに、何だか無知な子から希少なアイテムを巻き上げるような気分になりルルルは、少し躊躇いを覚えた。


「いや、俺だと使い道が分からないし結局肥やしにするだろうから、どうせなら何かに活用してくれそうなルルルさんに売った方がいいと思ったんだよ」


躊躇うルルルの様子を察したのかユリは、そう言って自分の考えをルルルに明かした。


「ユリさん……ありがとうございます。わかりました。牙8本で4万、皮4枚で4万、そして欠片2つで3万でどうですか? 」


「欠片は3つじゃなくていいのか? 」


「必要になるかもしれませんから1つは持っていた方がいいですよ。まだ何に使えるか調べてみないとわかりませんし、2つで十分ですよ」


「そっか。うん、じゃあその値段で売るよ」


横に立つルルルが手を差し出してきた。


「交渉成立ですね」


「そうだな」


目の前に差し出されたルルルの手に応じるようにユリも手を差し出してその手を握った。



ユリは、希少な素材を売って13万5千Gという大金を手に入れた。



『暴君の鬼角』

暴君の小鬼のドロップアイテム。


武器防具の素材、もしくは強化素材になる。

他にも錬金素材としても使える。


『暴君の断罪剣(だんざいけん)

暴君の小鬼のドロップアイテム。分類は片刃の大剣。

ATK+80


分厚い片刃の大剣で、かなりの重量があり、切り裂くというよりは押し切るような剣。

あまりにも重くて大きすぎるので現状、ランでさえ扱えない。



『憤怒の赤牙(せきが)

暴虐の刃鮫のドロップアイテム


憤怒で牙が真っ赤に染まった牙。


『暴虐の刃鮫皮』

暴虐の刃鮫のドロップアイテム

まるで、極小の刃がついてるような鋭すぎる鮫肌


『暴走する黒き欲望』

呪われの水姫のドロップアイテム


禍々しい黒い何かがガラス瓶の中に入っている。

しばらく見ていると、黒い液体が蠢いているように見える。



魔王の残滓(サタンファントム)の欠片』

魔王の残滓のドロップアイテム


漆黒の黒曜石のような見た目の欠片。

黒い靄のようなものは出ていない


◆◇◆◇◆◇◆◇◆

※NPCの買い取り、販売価格は、『始まりの街』での価格です。他の街だと多少違ったりします。また、プレイヤーの販売価格は、最低値が投げ売り価格で、基本価格は同品質ではNPCの価格より若干低い程度です。買い取り価格だと、その逆です。

プレイヤー価格は『血鮫の皮』のように時によって価格が高騰、下落する場合もあります。



『角兎の肉』

NPC買い取り価格:5G

プレイヤー買い取り価格:3~10G


『角兎の角』

NPC買い取り価格:10G

プレイヤー買い取り価格:6~20G


『角兎の毛皮』

NPC買い取り価格:15G

プレイヤー買い取り価格:9~30G


『錆びた鉄の剣』

NPC買い取り価格:30G

プレイヤー買い取り価格:10~30G※

※買い取っても修繕費用などを考えると赤字になるため。


『血鮫の皮』

NPC買い取り価格:120G

プレイヤー買い取り価格:500~1200G

※数が市場に出回ってないのでプレイヤー間では価格が高騰している。


『角兎の串焼き』

NPC販売価格:30G


『初級ポーション』

NPC販売価格:100G

プレイヤー販売価格:50~150G


『初級マナポーション』

NPC販売価格:150G

プレイヤー販売価格:70~300G


『中級ポーション』

NPC販売価格:500G

プレイヤー販売価格:300~600G


『中級マナポーション』

NPC販売価格:800G

プレイヤー販売価格:400~1000G


『鉄の剣』

NPC販売価格:1000G

プレイヤー販売価格:500~1200G


『鋼鉄の剣』

NPC販売価格:2600G

プレイヤー販売価格:1500~3000G


『始まりの街』で受けられるクエストの報酬の一般的な金額

100~3000G


クエストの難易度によって金額は大きく変動するが、初めは最高で500Gくらいがいいところ。配達クエストのようなクエストだと気前のいいNPCがお駄賃として追加報酬をくれる時もある。


五日目のプレイヤーの所持金の平均額※ただし元βテスターを除く

0~3万ほどが多く。千も持ってないプレイヤーも多い為、平均は一万ほど

5万以上のプレイヤーはあまり多くない。


因みに金額を引き継いでいる元βテスターの平均額は、50万ほどであり、トッププレイヤーだったりすると500万、1000万以上のプレイヤーもいる。

文字通り桁が違う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


久しぶりです。

今年は受験なので、今年の更新はあまり期待しないでください。不定期更新になります。次回の更新は遅くなります。


そう言えば、ユリあんまりお金使ってないな……基本物々交換、もらい物だし。


すごく励みになるので感想欲しいです。


15/05/23

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