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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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97話 「別れ」

「ピュィィイイイイイイ! 」


 口笛のような甲高い鳴き声を光兎が上げた。


 すると、角兎と同じくらいだった小さな体格が、死剣兎よりも大きな3メートルを超す巨大な兎に変わった。



 その突然の光兎の変化に、シオン達は、納刀していた武器を瞬時に抜刀し、臨戦態勢に入った。


 シオンのパーティーメンバーの中で臨戦態勢に入らなかったのは、ユリとアルの2人だけだった。



 ランとシオンの2人がいち早く飛び出し、光兎に斬りかかった。



――ガキィン!


 しかし、それは光兎が生み出した光の障壁に防がれた。

 光の障壁は一度張り直されたのか、いつの間にか地面に倒れ伏す魔術師は、光の障壁の外にいて、シオンたち8人だけが光の障壁の中に閉じ込められていた。


「障壁の中に閉じ込められたっ!? 」


「ちっ」


 ランが大剣で乱暴に叩くが、光の障壁はビクともしなかった。


 ランとシオンが手間取っているうちに、巨大化した光兎は、ピクリとも動かない魔術師に近づくと、ローブの端を口に咥えて、上手いこと魔術師の体を自らの背中に乗せた。


 そして、シオンたちを一顧だにせず、光兎は、ぴょんぴょんと軽快なジャンプで湖の水面を飛び跳ねて、シオン達が通った隠し通路へと消えて行った。



「あーあ、逃げちゃった」


「まんまと逃げらちゃいましたね」


「追うのか? 」


「いや、追わない。最後あいつの逃げ道を塞ぐのに手伝ってくれたし見逃してやろうぜ」


「そうですね。あの魔術師も憑りつかれてたようですし、見逃がしてもいいんじゃないですか」



 イベントも既に終わったこともあって、シオンたちは、結局、逃げた光兎と魔術師は見逃すことになった。老人と老婆の2人も、依頼が終わった以上、これ以上のことをする気はなかった。





◆◇◆◇◆◇◆





「ふぅ……やっと終わった」


 光兎が魔術師を乗せて去り、緊張が解けたユリは、疲れた様子でどかっとその場に座り込んだ。


「お姉ちゃんやったね! 」


「うわっ!? 」


 突然後ろからランに抱き着かれて、少しよろめいたユリは、何だよと思いつつ後ろを振り返ると、喜色満面と言ったランの笑顔があった。


 ユリに抱き着いたランは、おもむろにユリから離れると、両手を上げて万歳をした。


「……ったく」


 ランの意図することが分かったユリは、立ち上がると、渋々と言った様子で、しかし、実はノリノリでランとハイタッチした。


「イエ―イ!! 」


 ユリがランと何度もハイタッチをしていると、それを見ていたフー達がユリとのハイタッチを求めてやってきた。



 結局、ユリは全員とハイタッチをした。もちろん、その中にはシオンも含まれていた。


 シオンは、ハイタッチした時も相変わらず無表情を貫いていたが、少し高い位置にあったユリの手を叩くために小さくジャンプして、ハイタッチした時のことを考えると、あれでシオンは、喜んでいたのかもしれない。



 老人やノルンもユリの元にやってきたが、ハイタッチというよりは一方的に頭をなでてきたり、お手をするようなタッチだったので、ハイタッチとは呼べるものではなかったが、みんなで無事にイベントが終わったことを喜んだ。



 そうしていると、湖の中央の水面が隆起し、人の姿を形作り、アクネリアが再び姿を現した。


「あ、出てきた」


「あれってここの水の精霊さんなんだっけ? 」


「このタイミングからすると、助けたお礼とかですかね? 」



『助かりました。あの忌々しい存在から私を救ってくれたことに感謝します。貴方達には、私から感謝の印としてこれを授けましょう』



 アルの予想は的中し、ユリたちの目の前まで来たアクネリアは、おもむろに足元の水を掬うと、それをユリ達の掌に少しずつ注いだ。


 アクネリアの手から零れ、ユリ達の掌に落ちた水は、ユリ達の掌の上で結晶化し、5センチ程の水滴の形をした青い宝石に変わった。



「へー綺麗な石だな。宝石? 」


「おー! 『水精霊の結晶石』だ! 」


「やった! やったやったやった! 」


「初のイベントの報酬にしてはかなり良いですね」


「まぁそれだけ大変だったってことだよ! 」



 ユリはそれがどんな代物なのかは見ただけでは分からなかったが、元βテスターであるランたちは、驚きと喜びでそれを受け取った。特にフーは、嬉しさの余りその場でぴょんぴょんと跳ねた。




『今後、貴方達がここに訪れることを許可します。ジーフェン、マチルダ。貴方達2人にも感謝してます』


「ふん」


「まぁ、お互い様じゃて。どうしてお前さんがアレに憑りつかれたのか気になるが――街の方は大丈夫そうか? 」



『力は随分と消耗しましたが、なんとかなりそうです』



「そうか。なら良い。事情はまた日を改めて聞きに来る」



『ええ、そうしてくれると助かります。それでは、また』



 アクネリアは、そう最後に言うと湖の中に吸い込まれるようにして消えた。 




◆◇◆◇◆◇◆




 その後、老人と老婆は、用事があると言って、ノルンに乗って先に帰ったが、ユリたちは話ながらゆっくりとした足取りで隠し通路を上がっていた。



「げっ、もう19時過ぎてるのか」


「イベントが始まってから6時間ってところですかね」


 ふと時計を確認したユリは、あっという間に時間が過ぎてるのを実感して驚いた。


「これからどうしますか? 」


 当初このパーティーを組んだ時の目的を達成し、フーはこれからどうするのかシオンに尋ねた。


「まだ決めてない」


 後のことは考えてなかったシオンは、そう素直に答えた。


「どうせSMOのことだし、街の外にはまだ異常種が結構残ってそうだけど、皆で倒して回らないか? まだ功績値も適用されるみたいだし」


「あーいいね! やろうやろう! 」「あっそれいい」「いいですね」


 リンの思いつきで提案に、ランを筆頭にフーやアルが乗り気で賛同した。ランたちは、まだまだ戦う気満々のようだ。


「お姉ちゃんもやるよねっ」


「……悪い。俺はもう抜けるわ。もう19時過ぎてるし、昨日徹夜してるからちょっときついんだ」


 ランの賛同を求める言葉にユリは、ばつが悪そうに断った。

 ユリとしても、まだまだこのメンバーで、いろいろやりたいという気持ちもあったが、それよりも眠気の方が強かった。歩けないほどではなかったが、頭がボーっとするくらいには眠くなっていた。



「ああ、そう言えばユリさん、あの時寝てましたね。大丈夫ですか? 」


 ユリの言葉でアルは、ユリが魔術師の魔法を受けて熟睡していたことを思い出した。



「正直もうゆっくり寝たいかな。悪いな、先に抜けて」


「気にすんな! 本来の目的は終えてるしな。今日は楽しかったぜ! ありがとな」


「お姉ちゃん、今日はお疲れー」


「お疲れ様です。楽しかったですよ」


「お疲れ様です。クリスちゃんを触る機会はまた今度ですね」


「お疲れ」



 先に抜けることを申し訳なさそうにするユリに、リン達は労いの言葉をかけた。

 ユリとフレンド登録していなかったアルやリンやフー、それにランは、これを機にユリとフレンド登録をした。



「今日は楽しかった。皆ありがとな。またな! 」



 隠し通路から外に出たユリは、5人にそう言ってログアウトした。








18/07/02

改稿しました。

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