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ポニーテイル(三題噺)

作者: 霧道 歩

お題「ポニーテイル」「炭酸」「マッチョ」で書きました。

 朝食をとりにいくと親父がポニーテイルになっており愕然としたわけだ。朝っぱらからなにやってんだこのおっさんと思いつつ、無視することにする。朝っぱらから親父の悪ふざけに付き合うほど僕も暇な学生ではない。

「おはよう。」

「おはよう。」

読んでいた新聞から顔をあげた親父が日常的に挨拶してくるので、こちらとしても返事をしないわけにはいかない。ほとんどが白に染まり、歳に逆らえず薄くなった髪を無理やり後部になでつけ束ねたその顔は、滑稽すぎてぶん殴ってやりたくなる。

 でも僕はがんとして無視を決め込み、朝食を運んでくる御袋を待っていると、御袋までポニーテイルになっていて開いた口がふさがらない。年甲斐もなくなにやってるんだこのばばあ。御袋の髪はパーマでもわんもわんしており、それをぐぐっと後ろにもっていき纏めているので、ポニーテイルというよりぼぼんと広がった黒綿飴みたいになっている。それが力士体型とあいまって暑苦しさに拍車をかけ、後輩に溜め口をきかれるくらいに腹立たしい。

 なんだこいつら。

僕は早々に朝食を平らげて、学校へ行くことにする。馬鹿だ馬鹿だと思っていた両親が本当に馬鹿だったとは、なんとも嘆かわしい。石ころでも蹴って通学してやろう。

 家を出るとゴミだしに向かう隣の奥さんと出くわした。

「あら、いってらっしゃい。」

 僕は軽く会釈してそのまま歩き出すが、彼女もポニーテイルだったことを見逃さない。いつもは清楚で流れるような黒髪を、きゅっと黄色いヘアゴムでとめており、ああこういう髪型も似合うんだな。朝からいいものを見た。ふほほ。

 とかなんとか気持ち悪く一人でニヤニヤしていると、この辺では結構かわいがられている野良猫が塀垣の上をとぼとぼ散歩している。陽色の毛並が綺麗なこいつもなんとポニーテイルになっているじゃないか。

「おう、坊主。しっかり勉強してこいや。」

「あ、どうも。」

 僕が頭を下げるとやつは上機嫌に頷きながら去っていった。猫が馬の髪型をするとは世も末だなあ。

 しかしどいつこいつもポニーテイルにしていやがる。すれ違った小学生の集団がポニーテイルだだったがもう驚きはしない。だけど飛び出し注意!の看板小僧がポニーテイルまでなっていたのには驚きを禁じえない。こいつは昨日まで黄色い児童帽を被っていたはずだがそれも脱いでいる。看板は大分前に設置されたもので、ところどころ赤錆びて剥げ上がってしまっているのだが、髪のところだけ新しい。体は剥げているのに頭は禿げてない。ぷくく。

「おい、何を笑っておるんじゃわれ。」

看板小僧がどすを聞かせた声を出して僕を睨みつけた。僕はびくっとなり「え、いやなんでもないです。」としとどろもどろする。

「あんまなめとっと、おめー飛び出すぞこら。」

彼はそう言いながらずずいっとにじり寄り、看板の上からでも解るマッチョな筋肉を見せつける。

「すいません、本当になんでもないんです。勘弁してください」

 僕は慌ててその場から走り出した。背後で舌打ちが聞こえて泣きそうになる。

 だいぶ走って息が切れてしまい、僕はえらい目にあったなと思いながら膝に手をついた。ああ、くそ喉が乾いた。顔をあげると丁度いいところに自動販売機があった。ラッキーと思い僕は小銭を入れてコークを買う。がらんごろんどどーんとペットボトルが取り出し口に落ちてくる。

 僕はふう、と一息つきながらそれを取り出し、キャップの蓋を捻った。すると、ヴヴヴヴヴぶしゅー!と勢いよく炭酸が噴出した。

「Oh,Shit!」

 僕は慌てて顔を背け手を伸ばした。勢いよく飛びだし放物線を描くその黒い液体は、ポニーテイルのようだった。

 なんでこんな目にあわにゃならんのだ。ファック。

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