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第3話 文化祭の準備だ

2週間も開けてしまい申し訳ないです

高等学校の2学期、それは文化祭などで学校中が騒がしくなる時期でもある。竜輝と冬菜の通う学校では10月の末の土曜日と日曜日の2日間で開催される。規模は近郊の高校と大して変わらず、普通だというのが大方の見方である。


「特に変わり栄えしない普通の文化祭、私も他の高校の文化祭は見に行ったりしたけど普通だったね」

「俺は高校の文化祭を見るのも初めてですね」


10月に入り各クラスが忙しく走り回る放課後、竜輝と冬菜は食堂で雑談に興じていた。2学期に入って周囲は完全に2人が付き合っていると認識し、竜輝に嫉妬の視線を向ける男子は居なくなった。竜輝が視線に気付かないために見ている方が疲れたのだ。相手にされない状態で敵意を持ち続けるのは難しいのだろうと冬菜は考えた。前に読んだ小説にそのような記述があったのだ。


「竜輝君はクラスの手伝いをしなくても良いの?」

「ただのタコ焼き屋ですから」

「ああ、準備はほとんど終わってるんだね」


毎年のことだが飲食店を開いて準備に時間を掛けないクラスが学年に1つはある。それが竜輝のクラスだった。それもタコ焼きやお好み焼きとなると多少のバリエーションを持たせて内装を適当に飾り付けるだけなので飲食店を開くだけならば準備は10月の中盤からでも間に合うのだ。


「一応廊下の壁に張る大きな看板は作っていますが、当番の日じゃないので」

「それで私とお喋りすることにしたんだね?」

「はい」


冬菜のクラスは分かりやすくお化け屋敷である。今年は2年生のフロアを全部使ってホラーで統一しないかと2年の文化祭実行委員が提案してこうなったのだ。7月のテスト前に発案者とその仲間たちが各クラスに掛け合って2学期最初のクラス会議で提案し了承された案だった。


「今日は私もお休みだから丁度良いよ。最近ずっと黒いペンキが友達だったから気分転換だねっ」


お化け屋敷にするにあたって冬菜はずっと机を隠したりコースの道に使う段ボールを黒いペンキで塗っていたのだ。当日はオバケ役ではなく受付を数時間担当するだけなのである意味気楽なものである。空いた時間は竜輝と一緒に回ると約束している。


「でも、どうしても文化祭の話題しかないね……こら、ちゃんと反応を返す」

「はい」


冬菜が話を振っても竜輝は頷いただけで何も言わなかったために注意を受けた。普通ならば注意を受けるところではないが竜輝は本当にそれで会話が終わってしまうのでなるべく一言多く話させたいというのが冬菜の想いだった。伊達に師匠は名乗っていないのである。


「冬菜先輩は2日目は空いているんですよね?」

「そうだよ。竜輝君は2日目空けられそう?」

「はい。2日目の午後なら片付けが始まるまでは当番になりませんでした」


冬菜が受付をするのは1日目だけなのだ。代わりに1日目の担当時間は長い。単純に竜輝と時間を合わせるのを簡単にするためのシフトだ。

対して竜輝は1日目と2日目の午前中にタコ焼き屋のウェイターを担当することになっている。店員ではなくウェイターなのはクラスメイトが教室でその方が少しは格好が良いからと言い切ったからだ。悪乗りしたクラスメイトたちが採用し竜輝のクラスでは店員をウェイターと言うことにしている。


「出し物は普通なのに呼び名で遊んでるね」

「そう言えば、タコ焼きの味付けで味噌マヨネーズってどう思いますか?」

「……出すの?」

「はい」


タコ焼きの定番と言えば冬菜にはマヨネーズとネギくらいしか思いつかない。それほどタコ焼きを食べないのだから当然だ。そして竜輝が見る限りクラスにもタコ焼きに特別思い入れのある生徒は居ないようだった。そのせいか、誰かが面白半分に提案した味噌を使ったバリエーションが採用されてしまったのだ。

流石にクラスの文化祭実行委員が味噌だけでは酷い味になるんじゃないかと言ったが、後日自宅用のタコ焼きを持っているメンバーが試したみたところマヨネーズと一緒ならば人によっては好きかもしれない味になったらしく採用された。


「1年生って、突拍子も無いことするよね」

「あれは例外だと思います」

「あ、竜輝君は変だと思ったんだ?」

「俺は断固チーズを推します」

「え、あ、そうなんだ」


思わぬ竜輝の強い主張にたじろいだ冬菜は自動販売機で買った100円の500ミリ紙パックのココアをストローで吸った。少し間を置きたかったのだ。


「そんなにチーズが好きなの?」

「タコ焼きでは、ですけどね」

「どこかで食べたのが美味しかったってこと?」

「はい。かなり」


竜輝が自分の趣味を強く話すことに意外感を覚えながら冬菜は苦笑した。

普段は興味が薄いせいで口数が少ない竜輝が今回に限っては主張が強過ぎて口数が少なくなっている。良いことなのか直すべきことなのか冬菜には判断ができないが微笑ましくはあった。

充分に気分転換できた冬菜と竜輝はゲタ箱が混む前に帰宅することにしたのだった。




(意外な趣味、というか趣向というか)


帰り道、竜輝は電車で冬菜は自転車なので2人が連れ立って帰るのは本当に短い時間だけだ。そして竜輝と別れた後の冬菜はほとんど竜輝のことしか考えていない。

今回考えていたのは竜輝がタコ焼きの味付けではチーズが最も良いと強く主張したことだった。普段の彼からは想像もつかないほどに強い主張に思わず面食らった冬菜だったがそれほどに強く主張できるものがあることに安心もした。

冬菜にとって竜輝とは自己主張するほど何かに興味を持たない少年なのだ。


(私の思い違いだったかな)


自分は人を見る目が無いと嬉しそうに微笑む冬菜だった。




(しまった、変に熱くなってしまった)


冬菜と別れ、電車の中で本を読もうとしていた竜輝は1人で反省会を開いていた。彼もタコ焼きの話題から離れて自分の無駄に強い主張を自覚したのだ。主張された冬菜はそれを嬉しく感じているのだか彼がそれを知るよしも無い。勝手に自己嫌悪に陥るだけである。

もう少し話を膨らませることはできなかっただろうかと悩む竜輝は全くページを進められないまま自宅の最寄駅まで着いてしまった。冬菜がそのことを知ったら気にし過ぎだと笑っただろう。


(中々、上手く話せるようにならないな)


冬菜に手伝ってもらっている内にどうにかしなければと焦りを募らす竜輝だった。


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