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第2話 木島、お前って奴は……

竜輝が冬菜に携帯電話を買ったことを報告した翌日の昼休み、冬菜は手紙で校舎の裏側に呼び出されていた。もし告白だとしたら恐ろしく古典的な手を使う人だと思いながら冬菜が指定された場所に着くと見覚えのある女子生徒が居た。


「あ、来てくれたんですね」


彼女を呼び出したのは竜輝の友人であり図書委員でもある渡辺香澄だった。図書委員かクラス委員長をしていそうに見える分厚い眼鏡に三つ編みの少女だ。今日は三つ編みが肩から前に垂らされている。


「えっと、渡辺さん、だったっけ?」

「はい。1度しか会ったことが無いのに覚えてもらえているだなんて思いませんでした」


素直に感心した様子の香澄の意図が読めずに冬菜は困惑している。竜輝からは香澄とは中学の頃からの友人だと聞いているが、それは竜輝の評価であって香澄が本当はどう思っているのかは本人にしか分からない。


「それで、どうしたの?」

「ちょっと木島のことで聞きたいことがあったんです」

「竜輝君のこと?」


予想通りではあったが冬菜はあえて予想外を装った。どんな話題でもそうするつもりではあったが、冬菜と香澄の共通の話題といえば竜輝だけだ。もしかしたら共通の本の趣味があるのかもしれないが、それはこれまでの学園生活でお互いに確認しようが無かったし呼び出してまでする話ではない。


「本当に名前で呼んでるんですね。ちょっとビックリです」

「そう?」


冬菜から見ても竜輝は香澄に心を許しているように見えた。ただ親しい相手には竜輝はそれなりに表情が柔らかくなる。冬菜にはそう感じられていて、その相手の中には香澄と黒岩も入っている。他には竜輝と本の趣味が合うらしいクラスメイトが冬菜の見立てでは竜輝と仲が良かった。


「アイツと一緒に遊びに行った人なんて、先輩くらいしか居ないんじゃないですかね?」


自分も竜輝と学校の外で会ったことは殆ど無く、それも擦れ違って挨拶をしたくらいだと香澄は漏らした。その表情は冬菜に対して羨ましそうではあったが、嫉妬と言うほど大きな感情には見えなかった。


「それで、どうして私を呼び出したの?」


このままだと竜輝の話だけで休み時間が終わってしまいそうな気がして冬菜は話題を変えた。その瞬間から香澄の目は冬菜を観察するようなものに変わった。中身を見透かせれるような不愉快な感触に冬菜は少しだけ眉を顰めた。


「個人的な話で先輩には悪いんですが、木島は大事な友達なので飯島先輩が木島を傷つけないか探りを入れたかったんです」


香澄は遠回しな言い方をしないで敢えて不快感を感じさせる直接的な物言いをしていた。冬菜は香澄の狙い通りに不愉快な気分を味わったが、先輩としてのプライドから直ぐに怒るようなことはせずに香澄に返す言葉を吟味した。


「随分と竜輝君に入れ込んでいるね。好きなの?」


少しだけ挑発するような口調になってしまったことは自覚しているが、香澄の狙いはよく分からないのだから考えても仕方が無いと開き直った冬菜は訂正することもなく香澄に質問を投げかけた。情報不足で考えられないのだから情報を集めることにしたともいう。


「好きではありますよ。恋愛感情じゃなくて、友情ですけどね」


無難な答えだったが何の動揺もしないところを見ると本音だろうと冬菜は判断した。


「そっか。竜輝君は愛されてるね」

「そうですね。木島は、保護欲をくすぐりますから」

「あ、分かるかも」


何となく共感できるものを認め合った2人は30秒ほど睨み合ってから噴き出した。


「すみません、こんなことで呼び出しちゃって」

「いいのよ。私もあなたとは話してみたかったから」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。竜輝君の友達って話す機会が無くて、友達が居るのか心配だったの」

「ああ、分かります」


1学期の体育祭までの竜輝を思い出して香澄は冬菜の意見に賛同した。自分も中学の頃から竜輝に抱いていた感想は全く同じだったのだ。


「1学期の終わりくらいからですかね。木島も少しは友達が増えたみたいで友人としては鼻が高いんです」

「ふふん、私の弟子は教室でもそれなりに頑張ってるみたいだね」

「……は?」


冬菜の弟子発現に困惑した香澄に師弟関係を結んでいることを話したら香澄は腹を抱えて笑い出した。


「木島がコミュニケーション練習で先輩の弟子にって、どんな冗談ですかっ」

「本当なのにぃ~」


香澄の笑いが収まった頃、休み時間も残り少なくなってきたので2人は解散することにした。お互いにアドレスの交換は済ませている。


「じゃあ、木島のことお願いします。偶にで良いんで面白そうなネタも提供してくださるとなお面白いです」

「はいはい。できる限りだけど竜輝君の面白そうな話を用意しておくよ」

「ふっふっふっ、木島をからかえるネタなんてレアモノッ」


意気揚々と教室に戻っていく香澄を見て冬菜は竜輝の評価を上げていた。

学校という閉鎖的な社会の中で下手をすれば先輩を敵に回すかもしれないことを平気で行う友人が居るということが凄いことだと思えたのだ。それはそのまま竜輝の人柄に直結していると冬菜は思っている。


「良い友達持ってるなぁ~」


少しだけ竜輝が羨ましい冬菜だった。




(やっぱり全然羨ましくないよっ)


教室に戻り、早速連絡してきた香澄からのメールと添付されている写真を見て冬菜は竜輝への評価を元の点よりも少しだけ下げた。添付されている写真は体育祭の後に図書室前で竜輝にデコピンを連打している時のものだったのだ。

あの時の香澄の言葉を思い出して冬菜は戦慄した。もしこのような写真が誰かに見られたら、竜輝は状況を理解しないだろうが自分は違う。もしかしたらなし崩し的に恋人にされてしまうかもしれない。


(無理無理無理! まだ無理!!)


自然と付属したまだ(・・)という言葉に気付いて更に混乱した冬菜だった。




(誰か噂しているのか?)


昼休み、昼食を終えて本の趣味が合うクラスメイトと話していた竜輝は大きなクシャミをしていた。風邪でも引いたかと体調を心配してみたが特に異常は無いようだったので、他に思いつくのは噂されたのではないかというくらいである。


(俺の噂をするような相手は、渡辺に冬菜先輩に黒岩さんに妹くらいか?)


候補を絞ってみたが結局は確かめようがないので気にせずにクラスメイトとの雑談に戻る竜輝だった。


またしても本編での登場シーンが無いww


竜輝「俺は主人公じゃないのか?」

冬菜「主人公が目立たない小説って偶にあるよね」


これもその1つだと思います

では次回~

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