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第8話 夏だな

熱中症に気を付けないとと思っていたら夏風邪を引いたけんしょ~です

夜中の冷房は気を付けよう、タイマーにしてても風邪引いちゃうよ……


冬菜「……自業自得じゃないの?」

竜輝「皆さんもお気を付けて」


……生みの親の心配をしてください

竜輝と冬菜が図書館を訪れた日から数日が経っていた。

冬菜は去年の秋から続けている近所のファミレスのバイトに精を出していた。今も新たに来店した大学生らしき4人客を禁煙席に案内してシルバーを拭いて次の仕事を確認していた。


「はぁ~……」


確認しているように見えて実は何もできていなかった。さっきから同じフォークを何度も拭き続けている。

体調不良を心配した店長とバイト仲間に早退するかと何度も聞かれたほどに今日の冬菜は気が抜けている。理由は単純に竜輝から名前を呼ばれたからだ。あれから冬菜は何をしていても上の空で落ち着かない。


「飯島さん、本当に風邪とか引いてないよね?」


後ろから声を掛けられた冬菜は自分の名前だったために反応して振り向くと人の良さそうな男店長が心配そうにしていた。仕事の進まない冬菜は本当ならば怒られているところだが普段は仕事を真面目に熟しているのでこのように調子の悪い時は心配される。


「すみません。ちょっと調子悪いみたいです」

「なら今日は早退した方が良いよ。勤務時間もあと30分だし今日は人が足りているしね」

「ありがとうございます。じゃあ、お疲れ様でした」

「うん。お疲れ様」


こうして冬菜はバイトを早退して帰路に着いた。表情は晴れないままである。


「はぁ……」


帰り道、まだ照り付ける太陽は眩しい時間だ。夏の日差しにウンザリしながら冬菜はずっと竜輝から名前で呼ばれたことを考え続けていた。ずっと竜輝の『冬菜先輩』という声がリピートされ続けているのだ。


(何考えてんだろう、私……)


何も考えられてはいない。いずれは竜輝に名前を呼ばれることを期待してはいたが心の準備ができていなかった。竜輝は2人きりの時は名字を呼ぶことも少ない。そんな相手が急に名前で読んだりしたら驚くのは当然だろうと冬菜は主張するが、普通は意識していない相手から名前で呼ばれても不愉快か、または気にしない。

呼び方1つで動揺している時点で冬菜は自分が竜輝を必要以上に意識していると自覚するべきである。


そんな風に冬菜が習慣化している帰路を無意識に歩いていると急に鞄の中に入れていた携帯電話が鳴った。学校の友人からの電話である。


「は~い?」

『あ、冬菜。今大丈夫?』


相手はクラスで1番仲が良い女子生徒だった。竜輝とのデートの翌日にショッピングに行った相手でもある。


「大丈夫だけど、どうかしたの?」

『ははっ、用事って言うか、今からどっか遊びに行かない? ボーリングとかさ』

「あ、良いね」

『でしょ? じゃ、駅前でね』

「うん、後でね」


そう約束して冬菜は家に急いだ。友達と遊んでいれば少しはこの戸惑いも和らぐだろう、そう思っていた。


思っていた時期が冬菜にもありました。


「で、あの後輩君と何があったのかな?」


ボーリング場に行く前に軽くハンバーグを食べようと言った友人に従って店に入った冬菜は席に着いてそうそうに質問攻めにあっていた。


「いや、何のこと?」

「惚けなくても結構」


顔を背けて手を突き出す友人は酒でも飲んで酔っているのかと疑う冬菜だが、当の友人の目は本気そのものだ。


「この前、後輩君と図書館に行ったって言ってた日? あれの次の日に買い物いったじゃない?」

「そうだね?」

「そん時既に超心ここに非ずだったっての」


友人の変な日本語に呆れた表情の冬菜だったが内心は落ち着かない。自分が友人との買い物の最中にまで竜輝のことで上の空だったとは恥ずかしい。そんな冬菜のことを知ってか知らずか友人は息巻いている。


「で、後輩君とはどこまで行ったの?」

「いや、別に何も無いよ」

「だから嘘バレバレだって。あんなにボーっとしたの始めて見たよ? さあさあ、何があったかキリキリ吐きなさい」

「勘弁してよ~」


折角ボーリングでモヤモヤした心の中を整理しようと思っていた冬菜の計画は友人によって水の泡と化した。


「……もしかして、相手の思わぬアクションにビックリして戸惑ってる?」

「!?」


思わぬ指摘に硬直した冬菜は直ぐに後悔した。これでは何かあったと、図星だと言っているようなものだ。


「ほほう、成る程成る程。後輩君も大人しそうな顔してやるねえぇ~」

「いや、別に竜輝君は何もしてないよ?」

「何で疑問形よ? さてさて、どんなことされたか吐け吐け!」


友人はかなりしつこい。それこそ相手のプライバシーなど気にしないくらいに。冬菜としてはかなりやり辛い相手だ。それでも友人でいるのは普段はテンションの起伏が少なく話すのが楽だからだ。


「……キス? いや、呼び名か?」

「…………」


妙に鋭い友人に驚きながら冬菜は上手く無反応を貫けたと自画自賛していた。今回は当たりだが何の反応もしていないと自負があった。


「成る程、今まで名字とか先輩とかだった後輩君が名前で呼んでくれたか」

「!?」

「ふふん、無反応の後に隠し通せたって嬉しそうにしたのがバレバレよ」


その観察力を他に活かせないのかと本気で友人の特技を残念に思う冬菜だったがこの特技を高校生活のどこで役立てるのかは思いつかなかった。精々接客業で使えるかどうかというのが冬菜の想像の限界だった。


「隠そうったってそうはいかないわよ。母さんは昔ホステスでそん時に身に付けた観察術は今でも健在なんだから」

「それ、あなたが受け継ぐ必要あったの?」

「さあ?」


思わず脱力してしまった冬菜は背もたれに思いっきり体を預けた。そのままの姿勢で少し考えてから友人に聞いてみた。


「私って、そんなに顔に出やすい?」

「それはもう。てか今更?」


表情を隠す練習をしようと本気で決意した冬菜だった。




(まさかそんなに顔に出てたなんて……)


友人に全部バレた後は普通にボーリングをした冬菜は帰宅してから盛大に落ち込んでいた。これでは竜輝に動揺したのがバレているかもしれない。そう考えるだけで恥ずかしくて動けなくなる冬菜は乙女と評される資格を充分に備えていた。今の彼女を学校の男子が見たら9割は落ちるだろう。

冬菜はここでふと気づく。次に竜輝に会う時どんな顔をすればいいのか分からないのだ。


(……暫く会えないかなぁ~)


どうせ竜輝は携帯を持っていないのだから会うことは無いだろうと思った冬菜だった。




(……メールするべきなんだろうか?)


冬菜が動けないでいる時、竜輝はベットに仰向けで倒れて紙切れを蛍光灯にかざしていた。紙切れには冬菜の携帯のメールアドレスが載っている。黒岩からパソコンに送られてきたメールに書かれていたのだ。ちなみに黒岩は冬菜には竜輝のパソコンのアドレスを送っているが冬菜はメールに気付いていない。ボーリングに熱中していた冬菜はメールチェックなどしていない。


(……暫くは止めた方が良いのか?)


図書館で自分が名前を読んでからの冬菜がおかしいのは竜輝にも分かった。きっと原因の自分から連絡があったら戸惑うだろうと冬菜に配慮した竜輝は紙切れを握り潰した。


竜輝「……俺の出番は最後だけか?」


主人公ですから、出番無しではないよ?


冬菜「あってないようなものじゃなかったかな?」


気にしては駄目です


次回から2学期です

ようやく名前で呼び合うようになった2人に訪れる波乱万丈の学生生活とは!?

……この小説は山無し谷無しだってば

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