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第7話 図書館ではお静かに

ある意味区切りのお話

分かりやすい区切りかもです

竜輝が参考にできない参考書を読んでいると一冊の本を持った冬菜が正面に座った。少しだけ吹っ切れた顔をしているのだが冬菜を名前で呼ぶために参考書と睨めっこしている竜輝に気付く様子は無い。どうすれば名前で呼べるか考えるのに精一杯で冬菜の変化に気付けない。


「お待たせ」

「いえ」


本に集中するあまり前のように口数が少なくなっている竜輝だが冬菜は特に気にしない。本に集中すると周囲への反応がお座成りになるのは理解できるからだ。


「黒岩さんと話していたんですか?」


それでも竜輝は冬菜の思っている以上に冬菜を意識しているので気になったことは聞いてみた。


「あ、見てたんだ。メアド交換しちゃった」


黒岩と仲良くなれるかはまだ分からない冬菜だが別に黒岩が嫌いなわけではない。ただどう接すれば良いのか分からないのだ。


「竜輝君」

「はい?」

「反省したい時に丁度良い本ってないかな?」


冬菜は既に手に本を持っている。それでも何か本はないかと聞いてくる彼女に竜輝は困惑したのだが直ぐに反省したい時に丁度良い本を自分の記憶の中から探し出す。


「反省は、どういったものですか?」

「どう?」

「猛省したい、スッキリしたい、え~と……」

「ああ、確かにね」


反省にも色々ある。前向きに解決策を模索するのもただ己の行いを悔いるのも等しく反省だ。竜輝はその類のものを聞いているのだろうと判断した冬菜は自問して、答えを出した。


「ちょっと、自分の行いを後悔する感じかな。自分のやったことと向き合いたい感じ?」


冬菜のオーダーを受けて少し考えてみた竜輝は一冊の本を思い出した。


「俺なら『死熊の詩熊』の『犬の戯れ』を読みます」

「図書館にはあるかな?」

「あるはずです」

「じゃあ探してこよっかな」


犬の戯れ。ジャンルは文学とされている半ミステリーで『猫地蔵シリーズ』の作者である死熊の詩熊のデビュー作である。大学のオープンキャンパス中に起きた殺人事件の裏にある警察と大学生と教授の心理戦に訪れた高校生たちが巻き込まれるというものだ。

題名の犬に関する記述は最後まで分からずじまいの作品で竜輝としては読み終わってから不完全燃焼でそれが自分の行いの反省に繋がる作品である。


「はい、行ってらっしゃい」


本から視線を上げて冬菜を見送ると竜輝は後悔し始めた。よくよく考えたら最後に『冬菜先輩』と付ければ良かったのではないかと思った。参考書にもそんな記述があって、まさに開いているページだったりする。自分は駄目だと落ち込む竜輝だった。


「はぁ、俺は駄目だな」

「そうでもないと思うけど」


無意識の呟きに応える者が居て驚いた竜輝は声の方向に振り向いた。返却された本を棚に戻し終わった黒岩が立って居た。大量の本を運ぶための台車を引いている。中身は空だ。


「先輩と何かあったんですか?」

「それはこっちの台詞。冬菜ちゃんを名前で呼びたいの?」

「……どうして?」

「本の題名見れば分かると思うわよ。気付かない冬菜ちゃんは鈍いと思うけど」


そう言えばそうだと思う竜輝だった。しかし冬菜に気付かれるのは恥ずかしいなと思った竜輝は本を変えようかと考え始めていた。


「変えないの。いっそ冬菜ちゃんに気付いてもらえるように何回もその本を読んでいた方が良いわ」


そういうものなのかと疑問に思った竜輝だったが黒岩は人生の先輩だ。間違いは無いだろうと思いそのまま『気になる相手を名前で呼ぶ方法』を読み続けることにした。


(さって~、冬菜ちゃんはどこかしら?)


竜輝の読んでいる本の意味を冬菜に理解させたら面白いものが見れそうだと思った黒岩は司書としては自然な動作で図書館内を見渡した。誰かを探しているのではなく何か異常がないかを確認するような仕草だ。竜輝と話しているのを上司に見られたので仕事をサボっていると思われないようにするための仕草をする必要があったのである。


「あれ、黒岩さん?」


上司の視線が無くなったことに安堵した黒岩は既に冬菜が棚から本を見つけてきて席に戻ろうとしていたので動かなかった。数秒で冬菜は席に戻れる距離に居たので上司からのお咎めを受けるほどのことにはならないだろうと思ったのだ。

案の定カウンターに居る黒岩の上司は常連客との挨拶だろうと思い視線を外したままだ。しかしこのまま話し込むもの2人の邪魔になるだろうと思い、冬菜に耳打ちしてその場を後にした。


「竜輝君、面白い本を読んでると思わない?」


黒岩に言われて初めて冬菜は竜輝の読んでいる本の題名が気になった。しかし立っていると竜輝の読んでいる本の題名は読めない。黒岩が何を気付かせたいのか気になり混乱を隠して席に着き自分が持ってきた本を広げずに竜輝の本の背表紙に視線を集中させた。


(『気になる相手を名前で呼ぶ方法』……竜輝君、名前で呼びたいほど気になる相手が居るの!?)


冬菜は鈍かった。




(え、ちょっ、竜輝君が名前で呼びたい相手って誰!?)


普段は殆ど無意識で竜輝の前では年上の女性でありたいと思っている冬菜だ。年上で落ち着いた雰囲気で、竜輝をリードしたいと思っている。そのためには動揺したり混乱したりは表に出さないように頑張っているのだが今回はできていなかった。

本に集中している竜輝は気付いていないが周囲の図書館利用客や職員は気付いた。何かに動揺している少女が居て、正面の少年をジッと見つめている。一般的に仲の良いカップルか兄妹だと思った者が大半だ。落ち着き具合から竜輝の方が年上だと判断したものも多い。


(どうしようっ? 何がどうだって言いたいけどどうしようっ!?)


自分でも何故こんなに混乱しているのか自覚できない冬菜は余計に混乱するだけだった。




(ふぅ、読みたい部分は……先輩、どうしたんだ?)


学校の先輩や友人の欄を読み終わった竜輝はふと顔を上げて冬菜が本も開かずに自分を見て固まっているのを見た。何かに酷く動揺しているように見えたが何が起きているのか竜輝には分からない。冬菜にも分からない。答えは恐らく黒岩しか知らない。

だが、ここで竜輝は思いついた。自分ではエジソンばりに天才だと自画自賛したいが他の人が聞いたら『ああ、はい』と微妙な顔をすること間違いなしの思いつきだ。


(ここで『冬菜先輩』と声を掛ければ良いんだ)


情けない話だが竜輝が冬菜を名前で呼ぶには切っ掛けが必要だった。


「と、冬菜、先輩。どうかしたんですか?」

「ふえっ!」


図書館ではお静かに。


やっと名前呼びになった竜輝と冬菜

名前呼ぶだけで15話とかww

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